IS:ボンド   作:田中ジョージア州

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しょっく〜♪しょぉっくぅ〜♪


31話 ひずみは深まる

駅前。

行き先は一つ、小さな島。

駅の場所は海近くの端っこ。

島も駅がある場所も増設した埋め立て地。

 

交通の便、悪い。

名産品、ある訳ない。

 

しかし人は集まる。

 

みなIS学園というビッグブランド目当てである。

 

この一連の費用を全て支出した日本が観光都市として機能するように全国規模での物流、交通を発展させた事がやはり一番だがそれでも世界で唯一のインフィニット・ストラトス専門校の異名は伊達ではない。

 

ある意味世界ブランドであるISのお陰で一時期はIS学園から遠く離れた主要道路まで旅行者による渋滞が増えた程だ。

IS登場から10年経った今は落ち着いたがそれでも衰えない人気は平日でも賑わう人だかりがもっとも分かりやすい結果として示してくれる。

 

それが今日はどうした事か人っ子1人として居ない。

 

全て数十分の間に起こされた日本政府による交通規制だ。

原因は飲食店の火の不始末による火事か、地中を這うガス管が破裂したか。

はたまた埋め立て地の廃棄物達に妙な連帯感を感じたのかスペースデブリが地球を直撃したのか。

 

どちらにせよ平穏な日常から本土へ押し出された観光客や彼らを押し出すために大量に押し寄せた警官達も警察庁長官からの直々の命令で動いた県警も誰一人それが魔法という非日常的なものだとは知らない。

 

そしてそれを成す要因である5人は新たに現れた2人の少女に意識を移す。

セシリアはこれまでの学園生活で一度しか覗かせていない復讐者としてのセシリア・オルコットで巧に詰め寄った。

 

「話してもらいますわよ、巧くん。」

 

怒らせても怒らなそうな普段の慎ましやかさからは連想できない怖い顔に珍しく巧も狼狽えた。

 

同じくなのはも、こちらは唯一一度の機会に立ち会った経験もあり巧より行動を早く驚きから移行させた。

 

「セシリアちゃんに鈴ちゃん、大会は?」

 

セシリアの冷たい瞳がなのはを向いた。

スカイブルーの綺麗な瞳が今は深海のような暗いものになっているようになのはは感じ少し気圧された。

 

「そうよ!アンタ大会よ!」

 

漸く息と混乱を整えたらしい鈴音がセシリアの肩を後ろから掴む。

 

「もう決勝戦じゃない!直ぐに行かなきゃ、」

 

そのまま引っ張っていこうとするが体格的にそこまで大差のないセシリアはピクリとも動かない。

深い瞳が巧を見つめる。

 

巧もなのはも鈴音もみんな困っていた。

 

「ん〜〜」

 

鬱陶しいがこのまま黙っているのはもっと鬱陶しいという理由からあげられたメンドくさそうな声はうさ耳アリスのもの。

束は唯一セシリアの瞳に映る復讐の念を正しく受け止めそして物怖じしなかった。

とうとう力尽きたゴーレムの修理から外れ右手の工具をプラプラと弄りながらセシリアに歩を進める。

 

「束さん。」

 

すれ違うなのはや巧を手で制しながら場から一歩引かせる。

そして実質上場の主導権を奪った束は工具を肩にかけながらセシリアの前に立った。

 

「話しがしたいの?」

 

なんの躊躇いや戸惑いも無く束からの急な質問に頷くセシリア。

束はその判りやすさが気に入った。

くるりと工具を一回転させる。

 

「なんについて?」

 

セシリアはまたも判りやすく答えた。

 

「先程飛び去っていった翼を生やした灰色の怪物について。」

 

束はまた気に入りながら右手で工具を回転させる。

 

「今束さん達時間が無いんだよね、乾くんは今から私が預かるから。」

 

巧がさらりと自分の身柄が拘束されていることに気づき不満を抱くが今はセシリアの方が優先と束に喋らせる。

 

「ならば私も同行します。今すぐ話をさせていただきます。」

 

判りやすく強情を伝えるセシリアに束は少しの煩わしさを感じ、しかし直ぐに笑って流した。

同じ類の目的を志す者として惹かれたのかは束にしか分からない。

とにかく束はセシリアが気に入った。

 

しかし、と束は自身の好みに一旦冷静さを求めた。

 

流石に束も事態がそう易々と私情で進ませる事では無いことは理解している。

特にここを封鎖しただろう日本政府への対応が束の冷静さを戻させた。

流石にこれ以上勝手に進めるのはせめて正当な理由が無ければ躊躇われた。

 

