IS:ボンド   作:田中ジョージア州

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今回は今まで登場に恵まれなかったキャラたちがメインです。
主人公組は1人も出ません。

少し前半と後半でノリというか雰囲気が違うのでご注意を。


26話 次の準備

冷たい廊下。

 

無機質に続く何で出来ているのか詳しくは知らないが以前試しに学園長に聞いてみたところ、質問の唐突さと内容の珍しさに首を傾げながらも学園のものと同じだと丁寧に教えて頂いた事があり千冬は背筋に悪寒、と呼べるほどでは無いがそれに分類されるだろうものを感じた。

 

これが学び舎のものか

 

未成年が使うこと。 そして教育機関、それも世界的な教育機関であるIS学園は校舎の外壁や装飾の隅々まで『健全』に気を配っている。

千冬も赴任して来た時はかつての自分の経験から学び舎に関すること。

そしてその中のいずれも比肩し得無いと解り自然と胸に込み上げる畏敬にも似た感動は今でも覚えている。

学園と同時進行で建設されたこの地下施設には校舎の象徴とも言っても良い白さは同じくその内壁に表れているがそこに暖かみなど存在しない。

機密の施設という目的が無機質と変わり千冬の心に無感動への変動を与える。

 

まるで壁が自分の体温を奪っているような感覚を味わい千冬は嫌いなところだと思いながらこのIS学園地下施設唯一の目的。それだけのためにある一室へと足を踏み入れた。

 

既に待機していた数人の男女が又もや無機質な顔で迎え入れた。

 

名前も無い秘密の場所。

 

名付けるとするならば『秘密の場所』

 

 

ーー

千冬が入ったと部屋に備え付けられたAIが反応し厳重な扉が閉まる。 プシュッと外気との遮断を表す空気の圧が千冬の背中を叩く。

 

ここは秘密を扱う場所。

 

備え付けの電算機とスパコンは決して外部には通じておらず海底ケーブルを伝い日本国政府とのパイプラインとして機能している。

最もコチラからも彼方からも勝手な通信は出来ないらしいと千冬は聞いている。

 

秘密を扱う以外は常に閉鎖されている金のかかった部屋に入るたびに千冬は情報とは金と同化なのだなと毎度思う。

 

そしてこの部屋に入る事、そして部屋の存在を知っている秘密の人達は今日は6人。

IS学園側から2人。

 

千冬と、千冬にはお馴染みとなった本学園の生徒会長 更式楯無。

何時もの飄々とした感じが更に強まりまるで掴み所の無さを体現させたかのような彼女は教師である千冬ですら全貌は知らない。

 

残る4人の内2人は日本国側。

 

職業も名前も分からない三十代の男性と二十代ほどの女性。

服装はバラバラ。

 

男性はそこらのフリーマーケットから適当に見繕ってきたような黒のTシャツに地味目なズボンで肌を隠し目深にキャップを被っている。

対して女性はワンピースを着込みその上にカーディガンを羽織っている。

スーツ姿と制服姿の2人と比べればカジュアルすぎるものだがそこに洒落の類いのものは感じられない。

 

裸ではマズイだろうから着ているだけとすら感じられるほどの自己へ対しての無関心さはこの部屋では一番合っていた。

 

最後の2人は自分は感知していない第三勢力からの若い女性。

 

度々この秘密の話し合いに参加する千冬ですら知らない外部からの協力者に千冬はこの部屋では珍しい興味を持ち2人を見た。

1人は金色の長髪に紅い目をした女性。

1人は薄茶色のミディアムカットに帽子を被った女性。

 

どこか知っている2人だが千冬の精神はそれ以上の詮索を何かからの力でブロックされたように感じた。

 

2人の姿ははっきりとこの目が認識しているのにまるで視神経がジャックされているかのようにそれを記憶できない。

目を外せばその瞬間彼女たちの顔を忘れてしまう。千冬は日本国以上に胡散臭く感じた。

まるで今時子供話にも使わない狐の妖術のようだ。

 

「魔法、だそうですわ。織斑先生。」

掴み所の無い笑みで楯無が横から入る。 どうやら彼女には情報が入っているようだ。

 

この部屋を知った時に更式楯無に対して幾つか要望をお偉いさんから頂いた。

 

学業以外の詮索は厳禁。 そして彼女の事は生徒では無く只の外部協力者として扱え。

それが千冬と楯無の暗黙の了解だった。

千冬は只目線だけを向けた。

 

