日曜日の過ごし方に決まったものは無い。朝起きる時間、朝食を食べる時間、本国の会社の重役達とのミーティングを開始する時間。それらは決まっているもののそれ以外の予定はその日暮らしというのがいつもの過ごし方だ。部屋で読書を勤しむのも部活動に精を出すのも友人との会話を楽しむのも習慣的なこと以外は全て気分で決める。ルーズという訳では無い。セシリアにとっては何で楽しむかといった拘りは無く楽しめればどんな事でも良いのだ。
それに予定が無い訳ではない。
この日は兼ねてから付き合いを良くしている一夏達との昼食会が予定されている。
メンバーがそれぞれ料理が出来るという事で弁当を持参するという約束だ。セシリアは普段通りサンドウィッチを作るつもりだ。朝食を食べた後下ごしらえをして置いた食材数種を取り出してイギリス風のブレッドと何時もは使わない日本の食パンを用意した。ふわふわな食感はセシリアからしてみれば食事には似つかわしくないものであり自分用では無い。
食事会、手料理持参のキーワードからメンバー同士で食べ比べのような展開もあるかも知れないと日本人である一夏と箒にも合うように用意したものだ。
食パンには朝にワインビネガーに浸けておいたキュウリの薄切りを使うつもりである。他は自分用のブレッドにハムやチーズ、レタストマトなどを挟んでいく。日本と比べてボリューミーなサンドウィッチはセシリアの好みだ。そうして具材を乗っけてパンで挟んでいくを繰り返していく内に少し躓いた。
「あらトマトが…」
余った。というかそれ以外足りない。
材料に使っていたトマト以外の材料がタイミングよく全て底を尽きてしまった。
用意している弁当箱にはそれまでのサンドウィッチだけでは隙間が空く。仕方なくトマトだけを詰めて急ごしらえのサンドウィッチを詰めて弁当を完成させると仕上げにお湯を沸かす。紅茶だけは事前に放ったらかしには出来ない。
入れるのは日本人にも合うダージリン。時季的にセカンドフラッシュのもので厳選したマスカテルフレーバーを使う。
予め湯通しして温めて置いた部屋に備え付けのポットに茶葉を入れる。そこに熱湯を注ぎ蓋をして3分程度待つ。3分経ったらスプーンでポット内をひとかきし同じく事前に湯通しをした魔法瓶に注ぐ。茶こしで茶葉を取り除きながらゴールデンドリップと言われる淹れ方で最後の一滴まで注ぐ。そうして少し不安要素を残しながらも昼食を完成させたセシリアは約束の昼食会まで本を読みながら時間を潰した。
「やはり失敗だったかしら。」
トマトのサンドウィッチとそれを食べた一夏の無表情を思い出しながら会社からの用事を済ませるセシリアは独りごちる。会社からの用事は直ぐに終わり暇になったセシリアの脳裏に今更にしてあの光景が浮かび上がったのだ。今セシリアは気分転換に修繕の終わったアリーナに向かっている。久しぶりにISの訓練をするつもりであった。
対ホークオルフェノクの備えのつもりだった。
しかし予想通りか果たして自分がこの10年で手に入れた力はアリゲーターオルフェノクには通じなかった。
なのはの戦力を利用し自身は補助に回ったことで有利に立ち回っていたがティアーズの火力では父には通用しないだろう。恐らくアリゲーターオルフェノクに通用しない程度なら父と対峙しても瞬殺だ。それほどあの夜に見た鷹の姿は強大だった。
初めて見たISにも幾度か会う機会があった国家代表クラスもあれと比べれば鷹どころか羽虫のよう。同じくIS乗りとしての1つの目標であるブリュンヒルデ。この学園で初めて生で会えた織斑千冬でさえもあの雄大な空を縦横無尽に翔る翼には届かない。もしかしたらこの世界にある兵器では父の居る高さにすら辿りつかないのかも知れない。
「……」
セシリアの脳裏に2人が浮かぶ。何処までも届く桜色の光。硬い外骨格を砕く紅い拳。彼らがどこから来たのかはセシリアには分からない。ただ父親達と同じくこの地球が幾度か体験した異常の共時性、かつて無い程の奇妙な
「非効率ですわね…」
せめて新しい、出来れば強い相手がいればもっと有意義なのだがと思いながら辿り着いたアリーナの更衣室のドアを開いた。
!
