IS:ボンド   作:田中ジョージア州

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前話の誤字報告ありがとうございます


19話 ラウラさんの午後

ようやく訪れた昼食。

 

珍しいラウラの容姿を珍しがって、シャルルの時ほどではないがそれでも殺到した人の渦に飲み込まれたラウラは厳しい訓練とは別の過酷さに疲れてしまった。休憩として授業中は流石に来ないしIS操縦を生業とするラウラにとって授業など復習レベルの当たり前の事。されどもラウラは気を抜くことはしなかった。生業だからこそ真面目に集中していた。彼女にとってはこの学園生活も仕事の一種なのである。人の目に触れている以上自分はドイツの代表なのだ。しかし

 

「やっとか…」

 

やはり慣れない。年頃の少女達に囲まれて生活をするという事自体不馴れなことを隔離されたIS学園でこれからもおこなうという事実に改めて溜息がこみ上げて来る。さっきまで押し寄せていた少女達は今は食事のため皆食堂へと足を運んでいる。散々話題に掛り切りだったというのに行く時はさっと行くのだなと誰にも分からない範囲で苦笑した。なんだかんだ言ってラウラはこの同級生達を気に入っていた。軍人のラウラからすればISに対しての意識はまだまだ未熟な点も有るが授業態度は良好な事もポイントが高かった。事実は曲解されているがそれでも破壊された遮断シールドを目撃している事と先日のISを装着していながら生じてしまったセシリアと一夏の怪我の影響も少なからずある。そのことをラウラは知らないが兎も角ISを兵器として、そして完全無欠では無いことを弁えているという事は彼女の価値観にハマったのだ。今まで必要が無ければ会話もしなくていいと思っていたのが他愛の無い会話くらい楽しんでも良いかと思わせるくらいにはラウラは1組の面々が好きになっていた。といってもまだ年頃のノリには不慣れであるためこうして一時的に1人になれた今の方が楽である。しかしいつまでもここにはいられない。次は実習だ。腹を空かしていては望めない。しかし教室を出た所で問題が発生する。

 

(……食堂はどこだ…)

 

ラウラは頭を抱えた。

 

「抜けている…」

 

「現場の見取り図を暗記し忘れるとは。軍の上官に知れたら大目玉だな。」

 

さてどうしたものかと困っていると不意に後ろからパタパタと足音が聞こえて来る。振り向く間も無くその人物はラウラに向かって叫んだ。

 

「お〜い、ボーデヴィッヒさ〜ん。」

 

間延びする。語調的に遅いわけでは無いのにもどかしいような和むような独特の気持ちにしてくれる不思議な柔らかい雰囲気が口調だけでも伝わって来る。

 

「ああ…うん…」

 

困った。

 

名前が分からない。見た目は覚えがある。採寸ミスかそれともワザとか腕の長さに合っていないてろてろの袖にタレ目でおっとりとした感じを与える少女。独特の雰囲気がさして珍しくない容姿をラウラの記憶に印象付けさせていた。彼女はやはりおっとりとした言葉で自分の名を語った。

 

「私は布仏本音、みんなはのほほんさんって言うよ〜。」

 

「布仏さんか。」

 

復唱するラウラ。本音はそのままマイペースに話し続ける。

 

「私ね〜みんな食堂に行ったから一緒に行こうと思って教科書片付けて行ったの。」

 

「……?」

 

言っている意味がわからないがどうやら軽い身の上話をしているようだ。

 

「でもお財布忘れちゃってね。」

 

「ふん…」

 

要するに忘れ物を取りに行く過程で出遅れた自分と接触した訳だ。一通り訳を理解したラウラはふと一瞬の心変わりを見せる。

 

「なら…」

 

 

 

「一緒に行くか?」

 

初めての誘い。正直自分でも言ってて困惑している。そこまで話したわけでも無いのにどうゆう風の吹き回しかと思った。しかし言ってしまったものはしょうがない。ラウラは少し後悔しながら本音を見るとぱあっと柔らかい花が咲いた。

 

「うん!だって私もボーデヴィッヒさん見かけた時「誘おう」って思ったもん。」

 

本当に嬉しそうに本音はラウラの手を取る。

 

「ちょうど今日はかんちゃんと食べる予定だったの〜()()()さんも食べよ〜。」

 

仲間以外では今の所初めての名前呼びをラウラは悪く無いと思った。

 

「ああ、じゃまするよ。本音。」

 

 

 

 

 

ーー食堂

 

