IS:ボンド   作:田中ジョージア州

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シャルロット編と見せかけて鈴にゃんのお話です。


21話 散歩はやっぱ外でしょ

日曜は外出日。この学園の生徒たちからすれば普通の同世代の学生達より特別な日にやはりそれでも過ごし方は各々違う。外出の届けを出すものは大体が部活や学園の関係で外出する者が殆どであり、娯楽目的で外出をする者は決して少なくは無いがそれでもこの学園の者達のこの曜日に抱く特別感と比べるとそこまで需要があるわけでは無い。週に一度の休息を有意義に使いたいのに無駄に外に出る必要は無い。外の遊び方を知らない生徒達は皆自室でくつろぎ一週間の疲れを取ることが日課となっていた。巧もその1人だ。学園に越して来た当初はよく日曜はオートバジンを飛ばしてこの世界の地理を旅行気分で覚えていてそれも実に有意義だったのだが人間飽きる時は唐突に飽きるものだ。千冬からこの世界の情報を受け取り一通り旅行の熱も冷めてしまった今はもっぱらこの狭い1人部屋で一日中ベッドの上で寝っ転がっている。小さな窓から見える空の色と様子が巧の娯楽の全てになっていた。思えばかつての西洋洗濯舗菊池での暮らしでもたまにこうして空を見上げていたと巧は懐かしがる。真理が以前花びらで無数の船を作った庭に生える屋根より高い桜の木によじ登ってよく青い空と白い雲のコントラストを眺めたものだ。今もあの時も始める前は虚しさにも似た手持ち無沙汰感が苦しかったが慣れると時間も忘れて啓太郎に怒鳴られるまで夢中になっていた。そして啓太郎のいない今巧の暇つぶしを止める者など居無い。このまま夜まで続けようかと巧は流れる雲の形を目で追った。

 

ドンドンドン!

 

不意にドアが叩かれる。2人部屋と比べて簡素な作りの外開きの扉は嫌な音を立てる。次の瞬間に響く怒号が巧の機嫌を一気に損ねた。

 

「こらあ、開けなさいよ!」

 

「あのカンフー女…」

 

恐らく千冬となのはの次に巧がこの学園で信用できる人物であり単純に親しさで言えばこの世界で一番の理解者だ。誰からか聞いたのか同じ寮生でも中々知らない2人目の男性操縦者の1人部屋を探し当てた鈴音は持ち前の元気さで巧をドア越しに呼ぶ。勿論聞こえている巧は鬱陶しげにのそりとベッドから起き上がりドアを開けようとするがその間も鈴音は待ってくれない。まるでマシンガンのような容赦無しの罵倒はしかし彼女にとっては侮蔑の意味を含むものでは無い。生来の気の強さが示す所。しかし腹立つ方は腹が立つ。未だ急かす鈴音の声が聞こえるドアにゆっくりと近づいて行く。ドンドンと叩かれ凹んだりするドアのノブにそっと手を掛け()()()()()()を思い切り開けた。

 

 

「ブッ」

 

確かな手応えを開いてすぐ止まったドアで確認してから軽くなったドアを開く。廊下の一番奥に位置する巧の部屋は出るとすぐに突き当たりまで開けた真っ直ぐな廊下が目に入る。廊下の奥という立地上、曲がり角も無いため身を隠す場所は無いのだが巧の目に人影は一切映らない。はてと首を傾げるとその仕草で目線が変わったのか床に鼻を押さえてうずくまる鈴音の姿が視界に映った。気付けば何処かに出かけるのか普段のラフさと快活さが鳴りを潜める長袖長ズボンの恰好だった。不思議に見つめていると不意に鈴音がガバッと顔を上げた。鼻から赤い血を出し痛みで目尻に涙を溜めながらこちらを睨む鈴音を見て一言。

 

「汚ねえな、廊下に落とすなよ。血って落ちねぇんだからな。」

 

そして巧の顔面に蹴りが飛んだ。

 

 

ーーモノレール乗り場

 

「バイクに乗せてほしいのか。」

 

「うん、巧クンバイク持ってんでしょ。今日はそれに乗って遠出しようと思ったのよ。」

 

