IS:ボンド   作:田中ジョージア州

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22話 三人寄れば文殊の知恵

ーービル街

 

何処かの街並み。何処かのビル群。一番天に近い一つのビルの一室。嘗てスコール・ミューゼルとジェイル・スカリエッティが同室したこの世界にとってはある意味この世で最も曰く付きの部屋にまた2人。あの時と変わらず部屋の広さがそのまま物足りなさに繋がる質素なテーブルと椅子だけの空間に2人。モノクロだが高級そうなスーツを着こなした男性が2人椅子とテーブルとそこから見える一面のガラス戸の光景を背景にしている奇妙な絵画の登場人物のような男達は果たして人間である。非現実的なグッズの取り合わせを言葉という存在が一気にチープにした。

 

「村上会長。」

 

男が相対する男をそう呼んだ。村上は変わらぬ顔で特に男に反応を示すわけでも無いが両の目は確かに男を捉えている。男は感情を感じさせない言葉で続ける。

 

「予定通り織斑一夏がシャルロット・デュノアと接触しました。」

 

それは極東の地で閉鎖空間である筈のIS学園の学生寮で今正に起こっている事態だった。リアルタイムで一夏達の様子を知らせる男は淡々と変わりゆく情報を村上に告げた。

 

「そのすぐ後に乾巧と凰鈴音の2人が織斑一夏の部屋に入室。シャルロット・デュノアと接触しました。」

 

「ほう」

 

男の報告で初めて村上が反応を示した。会長の役職に就く者にしては若い村上は笑みを浮かべると興味深いといった感じに男の情報を咀嚼し楽しんだ。

 

「そうですかそれはイレギュラーだ。やはり三世界の存在が一同に介して正史通りに進めるのは無理という訳ですね。」

 

村上の周りを気にしない独り言に男が相槌がわりに尋ねる。しかし安易なものではない。語彙こそ質問の形だが独り言の域を出ない、相手の癪に触らない絶妙な距離感を声帯を駆使しごく自然に成し遂げる。

 

「私は正史を知りません故なんとも言えませんが、それはやはり不味い事態になったという事でしょうか。」

 

男の絶技を感じながらそれに触れずに村上は首を振る。

 

「いいえ、この件は後日知れ渡る事。時期が早まろうがどうということはありません。私がこのイレギュラーに感じるのは心配の類ではなく興味です。」

 

村上の答えに男は目線で了承し会話の主導権から身を引いた。

 

「10年前の白騎士事件。オルコット夫君のオルフェノク化。」

 

指を立て過去の出来事を引き出す。

 

「前者はスカリエッティ博士が後者は間接的ですが我々オルフェノクがこの世界に訪れた余波によるイレギュラー。」

 

そしてと村上は薬指を立てる。

 

「今回のイレギュラーは同じく外来者の乾巧の存在が恐らく要因。」

 

「ミューゼル女史は2つの異なる世界からの外来者の存在がこの世界の許容範囲を超え始めているとイレギュラーを問題視しているそうですが私はそうは思っていません。」

 

村上は両手を男に見せるように動かし視線の前に持ってこさせた。

 

「融合です。」

 

パンと手を叩く音に男の目が少し開く。

 

「粘土が衝撃に合わせて形を広げるようにこの世界も外来者の存在に適応するため順応し始めているのです。」

 

「彼女は改変を起こしているのは我々と仰っているが私から言わせれば逆です。確かに改変の余地は外来者が要因だがそれを正史の改変に繋げているのはこの世界自身なのですよ。」

 

静かに熱の入る村上はスカリエッティとは異なる意味で狂気を感じさせた。

 

「まあ。」

 

ふっと男は村上から狂気が薄れるのを感じた。

 

「だからといってあまり世界を騒がす事を起こさないのは変わりませんけどね。肩身が狭いですよ。」

 

温和な笑みを見せる村上は男が知るいつも通りの姿。男は今も入ってくる情報に意識を傾け一度目の前の狂気から己を逸らした。

 

 

 