食堂にある席は幾つか種類がある。どれもまず高校の食堂には似つかわしく無いイス、というかソファが並べられており妙に凝った丸机を囲んだ3、4人が丁度良いヤツと、より大人数用に造られた長机を囲むタイプ。それから前者より多めを想定した中くらいの机に簪は先客を連れて座っていた。いつものなのはと最近よく関わるようになった巧。それから巧に連れ立って座った鈴音とセシリアの2人。

 

「いいんですの更識さん、私達もご一緒して。」

 

セシリアが申し訳なさそうに簪に尋ねる。それに簪は必要最低限の声量で断った。

 

「いいの。」

 

「そうだよ。ご飯は大勢で食べた方が楽しいし。」

 

同調する形でセシリアに笑いかけるなのはを横目で見て簪は思う。

 

(そういえば私も変わったな。この人のおかげかな。)

 

周りの人間と関わりを持とうとしない簪だがどちらかと言えば社交性の問題というより彼女自身の非生産性を嫌うが故の消極的な性格が影響している。それを変えたのがなのはだ。思えば出会いは自分でも驚くほど動揺していた。何故あれ程積極的になれたのかは今でも分からないがこうしてセシリアに笑顔を見せるなのはを見て、なんとなくだが彼女の生来の性質に惹かれたんだろう。そしてなのはに付き合っているとそれまでの閉鎖的な状況とは考えられないくらい幅広い交友関係が持てた。今初めて話すセシリアと鈴音もそれ。相手に合わせた交友関係が出来るセシリアは兎も角一直線に自分を押し出していく鈴音となどもし自分1人なら体力の無駄遣いとして無意識的に関わろうとすら思わないだろう。新たな出会いの感触を無言のまま感じつつ更に巧達に開けさせた席に座る予定の一番親しい友人に意識を向けた。

 

「お〜い、かんちゃ〜ん。」

 

「……どうも。」

 

 

 

あれ?増えてる。

 

 

 

ーー

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ。今日は布仏さんの好意で共に食事をする事になった。」

 

硬い挨拶にセシリア以外は詰まる。セシリア以外とは初対面だからといって普通15,6の少女が同世代と食事しようとするのだから自己紹介で()()()()()()とまでは言わないがもう少し空気を読んでほしい。しかしその一方、必要分の情報だけ渡したらそれ以上時間を潰さない。という気配りは出来ているのだから悪い気とまでは起きないという不思議なタイプである。

 

「うわっラウラさん寡黙ぅ!じゃあ取り敢えず食べながら自己紹介しよっか。」

 

「わたしは…さっきラウラさんに言ったし、1組だし、なのはちゃんには言ってるし…あっりんりんと乾くんがまだだ。」

 

本音の提案で滞りなく進む。普段のほほんとしている癖にこういう時は無意識にフォローが出来る。この子も不思議なタイプだ。 その後は性格が出た順番だった。前に出る鈴音が一番目に元気一杯に言い、間を開けずに場の調和を考えられるセシリアが当たり障りのない言葉選びで2を飾り後ろに振る。その後は言い出しっぺだがマイペースな本音が3で続き紹介もマイペースぶりを発揮。そして面倒臭がりだが最後はなんとなく嫌な巧と、特に理由なく今まで残っていたが目立つからという理由が(まさ)って最後を拒否した簪が其々4,5を取る。そして彼らに最後を譲ったなのはが綺麗に締めた。

 

ーー

 

「ねえラウラさ。」

 

真っ先に話題を切ったのは矢張りというか鈴音だった。話したい時は遠慮なく話す性格は人を選ぶがこういう時は良い。

 

「アンタ一夏のことどう思ってんのよ。」

 

「いち…あぁ、織斑一夏の事か。別にどうとも。まだ会って間もないからな。」

 

当たり障りの無い言葉で返答するラウラ。本当は普通どころか嫌悪感を感じているのだが敢えてここで言う事でもない。見た所彼女は織斑一夏に対して親しい立ち位置にあるらしい。そんな人の目の前でわざわざ胸の内を語って場の空気を悪くするほどラウラは読めない人間では無いのだ。

 

「ふーん、そうなの。」

 

疑り深い目がやや癪に感じたが物分かり良く納得してくれその後は言及しなかった。鈴音の質問で遠慮が和らいだのか他の面々もやがてラウラに声をかけ始める。そして話題とはふと浮かぶもので他愛のない質問に対して特に考えずに発した事実が一気に注目を浴びた。

 

「ドイツではどのような所にお住まいですの。」

 

いい加減に親しくなってきた頃合いを見計らって切り出したセシリアの質問にラウラは至極正直に答えた。

 