「オルコット候補生、貴方も訓練か。」
居た。既にISスーツを着用したラウラにセシリアは不純な感情を相手への非礼と判断し柔らかな笑顔で隠した。
「ええ。」
「候補生として休みの日を利用しない手は無いからな。一日欠かすと直ぐに腕が鈍る。」
「同感ですわ。しかし繰り返しの反復練習だけでは洗練はされても飛躍は望めないのでは?」
スーツに着替えながらなんと無しに返す言葉にラウラはうっとなった。当然だ。そうなるよう狙ったのだから。候補生なら学園以前の方が訓練時間が充実しているのは当然。特に軍所属という事は並みの候補生よりもより過酷な訓練をこなしているはず。反復練習で済むメニューならば兎も角『相手』となると話は別だ。特殊部隊に所属する優秀な訓練相手は学生ではそう務まらない。ラウラが物足りなさを感じていると予想するのは簡単だった。そしてラウラの性格上セシリアの誘いを断る事は無い。
「いかがかしら?偶には共同訓練というのも。」
「ふん…悪く無いな。」
ーーアリーナ内
教師に届け出を出し許可を貰った2人はお互い生身で向かい合っている。二十メートルの距離をプライベートチャネルを駆使し会話をする。
「開始合図は
まるで相撲の立会いのように互いに相手の準備を感じ取るのだ。
「承知しましたわ。では、」
セシリアの体を蒼い光が包む。ブルー・ティアーズを着用したセシリアにラウラがほう、と声を漏らした。
「セシリア・オルコットの噂は欧州連合でも話題に上がるほどと聞くが成る程その通りらしい。」
展開が速い。驕るわけではないが軍の人間としてラウラは自分がそこいらの政府や企業直属の候補生より練度は上という自負は抱いていた。しかし今のセシリアの展開速度にその価値観を改めた。ISの練度は展開の速度に現れる。何気なくした彼女のそれはラウラですらその価値観を思い上がりだと恥じるほどだった。
「しかし私もドイツIS部隊の隊長だ。易々と終わるわけにはいかないな。」
ラウラの持つ待機状態のISが展開される。黒を基調としたボディは生身を晒すというISのデザインながら重戦車のイメージを受けるものだった。第三世代機『シュヴァルツェア・レーゲン』を纏ったラウラはそれ以前の小柄な体躯からは想像できないプレッシャーを放っていた。
既に戦闘態勢に入ったラウラにセシリアはあくまでも淑女的な笑みを絶やさない。鋭い目つきでそれを迎え撃つラウラはじきに来る勝気の衝突を予感しながら筋肉を程よく弛緩させる。
古今東西の武術に通じる始動前の脱力とシュヴァルツェア・レーゲンの高出力を重ねればそれだけで並みのISならば必殺になり得る。
専用機であるブルー・ティアーズでも真正面からの激突は避けるはずだ。
そこからの烈火のような攻撃の連続がラウラの必勝パターンだ。
脱力の度合いを絶妙に保ちながらラウラはコマ刻みの秒数を見ているようにその瞬間を克明に感じ取る。
3、2、1………
「!」
重なった。
感じ取った確かな邂逅。
瞬間ラウラの体は前進した。
大出力のスラスターを持ってしてもこの距離でセシリア程の人間がこれをぼーっと突っ立って受けはしない。
だからラウラはもう一押し加える。
一度吹かした出力を今度はスラスターに逆に収束させ一気に解放させた。
ゴウッと瞬時加速により飛び出したシュヴァルツェア・レーゲンはさながら砲弾。
コンマ数秒の後に来る激突をラウラは動かずに居るセシリアの姿で確信した。
見立てによる実力は恐らく自分以上だろうセシリアだからこそ見せる真っ向勝負。
技術や小細工ではどうしようもない愚直な一点突破はだからこそセシリアには回避以外の選択肢を与えない。
即ち回避が間に合わなければこの勝負はラウラに転がっても可笑しくないのだ。
極限状態の視界維持の中でラウラは煌びやかな一瞬の蒼と目の前に広がる粉塵の壁に覆われた。
「むっ…!」
緊急事態にラウラは瞬時に加速を止め回避行動を取ろうとするが、それより早く粉塵から飛び出した鉄腕が彼女の意識を揺らした。
「ぐおっ…」
上体を完全に吹き飛ばされながら殴られたと判明した攻撃の正体とその過程にラウラは歯ぎしりをする。