せめて試験かなにか折り込んだ上で決めた方が良いだろう。

 

「じゃあさ、」

 

くるりと工具を上に放った。

なのはに言いようの無い寒気が走った。

束が落ちてきた工具を今度は左手で取った。

 

「これなんとかしたら考えたげる。」

 

セシリアの頭上に思い切り振り下ろした。

 

 

ーー

束はセシリアの覚悟を知った。

 

同じ復讐を心に決めた者同士それは間違いない。

しかし今からセシリアに自分達と関わらせることは彼女に危険が迫る可能性が高まる事を意味する。

 

覚悟があるだけでは認められない。

 

たとえ関わらずともIS学園に居る以上はそれもある程度どうしようもなく可能性としてはゼロでは無いしそれ以前に復讐を誓う彼女ならいずれ自分からその危険に飛び込んでいくだろうという事は明確だということは束にも分かった。

 

しかしそれでも束は箒や一夏と同年代の少女をその世界に踏み込ませるのに覚悟だけでは足りないと判断しセシリアを殴った。

 

 

工具は寸前で止めるつもりだったがその以前に対しては思い切りだった事に変わりはない。

ガジェットドローンの装甲を素手で破壊する腕力をセシリアの小顔に振り下ろした。

巧となのはがデバイスを仕舞ってから、その上一歩下がらせた状態での試験だ。

 

止められるのは自分とセシリアしかいない。

 

無論セシリアがそれを止めるだけの実力があれば要求はキチンと検討するつもりだったしもし出来なければ寸止め後に学園側に引き渡すつもりだ。

 

果たして束からの試験をセシリアは実に効率的にクリアした。

 

 

ーー

綺麗な指だと束は思った。

とてもあの人知外の生物とその身一つで張り合おうという人間のものとは思えない程細く長く健康的な二本の指が束の両目の視界のピントをボヤけさせていた。

 

「うん、考えてあげるよ。取り敢えず今日はみんな心配してるだろうから帰りなさい。」

 

セシリアが突き出した右手人差し指と中指が束の両目2ミリに止められている。 瞬間的に止めざるを得なかった工具はセシリアの頭上20センチ程で束の左手により制されていた。

 

目突きという束の振り下ろしよりも達成速度の高い手段で試験を攻略したセシリアは束からの報せをその耳で受け取りその手を下ろした。

束は今度は右手で自分より少し低いセシリアの頭を撫でた。

 

「いきなりゴメンね。」

 

一言謝罪し改めてセシリアの頭を撫でた。

セシリアは気にしてはいないらしく「いえ、」と断り一瞬束の背後に目を向けたかと思うとまるでそれが余計な迫害に繋がるかもしれないという風に束の手から身を引いた。

不思議に思う束がそれを確かめるより速く、

 

グイッ

 

「わっ」

 

束は両肩を掴まれ引っ張られた。

間一髪地面に叩きつけられるのを又もや襟首を掴まれていたことが束の体を上に運び掴んでいる本人であるなのはと少し退がって立つ巧の目の前に振り向かせた。

 

「…………怒ってる?」

 

無言で額に皺を作る巧と無表情ではいと返事をするなのはに流石の束も心からの苦笑いをした。

 

 

ーーアリーナ

混乱をどうにかアナウンスで収めた教師陣は今は居なくなったセシリアとついでに鈴音についての捜索を続けて居た。

監視カメラの映像からセシリアを探る教師陣に紛れ千冬は連絡を取ってきたラウラへ指示をとばしていた。

 

「今こっちでオルコットの事は探している。もし決勝戦までに見つからない場合は学園側の決定によりお前はそのまま出場してもらう事になった。」

 

セシリア発見が遅れた場合はラウラや対戦相手には待って貰わずに開催するという決定を伝える。

通信先のラウラはそれに特に質問も無く了解の意を示し少しの礼の後で通信を切った。

 

「いいんですかね、一人で戦わせちゃって。」

 

モニタに監視カメラの映像を写しながら真耶がそう尋ねる。

 

ラウラの実力は真耶も知っている。

それでも二体一の対決には思うところがあった。

千冬はそれに簡潔に答える。

 

「以前の襲撃の可能性を考慮してのタッグ戦だったがそれ以上に観客をアリーナへ拘束しておくことの方が問題ということで判断した結果だ。」

 

