IS:ボンド   作:田中ジョージア州

20 / 55
今作の最大の被害者?であるセシリアのオリジナルストーリーです。
少し短め。
またワンサマーの影が薄くなる。


一夏「解せぬ」


15話 「私のお父さんは鷹をやっています。1年1組セシリアオルコット」

セシリアにとって母親は正に自分の理想像だった。貴族の当主と企業の社長の二足のわらじを履きながら家族を愛しなんでも優秀にこなせる母はセシリアにとって自慢の母親だった。

 

ヨーロッパに古くからある貴族。オルコット家はイギリスがまだ連合国になる前から存在する本物のイングランド貴族の家柄だった。年月を重ねるごとに少なくなっていく歴史ある貴族達の中で柔軟にニーズに対応して来た一族だった。ヨーロッパの貴族は領主の面が強い。影響力のある貴族とは土地を持っている家の事である。経済面で領主制を続けられなくなったりや革命期以降の様々な荒波によって没落していく中でオルコット家はその都度柔軟に対応して生き残って来た。セシリアの母は爵位持ちながら企業の社長として御家発展のために行動しオルコット家は見事発展した。そんななか婿養子としてやって来た父と結婚する事となる。父の家もオルコット家に並び立てる立派な家柄だったがこちらは柔軟性がなかった。いわゆる没落貴族な父をオルコット家は婿養子として迎え入れる。それは歴史ある名家の名を途絶えさせたくないという単なる親切心と柔軟に変わっていくオルコット家を見て貴族としての本質まで変わってしまうのではないかという焦りが含まれていたのかもしれない。ともかくセシリアの先祖達の決定を父は受けたが立場の弱い婿養子を彼は負い目に感じていた。

 

やがて産まれたセシリアの物心がついた頃には夫婦の仲は定着していた。母に対して父は卑屈に振舞った。婿養子としての立場の弱さからだろう。そんな父を幼いセシリアは母と比べて情けなく思っていたがそれでも父の事は好きだった。一番は母だが卑屈ながらも母と比べて父はセシリアに甘かった。没落しても貴族としての地位は本物だった父は人脈が広くよくセシリアを貴族仲間達のところへ連れて行った。みんな没落貴族でセシリアの思い描く貴族像とは正反対でよく酒を飲んだり仲間同士で喧嘩したりかと思えば仲良くサッカーで遊んだりしていた。家の危機にもポジティブ思考で自由主義な彼らは貴族としての品格こそ欠けていたがそれ以上に魅力的な人間だとセシリアは感じた。普段の卑屈さを感じさせない父に誘われセシリアも混ざって一緒に泥だらけになるまで遊んでうちへ帰って家政婦達に父と一緒に怒られているのを母は遠巻きに見て微笑んでいた。母も結局は没落貴族達と同じタイプの人間だったのだ。

 

父はよくセシリアに語った。

 

「父さんは鷹に成りたいんだ。」

 

耳にタコが出来るほど父は熱心だった。鷹は自分で母が鷲なのだと言う。父の話だと鷹と鷲は生物学的には同じらしく大きさで判別するらしい。そして鷹より鷲は身体が大きい。

正に自分と母さんみたいだろうと父は笑った。

セシリアはそれで良いのと尋ねた。鷲に屈して鷹に妥協しているみたいでかっこ悪いとセシリアは不満を述べた。しかし父はそれを一笑に付しそれは違うんだなと首を傾げるセシリアの頭を撫でながらこう続けた。

確かに鷹は鷲より小さいがその心は違う。

小さい体でも彼らの飛ぶ姿は鷲と比べても遜色ない気高さがある。かつて北アメリカの雄大な空を縦横無尽に飛び回るオオタカが父の憧れの鷹像だった。

首を傾げるセシリアに笑いながら弱くても頑張ればいいんだと濁した父にやっぱり情けなく思いながらも優しい父をセシリアは愛した。

 