「詳しい事は言えないので表だけ、私と同じ手段での外部協力者です。」

 

楯無と同じ。

つまりこの学園の生徒であると千冬は判断し心に一つ重いものを抱きながら女達を見た。

霞は取れない。

 

ミディアムカットの薄茶髪の女が喋った。

 

「お話するのは初めてですね織斑先生。3年1組のリニスです。」

 

告げられた情報の内容に目を見開く前にそれらは幻のように霧散してしまった。 魔法が千冬の記憶認識を防いだのだ。

仕方なく千冬は唯一残ったリニスという単語を心で反復した。

 

金髪の女が喋った。

 

「私は一回だけあるよね先生。アリシア・テスタロッサです。」

 

明朗快活が似合うコチラも本来の千冬にとっては目を見開く自体なのだが魔法がそれを阻む。

結果この場の千冬にとって2人は知っている筈だが身に覚えが全くない人物像として留まり、この部屋を出た直後にその曖昧な記憶も消し飛んでしまうだろう。

千冬はこの2人についての思考を一先ず置いて日本国側の2人を見た。

いつも話は日本からする。

 

「お集まりいただきましたね。私は(みず)これは(かべ)とお呼びください。」

 

女の方から無感動な声で自己紹介がなされる。

 

今日もへんな名前だと千冬は思った。

 

日本からの使者達はいつも同じ名前をしている。

 

水はそのまま話す。

 

「数ヶ月前に御校のアリーナを襲撃した生物と無人機について報告に上がりました。」

 

壁が動いた。

水の指示を待たずに秘密の部屋に備え付けのコンソールを慣れた手つきで操作する。 4人がその行動に目が向く中水だけがなにも反応しない。

まるで機械のように水と壁はそれぞれ行動する。

 

部屋の真ん中にあるテーブル式の映像モニタに幾つかの画像と資料が浮かび上がる。

水はその中の一つを拡大し全員に見せた。

 

「灰色の生物はこれまで世界各地で謎の磁場とともに目撃情報が相次いでいます。」

 

かつて束がスカリエッティ捜索の足がかりとした情報を日本も掴んでいた。

しかしコチラは写真付きだ。

かなり荒いが表皮の色と動物離れした見慣れないディティールは千冬の2度目の経験からしてもオルフェノクと一致していた。

 

「生態は人を襲う事、しかし捕食目的では無い可能性が高いのです。」

「目撃情報では彼らは人を襲う際必ず人間の心臓を攻撃し、その後人間の体は灰に似た微量の粒子に変換されます。」

 

これは千冬も知らない事だ。

 

巧に対しての非難の想いを隠しながら情報開示は進んでいく。 どれもこれも初めて知る情報だ。 この数ヶ月間学園側でも秘密裏に情報を集めていたがここは流石に規模が違うらしい。

しかしそんな日本でもどうしても分からないところがあるらしい。

水は変わらず無感動に告げた

「この生物たちの発生理由は不明です。」

 

恐らく日本にはオルフェノク達に殺された人間の情報しか掴めていないらしい。 それだけは巧から教えられていた。

千冬は少しの思案の内口を開く事を選択した。

秘密の場所で言えないようなら恐らく一生話せない。

 

「それについては匿名の申告がある。」

 

水のなにも映さない目が千冬を見る。

 

横の楯無が『興味津々』の扇子で口元を隠している。

ニヤケているのかムスッとしているのか分からない視線が刺さる。

 

リニスとアリシアは言わずもがな。

見ているとこちらまで霞に消えてしまいそうなので気にしないことにした。

 

「やつらの名はオルフェノク。 やつらが人間を襲うのは繁殖のためだ。」

 

「やつらは人間の心臓に直接作用するナニカを注入し成功すればその人間はオルフェノクになる。」

 

「灰になるのは負担に耐えられなかった場合だ。」

 

灰になった人間は死ぬ、とまで告げて水が声を上げた。

 

「織斑先生。どこでその情報を…」

 

やはり不味かったかと顰める。

しかしそれは以外なら形で停められる。

 

「水。」

 

男性独特の低い声は当然コンソールから目を離さずに発した壁のもの。

対して水も壁には一切目を向けず反応した。

 

「失礼、ルール違反でした。」

 

秘密の場所では無闇な詮索は禁止なのだ。

頭を下げる水はそれ以降口は開かなかった。

 

「いえ、名前は言えませんが確かな情報です。」

 

「分かりましたありがとうございます。」

 

