みんな知ってるぅ?この作品の主役って一夏なんだよ?
「ええーしょうなのー?」
一夏「(´;ω;`)」
全面的にヤバいと思っていた開催の2週間前。
俺は簪さんというパートナーを得てなんとか大会への参加条件を満たす事に成功した。
書類を教務に提出していったときは正直恥ずかしかった。
俺がパートナーを連れて来たのを見つけた職員の女性のあの見るからに感激だという安堵の顔ときたら、
「織斑君できた⁉︎」
「ち、違いますよ!」
一瞬「彼女できた」と勘違いして出た言葉に目に見えてガッカリする職員さんの姿に俺はそこでやっと彼女が待ちに待っていたのは学年別トーナメントが近づき生徒がドンドンペアを決めていく時にいつまでも書類を出さない俺に対してのものだった事を知った。
まずいとなって早速訂正しようとするがその前に横の簪さんが手に持つ書類を窓口に置いた。
「あ、なんだタッグ申請できてるんじゃん。よかったー。」
口を開ける余裕もなく職員さんはケロッとして早速事務的な手続きを手元でする。
あまりの変わりようになんか居た堪れない気持ちになって来た。
勘違いした俺と書類遅延してた俺が悪いんだけどさ、とにかく居た堪れないのでなんとか場の空気に入れてもらえるように俺は声を出した。
「いやぁ、だって「できた⁉︎」なんて言われるもんだから」
声のトーンは朗らかに努めるお陰で職員さんは書類から目を離して「え?なに?」という感じで見上げてくる。
よし、ここらで一気に引き込もう。
「てっきり……なんでもないです。」
なんで止めたのかは俺も詳しく説明出来ない。 ただなんか本能的にこれ以上先を話すと突然横から薙刀で斬られる気がした。 なんで薙刀なのかは俺にも分からない。
「? そう。」
結局このギクシャクした居心地の悪さは職員さんが書類の登録に意外と時間をかけて割と長く続いた。
でもこれでSHRの織斑先生のあの睨みから解放されると思うとそれでも嬉しかった。
なにより簪さんから声をかけてくれたのが嬉しい。
心がぴょんぴょんするまではいかないがそれでもあの日曜日の簪さんが自分から声をかけたてくれたという事は凄いことなんじゃないだろうか?
するとどうやらそんな今のところ本人は言いづらい内容の所為か自然とチラついていたらしい視線に簪さんが反応を示した。
振り向いた紅い目は少し鬱陶しそう。
慌てて目をそらす俺を簪さんは何も言わずにいてくれた。
逸らした先の表情がどうなっていたのかはちょっと考えたくない。
「うん、はい。終わりました。」
職員さんの登録はじきに終わった。
ーー
今日は特訓だい!
簪さんがアリーナの使用許可を貰っておいたから今日やろうと誘ってくれた。
意外と積極的な人なんだなと思いながらも断る理由なんて全くない。
むしろタッグ結成時からチームワーク的な、意思の疎通的な意味で不安があったからこういう手の早い所に勝ちへの信念が感じられて好意的に思った。
先にアリーナで待っているらしい簪さんを待たせないように急いでISスーツに着替える。
相変わらず着にくいピッチリスーツだなぁ、
そういえばこれって女子は由緒正しい旧スク水仕様なんだよな……
「エロいな。」
警戒心0の状態で言ってから気付いて辺りを見回す。
幸い誰もいないみたいで俺のもし聞かれたら居場所的にかなり問題のある独白はただの男子高校生の健全な独り言に終わる。