その日は珍しく休みを取れた母が父に旅行に行かないかと誘った。結婚当初から既に巨大企業となっていた会社の経営が忙しかった事と貴族としての色々な問題から新婚旅行が出来なかった2人。母なりに夫婦の仲を深めようと思っての行動。父は難色を示したが母の想いをくんだセシリアの説得とオルコット家使用人一同の激励で遂に重い腰を上げた。娘はともかく使用人達からの粋な行為に父も苦笑しつつ母に頷いた。娘の話し相手に歳も近かったメイド見習いの少女を当てて家の事を使用人と会社の事を信頼できる秘書に任せてその日のうちに2人は高級寝台列車で旅立った。

 

列車が原因不明の事故を起こしたとの報せが届いたのは翌朝の事だった。

 

世話役のチェルシーから青ざめた顔で事故の報せを語られた時、セシリアのナニカが崩れた。セシリアは一日中部屋に篭って出てこなかった。仲の良いチェルシーすら入れずにずっと枕を濡らした。用を足す時以外は食事も入浴も睡眠すら取らずにずっと泣いていた。3日目の夜、涙も枯れ果てた頃セシリアは部屋から出てきた。

 

真っ先に見つけたのは寝ずの番をしていた1人の若いメイドだった。

 

三日三晩飲まず食わずの筈のセシリアの肌は血色が良く母譲りの金髪はボサボサどころか更に美しさを増しまるで絹の如くきめ細かに光沢を持っていた。そしてセシリアは以前と何も変わらない幼くも美麗な笑顔でメイドに尋ねた。

 

「ごめんなさい、夕食をいいかしら?」

 

絵画でしか拝めない女神のような美しさだった。

 

痩せ我慢をしていると嘆いた使用人達はセシリアのために好物を振る舞った。イギリスらしい素材の味で全てが決まるシンプルな料理だ。ローストビーフにキッパー、普段は食べさせてもらえないファストフードなどを上品に平らげたセシリアは3日ぶりの入浴をして寝巻きに着替えていつも通り敷地内の散歩に出かけた。普段は暇な父親と一緒に出かけていたこの散歩も今ではセシリア1人だけだ。セシリアはいつも通り玄関まで赴きそこから家へと帰ろうとしところで、

 

扉が開いた。

 

振り向くセシリアが見たのは死んだ筈の父親だった。

 

「お父様?」

 

「ああそうだ。」

 

父はいつもと変わらぬ笑顔でセシリアに話しかける。

 

父は旅行に着て行った似合わない高級スーツに身を包み恐らく事故現場から歩いてきたのか靴は泥まみれでスーツも汚れていた。そして身体のあちこちから灰が零れ落ちている。

 

「お母様は?」

 

「ああ、お母様は残念だったよ。」

 

悲しむ父にセシリアは自分が大好きだった母が居なくなったことを感じ取った。父はポケットに手を突っ込むと拳一杯の灰をセシリアに差し出す。両手を出して父の手から灰を受け取る。見た目よりもズシリと重く手が下がる。しかし直ぐ重みが消えていった。すーっと内包されていた最後の力が闇夜の天へと消えていった。

 

「父さんはずっと母さんのことを鷲だと思っていたが、母さんは鷲にはなれなかったんだ。」

 

父の言っていることは分からなかったが自分の小さな両手に収まるこの灰の塊がかつての大好きな母だと分かった。セシリアは再度父を見上げる。

 

「見てくれセシリア!父さん遂に鷹になったんだ!」

 

父は鷹になっていた。

 

かつて感銘を受けたオオタカのようなモノクロ模様の羽根を広げ次の瞬間にはフワリとホークオルフェノクは空高く雲の上まで飛んで行った。羽ばたきで手の中に残った灰が宙に四散した。セシリアは1人になった。

 

 

 

 

 

ーー

 

家に戻ったセシリアは真っ先にベッドに潜り込んだ。使用人が交換してくれた新品のシーツに身を包みこれまでの疲労が一気に押し寄せてくる。眠りに落ちる寸前にセシリアは次に目を覚ました時の事を思った。母が居なくなった以上オルコット家の当主は婿養子の父になった筈だが父はもう居ない。これからは自分がオルコット家を切り盛りしていかなければならない。母の会社も同様だ。ここまでオルコット家が発展できたのは会社のお陰だ。一刻も早く力を身につける事が急務だ。歴史ある名家と今や国内屈指の巨大企業の財産を狙う輩は多い。偉大な母の残した遺産は何としても護らなければならない。