と事前に用意したらしいバイク用のヘルメットを膝に乗せた鈴音が言う。これまでバイクで一人旅をしていたらしい巧。積荷も制限される中わざわざかさばるヘルメットを余分に持っているとは思わなかった鈴音が今日のために自腹で買った物である。変なところで気の利く奴だと巧は思った。それを日常生活でも使えばこんなことにはならなかったのにと蹴られた箇所を摩る。本土から程なく離れたIS学園発のモノレールは直ぐに本土の駅へと着いた。停車のアナウンスが流れドアが少しの間を置いて開く。

 

「行こ。」

 

待ち遠しい様に巧の手を引っ張って鈴音が飛び出す。小柄で可愛らしくてだけど勝気で口が悪くてよく喧嘩してでも直ぐに笑って。巧は特に考えずに発言した。

 

「真理みたいだな。」

 

ーー

 

世界中の来賓のためそこいらの大型デパートの所有する駐車場の倍はあろうかという面積を誇る駐車場は通常時はスカスカである。バイク用のスペースになんとなくいつも置かれ巧専用となったスペースに銀色のバイクが鎮座している。費用をケチってカバーをかけずに数週間吹きっ晒しに放ったらかしのお陰で埃を被ったボディは少し霞んでいるが彼の銀色の深さが失われることは無い。そんな美しいボディを巧は地面に置いてある、恐らく彼が用意した元は新品のタオルだったボロ切れで乱暴に拭いた。やがてシートの汚れを念入りに拭き終わった所で巧は既に掃除した、ミラーに被せてあったフルフェイスのヘルメットを被りセンタースタンドを外してオートバジンに跨って安定させてから鈴音に乗れと言った。それに頷き自分のヘルメットを被った鈴音は何時ぞやの時の様に身軽に巧の背後に飛び乗った。

 

巧は空吹かしを好むタイプでは無い。必要以上にアクセルを回すタイプでも無い。ガソリンが勿体無いし五月蝿いのが煩わしいからだ。しかしそれでも。屋根の内のせいかもしれない。その(オートバジン)鼓動音はデパートの持つ駐車場よりデカく広いこの中を易々超えて辺りの地域住民達にまで響いた。

 

 

ーー

 

やはり正解だった。ISと違いスピードに比例する風邪をタンデムという形と小柄という性質で持って軽減されながらも肌に感じる鈴音はそう思う。以前外出時に一度だけ乗せてもらったバイク。15キロも出ていなかったがそれで充分なほど鈴音はこいつ(オートバジン)に惚れ込んだ。

こうして普通車両で言う高速域に入ってから改めてその想いが強まった。

 

シート越しでも帯同して伝わって来る雄々しい馬力(ポテンシャル)は正しくスーパーマシン。IS乗りだから言えるこの特別感。単純にパワーの数値でいうならコレより上の乗り物も有るだろうし立ち場柄彼女自身そういうものによく触れている。だがそれでも彼らがこいつに勝てる見込みを感じない。ISもこんな感じだ。世界最強と呼ばれる機体に乗るときは他の兵器に搭乗する時には感じないナニカを感じる。

出力で火力で上回る兵器は多く有るがそれらには無い、数値として現れない確かな要素がISにある。だから彼女にとってISとは特別な物だしこいつも今彼女にとっては特別な物だ。

 

動かしてみたい。

 

好奇心旺盛な鈴音がそう想うのは当然であった。しかし彼女はそれをしない。自分には相応しくない。甲龍が自分だけの専用機であるようにこいつは巧にとっての専用機なのだと。恐らく乗せてくれと一言だけ言えば巧は特に感慨も無くこいつを渡すだろう。「免許持ってるのか」とか「こかすなよ」といった当たり前の気遣いをして鈴音がこいつに乗る事を許容するだろう。それでも鈴音はそれをしない。相応しくないと分かっているから。こいつに乗るべきなのは巧だと。一機械に過ぎないこいつに対して鈴音は自分でも戸惑う程思い入れを感じていた。

 

「あ、そこの角右ね!」

 

 

ーー

 