今度答えたのは壁だった。

無言でコンソールから離れ代わりに水が背を向けコンソールへと移動した。

 

「今から私を水、これを壁とお呼びください。」

 

詮索禁止のルールを破るとどうなるのかと一度思ったが彼らの場合はこうなるらしい。

壁改め水は水改め壁と同じく無感動に千冬達に喋りかける。

 

「オルフェノクについてはこちらから知っている情報は以上です。皆さまはなにか……無いようですので次に移ります。」

 

水の指示ではない指示に壁が反応し一つの画像と資料を拡大させた。

水色の錠剤のような形をした機械が映る。

 

「同じく御校を襲った無人機体。こちらはこれが初出です。」

 

これには楯無が答えた。

『待ってました』の扇子通りかは不明だが少しウキウキしているように見える。

 

「これには学園側で一通り調べた後で本土の研究機関にて再び調べさせました。その結果現存するどの技術体系とも違う未知の動力源で動くことが分かったのです。」

 

壁が新たに資料を中心に画像を取り出す。 解剖したガジェットドローンの断面図だ。 楯無は畳んだ扇子で幾つかの部位を指す。

 

「恐らくここがコアでここから各部に動力が供給されるのでしょうが、その供給システムが現在のエネルギー理論では説明出来ないそうなのです。」

 

(先のオルフェノクや謎の無人機。 世界中から未来ある若者を集めるのがIS学園だがだからといって態々うちに来ることはないだろう…)

楯無の説明を受けながら千冬は毒づく。

 

(こいつらもなんでうちに来るんだ?何でこんな地下室作ってまでうちでやるんだ。お前らん家でやればいいじゃないか。)

水と壁にバレないように毒づく。

 

(魔法とかなんとか変なことばっか言いやがるし、巧くんは必要最低限の事しか喋らないし。)

 

(最初は束×なのはみたいにレギュラーメンバーになると思ってたのにいつのまにか立ち位置凰に取られるし。)

 

(あああっ一夏のメシが食べたい。)

 

無表情で器用に煩悩を抱く千冬に構わず注目のリニスへ楯無が切り込む。

 

「行き詰まっていたところをここのお二人が匿名メールとともにIS学園に情報提供してきたのです。 ここから先はリニスさんにお任せしてもよろしいかしら。」

「ええ、特に問題は。」

 

リニスは〜ありませんを途中で切り上げたような話し方でそれを肯定する。

 

「これはガジェットドローン。魔力をエネルギー源とする機械人形です。」

 

与太話。とは扱わない。 ここに居る以上そんな類の人間ではない事は全員分かっている。

 

「それの製作者はかつて私の雇い主へ技術提供を行っていました。

名はジェイル・スカリエッティ。

恐らくオルフェノク襲来も彼が一つ噛んでいるのでは。」

 

ジェイル・スカリエッティの単語を聞いた時千冬に数ヶ月ぶりの懐かしい感覚が蘇った。

 

かつて初めて巧を目にした時に感じた違和感。

 

美しい風景画に生じたシミのように本来なら居てはならない物を発見してしまったあの時のような。

それがこの世界全体へと規模が広がった。

スカリエッティなる者は巧となにか関係があるのかと千冬は思った。

 

「我々は独自にスカリエッティの調査を行っています。今はまだ結果は上がっていませんがそれはまた近いうちに。」

 

そう言うとリニスは口を閉ざした。

無理やり話題を切り上げられたような形となった一同は暫し言葉の隙を失い黙る。

そしてコンソールを操作する壁が画像や資料をしまいモニタの電源を落とした事で再び動き出す。

水の横に立つ壁。

次の瞬間2人は一糸乱れず頭を下げた。

「それではこれにて今回の会合は終了となります。」

秘密の話し合いはいつも水と壁が終わらせる。

 

 

ーー

秘密の場所からの帰還は実にアッサリとしている。

 

普通のドアから普通の廊下へと続きいつのまにか普通の校舎へと出るのだ。

 

「終わっちゃったね。」

 

景色の移り変わりを見ながらアリシアがリニスにそう声をかける。 認識阻害の魔法は未だ健在だがアリシアとリニス同士ならば支障は無い。

 

「あの部屋に入る手続きもそうでしたが一度知ってしまえば驚くほど簡単で淡白なものでした。身元確認すらしていませんし。」

 

「逆に不安だよね。」

 