 

そして最後にセシリアはこう決意した。

 

「あの男を殺さねばならない」

 

母の仇と娘としての責務がある。最後にそれだけ思ってセシリアは眠りについた。

 

ーー

 

朝時間通りに起きてきたセシリアを見て使用人達は驚いた。それは母親が常に憮然として見せていた当主としての顔と同じだった。セシリアは困惑する使用人達の前で高々と宣言した。

 

「オルコット家現当主はこれよりこのセシリア・オルコットがつぎます。」

 

セシリアはその一言だけで使用人達の心を掴んだ。

 

その日から彼女はオルコット家と会社の経営を立て直すため寝る間を惜しんで努力した。優秀な母の遺伝子を受け継いだ彼女は母親以上に優秀な経営者だった。あまりの学習能力と日に日に増していく思慮深さに最初は訝しげだった会社の重役達もたちまちセシリアを次期社長として本気で育て上げた。

一方ホークオルフェノク打倒の準備も同時進行で進めていた。

およそ学べる武術の全てとおよそ手に入る武器の使用方を少ない時間で続けた。なかでも力を入れたのは狙撃だ。

ホークオルフェノクは空を飛ぶ。

羽を持つ敵に一番効果的な武器だった。

父の猟銃を持ち出して射撃の練習をした。貴族達の嗜みとして今は廃れた鷹狩りのための猟銃であり父もよくこれを持って鷹狩りに赴いていたが父は鷹は撃たずに銃を構えて悠々と飛ぶ鷹を追っていくだけだった。

 

空への進化を捨てた人間が鉄砲で鳥を撃ち落とす行為はナンセンスだと父は言った。気高く飛ぶ鷹をずっと見失わずに眺めていると普通では知れない鷹の気持ちが分かってくる。地上に生きる者として空を飛ぶ鷹の気持ちを盗み取る事が父にとっての鷹狩りだった。

無論セシリアに鷹の気持ちは分からない。それに鷹はホークオルフェノクと同じ姿だ。仮想敵としては最高の相手だった。セシリアは鷹を撃ち続けた。銃を手足のように操れるようになり認識外の景色まで擬似的に360度頭に思い浮かぶ事が出来るようにまでなった時セシリアは既に世界的に話題となっていたISに目をつけた。

ホークオルフェノクは強い。

あんな進化の仕方はオルコット家貯蔵の本を全てひっくり返しても出てこなかった。我が身一つでは心許ない。何より空を飛んで直ぐにあしらわれてしまう。セシリアには翼が必要だった。数年も経てばセシリアは爵位を継承しオルコット家の正式な当主になり母の会社のCEOを務め母親と同じわらじを履きそして母ですら成し遂げられなかったISのイギリス国家代表候補生へと登りつめた。

 

専用機のブルー・ティアーズが試験機レベルだと聞いた時はがっかりしたがこれから数年以上は世話になる相棒だ。セシリアは数日でブルー・ティアーズの性能を全て引き出せるようになりティアーズ開発陣達は専用機の開発競争に勝ったと確信し歓喜した。しかしセシリアはそれで満足しない。ブルー・ティアーズの武装がナイフ一つ残っていることを知ると彼女はオルコットの人脈を使いインターセプターと全く同じナイフを作ってもらい何時ものトレーニングに組み込んだ。近接ナイフの扱いは既に覚えていたため簡単だった。やがてブルー・ティアーズ兵器の最終段階であるBT偏光制御射撃(フレキシブル)を獲得した時オルフェノクの情報が入ってきた。オルコットの力は海外にすら伸びていた。世界各地で謎のエネルギー現象とそれに伴い灰色の怪人の目撃情報の存在を知った時セシリアはホークオルフェノクの同族達だと気付いた。オルフェノクへの進化はこの世界にとって今まで地球が到来してきた一つの時代の移り変わりでこれを機に世界に広がるとセシリアは考えていた。今後オルフェノクの存在は世界中で起こるだろう。それが適応というものとして在るべき姿だ。先ずは彼らのいずれかとコンタクトを取る必要がある。数が少ない彼らはきっと徒党を組む。その中にホークオルフェノクが居る。IS学園に入学する前には既にセシリアには今後の10年先までのビジョンが見えていた。細かく大胆にそして周到に練られた計画が彼女の頭にあった。