アリーナでそのエロい格好で待っていた簪さんはその行動力の速さからは意外に専用機の展開はしていなかった。
別段本人はそのつもりはないんだろうが俺にはそれまでの性急さからその姿にのんびり感を思った。
「あれ、展開とかしないのか?」
なんとなしに気になりすぎて出た俺の発言に簪さんは今からすると言わんばかりに指輪を見せた。
なんだ?と思ったが見ると特徴的な形をしている。 どうやらそれが待機状態になった簪さんの専用機、打鉄弐式らしい。
「まず私たちがすべき事はお互いの力量把握。ISの展開速度は最も分かりやすい。」
指輪が光った。
「うおっまぶしっ」となるがそれは一瞬だけ。
次の瞬間には打鉄弐式を纏った簪さんを見上げていた。
重装甲で鎧武者が連想された元の打鉄よりもプレートとか装飾が簡略化されているせいか身軽さを感じる。
元からそういう作りなのかそれとも簪さんの独自の一味なのかは昨日出来たばかりの関係ではまだそこまでの情報はない。
「はやいな…」
しかし確かなのは簪さんの展開スピードは今の俺以上だという事だ。
楯無さんの訓練のお陰で基礎を叩き込まれこれまでの数ヶ月の自主トレと代表候補生達との模擬戦の機会に恵まれ自分で言うのもなんだが正直「それなり」になったと思っていた。
「やっぱりこいつらって凄いんだな」
無表情の簪さんは俺の眼差しに含まれた感動には気づいていないみたいだ。
自分の展開の速さなんてまだまだだとでも言うようでその姿がそのまま自分にも当てはまる事を俺に分からせた。
「どうしたの?」
茫然の俺に漸く構ってくれた……っと、いかんいかん。
いつの間にか卑屈になってるぞ一夏。
バッカヤロウ、こんなところで一々怖気付いてちゃみんなを護るなんていつになるやら。
俺のこの決意は迷惑かけた千冬姉に対してが始まりだ。
千冬姉を護るんだったらもっと堂々と進めよってんだ。
「大丈夫だ。今展開する。」
ここへは訓練しに来てるんだ。 先ずは展開しないと話にならない。
楯無さんはISを展開させるのに裏技は存在しないと言った。
強く具体的なイメージを抱く以外の方法は無い。
そしてそれには才能以上に意識が重要だと。
ISに対する慣れが強い人程、つまりより多くISに触れ合っている人程展開のスピードが早いんだと。
山田先生は最初の授業の時に「ISは道具では無くパートナー」だと教えてくれた。
俺は今までの白式との経験で培ったコイツへの親しさに似た。 今までストーブとかテレビとか、今まで機械に抱いた事のない親しさで持って白式を意識した。
そして相棒が煌めいた。
白式を展開する時は何時も高揚感のような安心感のような心地よさを感じる。
力の高ぶりと共に沸き起こる白式との同調への昂りが身体を装甲という形で纏っていく。
まるで白式と一つになっていくようなそんな感覚が装着と共に短くなっていく展開スピードの中でも毎回俺のモチベーションを上げてくれる。
「どうかな、簪さん。」
一番最近の練習相手であるセシリアからは褒められた展開だけど……簪さんは少し顔を動かす。 眼鏡がキラリと光って瞳が隠れた。
「さあ、人のをまじまじと見た事はないし。いいんじゃないの?」
「そっか、」
アッサリしてるなー。
結構緊張したんだけど、
アッサリした簪さんはそのまま武器である薙刀を構えて開始の準備を俺に迫った。
しゃーない、本番はこっちなんだからこっちに集中!