プレシアを介して言われた通りに潜入した今回の秘密の場所はアリシアの言う通り一国と国際的な立場の学園が密かに情報交換をしあう場にはセキュリティ的にかなり不安を抱く程簡単なものであった。

 

「でも知らなければ絶対に分かんなかったと思うし篠ノ之博士だって政府のお偉いさんに教えられなかったら私達がこうして潜入することも出来なかったよね。」

 

アリシアはふと昨日の事を思い出した。

 

 

ーー

 

都心から離れた元は公園だったマンションの私有地。 束が巧との会談に使用した場所に今度はプレシアを含めたテスタロッサファミリーが一同に介している。

管理人室の決して広くはないスペースに窮屈そうな面々を見ながら普段着の束は同伴するクロエの出すお茶を啜り口を開いた。

 

「プレシアさん。」

 

名前呼びは大抵相手に気を許している場合だろうし束にもそれは違いない。

人付き合いに関しては気難しい束をここまで口説いた苦労を思い出しプレシアは湯呑みを傾け一息ついた。

 

「今度IS学園で開かれる日本政府との会合があるの。」

 

「私も一応そこへ招かれてるんだけど、代わりに行ってくれないかな。」

 

特に感慨の無い語調で言ってのけた内容の濃さにプレシアは思わず苦笑する。 彼女の横ではアリシアが退屈そうに寛いでいる。

 

「また唐突ね。とゆうか普通に居場所知られてるんじゃないかしらソレ。10年間逃亡してきたんじゃないの?」

「学生にそんなの無理に決まってんじゃん。大体費用とかどうすんのよ。」

 

当たり前だという風に返した束は再び茶を啜った。

束が言うには自分がスカリエッティ捜索のため世間から姿を消せたのも密かに政府の一部と繋がりがあったからなのだと言う。

 

「白騎士事件以降国内外問わず技術提供の依頼を受けて、勿論面倒くさいから全部無視してた。スカリエッティも探さなきゃいけないし。」

 

「でもいくら束さんが人類史に残る天才でもまだ14歳だったし色々と先立つものも必要だった。」

 

「そこに現れたのが当時の防衛庁の長官だったんだ。」

 

プレシアは黙って聞いている。 アリシアもさっきまでと違い興味津々とゆう感じで耳を傾けている。

 

「その時は私はISの開発者と共に白騎士事件の首謀者って一部の政府関係者からは見られてた。スカリエッティが裏にいることを知ってるか、感づいてる人は本当に少なかった。」

 

「その長官は少ない内の1人だった?」

 

プレシアの問いに頷きで答える。

 

「最初はいつも通りの技術提供で私に尋ねて来た。そん時はもう保護プログラムで家族とは離れてたから私はチョット荒れてて断ったんだけど。

そこでその話を切り出された。」

 

犯人を捕まえてたくはないか。それが長官の条件だった。

 

「長官は私のスカリエッティ捜索に日本政府からの援助を約束する代わりにISの技術提供を日本だけに協力することを要求した。」

 

「それを私は飲んだ。」

 

以来束は国内から姿を消し日本政府からの秘密の資金提供を受け拠点である島を建設。 その日から日本と束の秘密の関係は始まった。 防衛庁が省へと格上げされたのも束の協力による防衛力増強も一因らしい。

今言ったIS学園の秘密もその折に触れて知ったものだ。

 

「正直言ってその会合だけは行きたくないんだよねぇ。」

 

紫の髪をかきあげながら物臭そうに言う。

 

「実は昨日フランスに日帰りで行ってきてそっからも忙しくて今ホントに疲れてんの。」

 

そう言われて彼女の顔をよく見ると確かにどこかくたびれた印象を受けた。 しかし理由はそれだけでは無いらしい。

どこかバツの悪そうに視線をずらす束はそれにと続けた。

 

「同じく白騎士事件で世界初のIS操縦者のちーちゃんも一年くらい前からそこに出てるらしいんだけどね……会いたくないんだわ。」

 

今はちょっとねと締めた束はプレシアの初めて見る顔だった。

 

「実はちーちゃん一度オルフェノクに襲われたらしくてその時は乾くんが助けてくれたそうなんだけど。」

 

一息ほど開けてから話す。

「そん時のオルフェノクはどうやらスカリエッティとは関係ないはぐれのものだと思うから大丈夫だと思うけど、やっぱりこれ以上関わると危険かなって思うんだ。」

 

だから行きたくない。

束の初めて見る慈悲の表情はプレシアにある気持ちの変化をもたらした。

プレシアはふっと微笑んだ。

 