今日の昼食場。手頃なスペースに停車させ降車した2人は小さな定食屋に目を移す。特に巧は鈴音から誘導されたためこの定食屋の存在も知らない。ヘルメットを外しバイクの高揚感がまだ覚めない鈴音が笑顔で答えた。

 

「いやあ、やっぱ足が無いと中々来れない距離だから。」

 

「来日したらいつか来ようと思ってたんだけどね。」

 

そうして定食屋を見上げる鈴音はどこか懐かしげに見える。話によれば中学時代の友人の家だと言うのだ。成る程一年ぶりに戻って来た日本でかつての友人に会いに行きたいと思うのは当然だと巧は納得した。鈴音の言う通りここまでの道すがらは歩くには長すぎ、また最寄りのバス停も無い。巧のバイクが理想だったと言う訳だ。自力で納得する巧を尻目に鈴音は遠慮なく友人の定食屋の戸を開いた。

 

「あしゃーせー」

 

いらっしゃいませを分かる範囲で短略化した単語で2人を迎え入れる若い男の声がする。小さな定食屋だ。バイトを雇っていることも考えられるがもしかしたらこの声の主が鈴音の同級生なのかも知れない。果たしてその想いは店に入ってすぐ見えた赤髪の少年の驚く顔で判明した。

 

「鈴!」

 

「よっ。」

 

手を挙げて返事を返す鈴音を見て自分の予想が正しかった事を確認した巧は改めて定食屋内を見渡す。他に客のいない小さな店だった。

 

 

ーー五反田店

 

運ばれて来た日替わりのトンカツ定食。熱々を見て分からせる湯気が揚げたてのサクサク食感を期待させる。そして巧には見た通り熱々に、熱っつ熱っつに、熱そうだった。

 

「食べないの?」

 

もくもくと構わず口にカツを放り込み咀嚼する鈴音が尋ねる。そういえば数ヶ月が経つがこれは知られていなかった。やはり自分で選べる学食で巧は自分の好みの食事を注文していたからそんな機会が無かった。だから鈴音が注文で手間取る巧を見兼ねて代わりに一緒の注文をしたとてそれを責めることは出来ない。巧は意を決して切り分けられたホカホカトンカツを箸で掴み口の前まで持っていく。数センチまできて口につけずとも肌越しにトンカツの温度を感じ取れる。巧は冷静にそれを値踏みした後口を開いた。

 

 

 

「ふーっ」

 

 

 

ふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっ…………

 

 

 

「……」

 

固まる鈴音と弾。やがてふーっふーっを終わった巧はトンカツをぴとっと唇に付け、

 

 

 

ふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっふーっ

 

まだ熱かったらしい。

 

 

ーー

 

用心深く口に含んだカツをこれまた用心深く噛み切る。途端に溢れ出る旨さ。それ程高級な豚肉では無いだろうに油加減が絶妙なのだろう。成る程これは美味い。ご飯をかっこみ口の中で共に咀嚼する。そして鈴音へと向き直る。鈴音は呆れ顔でこちらを見ている。

 

「冷めた?」

 

「ああ。」

 

正直に言った内容に鈴音がはあっとため息をつく。味噌汁を啜りテーブルに置いて一言。

 

「猫舌なんだ。」

 

「おう。」

 

隠すことでも無いため話す。なにか悪いかと少しだけ凄んで見せる鈴音は別にと返してお冷を飲む。

 

「ただイメージじゃ無いっていうかさ。」

 

ムッとなる巧を諌めながら素直に思ったことを述べる。

 

「顔に似合わないっていうかさ。」

 

不機嫌になっていく巧を見て流石に言い過ぎたかと反省し一言。

 

「可愛いところあるんだね。」

 

無言でそっぽを向く巧。

 

あっ照れた。

 

「ほらほら可愛いって、撫でてあげようか?」

 

「辞めろ。わかった言うな。」

 

面白い玩具を手にしたように巧を弄る鈴音。すかさず弾が横から声をかけ助け舟を出す。

 

「なあ鈴、今日どうやって来たんだ。バスじゃ遠いだろ。もしかしてタクシーか。」

 

自然な感じに話題を切り離せたと弾は感じた。長い接客業で各客の好みそうなやり取りを感覚で分かるようになった弾は巧が下手にフォローすると返って逆効果なタイプだとなんとなく感じ取っていた。