「軍の宿舎だ。」

 

驚きの反応は二つの種類に分かれた。会話の内容のインパクトについてただ驚く者と尊敬の混じった驚き。後者の面々は簪、鈴音、セシリアに本音だ。ラウラが所属しているドイツの特殊部隊『黒ウサギ隊』は候補生レベルのISを生業として関わる者なら存在の見聞き程度はしたことがあるネームバリューだ。そして候補生ならば所属元は大抵国か大手IS企業のどちらかでラウラがドイツの代表候補生と聞けば黒ウサギ隊への関係は凡そ予想として挙がるため前者程は驚かず更に自身の立場から敬意の念を抱いた訳だ。因みに本音が知っていたのはただなのはと巧より知れる要素が多かっただけの事である。そして純粋に驚きが基礎の前者である2人が会話を広げたいと考えるのは自然な事で。

 

「その話もっと詳しく聞かせて貰っても良いかな、ラウラちゃん。」

 

「おう、しろしろ。」

 

なのはと巧がそれぞれラウラに話題を広げることを希望するとラウラも受け入れた。語るラウラはやはり感情のあまり入らない堅苦しい内容でバラエティは無かったがそれでも場を盛り上げるには充分だった。候補生面々が興味深く聞いている一方でなのはと巧は話を振った当人達としては少し異様に聞いていた。

 

そしてその異様さの源となる感情を当人がバラしたのは、お互い同士。更に時と場所を指定してのことだった。

 

 

 

 

 

ーー放課後 寮

 

部活への入部強制は学校の種類によって異なるとなのはは思っている。あいにく断言出来るほど知識も経験もないため思っているだけだがそんな彼女の予想では全寮制の学園なら部への入部強制は強くなるだろうとなっている。しかしIS学園ではISが上手くなれば良いのか部への不参加に対して教師がとやかく言う事は無く、お陰でなのはも一夏と箒の護衛に専念出来る訳でこうして巧からの自室への呼び出しにも答えられているのだ。

 

「 ここかな。」

 

指定されたのは寮の目立たない位置にある寮生達のために用意された2人部屋のそれとは違う一室。寮の中に幾つばかりかある1人分の睡眠だけの容量を待たせた狭い空間。簡易的なベッドと本来無かったものを急遽入れたような衣装入れやディスプレイ対応の中で最小の机はそれだけで狭い部屋を圧迫していた。僅かな隙間を通路としている部屋の中で巧はベッドに寝転がってなのはを出迎えた。

 

ーー

 

「……」

 

座る場所が無いので巧の勉強机の椅子を借りているなのはは改めて部屋を見渡す。

 

拙い。

 

汚れても問題ないよう敷かれた安いカーペットの床。学園を支えるため、そして2人部屋に影響を与えないように配置された柱がこちらに出っ張ってスペースを圧迫する。おそらく柱を通路に出させた後でこの部屋を限られたスペースの中に作ったのだろう。これだけでも巧にあてがわれたこの部屋に与えられた役割が如何に緊急的で頻繁ではない事が解る。巧が使うこの部屋は本来止むを得ず余った寮住まいの職員の寝床や感染病にかかった生徒を一時隔離するために造られたあくまで簡易的な部屋であり長期に渡って滞在する代物ではない。しかし千冬によって急遽入園した男性に対して学園側は大いに困った。急さもそうだが何より異性をこれ以上2人部屋に住まわせないようにするには準備諸々合わせて手遅れだった。よって部屋表を変える事が出来る日まで巧はこの1人部屋に住まわされなければならなくなってしまったのだ。

 

「1人の方が気楽だぜ。」

 

巧は大して気にしていないように言う。本当に気にしていないのだろうが年上として思うところがあるなのははしかし今回の呼び出しの理由について聞くことにした。

 

「巧君。なんで呼び出したの?」

 

「大した事じゃない。」

 

短いが疑問の感情を表現した分かりやすい言葉使いに巧はベッドからむくりと起き上がりなのはを見た。

 

「この世界って可笑しくないか。」

 

言ってることは、大体予測できた。

 

「ISなんておっかねぇもんあんなガキが動かすのもそうけどよ。」

 

あんなガキとはラウラの事と同時にIS学園の生徒達の事を指すのだろう。

 

「今度は軍隊だぜ。」

 

巧は再度可笑しくないかと締めくくった。

 

ーー

 

向けられる巧の瞳は単純に疑問と怒りというほどでもないが不満感が入っていた。なのはは巧の目を見て答える。

 