 

 

ーーIS学園

 

困惑の顔は一夏。更に青ざめた顔はシャルロットだ。咄嗟に胸を隠したがバッチリと見て認識した鈴音と巧は今更誤魔化せない。両者とも少し呆けていたがやがて目の色を変えた鈴音が一夏に飛びかかっていったことで巧も冷静になる。その頃には一夏はネコ科の大型動物のように襲い掛かってきた鈴音にマウントポジションを取られ悲鳴を上げていた。

 

「アンタとうとうやったわね!この女たらしぃ!」

 

「うわああ、痛い痛い痛い!誤解だよ誤解〜」

 

爪を立てられながらも必死に冤罪を叫ぶ一夏にオロオロとしながらも異性である巧に目を向け恥じらうシャルロットがあまりにカオスで返って落ち着いた巧が仲裁とシャルロットへ服の着用の指示をするまでこの騒ぎは続いた。

 

「で、説明して貰うわよ。」

 

スッカリ落ち着いた鈴音がそれでもドスを効かせた声で一夏とシャルロットを見下す。現在のそれぞれの立ち位置を説明すると鈴音がベッドに巧が椅子に其々座り、一夏とシャルロットは床で正座をしている。因みにベッドはもちろん一夏のであり鈴音は以前この部屋に来た記憶と持ち前の勘で特定したのだ。話を戻して正座の2人は居心地悪そうだが2人とも性格的に先ず自分からとなり

 

『あの。』

 

重なった。

 

「あ、じゃあ一夏から。」

 

「いや、シャルルの方こそ。」

 

互いに顔を見合わせて照れ臭そうに顔を紅くする。お互い単にかっこ悪いからが理由だが鈴音にはイチャコラしているようにしか見えない。

 

「こいつら…」

 

「ドードー。」

 

青筋を立て拳を震わす鈴音を横目で抑えながら巧がシャルロットに指を指す。仕草に気付いたシャルロットが目を丸くさせる。巧はそれほど親しくない3人目の男性操縦者だった少女に少しの睨みを効かせた。

 

「見た所織斑もこの件に関しちゃ混乱してるらしい。アンタからの方が話が見えそうだ。」

 

何時もの目つきの鋭さそのままにまるで狼にでも睨まれた感覚をシャルロットは覚えた。

 

「うん、分かった。」

 

季節外れの寒気を背筋に隠しながらシャルロットは一夏と鈴音も注目する中昔話を語った。

 

 

 

 

 

ーー

 

シャルロット・デュノアはフランスの片田舎の一軒家に母親と2人で暮らしていた。物心着いた時より父親は居らず母と共に幼年時代を過ごした。年とともに視野と見識が広がるにつれ小さい村での生活でもシャルロットは父親が居ないということの不自然さを認識しそれを違和感に思ったがそれを母に問うことはしなかった。笑顔を絶やさない母を見てその話題を口にすることが今の優しい光景を壊してしまうかも知れない恐怖があったし、父親が居なくともシャルロットは優しい母との日々に満足していた。綺麗で優しい母は村のみんなから好かれておりなによりシャルロットに尊敬されていた。母は滅多な事ではシャルロットを叱りつけなかった。かといって娘に対して奔放主義だった訳でもない。母はどんな些細なイタズラでも家事を中断しシャルロットと目線を合わせ根気よく何故そんな事をしたのかを問いただす。そしてシャルロットが正直に答えた理由を聞くと今度はそれを元に2度とシャルロットがその不満に至らないようにすると母は約束し実際シャルロットはそれからそのイタズラをしなかった。ある時母の手鏡を弄り誤って壊してしまった。狼狽えていると帰宅して来た母が目に入る。散乱する鏡片を見て目を丸くする母に血の気が引くのを感じた。壊してしまった手鏡は母が自分が産まれる前から愛用していたお気に入りの物だとシャルロットは知っていた。慌てて弁解しようと口をパクパクさせるが何も浮かばず次の瞬間来るかも知れない母の変化に恐怖した。叱られる事ではない。悲しみであの笑顔が消えてしまう事が怖かったのだ。目の前がぼやけてきた。遂にシャルロットは泣いてしまった。しかし母はむしろ何時もより優しく歩み寄り自分を抱きしめた。