雪片を展開し中段に構える。
剣道で習った一番隙が少ない構えだ。
少し待ってからしかしやはり俺はそのままの体制でスラスターを吹かせた。
これまでの特訓でなんとかISの利点で姿勢は一切ぶらさずに俺は簪さんに向かってそのまま突きを放った。
練習は俺が負けた。
ーー
簪さんはどうやらシャル以上にチーム戦に向いているらしいと今までやっていたシャルとの特訓で気付いた。
なんだか波長がシャル以上に合わせやすいのだ。
もちろん、と言ってはなんだが親しみやすさから言えば断然シャルの方が上だし訓練でも息の合った動きが出来ていた。
でもそれでもシャルは他人だ。
勘で動く俺と理詰めで戦うシャルとでは対照的だ。 無論シャルもそんな俺に絶妙に舵を取ってくれるのだが簪さんはそれがシャル以上に凄い。
自由に動く俺の動きを常に把握して最小限の位置取りで俺と簪さんをチームにしている。
これは訓練というより天性のものらしい。
偶然見学に来ていたセシリアからそんな評価をかけられた時は珍しく照れる簪さんの横で構わず関心した程だ。
そしてもっと頑張らねばと思った。
ーー
その日は簪さんに屋上に呼び出された。
なんだろうと脳内で無表情で俺の不甲斐なさへ苦言を漏らす簪さんが浮かび若干恐怖しながらも実際の簪さんはやっぱり苦言を漏らした。
「あなたは下手に考えてもポンコツになるだけ。フォローは私に任せて頑張って。」
どうやらセシリアに褒められた内容に触発されどうにか俺も戦闘の最中に常に周りを把握して簪さんの負担を減らせないか思い、結果的に日々の訓練でガッチガチに固まった動きになっていく俺が見ていられなかったらしい。
ポンコツ発言にナイーブな俺の心は少しの損傷を負ったが最後の頑張って発言はすっごい元気を貰えた。
やっぱり美少女からだからだろう。
思い切ってその趣旨を伝えてみたらソッポを向かれてしまった。
「変なこと言わないで。」
ごめんちゃい。
ーー
とうとう迎えた大会直前だが俺の心は緊張しながらも軽い。
あれから思い切ってそれからの訓練はわざと何も考えずに用意された的を雪片、アリーナから借りた訓練機の銃、又は体当たりとかその時考えついた通りの無茶苦茶な機動で壊してみた。
それらに簪さんは全て的確に援護を入れ的を壊した。
大会前2週間のペアだが俺たちのチームワークは結構自信があった。
それは当日のアリーナへの道すがらに偶然通りかかった千冬姉がさりげなく俺に振った言葉で更にほぐれていた。
「マシにはなってきた。あとは更識妹に任せて勝手にやれ。」
教師として中立な立場を護る為か俺の問いかけには何も答えずそのまま一度も会っていないがブリュンヒルデの言葉は俺に程よい緊張感を与えてくれた。
更衣室で着替えた俺を既に着替えた簪さんが出迎えた。
いつも通りの冷静さが安心する。
ちょっと情けなくは有るけどやっぱりリードされているのは俺みたいだ。
「ねえ、」
なんとなしの言葉に自分でも困惑した。
「なに?」
先行してアリーナへ向かう簪さんが振り返りその紅い目が見える。
「ねえ、簪さん。」
「なに?一夏くん。」
名前呼びになってもこのどこか他人に対するような距離感はあんまり変わらないが簪さんは俺のなんとなしに付き合ってくれた。
「勝てる?俺。」
子供っぽくて情けないとは思ったし第一チーム戦だろ、独りよがりが過ぎんぞ俺氏よ。
「相手の情報は今回特に仕入れていないから確率的には言えないしこの場合は俺たちだと思う。」
分かってるがいざ問題地点へ突っ込まれると顔が赤くなりそうになる。
簪さんは関心の無い無表情で言った。
「頑張ろう。わたしも頑張る。」
そう言って簪さんは再び先行してピットへ向かった。
頑張ろう。
ーー
セシリアつえええええええ
控え室のモニターの前で思わず叫びたくなる俺は隣の簪さんを見て取り敢えず落ち着く。
簪さんはあのシャルと鈴とのすごバトルの中でも携帯端末でアニメを流していた。
新たな一面もそれはそれで構わないんだが視聴するならせめてイヤホンくらいは付けて欲しい。
結局試合中はチラチラと気が入って殆どあの2人の対策に集中出来なかった。 まあ見たとしてもなにも浮かんでこなかったんだけど。
「簪さんどう?」
「7話はやはり神回。」
「アニメじゃなくて。」
「一夏くんはオルコットさんとは一度対戦したからそっちをお願い。」
なんだかんだ言ってもちゃんと考えていたらしい簪さんは俺に指示を飛ばす。
そうだ、もう次の決勝戦で当たりなんだ。 今更悩んでもどうしようない。
俺たちだってここまで勝ち進んできた自負はある。
俺に出来ることはもう殆どやった!