 

しかし復讐の鬼となってもセシリア・オルコットという女の凄さは失われなかった。

 

セシリアが他の復讐鬼と違うのはキチンと学園での青春を楽しもうという思いも計画に盛り込まれていた事だろう。生前の母と父が望んでいた幸せになって欲しいという願い。それを無駄にして復讐で人生を終えて仕舞えば2人が悲しむ。セシリアは本当に全てを完璧にこなした。爵位付きの貴族としての振る舞いと企業のトップとしての振る舞いと代表候補生としての振る舞いと年頃の少女としての振る舞いも全てがセシリア・オルコットとして完璧に心に同居させて過ごしていた。人が普通に持つ喜怒哀楽の顔のようにセシリアにとってはそれが当たり前だった。

 

そして全てを備えた上でセシリアは復讐鬼として目的のために動いた。

 

 

 

 

 

ーーIS学園

 

自室で勉学に励むセシリアは並列で今週分の会社との国際ミーティングで話す会社の指針と問題解決を纏めていた。特に今期は社長の自分が遠く離れた日本に3年も滞在するという事で予測していたとはいえバタバタしていた。

 

(取り敢えず秘書と重役の方々に任せておけば大丈夫でしょう。)

 

ブレる事なく毅然と振る舞うことがトップとしての在るべき姿だと知っているセシリアは慌てない。ミーティングまでの時間を身についた時間感覚で確認しこれまでの数週間を思い起こしていた。その中でも友人達の事は真っ先に思い浮かぶ。

 

一夏は少し無鉄砲な所があるけど思いやりがある初めての友人だ。

 

箒の『武士』のような凜とした立ち振る舞いは正に大和撫子然として綺麗だ。

 

巧は一層落ち着いており口は悪いが優しい人間だし。

 

鈴音は一番の親友で彼女の猫のような可愛らしさはセシリアにとって憧れだった。

 

ー素晴らしい友人たちだー

 

セシリアは頰を緩ませて思った。そうこうしているとミーティングの時間に差し迫った。セシリアは佇まいを正しルームメイトに一言静かにして欲しいと詫びを入れる。頷くルームメイト。寮住まいの人間ならこの時間帯はミーティングだと既に入学前に学園側に宣告して知らされているため静かになる。セシリアは礼を言い空間ディスプレイを表示させイギリス屈指の巨大企業のトップとしての顔になった。

 

簡潔として人の心を掴む言葉選びをする15歳の少女はすでに一夏と並んで1学年達の中心的存在になっていた。

 

しかし彼女達の誰もセシリアの持っているあと一つの顔を見抜く事は出来ない。

 

復讐鬼としてのセシリア・オルコットは未だ姿を隠していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




オリジナル設定としてオルコット家について描きました。
セシリアの母親と父親の名前は不明という事なのであえて出していません。

母親は正に完璧人間で仕事人です。家のことはもっぱら父親が担当していました。と言っても殆ど使用人がやってくれるので父親は貴族同士の交流とか一応当主として結婚前は家の管理をしていましたがオルコット家では殆ど仕事は有りません。
大体遊んでました。
その事から妻に対しての負い目を感じたり卑屈に振舞ったりしてましたが、いい女なのは確かで愛してはいたようです。
娘のセシリアには偽りなく愛情を向けていた。

オルコット家の使用人達は母親が新しいタイプの貴族だからか結構シャレの効く連中。

父親の友人達は今の当主のセシリアの恩義で救済されています。みんな父親を死んだものとして悲しんでいます。

またセシリアは偏光射撃が既に使えます。
どんどんチート化するセシリアさん。

応援よろしくお願いします。

※人気投票の開催。詳細は活動報告にて
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。