「分かったわ、せっかくIS学園に入学してるんだもの。リニス、頼んだわよ。」

 

「プレシアが自ら行けば良いのでは。」

 

不思議そうなリニスにプレシアはだってと続けた。

 

「IS学園に潜入している謎の組織の女スパイって感じの方が雰囲気出そうじゃない。」

 

「後々要らぬ誤解で面倒になりそうなだけとしか。」

 

怪訝な顔をされるもプレシアは止まらない。

 

「そうね折角の機会だしこの世界の皆さんにも魔法の事を知ってもらいましょう。リニス頼んだわよ。」

 

「嫌だっつってんだろ。」

 

プレシアのサムズアップを切って捨てる。

 

「お母さん私も行きたいー。秘密の場所行きたい。」

「よし、じゃあリニスに連れてってもらいなさい。」

「はーい。」

 

「はーいじゃねーよ。

連れてかねーよ。

つか行かねーよ。」

 

リニスのツッコミにプレシアは笑いながらしかし真面目に答える。

 

「でもねリニス。ガジェットドローンの残骸については十中八九向こうは解析し終わってもう既にそこの問題に当たっている筈よ。いつまでも隠し通せる事ではないしここは情報提供者として恩を売っといても良いんじゃないかしら。」

 

プレシアの思惑にリニスは面と向かって答えた。

 

「恩を売ってどうなるんですか。下手に魔法という未知の力をチラつかせてスカリエッティではなく日本政府に狙われる可能性も考慮して下さい。

それに政府ではなくとも会合はIS学園も関わっている。IS学園にはアリシアも通ってるんですよ。」

 

「それは。」

 

押し黙るプレシアにリニスは今度は頬杖をつく束に向かって言い放つ。

 

「大体嫌なら断れば良いだけの話じゃないですか。それとも出なかったら資金援助でも切られるんですか。良いじゃないですかもうスカリエッティの捜索は打ち切ったんでしょう?」

 

「別に打ち切った訳じゃないけど…」

 

噛み付くリニスに鬱陶しそうなため息をつきながらも問い詰めに答える。

 

「まあ、付き合いっていうか…色々と良くしてもらったし多少は顔立ててやりたいなぁって。」

 

「え、似合わな…」

「うるさい。」

プレシアをすかさず黙らせる。

とにかくとリニスは結論を出す。

 

「私は絶対反対です。少なくとも我々の安全が保障されない以上行きません。」

「あ、それなら多分大丈夫。」

頑なな姿勢を見せるリニスだが束がすかさずフォローを入れる。

 

一同が注目する中束は控えていたクロエに命じ彼女に誂えたらしい洋服を持って来させた。

 

「これはクーちゃんの外出用の服。アリシアちゃんは兎も角2人ならわかるんじゃない?」

 

プレシアとソッポを向くリニスはその服を言われた通り注視してみた。 大魔導師のプレシアとそのプレシアをして維持だけでも苦労と言わしめたかつての使い魔リニスにはそのワンピース風の洋服の異常が直ぐに看破出来た。

 

「認識阻害。」

 

この世界に来てから滅多に見ない以前までの常識にリニスが思わず驚く。 プレシアは早くもそれの正体が分かった。

 

「なのはちゃんのかけた物ね。注意しないと分からない辺り流石の腕だわ。」

 

感嘆すると同時に束の言わんとすることが分かった。

 

「ダメです。」

 

すかさずリニスが否定した。

 

「大方認識阻害の魔法で切り抜ければ良いと思ってるのでしょうけど無茶です。そもそも魔法とは万能の力では無いんです。」

先ほどよりも呆れたような風を受けるリニスはそのまま続けた。

 

「アルフのような変身能力なら兎も角飽くまで認識阻害は阻害までしか出来ないんです。肉体と外気の間に魔力で編んだ膜のようなものを…つまり光が濃い霧の中では少し見えにくくなるような程度で完璧では無いんです。」

「もし身元確認でもされたらお終いです。魔法は戸籍を改ざん出来たりしませんよ。

 

リニスの説明をふーんとあくまで人ごとのようなテンションで受ける束にリニスは青筋を立てそうになる。

 

「まあいいじゃないのよ。」

「プレシア!」

楽観的な返答しかしないかつての主人にリニスは非難の目を向けた。

 

「そりゃあ並みの魔導師ならそんな粗も出るでしょうけど私とあなたが協力して編んだ認識阻害なら先ず見破れないわ。そうねぇ、言語にも暗示をかけておいて記憶中枢に記録されないように障害を加えたりすれば完璧かしら。」