残りはアリーナに立つことだけだ。
ーー
「という事でボーデヴィッヒさんは単独での参加となりそうです。」
所定のピットで待っていた山田先生からの報せはマイナスのものだった。
どうやらセシリアはまだ帰ってきていないみたいだ。
以前は冗談で自分で言っていたがあの優等生のセシリアがなんであんな事をしたのか皆目見当が付かない。
予定された開始時刻まではそう余裕は無い。
「取り敢えず今織斑先生が探しに行っています。でも正直間に合うかどうかは……」
困る山田先生だが遂に選手の入場を指示するアナウンスが流れた。 少し慌てながら山田先生は最後に言った。
「兎に角2人とも決勝戦に集中して下さい。」
それだけ言って山田先生はどこかへ走って行ってしまった。
確か教師たちは大きな管理室みたいなところでアリーナの様子を監視しているらしいと箒が言っていた。
なんだか気が削がれてしまった。
「行くよ。」
打鉄弐式を展開した簪さんに戸惑いはない。 寧ろ純粋にチャンスだと思っているのかも知れない。
俺は返事を返し白式を展開する。
いつもより憂鬱な気持ちが湧いてきた。
並んだ俺を見て簪さんは先行して飛び出し俺も後へと続く。
後ろ髪を引かれるとはこの事を言うのかも知れない。
出来るならセシリアが来るまで駄々をこねてやりたかったがそれは他の人の迷惑になる。 シャルの説得の時みたいに我儘が言えるような場面でも無い。
釈然とはしないが俺は我慢してアリーナの所定の位置に着いた。 もう何試合もしたから体が覚えている。 スムーズな動きが今回ばかりは誇らしくも無い。
向こうのピットを向くのは少しの不安がいったが俯いてばかりなのには嫌悪感が強かった。
バッと向こうを見た。
見た。
「箒?」
打鉄を纏った箒がボーデヴィッヒさんの隣に居た。
近接ブレードを携えた箒の姿は以前機会があって見た自分の白式を展開し雪片を構えた姿よりも相応しく思った。
首をかしげる少し前の簪さんの姿が視界に入る。 彼女も混乱しているみたいだ。
アリーナの遮断シールドは少し防音効果みたいなものがあるがそれも役に立たないくらい客席の困惑が360度伝わってくる。
オープンチャネルが入った。
ボーデヴィッヒさんだった。
ーーアリーナ 会場
困惑の声が更なる驚愕の声に打ち消される。
アリゲーターオルフェノク襲撃時の阿鼻叫喚とは種類の違う異常時の声は透明な壁を挟んで内と外から聞こえてくる。
内の1人が喋った。 困惑とはつかない冷静な声色だった。
「五分ほど前に教師と最終確認中の私の元に彼女がやってきてな。」
普段から変わらぬ事務的な報告のようにラウラは語る。
「オルコット候補生の代わりを務めると申し出た。」
思いもよらぬ新入りの加入理由はラウラにとっても突然で思いもよらぬ物であった。
ピットにてコントロールルームとの中継役の教師とその場で最後までセシリアの情報を聴きそして間に合わない事を悟ったラウラが諦めてレーゲンの最終チェックに入ろうとした時に箒が走りこんできたのだ。
面を食らいながらも直ぐに追い出そうとする教師に抵抗しながら箒は空いたラウラのパートナーへと手を挙げた。
勿論決勝戦の舞台で分かるように箒は既に負けこの大会の参加権を持たない。 それは二回戦で相手をしたラウラ自身が分かっている。
パートナーをセシリアに沈められた箒にトドメを刺したのは自分なのだから。
だから申し出た内容への困惑も一入である。
正直通るとは思えなかったが教師側も出来る事なら正当な形で参加させたいという気持ちが優ったのだろう。
敗者であり正式なパートナーでは無い箒を特別にラウラとのタッグとして決勝戦へと参加させることを認めると中継役の教師に言われた時は驚き、そして少しの喜ばしさもあった。 正確に言い表す程の大きさでも無いが教師の好意と箒の行動が好ましかった。
そして今こうして一夏達の前に彼女はペアとしているのだ。
会場では漸く放送アナウンスで事の経緯を大まかに知らせている。
一夏はいち早く伝えられた内容に驚いている。
しかし直ぐに何時もの人なつこい笑みを浮かべ
「そうか。」
と言った。
簪は呆れながらもそれでもあった二対一への罪悪感にほっとした。
場内アナウンスを通して試合開始の合図が鳴った。
ピカッ!