真耶はそれに押し負け代わりにモニタの中からセシリアを探し始めた。

そんな真耶の隠せない不満を千冬はしょうがないと許した。

当初の安全面から崩れた状態もそうだがかつてはスポーツマンシップの中世界の舞台で闘った千冬は不公平な条件に納得していなかった。

 

「オルコットは見つかったか。」

 

取り敢えず今はセシリア捜索が第一だと判断した千冬は各端末から捜索する教師達の報告を尋ねた。

意外と速く彼女は見つかった。

 

「南口でオルコット候補生と鳳候補生を確認。ここから先は映像が映りません。」

 

「駅か……私が向かいます。先生方は引き続きアリーナの管理をお願いします。」

 

報告から少し間を置いての判断内容は教師達に少々の疑問を抱かせるものだったが問題なく了承した教員達を後に千冬はやや早足で通路を進み駅へと向かう。

やがて間も無く千冬は駅に向かい走り出した。

 

 

ーーモノレール駅

 

正座させられた。

 

目の前には瞳にハイライトの入らないなのはが同じく正座して1メートル手前に鎮座している。

なぜなのはも正座するのかは分からないが目線が同じでダイレクトに威圧が伝わってきて中々の恐怖を束は味わう。

かといって耐えかねて目を逸らそうものなら、

 

 

 

 

スパーンっ!!

 

 

 

 

「いっっっ⁉︎」

 

横の巧が全身を使い効かせたしなりを思いっきり束の背中に打ち付け正す。

 

はっきり言って凄く痛い。

 

そんなこんなをもう五分続けている。

絵面的にはかなり地味で実際プレシアやリニスはガジェットドローンの残骸の上へ腰掛け、鈴音は駅近くの備え付けのベンチで猫のように日光浴をしている。

少し前まで居心地の悪さの張本人としてシリアスな雰囲気を醸していたセシリアでさえそんなのんびりした風景に溶け込んでいる。

 

しかしそんなのんびり空間を作り出していてもその実罰としてはかなりエゲツない部類に入るのだ。

 

ビンタと言えばすっかり日常レベルに落ち着くがしなりを効かせた一撃というのは中々に恐ろしい殺傷性を持つ。

 

古来から拷問として使われた鞭打ちは動物の皮から作った鞭だがこれで叩かれると人間の皮膚など周りの肉や神経ごと抉られる。 武器だからと言えばそうだが実際肉体へのダメージでは劣っても瞬間的な痛みでは殴るよりも平手の方が強い。

 

そのことから鞭打ちは大抵受刑者が痛みに耐えきれずショック死を起こし鞭打ちを言い渡される者は実質的な死刑執行と言えるだろう。

 

束が受けているこれも見方を変えればそれと同じだ。

 

武器は鞭ではなく巧の素手だが成人男性の体格をフルに回転させて得た遠心力を重さや距離を伸ばして最終的に手先の一点に集約させて打ち付けられる痛みは充分鞭に代打出来る。

流石に服こそ脱がされなかったが束の受ける痛さといえば背中で爆薬が破裂したかと思われる。

 

ならば、なのはを見ればいいじゃないかと言えばどうにもこうにも、中々怖くて直視出来ない。

 

百戦錬磨のなのはの眼光とくればそれは下手な猛獣よりもスリリングで生命の危機を感ずる迫力だ。

なにも言わない冷たい目を見つめていると自分の体温まで吸い取られてしまうような感覚に襲われ思わず目を離してしまう。

そしてまた

 

 

スパーンっ!!

 

「だあっ⁉︎…ちょ、まっ、まってまって!」

 

仰け反る束は遂に抗議を口にした。

 

「取り敢えず後にしよ、ね、ね。」

 

スパーンっ!!

 

「あっちぃ⁉︎ほら!周り見て、だーれもいない!これって多分日本政府が封鎖したんだって、」

 

スパーンっ!!

 

「だいぃ⁉︎早いとここっから離れた方が後々面倒にならないからさ!それにこんなことしてる間に人来たら、ほら!束さん一応手配中みたいなもんだしぃ。」

スパーンっ!!