 

それくらい可能でしょうと微笑むプレシアにリニスはうっとなる。 魔法の完成度ではなく初志貫徹している参加するという決意に。

 

しかしリニスとて引く理由にはならない。

 

アリシアに危害が及ぶ可能性がある以上山猫から受け継いだ強い母性を持つリニスが案を飲む訳が無い。

プレシアもそれを知っているため表情こそにこやかだがこれ以上無理に勧める事は出来ない。

さらに束も先程はああ言ったが元々そこまで重要案件でもない。 イヤなら断るかと思い始めていた。

 

アリシアの場に似合わない元気な声は良く響いた。

 

「行こうよ。」

 

たった一言だけだが確かに場の空気が変わった。 リニスにとってはヤバイ方向へ。

 

「なにを言いだすんですかアリシア、お母さん許しません。」

「お母さん私なんだけど…でも本当に良いの?やっぱり危険なのは事実よ。」

 

プレシアも不思議がる即決ぶりにリニスは大いに慌てた。

 

対するアリシアは紅いまん丸な瞳をキュッと引き締めリニスを見た。 その表情にリニスの非難の感情が四散し代わりに瞬間的に渡来した感慨に近しいものを理解した。

 

かつて自分が消えてしまう少し前に一度だけ見た事がある。

 

教え子であり娘や妹同然に愛情を注いだ。

 

何度も自分との血筋の有無を望んだ。

 

あの時の小さい身体に溢れる強い力をかつての飼い主であり友人のアリシアに感じていた。

 

容姿以上に懐古を唆るその瞳にリニスは思わず笑うしかなかった。

 

「ずるいですよ。それ、」

 

あれを思い出してしまってはどうしようもない。

 

リニスは再度気を引き締めアリシアに向かい合う。 その身から漂うぴりりとした緊張にすこし身じろぎする。 しかしそのオーラが叱咤のものではない事は分かった。

 

リニスはかつての先生としてアリシアの目を見た。

 

「アリシア、本当に行きたいんですね。」

 

「うん。」

眼をずらさずに返答する。 それがワガママに対するせめてものお詫びだと思ったから。

 

「どうして? 教えてください。」

 

リニスも眼を外さない。

プレシアはそれを無言で見つめている。

束はプレシアより不真面目に、半身になり頬杖をついているが左目がキチンと2人を捉えクロエは直立不動でいつも通り束の横に控えていた。

 

少しの間も無くアリシアがキッパリと告げた。

 

「やりたいから、です!」

 

暫しの間の後世間的には無人の筈の公園の管理人室から女の楽しそうな笑い声が響いた。

 

 

ーーIS学園

アリシアはあの時の事を思い出していた。

 

同行の理由を言った直後。

リニスは少しキョトンとした後周りが驚くくらい大きく笑った。

 

人としては一番付き合いの長いプレシアですら眼を丸くしていた。

 

その後直ぐに目尻の水滴を指で拭いながらリニスはひーひーと息を鳴らしながらそれまでの頑なをひっくり返した。

 

「なんでなの?」

 

アリシアの歩きながらの問いにリニスは戻る寮を見ながら答えた。

 

「行きたいって言われたら断れないじゃない。」

 

「……」

 

横目で確認するが特に冗談を言っているわけではないらしい。

不満は残るが断れなかったからと断言されたら追及も使用がない。

 

「ふーん。」

 

丸い声が飛んだ。

 

 




前半は巧と一番親しいキャラ筆頭だったがいつのまにか作者が他のヒロインに目移りして捨てられた千冬姉。

序盤と中盤のストーリーで「シリアスもこなせるおふざけキャラ」として地の文とのメリハリにひと役買ってくれたけどその内自然消滅した会長。

そしてゲストキャラで重要な役割なのにほぼ形骸化したテスタロッサファミリーを今回一同に介しました。

水さんと壁さんは一応国籍は日本の人って以外は更式ですら全く分かりません。

とゆうか詮索を警告されます。

普段は2人ともどっかで生活している普通の人ですが秘密の場所では思想や感情を宿さない日本との仲介人として励むよう訓練されています。

因みに女性は独身のキャリアウーマンで隠れアイドルのおっかけが趣味。
男性の方は零細企業の経営者で特に金持ちなわけではないが性格が大らかなので独身貴族。

※人気投票の開催。詳細は活動報告にて
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