「確かに…私の産まれた地球の文化では馴染みが無いかな。」

 

少しの間を要したのは一言で否定するには自分が半生を過ごしたミッドの生活が巧の不満感に当てはまっていたから。可笑しいと断言するには気が引けた。

 

「危険なもんなら敢えて若い時から使い方を教えるのは有りだと思ったし、それについて俺がとやかく言う立場じゃないからなんとも言わなかったけど。」

 

異世界人という立場で語る巧はそれでも溜まっていたのか少しだけ感情の起伏が感じられた。

 

「その若い時から軍人にするってのはどうなんだって思ってな。同じお前に話そうと思ったんだ。」

 

それが巧からの呼び出しの正体。別世界で同じ境遇のなのはだからこそ話せる事もある。なのはは納得して巧に返した。

 

「危険な力だからこそ正しく使ってもらうための指導としてならISを使わせるのはアリだけど、軍人として戦わせるために使わせるのはナシだって言いたいんだね。」

 

なのはなりの解釈に巧はコクリと頷いた。話せただけで大きく違うらしく巧は先ほどより柔らかな表情でしかし話題自体は続けた。

 

「なあ高町。」

 

間を空けずに告げる。

 

「俺たちがこの世界に来た意味ってのは何なんだろうな。」

 

なんとなしに聞こえる軽い言葉使いがヤケに心に残る。当然だった。それはなのはがずっと感じて来た事だったからだ。

 

「それはスカリエッティの企みを阻止する事じゃないかな?」

 

迷いなくなのはが答えた。彼女の目的は最初から揺るぎない。

 

「俺は別にスカリエッティなんてどうでもいいけどな。」

 

「どうでもいいって…まあそうだけど。」

 

少しだけむっと来たが実際巧となのはの優先順位は微妙に違う。巧からすればオルフェノク絡み以外の事には特に首を突っ込む意味はない。

 

「だけどもし、」

 

いつもでは考えられないような「もし」。いや今までは見えていなかっただけで乾巧とはこんな一面もあったのだなとなのはは納得して聞く。

 

「ISって兵器をガキに使わせるこの世界を正すためにこの世界の常識に囚われない俺たちが呼ばれたんじゃないかって。」

 

なのはは黙ったままだ。

 

ーー

 

巧の言う予想は現段階ではどうとも言えない。しかしなのははこの世界については干渉するつもりは無かった。勿論なのはとて質量兵器を、その中でも強力な制圧力を誇るISを齢若い少女達に使わせるこの世界の常識には違和感を覚える事が有ったが、

 

「それは巧くんもそうじゃない?」

 

「、あぁ。」

 

なのはならオルフェノク。巧なら魔法。この2人とて今はISにお互い違和感を覚えているがそれは立場が変わればこの世界の住民だって思う事だ。素直に頷く巧に微笑み巧の隣に座る。安上がりのベッドから小さく音が上がった。

 

「だからさ。考えても仕方ないって。」

 

ポンと肩に手を置いて笑う。巧は暫し黙っていたが不意に返した。

 

「だな。仕方ないな。」

 

珍しい深刻な顔を見せたと思った途端アッサリと切り捨てた巧になのはは少し止まる。本人の言う通り『大した事』ではなかったらしい。あまりの変わり身の早さになんか真剣に受け答えに応じた自分が急に間抜けに思えて来てつい頰が緩む。思えばこういう気まぐれなタイプの友人は珍しい。居たとしても彼等は大抵部下だったりでキチンと一線を敷いた接し方。所謂一種の堅さのようなものがあるしプライベートの間柄でも何処かでその一線は存在する。知り合いだからこそ付かず離れずの微妙な関係性。相手を傷付けない付き合い。これが親友達や教え子達ならもっと踏み込んだ付き合いが出来るのだがしかしそれでも巧のようなタイプは珍しい。まだ知り合って日も経ってないがそれでも巧の自分への扱いは他人に対しての淡白なものに似ている。それでいて懐く時は懐いて来る巧は人間の友人というより気ままな猫のようである。

 

(セシリアちゃんの気持ちも少し分かるかなぁ。)

 

あちらは犬だがと本人から聞いた理由を思い浮かべながら自然と伸びた手が巧の髪をクシャリと撫でた。

 

 

 

ーー

 

ーーーー

 

ーーーーーー

 

ーーーーーーーー

 

「撫でんな。」

 

「あいたっ、」

 

はたかれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どんどん愛玩動物になっていくたっくん。
ISに関してはまだちょっとした準伏線レベルです。

※人気投票の開催。詳細は活動報告にて
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