開幕。閃光はラウラのレールガン。
一度は破壊された大砲もスッカリ本調子に戻り一夏と簪の中ほどを寸断した。
「向こうを!」
サイドに避難する一夏にダッシュしながら箒へと告げる。 箒はセシリアとは違い何も言わずに理想的な行動を出来たりはしない。
箒は頷き少し遅れてから簪へとブレードで切りかかった。 スラスターを全開に元の重厚な打鉄の装甲を盾に打鉄弐式の春雷から放たれる荷電粒子砲を流しながら突撃する。
ISで一番有名な武装、荷電粒子砲は連射式でも充分な威力を持つが防御だけならレーゲンにも比肩する打鉄は破損したそばから装甲は修復され簪へと突っ込む。
簪は伸ばした機動力を生かし春雷を箒に放ちながら一夏を見やる。
ラウラのプラズマ手刀に手を焼いている様子に顔をしかめつつもう一度箒を見る。
動力までは規定の物である弐式は打鉄との距離を開けない。
箒は近接ブレード『葵』を片手に新たに展開したアサルトライフル『焔備』を簪へ掃射する。
刀に比べて訓練が足りて無いのか殆どが弐式の機動力の前にそもそも外れていたがその分防御が低い弐式には当たれば効果的だった。 寧ろ軌道が滅茶苦茶な分対処しづらい。
迎え撃つか。
超振動を携えた巨大サイズの薙刀『夢現』を構えながら簪はハイパーセンサーで一夏を見る。
近接ブレードである雪片でそれよりリーチの短い二つのプラズマ手刀を弾く一夏は何とか追随するラウラへ懐へのストッパーをかけることが出来ていた。
元より練度の差が大きい以上これが単純に格闘戦だったり銃撃戦なら一夏に為すすべなど無かっただろうが今彼の手には幼い頃だが毎日欠かさず振った竹刀によく似た雪片。
そしてその相手もまた刃物。
毛色が少し違うが慣れた闘い方に一夏の経験値はラウラのソレになんとか拮抗していた。
超近接で激戦を繰り広げながらだとさしものラウラもAICを発動させる事は出来ない。
一夏も勘で確信しているのか押されながらも前に出ようと雪片を振りラウラを逃さずにいた。
あの分なら大丈夫そうだと判断した簪はそれでも手早く一対二の状況にしようと夢現を携え追いついた箒へ振り下ろした。
金属音が鳴り響く。
一夏以上の使い手である箒は訓練機のスペックと練度の差がありながらもシチュエーションによりなんとか簪に食らいつく。
しかしと、
簪が急激に下移動をした。
地面の上で飛べない者通しの闘いしか知らない箒は股の下を潜り背後を取るという慣れない戦法に面を食らうも葵を振る。
それでも簪にとっては流れを少しでも手繰れれば良いのだ。
機動性に優れた弐式が後ろから体勢の崩れた箒を突き立てる。
捌きながらも撃ち漏らした刺突がシールドエネルギーを減らす。
閃光が瞬いた。
「っ……ふうっ。」
息を吐いた箒の耳に終了を告げる打鉄の電子音声が聞こえる。
速射で高威力の荷電粒子砲を撃つ春雷を装甲の無いところに成すすべなく叩き込まれた打鉄はシールドエネルギーを一気に減らした。
アナウンスが箒の退場を伝える。
簪が一瞥し一夏とラウラの方へスラスターを吹かせた。 1人となった箒は事前の指示通り自力でピットに戻り打鉄を解除させた。
待っていた教師に待機状態の打鉄を渡した。
教師が去った後暗い屋根の下で観客からも隠れたところから箒は3人の様子を見つめた。
「、ぬん!」
アナウンスで反応したラウラがハイパーセンサーで横合いから一撃を狙う簪に気づき咄嗟に前へとジェットを吹かせる。
出力の高いレーゲンに居を突かれた一夏は押される。 バランスを崩した所でラウラは自身の行き先を天へと向けた。