 

「ううんこの子のバイク。」

 

「へえ、バイク乗ってるんスか。」

 

鈴音の必要最低限のネタ振りにフレンドリーな弾が広げて巧が素っ気なくそれに答える。ぎこちないが初めての邂逅にしては楽しい会話だと感じた。時間も流れて2人とも料理を食べ終えたところで鈴音が言った。

 

「そういえば蘭はどうしてるの。」

 

五反田蘭。弾の一つ下の妹だ。弾はうーんと唸り2人の食器を片付けてから言った。

 

「二階上がってく?」

 

 

ーー五反田家 二階

 

直接会って話した方が早いという風に弾はアッサリと蘭がいるらしい自室へと案内した。鈴音は久しぶりの友人宅に懐かしんでいるように辺りを見回し巧は何処か居心地が悪そうである。そして彼女の自室へ着いた弾は先ず扉をノックする。

 

「なに?」

 

向こうから声が聞こえてくる。蘭の声だ。

 

「入るぞ。」

 

「え、なに急に。別に良いけど。」

 

いきなりの申し出に困惑しながらも了承の意を示す。弾は2人に頷き蘭に一声掛けてから扉を開いた。

 

「いらっしゃい。でなんなの。」

 

ベッドでくつろいでいたらしい赤毛の少女が顔を上げる。するとこちらに気づいたらしくえ、と声を漏らす。話になかった客の存在に驚き更にその顔をハッキリと見て再び驚いた。

 

「鈴さん!」

 

鈴音の姿を確認してから漸く巧の存在を認めた蘭は不思議そうな目で兄を見つめる。弾は視線に気づき笑って答える。

 

「鈴の彼氏だよ。」

 

「やった!おめでとうございます!」

 

手を叩いて喜ぶ。特にやったの部分に心からの叫びが聞こえる。

 

「なにそのやったって。ライバル減って良かったってこと?」

 

拳を握り締める鈴音を流し目に巧がやっと喋る。

 

「言っとくが俺はこいつの恋人じゃ無いぞ。」

 

「そうよ。私は今も一夏一筋よ。」

 

便乗する形で否定した鈴音に蘭が見るからにがっかりした。

 

「なあんだ。」

 

ベッドに倒れこんだ後少しして起き上がり蘭は床の上の僅かな私物を片付け巧達の座るスペースを開けた。そして一通り片付け終わった蘭はどうぞと手でさとす。

 

「あ、お兄は下で接客ね。」

 

「ええ〜」

 

「もう直ぐお昼時でしょ。混むよ。」

 

蘭に言われ渋々降りていく弾を見送り3人は話題に華を咲かせる。

 

 

ーー

 

「じゃああんたも織斑一夏が好きなのか?」

 

幼馴染の2人と違い会話の流れについていける自信の無かった巧は先の鈴音の一言から蘭が一夏へ恋をしている事に気づくと直ぐにこの事を言及した。蘭はびっくりしたように目を丸くし暫し黙ったままでいたが直ぐに答えた。返答は予想通りYesだ。どこか鈴音を気にしながらも強気にまるで誇示するかのような返答を見て巧は少し不安になるが直ぐに首を振る。聞いておいて今更だが立ち入り過ぎだろうかとも思ったが(修羅場的な意味で)先の鈴音とのやり取りを見ていると両者共互いの感情は承知らしく大丈夫だろうと判断したのだ。巧の予想通りか鈴音も特に蘭へ突っかかることは無くその後は蘭によるノロケ話を聞くこととなった。

 

「兄が家に連れて来た時に初めてお会いして、なんていうのかな。まあ所謂一目惚れです。初っ端やられたんです。」

 

「ふーん。」

 

「あ、言っておきますけど見た目だけで好きになった訳じゃ無いですからね。もう遺伝子レベルでズキューン!て来たんです。」

 

「別になんも言ってねぇよ。」

 

「ふーんって言ったじゃないですか!胡散臭そうに見えました!」

 