 

「イッテェつってんだろお前ぇ⁉︎なんだゴラさっきから人の背中で良い音鳴らしやがってよぉ!」

 

何度目かの背筋ピーンの勢いに乗って立ち上がった束はそのまま巧に下からガンを飛ばす。 巧は特に気にした様子も無く空を見上げる。

 

「なに?おまえ、なにおまえ?なんか最近私に馴れ馴れしくない?もしかしてちょっと優しくして勘違いしちゃったのかな〜………無視かこらぁ」

 

巧は空を見上げる。

 

「おいいい加減にしろよてめぇ?勘違いしてるようだから言ってやるけどなぁ。束さんは別にお前に気ぃ許してる訳じゃねえからな?」

 

巧は空を見上げる。 流れる雲が楽しい。

 

「なんか言えやゴルァァ!!」

 

「あの雲 ユンピョウに似てね。」

 

「似てねえよ!どんな雲だよ⁉︎」

 

ギャーギャーと騒ぐ束を一旦巧に任せてなのはは一人佇むセシリアの隣に立つ。

 

「日差し高くなってきたね。中に入る?」

 

駅の方を指差し笑いかけるなのはにセシリアは無言で付き添う。

さきほどから何時ものお淑やかな笑みはスッカリ見て取れない。

思わず別人かもしれないと思った。 なのはも復習を誓った者は知っているためセシリアの目的について直接知らずとも何となく察せた。

なのはは敢えてそれには一切触れない事にした。

 

急を要する場合で無いのなら話したいときに話してくれれば良い。

 

それを考慮しながら駅の中でなのははセシリアに何気ないを心がける事にした。

 

「もう一回聞くけど大会はどうしたの?」

 

セシリアは少し喉を鳴らすと答えた。

 

「準決勝の終わりに抜け出して参りました。」

 

「えっと、それ不味くないの?」

 

「決勝まではISのメンテナンスを入れてももう間に合いませんわね。」

 

当然のように言うセシリアを見てなのはは嫌でもホークオルフェノクへの復讐心が思い当たる。

 

「ラウラちゃんに悪いよ。」

 

一旦セシリアではなくラウラを関連づけて話すなのは。

セシリアもそのことは負い目に感じているのか先程よりは感情の起伏が感じられた。

 

「それについては悪いことをしたと思っています。」

 

一言だけだが誠意は嘘ではないと感じた。

それだけ聞いてなのははそっかと頷く。

 

「ごめんね。」

 

急に謝るなのはにセシリアは直ぐには理由を見つけられずにいた。

しかしそれが束の事だと分かると直ぐにいえ、と首を振った。

 

「無理を言ったのは私の方です。色々と問題があるのでしょう?」

 

「まあ、ね。なんかいつのまにか国家レベルの話になってて……(あれ?でも元々白騎士事件とか世界規模の大問題だし、私って凄いのに関わってるんだなぁ。)」

 

分かって踏み込んだ事案だったがいざ冷静になってみるとそれでも圧倒されるボリュームだ。 心の中で飲み込みながら続ける。

 

「でもあれはいけないことだから、」

 

束が殴りかかった瞬間が本当に肝が冷えた。

暴力を嫌うなのはは例えなのは自身が理屈で納得しようとソレを嫌う。

あののんびりした風景だが執行中は終始内心穏やかでは無かった。

 

「でも嫌いにならないであげてね?」

 

なのはは改めて怒りから呆れに収まった事で生じた束へのフォローをした。

 

「あれでもあの人なりにセシリアちゃんのことは気遣ってるんだ。」

「他の大人と比べたら確かに怖いこともあるけどちゃんと子供には優しいからさ。」

 

先のシャルロットの身内問題の解決といいなのははソレを束の優しさだと思っている。

本人は特に否定も肯定もしないだろう。 恐らくそんな事考えてすらいないのだ。

それでもセシリアに嫌いになってほしく無いくらいには束の優しさを人に分かって欲しかった。

チラリと束の方を見る。

 

「アギャァァ⁉︎え、何これ。これ関節どっち向いてんの?あ、ちょっいだい!いだい!いだいぃ⁉︎」

 

悲鳴をあげる束が駅にまで聞こえてくる。

 

「……ほら、あれだって巧君が未成年だから手加減してるんだよ。」

 

それと巧はもう少し手加減すべきだと思った。

 

「……」

 

この関節技には引いたのかセシリアは黙る。

 

「あ、の〜……」

 

「ぬるいですわね。」

 

「え?」

 

なにが?と直ぐ聞くにはやっと見せた『らしい』感情だった。

 

「あれでは左腕しかきまっていませんし自重もかけ切れてませんわ。あの無駄な左手をこう回すだけでも取り敢えず両腕は封じれます。」

 

あ、そっち?となるなのは。 当初抱いたセシリアの冷たいイメージが氷解していく。

 

「なのはさんの言う通りですわ。篠ノ之博士が手加減していらしているから反撃を貰わずにいるのです。いざとなれば使えませんわね。」

 