上空に退避したラウラはそのまま間髪入れずにワイヤーブレードを六本全て射出。
4本を簪に向け残り2本は自分の周りで待機させると肩のレールガンで一夏を狙撃した。
一番大きな音が鳴った。
土煙を高々と舞い上がるさっきまで自分がいた所に目を向ける暇もなく一夏は上空の一点を見つめ大きさの割に連射の効くレールガンにヒヤヒヤした。
「一夏君!」
簪からのチャネルを聞いた一夏は飛び回りながら簪を探した。
本数の数だけ別れて攻撃してくるワイヤーブレードを春雷の連射と夢現を使い逃れる簪は一夏の位置をしっかりと見つけていた。
「タイミングを待って、言ったら突っ込んで。」
指示の内容は単純で分かりやすいものが良い。
近接ブレードしか持たない白式が一旦距離を置いたシュヴァルツェア・レーゲンに勝ち目があるとすれば自分からの援護が無ければ可能性は低い。
その為にもまずこのワイヤーブレードから逃れ余裕を取らなければならない。 この状況でもラウラへ狙撃する程度のことは可能だがそれで捕まってしまい戦線から離脱してはもう一度同じ事態になっても一夏1人では対処出来ない。
簪は小さい先端の脳波受信機を壊したり夢現でワイヤーの方から切断したりして本数を減らし余裕を生み出そうとする。
補欠だった2本のワイヤーブレードも撃ち落とし残り3本まで本数を減らした簪は自主開発のなかでもっとも難航した最終兵器を解放した。
空中に六機の巨大な筒が現れる。
無論ただの筒ではない。
各8門。
合計48発のミサイルポッドをそれぞれ稼働させて敵に打ち出す打鉄弐式の最大火力武装『山嵐』にラウラの顔が歪む。
レールガンの目標を簪にすげ替えワイヤーブレードを急行させる。
「今っ!!」
ロケットに連想される噴射音とともに48発の誘導弾がラウラに向かって放たれた。
同時にレールガンの一撃が打鉄弐式の肩を直撃した。
迫り来るミサイル群は全てラウラにロックオンされている。
しかしラウラに焦るそぶりは無い。
ワイヤーブレードを戻しながらその途中で何発かのミサイルを貫き落とす。
それでも足りない分は、
空間自体にAICをかけ作った即席の盾が全てうち漏らさず防御した。
誘導式とはいえ一方向からしか来ない山嵐を防ぐのは容易だ。
大火力のミサイル群をなんとか耐えながらも踏みとどまるラウラを一夏は逃さなかった。
零落白夜を展開させた一夏は未だ慣れない瞬時加速でラウラに突撃する。
「チッ…!」
完全に簪の術中に嵌ったラウラは未だ止まらぬ爆発に意識を向けながらもなんとか鋼の集中力で白式の来る左方向へと装甲を集めた。
雪片弐型の零落白夜がシュヴァルツェア・レーゲンの絶対防御に直接作用しシールドエネルギーを減らす。
すれ違いざまに切りつけた一夏はそのままの勢いで離脱する。
背後で爆発が起こった。
解除されたAICにより留めを失った山嵐がラウラへ襲いかかったのだ。
火炎をバックに不安となった一夏はハイパーセンサーでラウラを確認するが炎の熱が影響して全く確認できない。
「大丈夫?」
打鉄弐式のシールドエネルギーは残り2割程度だった。
「ああ、ありがとう。」
急襲の機会を与えてくれた簪へ一夏がチャネルではなく直接伝える。
簪は眼鏡の煌めきで隠れた瞳を細めながら軽く返答した。
緊張を持続させる言葉だった。
「アナウンスがならない……まだだよ。」
参加するISのシールドエネルギーを常に把握しているコントロールルームからの指示が無い。