 

「あなたより大事なものなんてある訳無いじゃない。」

 

手鏡は良いのかと尋ねるシャルロットに返ってきた母の言葉にシャルロットは心からこの女性を愛した。

 

しかし、そんな母も完璧な人間ではなかった。

 

母は不死の病を持っていたのだ。シャルロットがその事を知ったのは産まれる前。母の胎内にいた時。母は幼いシャルロットに病の事を何時も伝えていた。いつか自分はお前の面倒を見られなくなる。それまでに生きる力と知恵、そして()()を身につけなければならない。それまで母はシャルロットに己の全てを捧げる。それは母の生涯の誓いでありシャルロットにとっても大きな責務となった。シャルロットは母の得意な料理や家事を手伝いそれを自分の物にしていった。一山越えた先の小さい学校に通いながら村では大人たちに知恵を頼りその過程でシャルロットは母と同じく村のみんなから好かれた。それは急に訪れた。

 

()()()()()()()()()()()()

 

幼い頃と変わらず元気に家事をこなす母を見ながらシャルロットはそれを予感していた。予言は母にも訪れていた。その日のうちに母は通帳や家の権利書をシャルロットに託し古い知人の弁護士の住所・番号を教えてからスッカリ成長したシャルロットを思いっきり抱きしめた。

 

母が死んだのは翌日の朝だった。

 

母の事前の準備により葬儀は死んだその日に簡単に済まされカトリックが主流教であるフランスには珍しい火葬式で母の遺体は葬られた。これも母の要望だ。自分の土地に使う金で娘に迷惑をかけたく無かった事もあるが何よりシャルロットに自分の死を正しく認識して貰うためだ。キリスト教では死体は『復活』に期待し残しておく事が多い。敢えて自分の遺体を燃やし灰にする事でシャルロットの自立心を刺激しようとしたのだ。母は最期までシャルロットのために出来ることを徹底した。焼け残った母のお骨を見たシャルロットはもう自分を抱くあの人と2度と会えないのだと改めて知り静かに涙を流した。そしてもう涙を流すことはないと心に誓う。

 

 

 

父親のアルベールと会ったのはその日の事。いつも通り母がこなしていた習慣の1つをこなすため外へと出た時。村では殆ど見る機会の無いキッチリとしたスーツを着込んだ男が複数人。これまたお目にかけない長いリムジンと黒塗りの車が数台。困惑するシャルロットに1人の男が前に出て恭しく頭を下げた。

 

「お迎えに上がりました。お嬢様。」

 

「はあ…」

 

それからは兎に角あっという間だった。男達の迫力に負けてリムジンに乗ってしまったシャルロットは車内で今度は若い女に出会った。

 

「到着までお嬢様のお世話をさせて頂く者です。何なりとお申し付け下さい。」

 

こちらもまた恭しく頭を下げシャルロットに車内に備え付けのテーブルにこれまで見たことの無いような高級料理を並べた。目を白黒させ今更になって事態の急変にパニックになったシャルロットに女は丁寧に質問に答えたがある説明にだけは一言で済ませた。

 

「誰がこんなことをしたの?」

 

「私の立場では申しかねます。」

 

表情を変えず同じことを同じ音程と声量で続ける女は本当に機械のようだった。仕方なくシャルロットは女と話すことを諦め曇り一つない窓の向こうを眺めた。見慣れた緑の風景から偶に出かけた町の情景。それを通り過ぎやがて写真の中でしか見た事もない大都会へ映り変わって行く。これまでの彼女にとっては有り得ない光景に逆に落ち着いた。ふと気になった事が有ったので女に今一度訪ねた。

 

「都市部の割には車が全然見えませんね。」

 

「交通規制をしております。」

 