「う、うん、だね。」

 

伝えたい事とは少し違ったがその代わりに知れた何時ものユーモアの存在がそれも良いかと安心させる。

自然とのんびりとしていくなのはの気がかりの中束の悲鳴が更に助長させていく。

 

「だから本当に早くこっから離れないとぉ!」

 

 

ーー

 

 

 

「オルコット!」

 

のんびりした雰囲気に不似合いな鬼気迫る声。

 

駅の曲がり角から顔を出した織斑千冬の呼び声がセシリアと共になのはの耳にも入り。

 

「あ、やば…」

 

瞬間的に自分達の今置かれた状況を理解させ慌てさせた。

 

束の暴挙にその罰にセシリアのアフターケアに追われ間抜けな空気に流されみんなぼんやりしていた。

襲撃というこれまでの緊張状態から一気に解き放たれるような事態の後で今まで張り詰めた糸が緩んでしまったのかも知れないがどちらにせよなのは達は束の言う通り一刻も早くこの場から立ち去るべきだったのは確かだった。

 

仕事に関してはキッチリしているタイプのなのはが珍しくオロオロする中千冬はツカツカとセシリアに歩み寄る。

 

当然その目には行方不明のはずの篠ノ之束やまだ残るガジェットドローンの残骸も映っている。

 

そしてセシリアの前まで来た千冬は、しかし直ぐに歩の方向を束に向けた。

 

「待っていろ。」

 

セシリアに対しそう言った千冬は巧に関節技をかけられながらも表情を固める束の目の前に立ち、

 

「ちーちゃん…」

 

見るからに気まずそうにする束を見ながら首を振る。

ガジェットドローンを見ているのは明らかであった。

そして巧に向き直り。

 

「かけかたが甘い。この手はこう回す方が良い。」

 

「イッてぇぇぇぇ⁉︎」

 

悲鳴が無人の街に響いた。

 

そしてひとしきり束を苛めた千冬はパッと巧から解放してやった。

ドサリと力を感じさせず倒れこむ束を見下ろす。

千冬の呟きは巧だけが聞いた。

 

 

「どうすればいいんだ」

 

巧が初めてみる弱気な彼女だった。

 

 

ーー

再び正座をしている束。

千冬からの有無を言わさず求められた「全てについての」説明を一同を代表して行うこととなったのだ。

なのは達も束の後ろに並びそれを見る千冬は鋭い目付きで言った。

 

「分かった、全てを話す代わりにその場を設けるのはお前たち。その要求は飲む。」

 

それは束が最後まで食い下がった提案だった。

 

これ以上この封鎖された駅にいる事は日本政府という束の感知しない勢力と関わったまま話をすることになる。

支援を受けているとはいえ束は日本政府に全幅の信頼を持ってはいない。

出来る限りスカリエッティに、ひいては白騎士事件に関することは自分の手の届く範囲で済ませたかった。

千冬もその譲れない気持ちが分かったのかため息一つし想像以上の引き際の良さで束たちを解放して締めくくった。

 

「私も正直今回ばかりは情報量が多すぎた。不確定要素を扱うにはもう少し時間と準備が必要だ。」

 

なのははそれにふうっと溜飲が下がるのを感じた。

なのはも安易に進めるべき事案では無いと思っていたため千冬の判断は助かった。

一息ついたのは巧も同じだが彼の場合は一先ず一日にする厄介事がこれ以上増えなくて済むところにホッとしたらしい。

千冬はそこまでして初めてセシリアとついでに隣の鈴音を向いた。

 

「オルコット。お前がしたのは単なる規律違反では無い。沢山の人に迷惑と心配をかける規律違反だ。」

 

「それから鳳も、友人を連れ戻しに行く事自体は悪いとは言わないが、それでも勝手に校内を出た規律違反に変わりはない。」

 

「はい。」

「…すいません。」

 

頭を下げるセシリアと鈴音。

鈴音の方は少し不服ながらも罪悪感はあるのかバツの悪そうな顔でセシリアも落ち着いてはいるが誠意は伝わると少なくとも千冬にはそう感じられた。

 

2人を叱った後それから目線はもう2人にも向いた。

 

「お前たちもだぞ。」

 

巧となのは。

因みにリニスはいつのまにか千冬が来る前にかけていた認識阻害の術でプレシアとともに1人だけ少し離れた場所でちゃっかりやり過ごしている。

 

取り敢えず千冬はこれ以上混乱の要素は起こさないためにこの2人に関しては公に問題にはしないと約束し改めて学園に戻ることを指示した。

 