幸いかどうか。矢継ぎ早に駆り出される蘭のノロケ話は思いの外楽しかった。服装のラフさなら鈴音とどっこいだが割と小心者の体があるらしい蘭の一夏となった途端饒舌に語られる惚気はなんだか蘭の本来の姿が現れているようで興味深かった。語られる中で巧は蘭の一夏に対する想いが決して目先の美しさに見惚れたからの物とは違うということを理解した。好かれるんだなと未だ碌に話もしたことの無い織斑一夏という年下の異世界人の事を思った。鈴音といい蘭といいそして多分篠ノ之箒も一夏の事を心から好いている。内面から好かれる人間はそうはいない。巧は一夏の事を見直した。

 

「譲ってやったらどうだよ。」

 

隣で黙ったままの鈴音にそう言うと冗談と鈴音。

 

「恋は甘く無いのよ。」

 

吐き捨てた鈴音は今度はジッと蘭を見る。まるで値踏みをするように共とれる視線の後に一言。

 

「アンタももう諦めたら。」

 

意地悪な質問だなと横で巧が修羅場的な展開を密かに期待していると、

 

 

「そ、そんなこと…出来ないです。」

 

意外な程蘭の答えは小心的だった。単純に意外と思っている巧に対して鈴音が矢張りと言った風に真剣な面持ちで尋ねた。

 

「一夏が3日前にここに来たらしいわね。そん時になんかあった?」

 

鈴音の言葉に蘭は少し黙ってその後はアッサリと話した。

 

ハッキリとした声でたった一言だけだがそれだけで「彼女にとっては」の衝撃は知り合って間も無い巧にも理解できた。

 

「フラれました。」

 

 

 

暫しの間で蘭は極めて正確に分かりやすく巧達に成り行きを説明しその後は嘘のように黙りこくってしまった。流石にこの中で巧は答えられない。必然的に鈴音がそれを咀嚼し答えた。

 

「弾と箒が焚きつけたのね。」

 

鈴音の言葉に少し説明を加えながらも頷く。部屋に駆け込み泣いている所に弾が自分が「答えを出せ」と言ったのだと説明したらしい。

 

「取り敢えずそこらの物投げつけて追い出しました。」

 

「それで正解ね。アイツは一回死ねばいいのよ。」

 

少し元気を取り戻した蘭へ鈴音は一歩だけ踏み込んだ私情を託した。

 

「それでまだ一夏の事が好きなの?」

 

「……はい。」

 

弱々しく下を向きながらだが鈴音はそっかとだけ呟くと黙ってしまう。今度は蘭から話し出した。巧にはまるで鈴音がそれを引き出したように感じた。

 

「でも一夏さんが嫌なら私がどう言おうが仕方ないです。一夏さんが幸せなのが一番です。」

 

その吐露は抑えきれない悲しみが滲み出ているというよりは蘭の決意のように感じた。それと同時にさっきまでの惚気に何一つ負い目を感じ無かった理由が分かった。蘭は一夏の事を心から好きになっている。だからこそ納得いかない結果でも一夏の気持ちの方を尊重出来たのだ。

 

(すげぇな。でもなんかな。)

 

賞賛と引っ掛かりが浮かぶがここでは言わない。折角中学生の若さで真剣に悩んだ末たどり着いた決意の表明。言うとしてもこの場では無いと巧は思った。と巧も決意した瞬間に鈴音は言った。

 

「巧クンはどう思うの?」

 

「は?」

 

「え?」

 

同時に驚く巧と蘭。それが鈴音得意の野生の勘だということは2人には直ぐに分かったが今回に至っては流石に流石だ。しかし鈴音は訴えの目に構わず言ってのけた。

 

「だって気持ち悪いじゃん。ここは第三者から意見を聞くべきよ。」

 

だから何故そこで俺が出てくるんだと言いたかったがこうなった鈴音はテコでも動かない。巧は若干の悔しさを滲ませながら蘭へ自分の気持ちを正直に伝えた。

 

「なんつーか、悪いんだけど。それで終わらせて良いのかって思ってよ。しっかり織斑一夏と話した方が良いんじゃないかって。」

 

蘭を傷つけないように答えた結果。

 

「良いんです。」

 

「おい、終わったぞ。」

 