益々呆れた。シャルロットはビル群を抜けて行くリムジンに揺られながら今は亡き母の姿を浮かばせた。女が到着の報せを出すまで心ここにあらずで有った。そしてリムジンから降りて見上げる一際天高く伸びるビルに又呆けた。

 

「泥棒猫。」

 

パチンと乾いた音と次いでやって来た痛みはシャルロットの優しい人生の中で初めてのことだった。罵倒と共に頰を叩いたのは母より少し若めの女でエレベーターで地上数十階の部屋。殺風景な清潔感を感じる風景に高級そうなワンピースを身につけていた。村では偶に町帰りの若い奥様達が高そうな服を着飾っていたが女の場合は彼女達のような着慣れなさは無い。服に着られていた彼女達と比べれば女の姿は極めて自然体でその品がある佇まいにシャルロットは一瞬見惚れた。女の平手が飛んで来たのはその直後だ。初めての初対面からの暴力と罵倒を喰らい困惑している間にその女は部屋の奥に消えてしまった。怒るよりも混乱した。いつの間にやらここへ案内した男達も先程のエレベーターで降りてしまい殺風景な部屋にシャルロットただ1人となってしまう。

 

「なんなのもう…帰ろっかな。」

 

急なぞんざいな扱いに流石に頭に来た。エレベーターで降りようと決意しボタンを押そうとした時父親は現れた。

 

「ダメだ。」

 

まるで最初からそこに居たかのように優雅に佇むアルベール・デュノアにシャルロットは持ち前の勘かそれとも血の共鳴か不思議なシンパシーを覚えた。アルベールは極めてアッサリ自分の素性とこのビル。『デュノア社』を説明した。繰り返しの展開に驚き疲れずのシャルロットに淡々とアルベールは話す。

 

自分が父親である事。

 

ここが自分の会社で自分は社長だという事。

 

さっきの女は自分の妻である事。

 

シャルロットは今日からISのテスターに抜擢されここで実験を受ける事。

 

断る選択肢は与えられなかった。その日からシャルロットはデュノア社の所有物となった。毎日それまで見た事もないISスーツを着せられドラマの悪者の科学者のような白衣の人間達に体中にコードをつけられ何かのデータを取られた。それ以外は割り当てられた部屋でただ静かに座って居る。そこいらのビジネスホテルが安っぽく見える豪華絢爛な装飾や料理の数々もシャルロットの心に響く物は何一つ無く幼い日の母が作った好物が思い出された。あれ以来本妻の女には会っていない。会いたいとも思わなかったが毎日同じ学者達にしか会わない彼女には女でも刺激として求めるほど病んでいた。そんな彼女の唯一の癒しと言えた時はデータの採取の際の時に必ずシャルロットの様子を常に見ていたアルベールの姿だった。学者達のオモチャにされる娘を見て眉ひとつ動かさず用意された高級ソファに座る父の姿は学者達と同じく変化しない停滞の一つだったがシャルロットにはその厚顔に母の時に感じた家族特有の安らぎを少しだけ感じた。それは本当に僅かで原因はアルベールが父親という事実と体に流れる血による無意識の共鳴以外は何もない無色な愛情だとシャルロットは自覚していた。それでも停滞の中でアルベールの存在がシャルロットの拠り所である母の姿を忘れさせなかった。

 

父親と話したのは2回だけ。出会った日とIS学園に転入する事を伝えられた別れの日の冷たい命令だった。

 

 

 

 

 

ーーIS学園 学生寮

 

「デュノア社が業績不振に陥っているのは凰さんなら知ってるかな。」

 

シャルロットに鈴音が頷く。

 

「第三世代の開発が上手くいってないんでしょ。」

 

「ザックリ言うとそうだね。今欧州連合はISの開発の大半を第三世代型に注目している。だけどデュノア社はそれに失敗していてね。いつまでも結果を出せないままズルズル行ってね。」

 

無感動にデュノア社の有様を話すシャルロットに愛着心など微塵も無い。

 