やられた
粉塵の中から拳を振り抜いた形でも微笑みを崩さないセシリアとティアーズの特殊装備であるBT兵器ブルー・ティアーズの内の一機が下を向きその下方の地面が抉れているのを見てラウラは自分が彼女の掌の上で転ばされていた事を悟る。
ラウラが脱力という準備をしていたようにセシリアもまた予測という形で戦闘開始の瞬間に動けるよう準備をしていたのだ。
体当たりという攻撃手段を開始前から予想しラウラの脱力から確信したセシリアは浮遊するブルー・ティアーズを下向きに展開。
そのままラウラの戦闘態勢が整うのを待ってから開始の意思を示しタイミングを計った。
そして後は突撃するラウラの目の前で地面に向けレーザーを射出するだけ。
距離の関係で暫く時間のかかるラウラの突撃を充分待ってからの一番効果的な距離での煙幕に思惑通り動きを止めたラウラをセシリアは思い切り振りかぶって殴ったという訳だ。
クスリと笑うセシリアは優雅にしかし非情に次の瞬間ラウラはブルー・ティアーズの全照射を受けた。
ーー
奇襲の失敗は痛かった。こうして主導権を握られた。しかしそれでもラウラは冷静だった。計6機装備されたワイヤーブレードで空を飛ぶセシリアを狙う。
しかしセシリアが捕まることはない。
一機のブルー・ティアーズを周回させ残りは依然ラウラを狙わせながら自身も見事な回避行動を取る。
淀みのない動きには誘導の小細工は通用しない。
業を煮やしワイヤーを突っ込ませようとすれば彼女を周回するブルー・ティアーズが正確無比な射撃でワイヤーを撃ち落とす。
それでもラウラはワイヤーブレードによる攻撃を止めずセシリアはそれらを例外なく全て撃ち落とした。
暫くもしない内にラウラは全てのワイヤーブレードを失った。
しかしそれでも度重なる攻撃でセシリアの鋼の集中力が乱れた。
残った3機のブルー・ティアーズでも完璧な包囲網を作っていた彼女だったが遂にとてもミスとまでは言えずとも磐石とは言い難い隙。
集中砲火の穴を作る事に成功した。
最初の一撃でシールドエネルギーを3割程持っていかれたがそれでも頑強で鳴らすシュヴァルツェア・レーゲンの装甲ならばこの程度のレーザーで沈黙することはない。
ラウラは緩やかに減っていくシールドエネルギーを一瞥し最後のワイヤーブレードを落としたセシリアを見上げる。
まだ遠い。
AICの範囲にはまだ不十分。先ずは近づかなくては話にならない。
ラウラは今一度瞬時加速でセシリアに接近する。
プラズマ手刀を両手に展開しながら迫る様は大迫力だ。
セシリアはそれに感心したように息を吐くと今度はスターライトmkⅢを展開する。
しかし撃つことはせず横に構えまるでそれだけを武器にして受けて立つとでもいうようだった。
(舐めているのか…まあ良い。どちらにしろビーム兵器がある以上無闇にAICは使えん。)
PICを発展させた
即ち人や物を無理やり金縛り状態にする事が出来る一対一では圧倒的なアドバンテージを誇るシュヴァルツェア・レーゲンの虎の子だ。
しかし無敵に思えるこの能力も効果は一方向のみ、発動には多大な集中力が必要、そして光学兵器には無力という弱点があった。
ラウラがセシリアへの発動を躊躇う理由は3番目。
全部で4機のブルー・ティアーズのビームは威力こそシュヴァルツェア・レーゲンの装甲を一撃で貫くことは出来ないがAICの持続を邪魔する程度は充分。
更にブルー・ティアーズはセシリアの脳波コントロールで常に4方向別々にラウラを狙う。
AICは相手の思考まで止めることは出来ない。
セシリア本体を止めた所で脳波コントロールでどれか一機からでもビームを喰らえばその時点で集中力はとても続かない。
寧ろ大きな隙になり得る。
今更気づくとは、ラウラは自分を恥じた。
高出力と強力な武装で第三世代機の中でも最強を誇るシュヴァルツェア・レーゲンの天敵が海を挟んだ僅か1000キロ先の国に居たとは。
ラウラはもどかしさを胸中に隠し両手のプラズマ手刀で直接セシリアに斬りかかった。
ガキンッ!