一夏は薄れてきた炎へ振り向いた。
シールドエネルギーを更に減らしたシュヴァルツェア・レーゲンはそれでも健在だった。
ラウラが笑う。
「強いな、君は。」
一夏に向けた言葉だった。
「いや、簪さんのおかげだよ。俺なんか全然だ。」
返す一夏に首を振っていいやと言った。
「それも含めて強い。織斑一夏、お前は強い。」
笑うラウラは好戦的とは無関係で実に嬉しそうだった。
調子を狂わされながら照れ臭くなった一夏が頭を掻こうと白式の爪に気づいて思いとどまる。
簪は夢現を構えて一夏の数メートル後ろに佇む。
再度の気恥ずかしさを抑え一夏は白式のシールドエネルギーを一瞥した。
燃費の最悪な白式のシールドエネルギーは残り6割程度であった。
一夏は再度零落白夜を解放した。
「簪さん頼んだ!」
気合いの掛け声のすぐ後に再び一夏は瞬時加速を使用した。
ーー
清らかな想いだ。
ラウラの一夏への嫌悪感は少しを残して無くなっていた。 弱さに対する憎悪は一夏には特に厳重に許されない。 それでもラウラは一夏を許し始めていた。
実力的にはまだまだ低い。
この大会の専用機持ち達の中でも最も弱いだろう。
さっきの攻撃も簪の援護が無ければ成立しなかった。
ラウラが求めるのは個体としての強さだ。 チームワークとして発揮される強さなど非常時には役に立たないという信念からだ。
そんな価値観を一夏はこの数週間の間に書き換えていた。
簪の人となりと一夏との関係は仲の良いラウラも知るところだ。
それでも簪が一夏と組みそして相手の持ち味を生かせる闘い方をさせることが出来たのもその相手である一夏が持つナニかなのだろう。
強さとも違う魅力にラウラは惹かれていた。
「私も強くなりたい」
あんな風な強さなんて今まで考えたこともなかった。
セシリアですら持たない別のジャンル。 自分に無いものにラウラは一瞬目移りした。
出来ることならあんな風になってみたい。
そんな考えは物凄く純粋で
ラウラに呼びかけた声は濁っていた。
その声はラウラに強さを渇望するかと聞いた。
「そうだな、あんな強さなら私も手に入れたいな。」
ラウラはそれをかつての一夏を嫌っていた自分だと思い肯定した。 この声は今までの自分から抜け出す儀式のように感じた。
ラウラの体を黒いモノが包んだ。
ーー
急に泥のような液体がシュヴァルツェア・レーゲンから溢れ出て来た。
驚く一夏の前でラウラも同じく困惑しながらも泥は容赦なくラウラを飲み込んだ。
呆気に取られ声も出せなかった。
「一夏君退がって。」
簪が一夏の前で夢現を構える。
厳しい表情で泥を睨む簪の前で泥は更に生きているように形を変えた。
一夏は今度こそ声を漏らした。
「暮桜」
かつてモンド・グロッソを勝ち進んだ初代ブリュンヒルデの駆る翼であった。
案外アッサリとしたVTシステムの発動描写になりましたが新鮮でしたでしょうか?
描写にヤル気が足んねーぞという方には申し訳ありません。
今回はバトルシーンに入ると一気に影が薄くなるワンサマーに主人公してもらいました。
モッピーは現時点では近接戦しか出来ない戦法のお陰でワンサマーより強いです。
それでも相手からすればやっぱりスペック的に白式の方が手強いといった感じです。
簪とシャルロットとの力量差は殆どありません。
シャルロットと組んでいても一夏はVTシステムを発動させていました。
次回はラウラの救出です。
果たして主人公組は間に合うのか⁉︎
※人気投票の開催。詳細は活動報告にて