「今度の欧州コンペからも外されそうでそうなったら遂にフランス政府から支援打ち切りの警告を受けている。絶体絶命の所に現れたのが一夏さ。」

 

先程の重い話もありおどおどと自分を指差す一夏。シャルロットは続けて話す。

 

「あり得ない筈の男のIS乗りの遺伝子。更には本来なら発現しない筈の織斑千冬と同じワンオフ・アビリティーを持つ百式。この2つを最高で両方手に入れあわよくばそのデータを使ってデュノア社は復活を企んでぼくをここへ送り込んだんだ。」

 

それがシャルルとシャルロットの秘密の全て。包み隠さない真実をここに来て初めて誰かに打ち明けたシャルロットは自然に笑みが零れた。やっと外れた2年の枷が彼女を饒舌にさせる。

 

「実は一夏が失敗したら乾くんの遺伝子だけでも持ち帰る予定だったんだ。」

 

巧は特に喋らずふんとだけ相槌を打った。

 

「これからどうなんのよアンタ?」

 

最初と見て心配な視線の鈴音にシャルロットがう〜んと顎を触る。

 

「事が事だし、フランス政府から本国へ強制送還されて良くて牢屋行きかな?」

 

どうでもいいように話すシャルロットに鈴音が目を見開く。

 

「アンタ、それで良いの。」

 

「良いことは無いけど…どうしようもないから。」

 

そう言うシャルロットはもうフランスで幽閉される自分の姿が見えているようだった。

 

「それで良いのかよ。」

 

一夏が声を上げる。シャルロットはどこかやはりという感じでそれを迎えた。

 

「そんなの理不尽過ぎるじゃないか。可笑しいよ。父親が子供を道具扱いするなんて。嫌がるべきだそんなの。」

 

一夏は心の底からそう叫んだ。しかしシャルロットには今更遅いの返答しか返らない。身分を偽り独立国であるIS学園に不当に入学したのだから仕方ないと一夏を黙らせる。

 

「抗おうとしなかったぼくの自業自得だよ。それにさっきは牢屋行きって、あれもぼくの予想でもしかしたら軽いのかも知れないし。もし重くてもフランスに死刑制度は無いから取り敢えず安心だよ。」

 

シャルロットの淡々さに3人は押し黙る。巧は黙って鈴音は歯を食いしばりながら其々シャルロット救済のために頭を巡らす。浮かぶアイデアはしかしそのどれもが現実味を持たない。国家レベルの問題に巧は勿論鈴音ですら打開策を見いだせなかった。一夏を除いて。

 

「シャルロット。」

 

今初めて聞いた本名をこの場の者で初めて口にする。

 

「正直に答えてくれ。お前は牢屋行きが良いのかここでみんなと暮らすのかどっちが良いんだ。」

 

「そりゃあ、一夏達と一緒がいいよ。」

 

軽い口調でこの場の者が求める答えを出す彼女はしかしそれが実現するとは微塵も思っていない事がわかる。だが一夏にはその本心が聞ければ十分だった。本当に諦めている訳では無いのなら今から出す一夏の案には乗ってくれない。

 

「特記事項第二十一。ーー」

 

そうして一夏がシャルロットに突き出したのは彼女も良く知るIS学園の学生証だ。意図が読めない3人に一夏が続ける。

 

「本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。

 

本人の同意がない場合 それらの外的介入は原則として許可されないものとする。」

 

それは五十五項目あるIS学園の特記事項の内の1つだった。すなわちIS学園にいる内は例え国家権力であろうと名義上手出しは一切出来ない事を示す内容である。一夏は唖然とするシャルロットに明るく笑ってみせた。

 

「取り敢えずシャルロットは三年は安全って事だよ。その間に問題を解決すれば良いんだ。」

 

確かに一夏の提案なら三年の猶予が手に入る。それまでにデュノア社との問題が解決すれば晴れてシャルロットは自由の身に慣れる。シャルロットは思わずあっと声を漏らした。

 

「シャルロットは自由になりたいんだろ。それならなって何が悪いんだ。父親だろうと関係ない!お前は自由になるべきだ!」

 