思わず犯人(鈴音)に文句を言うが鈴音は巧の声に反論するどころか寧ろ肩を叩いて賞賛して来た。

 

「よく言ったわ。その通りよ。このまま自然消滅なんて誰も得しないわ。一夏には私が言っておくから安心して。」

 

いやなにを?と言う前に鈴音は真面目な顔でサムズアップをした。

 

「いつかお互いの気持ちを伝える場を設けるからアンタはそこでシッカリと一夏に自分の気持ちを伝えなさい。」

 

「あの、鈴さん?私は良いですから。それに一夏さんにも迷惑が…」

 

「だまらっしゃい。」

 

反論も許さない鈴音。巧が割と本気でしばこうかと拳を用意していると鈴音がまた口を開く。

 

「バレバレよ。」

 

なんとも勝手と思っていた鈴音の評価がその一言で何故か少し変わった。巧は拳を取り敢えず抑えた。蘭は黙っている。

 

「一夏の幸せとかいい子ちゃんに見せてるけど思いっきり悔しがってんじゃない。候補生の感舐めんじゃないわよ。」

 

蘭はまだ黙っている。

 

「ずっと想ってた癖に別れようって言われただけで納得出来るわけ無いでしょ。」

 

「やめてください。」

 

蘭が答えた。

 

「ふざけんじゃ無いわよ!この女たらしぃーって絶対思ってるわよ。アンタ意外と嫉妬深いもん。」

 

「やめてください。」

 

蘭が答えた。

 

「まあどうしてもって言うなら仕方ないわね。一夏は私が貰っていくわ。」

 

「ダメです。…あ。」

 

「馬鹿。」

 

自分の言葉に後から後悔する蘭に鈴音はしてやったりと舌を出した。蘭の心はまだ一夏から離れていないことは巧にも分かった。蘭はもう隠す気は無いという風に強い語調で鈴音に食ってかかる。

 

「相変わらず図々しいです。」

 

鈴音は不敵に笑うだけ。蘭は決意した顔で分かりましたを告げた。

 

「会わせてくれるなら会おうじゃないですか。こうなったら貴方にだけは渡しませんからね。」

 

すっくと立ち上がった蘭は驚く巧に構わず鈴音へと指をさした。

 

 

ーー五反田店 夕暮れ時

 

「ありゃーしたー。」

 

有難う御座いましたをこれまた省略させた弾に見送られ食堂の入り口から外へ出た2人。既に空が茜に変わっている時間帯は後数十分程で黒へと変貌してしまうだろう。都心から離れた五反田店からIS学園までは歩いている間にあっという間に夜になってしまうだろう。

 

「そこで巧クンの出番よね。」

 

気のいい奴だと窘めながらオートバジンのエンジンを入れる。鈴音は楽しめたようだが巧にとっては半ば自業自得とはいえ常に振り回されっぱなしで疲れたのだ。やはりベッドの上で空を見ていた方が良かったと後悔していると鈴音の声がフルフェイス越しに聞こえてきた。タンデムの状態で暫し止まる。

 

「真理って誰のこと?」

 

今朝のモノレール駅の事を思い出した。

 

「言ってたよね真理って。彼女?」

 

「ん、」

 

巧は間を空けそれから一呼吸で会話を終わらせた。

 

「違う。」

 

雄々しいエンジン音が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 




鈴にゃんとたっ君のデート回でした。
蘭との改変要素の回収のため鈴を使ってしまいましたが如何だったでしょうか。
場面展開を多用し過ぎた感が有りますが上手く蘭の救済に繋がったなら良かったです。
次回からシッカリとシャルロット編を開始します。

※人気投票の開催。詳細は活動報告にて







おまけ
食堂で夕食を共に食べた2人はその足で一夏に蘭との日程の話をつけに行く事にしたのだった。張り切る鈴音とこの際最後まで付き合うつもりになった巧は部屋に着くなりノック無しに扉を開けた。
「あっ。」
「あっ。」
重なる2人。
「えっ。」
「えっ。」
重なる2人。前者は扉を開けた凰鈴音と着いてきた乾巧。後者は部屋の住民である織斑一夏とあられもない姿で向かい合っている、



シャルロット・デュノアだった。
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