重い音。精錬された特殊金属同士がぶつかる甲高い音がアリーナに響く。プラズマ手刀をスターライトmkⅢで受け止めたセシリアはまだ笑っている。
「ちっ…」
良い加減目障りになってきたラウラは持ち得る技術の全てを使い2つの手刀をセシリアに打ち込む。
乱雑に見える刃もその実非常に完成度の高い過程になっているがそれらはただの1つも目的に昇華する事はない。
全ての手刀とたまに入る蹴りによる3次元的攻撃を全てライフルだけで受け、叩き、流す。
少しの攻防の後セシリアは急に攻勢に出た。
プラズマ手刀の一撃をライフルで絡めとるように受け流しラウラの体に直接0距離射撃を加えた。
ブルー・ティアーズ以上の高火力をなんの備えも無く受けたラウラの体は衝撃とともに吹き飛ぶ。
上から被せるように撃ったためラウラの体は地面に激突!土煙を上げる。
セシリアは旋回させていたブルー・ティアーズを自身の周辺に戻し空から土煙を微笑みを絶やさず見る。
この時点でブルー・ティアーズのシールドエネルギーはほぼ満タン。
対してシュヴァルツェア・レーゲンは今の攻撃でレッドゾーン。
場合によれば全損もあり得る。
競技としてもここらで終了だろうしラウラもこれ以上戦闘を続ける必要は無いことは分かっているだろう。
それでもセシリアはラウラの直撃地点を注視するというポジションから外れようとしない。
何かを予感しているのだ。ISのハイパーセンサーでも感知し得ない攻撃とも取れない。
しかし確かな燻りを。
そしてそれは必ず燃え上がることを。
鍛え抜かれた生物の第六感は時としてコンピュータを遥かに超える判断能力を発揮する。
セシリアのISが急激に高まる熱源反応を電磁場によっての攻撃だと計算しアラームとしてセシリアに伝えるコンマ数秒も前にセシリアは最高出力のスターライトmkⅢを放っていた。
大口径レールガンと高出力のビームの直撃は相殺地点から広がり強力な電波障害を引き起こした。
復活した遮断シールドがアリーナ外への被害を抑えたがセシリアはそうはいかない。
先ずスラスターに異常が起こった。
これは冷静に緊急着陸を成功させたことで事なきを得たが問題は他にもあった。
「ブルー・ティアーズが…これは整備科送りですわね。」
脳波コントロール受信装置を潰され使い物にならなくなった4機全てのBT兵器を粒子化し状況を確認した。
相殺の影響でシールドエネルギーが軽微ながら減っている。BT兵器は使用不能。
スラスター含む複数の機能に異常発生。
残る武装は砲身が破損し鈍器としてしか使えないスターライトmkⅢとインターセプターそしてブルー・ティアーズ腰部に搭載されてあるミサイル砲2門。
煙が晴れた先に居たシュヴァルツェア・レーゲンはブルー・ティアーズ以上の被害だった。
堅牢なボディは所々欠け特大のレールガンは砲身が歪み使い物にならない。
シールドエネルギーもあと一発で全損というラインだろう。
しかしそれでも残った右手のプラズマ手刀を構えてセシリアを睨みつける。
ラウラがフッと笑った。
「まさかあの距離でのレールガンに反応し迎撃するとは思わなかった。あれで決めておきたかったんだがな。」
まいったなと自嘲気味に笑うラウラにセシリアも笑う。
「まさか列車砲があんなに速く撃てるなんて私も驚きましたわ。」
正直な感想を述べながらセシリアはシュヴァルツェア・レーゲンの大口径レールガン故障の原因が相殺によるものでは無くリミットを超えた無茶による自壊だと理解した。
ラウラは尚も笑みを絶やさずプラズマ手刀を構える。待ちの姿勢だ。
「悪いが脚にもきていてな、そちらから来てくれないか。」
「喜んで。」
ラウラにとっての攻撃手段はもう片方しかないプラズマ手刀しか残されておらず待っている以外の選択肢も無いのだ。
対してセシリアにはまだミサイル誘導式のブルー・ティアーズがある。
これを撃ち込めば今度こそ決着だが彼女はそんな事は望まない。
格上であるホークオルフェノクに挑むためかこの約10年の間に戦いに手段を選ぶ事は愚行だという価値観が根付いたがラウラとのこれは実戦では無い。
闘いには時として目的より過程が重視されるべきこともある。
ラウラの待ちにまだ隠された秘策がある事を理解しながらもセシリアは近接ナイフ『インターセプター』を展開。
それを半身に構えて残された最大出力でラウラに突撃をする。