暗い瞳に光が灯るのを見た。

 

 

……

 

………

 

…………

 

……………

 

「それは違うんじゃないか。」

 

今まで話に参加しなかった巧が静かにそう言った。

 

「それじゃあ先延ばしにしかならないだろ。その先はどうすんだよ。」

 

「うっ。」

 

思わず呻く一夏。巧の言う事はその通りであった。一夏の案では問題の直接の解決にはならない。同じように鈴音も一夏の策を否定する。

 

「そうよ。それに名義上では保証されていても安心じゃないわ。相手は国よ。その気になられたら後ろ盾の無いIS学園はひとたまりもないわ。」

 

巧と鈴音の意見にシャルロットも縦に首を振る。

 

「デュノア社やフランス政府がそんな手段を取ったとしたら一夏達だって危険が及ぶかも知れないんだよ?ぼく1人のためにここのみんなに迷惑を掛けるわけにはいかない。」

 

シャルロットは返って強い口調で決意を示し一夏の案を突っぱねた。自分のためでは無い。なんの関係もない学友達がある日全く知らない問題のために危険な目に遭う。一夏を黙らせるには十分な理由だった。押し黙った一夏に3人は正当な理由に返せる反論を見つけられず黙ったと思った。しかし実際は一夏の脳裏に反復するある言葉がそれを成していた。

 

 

 

 

 

ーー一夏

 

「いいか一夏、お前は理不尽な不幸が大嫌いだが。」

 

「お前の行動も時としてそれ(理不尽)に繋がるという事を知っておけ。」

 

シャルロットに理由を聞いた時真っ先に箒の言葉を思い出した。蘭のためだと今でも思っている。でもあの時の泣き顔は紛れもなく俺のせいだ。アレは俺の理不尽だ。更に今回は数が違う。俺の良かれと思っての行動が箒や千冬姉やこの学園全体に理不尽が降り注ぐ事になるかも知れないと思うとつい言い返す事が出来なかった。

 

あの時からなにも変わってはいない。アリーナでは鈴音や箒を助けられずに今度はもっと近くに居るシャルロットすら救えない。いや救うことはできる。ただしそれには他のみんなの命を生贄にする事。俺にそんな権利は無い。悩み、しかし終着点が無い悩み。どこまで行っても両方助かるハッピーエンドは浮かんでこない。早く早くと焦りパニックになりながら無い頭を絞って出鱈目に案を出す。

 

セシリアのキュウリサンドが美味しかった事

 

ボーデヴッヒさんのスマイルがえらくイケメンだった事

 

…………………

 

馬鹿か俺の脳味噌!こんな時にボケるなよ!考えろ!

 

しかしそれは関係ない思考を捻り出すほど俺がなにも解決策が浮かばない事を表わしていた。

 

クソォどっちか選ばねぇと行けないのかよ。

 

 

 

 

 

それは馬鹿な脳味噌が映し出した無関係なモノの1つだった。

 

 

 

……箒?

 

『何を迷う必要があるんだ。』

 

箒の声が響く。もちろん本物の箒では無い。しかしその一言が俺の脳味噌が作り出した他の雑念を全て消し去った。

 

箒は言った。

 

『人を助けるのに迷うなんてお前らしく無いぞ。理屈を考える暇があるなら体で動け。』

 

一度だって箒本人からは言われたことのないセリフだ。しかしそのセリフはとても俺から生まれたものには聞こえなくて。まるで本当に箒から言われたような感覚と共に何故か急にふっとさっきまでの重い悩みが消えていくのを感じた。

 

 

 

 

 

ーー

 

一夏がバッと俯いていた顔を上げる。強い目を携えた強い顔に3人は感じた。そして一夏はこれまた元気な声で言った。

 

 

 

 

 

「うるせーー!!」

 

目を丸くする3人に一夏は構わず叫んだ。それはもはや策や案と呼べるものでは無く一夏の感じた不満をただぶつけるだけの八つ当たりだった。

 