「束。私の番号は変わってないからな。」

 

去り際の一言に束は一瞬表情を強張らせたのちなのはにも珍しい優しい笑みをした。

 

「うん、じゃあね。」

 

「ああ、近いうちな。」

 

短い会話でもそれに受けた印象は普段の教師の姿しか見ないなのはとセシリアと鈴音には珍しく感じた。

 

 

「いいわねぇ、若いって。ねえリニス。」

 

「はいはい。というかこれからどうやって戻りましょう私。」

 

「少し時間ズラして学園に戻るしかないわね。」

 

「それしかないか…まったく。誰かさんが苦戦してなきゃこんな面倒なことにならなかったのに、」

 

「リニス?」

 

「大魔導士(笑)」

 

「リニス!」

 

立場的にバレたくないリニスとプレシアが少し離れた位置から覗いていた。

 

 

ーーおまけーー

千冬達が去ったあと。

認識阻害を発動しながら猫モードMAXで音も立てずに密かに後ろをついて行くリニスを見送りながら束にプレシアが声をかけた。

 

「それにしても束ちゃん怒らないのね。」

 

「なにに?」

 

何時もの気に入ったもの以外に見せるなにに対しても怪訝そうな目は少し疲れていた。

 

「あんなに早く帰るべきだって言ってたのに織斑先生に見つかっちゃった時のこと。なのはちゃんと巧くんが原因なのに怒らなかったわね。」

 

それ以前のセシリアへの行為はプレシアも難色気味だが実際問題としてなのはと巧の絡みが無ければあの失態は起きなかった。

 

それに対して束はいつもの様にめんどくさそうに答えた。

 

「まあ、あの2人の気持ちが分からなかった訳じゃないよ。」

 

セシリアに対しては束も良い行動では無かったと思っているらしく素直だった。

束は続ける。

 

「それになのはちゃんも乾くんもまだ子供だしね、それに束さんみたく天才じゃないし間違いくらいするでしょ。」

 

「子供の失敗くらいなら私も怒らないよ。」

 

プレシアは少し目を丸くしそれから嬉しそうに微笑んだ。

 

「あら、意外と大人なのね?」

 

一瞬皮肉っぽく聞こえた言葉に束はイラついたが直ぐに笑った。

 

 

 

「あなたはもうちょっと大人になってほしいな。なにそのエロい服?年考えたら。」

 

「えー。そんなに酷い?」

「かなり」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーおまけーー

 

学園へのモノレール乗り場を進む一同。

例のごとく駅員は事情を知らず、スカリエッティやオルフェノクについてそれなりに知っている千冬はなんとなくそれを追求せず4人を駅員に尋ねられた通りに学外活動の帰りだと言った。

 

その気遣いに4人は感謝しながらふと千冬の携帯になった着信に意識が移る。

4人に対し少し待てと言い僅かに離れた場所で千冬は携帯に出た。

 

「ああ、山田先生か。ええ、2人をこれから学園に連れ戻す予定です。 はい、そうですか、やはり決勝は間に合いませんでしたか。」

 

ラウラはどうやらセシリアの居ない中戦うことになったらしい。

セシリアのスッカリ復讐者としての顔が鳴りを潜め戻った年頃の表情に罪悪感が見て取れた。

それに胸を撫で下ろす3人に

 

急に千冬の声のトーンが落ちた。

 

「なに……分かりました直ぐに向かいます。」

 

不安を向ける4人の雰囲気を感じたか直ぐに携帯を切った千冬がその真剣な顔を向けた。

巧は厄介ごとがまだあることを悟った。

 

「決勝にてボーデヴィッヒのISが謎の暴走状態となり暴れ出した。」

 

伝えられたのはよりにもよって友人の名前。

一同の緊張も高まる。

千冬は急いでいるらしく少し気遣いがある程度の早口で告げた。

 

「ボーデヴィッヒは現在通信が取れない状態で対戦相手の織斑、更式簪と交戦中だ。」

 

さらに背筋を凍らせる名前の後に彼女たちの足は弾かれたようにアリーナへと向かっていた。

 

 




シリアスとコメディが変なバランスでかなり無理矢理な展開になってしまいました。

前回のセシリアの登場と例の説明会イベントのフラグ発生の処理を自然に済まそうとしたらこうなっちゃいました。

ワンサマーと簪はいつのまにか決勝まで勝ち進んでました。
次回はラウラ戦を描きます。

※人気投票の開催。詳細は活動報告にて
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