ラウラには半身の影響でセシリアの体積は半分程の見えにくい物に見えた。
しかし向かっている事が解ればそれで充分。
込み上げる興奮を抑えて冷静に素早くラウラは向かって来るインターセプターの刃を集中した。
シュヴァルツェア・レーゲン最強武装。
AICを発動させた。
ピタッと。
「っ…!」
セシリアの顔に初めて動揺が走る。
(機体トラブル⁉︎いえもっと……っ慣性停止か)
発動したAICは左手に持つインターセプターを中心にセシリアの慣性を停止させるという力学に抗った超常現象を引き起こした。
ブルー・ティアーズの出力を最大にさせてもまるでぴくりともしない異常事態にセシリアはラウラの最後の一撃。
プラズマ手刀を前に回避が出来なかった。
ーーAIC
慣性を停止させるという力学に逆らう異常現象を引き起こす作動キーは操縦者の意志力だ。
ISの機械仕掛けの神秘を持ってして引き起こされる奇跡はしかしそれ相応の負担を操縦者に強いる。
ブルー・ティアーズに匹敵かそれ以上の脳負担をその特異な出生により実用段階にしたラウラの精神は傷ついた体と差し迫る活動限界時間への焦りから限られた中でも数多ある選択肢を選ばなかった。
ナイフという武器の代表格とも言えるもの。
刃物という武器の持つ目的を究極まで突き詰めたインターセプターはセシリアの姿勢もありその目的を隠そうとしていない。
ラウラの意識は自分に向けられるインターセプターの刃先を中心に見えている範囲をAICで止めた。
ーー
AICの効果範囲はラウラの意識に依存する。
あまり広過ぎても負担がかかるため対象物にキチンと絞った発動を心掛けている。
しかし今回の場合はダメージ、タイムリミット、ハッキリとした敵意が重なった事でラウラの集中力はもっとも危ないインターセプターに向けられてしまった。
そうインターセプターを持つ左半身に。
ラウラはそれを知る暇もなくプラズマ手刀を振りかぶり、
右腕部による殴打を無防備に受けた。
光とともにシールドエネルギーが弾け飛んだ。
ーーアリーナ内
「負けたか、」
ISを解除したラウラがアリーナの地面に大の字になりながら呟いた。
あの瞬間セシリアは動く右腕とその理由を瞬時に看破し足りないリーチを銃の役割をなさなくなったスターライトmkⅢで補いながらラウラの側頭部へ叩きつけた。
本当に僅かな差だった。
そしてそれが今の自分の限界だ。
ラウラはISを解除し自らの脚で歩み寄って来たセシリアを見上げて起き上がった。
微笑みが消えたセシリアが凄くレアなように思えて笑った。
「どうされた、オルコット候補生。君は私に勝ったんだぞ。そんな顔をされては虚しいじゃないか。」
「いえ、予想ではもっと快勝でしたわ。」
「むっ、それはまた随分傷つけてくれるな。」
「ああ、ごめんあそばせ。あなたを侮辱している訳ではありませんの。己の未熟さを悔いておりますの。」
おいおいと苦笑するラウラに慌ててセシリアが言い換える。
しかしそれをいや、と制すのはラウラだ。
「考えてみればそうだな。最初の奇襲、土煙に乗じたマッハの射撃、そしてAIC…全て真正面から叩き潰されたんだ。貴方ならそれが出来た。私が食い下がれたのは単に運だな。」
それがセシリアに対するラウラの評価。
自分が彼女にあそこまでやれたのはシュヴァルツェア・レーゲンの高スペック、そしてAICの存在と彼女自身が言う通り運が良い日だったというだけだ。
「それこそ私が未熟な証拠ですわ。3度とも一歩間違えれば勝ちを失っていた。運が良かったのは私の方。あなたと私の間に大差などありません。」
セシリアは心からそう思っている。
それでもラウラの憮然は動きはしなかったがここでそれを問答する気は無い。
どんな不満があろうと敗者である自分が開ける口など存在しない。
ラウラはセシリアに数歩歩み寄る。
「取り敢えず……良い訓練だった。協力に感謝する。」
差し出される手を取る。
「こちらこそ。」
こうして誰も居ない平穏の中このIS学園にて1つのランキングが変動した対決が終了した。
原作ではなかったラウラとセシリアの模擬戦。
勘違いされてしまった方に補足としてラウラは決して弱体化していません。寧ろ強さに原作ほど執着していないためその分戦闘の選択肢が豊富です。
※人気投票の開催。詳細は活動報告にて