「シャルロットはこの学園に残って三年の間でなんとか解決するんだ!」

 

「でもみんなに迷惑が……」

 

「うるせーー!!」

 

「えぇ⁉︎」

 

「それも俺たちみんなで力を合わせてなんとかする!学園全員が力を合わせればフランスだろうが怖くない!」

 

シャルロットに反論すら許さない一夏は我儘そのものだった。長い付き合いの鈴音も初めて見る癇癪。一夏はガバッとシャルロットの肩を掴んだ。

 

「ちょっ、一夏っ…」

 

「うるせーー!!」

 

「すみません⁉︎」

 

無理やり黙らせる一夏に完璧に置いてけぼりを食らった2人は付き合いきれんとばかりに鈴音はベッドに寝転がり巧はファイズファンを弄る。

 

「お前は自由になりたいんだ!そのためなら我儘言うべきだ!」

 

一夏の謎の迫力に押されるシャルロット。

 

「俺たちの事なんか気にするな!図々しくたって俺たち全員がなんとかする!シャルロットの事もみんなの事もなんとかする!」

 

真っ直ぐとなんの曇りもなく言ってのける裏にはなんの勝算も無い。それでも一夏は考えずに行動する。

 

「自由になるのに構う事なんて無いんだ!

 

お前はなんの心配も要らずに自由になっていいんだ!」

 

「一夏…」

 

「お前は自由になりたいのかなりたく無いのかどうか言え!10秒以内で!」

 

「えっ、」

 

「10.9.6.3.2……」

 

「ちょちょちょっ、待って!待って!カウント可笑しいよ⁉︎」

 

超高速。しかもちょっとズルしてるカウントダウンは止まらずついに、

 

「0!どっちだ!」

 

何度も言うが我儘そのものだ。大分おかしい一夏にあてられたか答えを迫られたシャルロットも少しおかしなテンションになり叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なりたいーー!!」

 

 

 

 

 

ーー校舎

 

「うるせぇぇぇぇ!」

 

「ど、どうしたのリニス⁉︎」

 

所属する部活の自主練をしていると突然ここからは小さく見える寮に向かってキレる家族にアリシアが驚く。リニスは今日も災難。

 

ーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ、はあ、」

 

こんなに大声を出したのは初めてかも知れない。若干痛む喉に後悔しながらシャルロットは説明出来ない、しかし確かな清々しい気持ちになっていた。理屈も抜きに吐き出した言葉は間違いなく自分の本当の気持ちだった。それを引き出させたのは相部屋の少年の極めて餓鬼っぽい我儘。それに答えた自分も所詮ガキなのだと思うと深刻な状況なのに笑えてくる。そしてその本人を見上げると同じようにめいいっぱい笑いながら一夏が言った。

 

「よし、じゃあここに居ろ!」

 

その笑顔に彼女の持つ問題を解決する力は何も無い。しかし今の彼女にとってはなによりも頼りになる笑顔だった。

 

「うん!」

 

それは一夏が見た中でとびきりの笑顔だった。

 

ーー

 

 

 

 

 

ーービル街

 

静かな無言。男が村上に返す。

 

「シャルロット・デュノア、多少の改変を重ね正史通りの結論に至りました。」

 

男の報告に村上はそうですかとだけ返し笑った。

 

「この後はどうなさいますか。」

 

事務的に男が指示を求める。

 

「引き続き監視を。」

 

「はい。」

 

静かな無言。今度は誰も返さなかった。

 

 




久々に1万字を突破
中々原作通りの一夏の結論に持って行き辛い…。
シャルロット母の設定はオリジナルです。母親の描写がどこかズレていると思うかも知れませんが母親はシャルロットを正真正銘愛しています。
一夏が感じた箒の声は一夏が作り出した幻聴です。危ない奴(ぼそ…
今のところちょいキャラにしかなっていないリニスとアリシアですが彼女たちはこれから頭角を出す予定です。

※人気投票の開催。詳細は活動報告にて
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