IS:ボンド   作:田中ジョージア州

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少し間を開けてしまいすみません。

久しぶりですけどまたもや本編とは関係の薄い準備回です。



34話 事後処理

再び。

 

2度目。

 

あって良い筈のない再度の()()の事態。

千冬はいつも通りの職員室でいつも通りの作業に違和感を覚えていた。

 

「なぜなにも言われない」

 

それは日本政府に対してもIS学園に対してもドイツやイギリスなどのあの時あの場で不測の事態を目撃又は知っている全ての人間に対しての違和感であった。

 

今振り返ってもややこしい事になっていたと思った。

 

楯無経由での日本政府のモノレール駅封鎖の情報から繋がるセシリアの暴走。

すぐ様不味いとし教員では唯一事情を知る千冬が回収に走った。

久し振りの本当の全力疾走の末に見つけた先には楯無からの情報には無かった『封鎖の理由達』。

巧はともかくとしてなのはや束を目にした千冬の呆気に取られた顔とくればとてもでは無いがあの場が無人で本当に良かったと千冬が日本政府に内心で感謝をする程普段の彼女からは考えられない間の抜けたものであった。

それと同時に納得し何となくだが想像した事の成り行きに1人頷き近づいた。

久し振りの親友は何故か巧にやられていたが中学の頃となにも変わらなかった。

やっと出会えた疑惑の親友に取り敢えずカオスな空間に影響されたか自然とこれまでの鬱憤を叩きつけてやる事を選んだ千冬は一頻り巧の手足を借りてのサブミッション指導で痛めつけてやった。

 

呆気に取られる巧にしてみれば自分は本当に混乱物の展開だったろうが混乱しているのは自分も同じと言う事で見逃してもらい好き勝手に暴れ場の主導権を奪った千冬はその甲斐あってそれまでのカオスな停滞を終わらせる事に成功。

セシリアとついでになのは達を回収し束にこれまでの説明をつけさせる事を約束させ帰還。

その後のゴタゴタを終え何とか次の日である今日。

千冬はそんな違和感を抱えながら仕事をしていた。

 

手を進めるたびにまるで埃のように沸き上がってくる何とも言えない嫌悪の感情。

特定された誰かに対してのものではなく巧やスカリエッティに感じるこの世界との違和感。

今までは人物という固定されたものに出会わなければ感じなかったその違和感が今は辺り中からビシビシと伝わってくる。

まるで目に見えない違和感の正体がこの世界の空気と同化しているように千冬の身体に纏わり付いてくる。

そのまま千冬すら飲み込もうとしているように感じながらも千冬はそれを抑えて仕事に専念していた。

 

今日は立て続けの問題で生徒たちには休講が言い渡されている。

しかし教員達には関係ない。

むしろそれまで以上に事後処理の作業が過密で千冬は暫くこの違和感の不快さを忘れて作業をした。

 

人間慣れが重要だ。

 

連絡先が限られた私物の携帯が鳴った。

届いたメールを開いた千冬は一言速いなと口にした。

 

 

ーー学生寮

 

一夏の部屋。

それと同時にシャルロットの部屋でシャルロットは一人きりでベッドに寝転がっている。

一夏はついさっき出かけると言って外へ出て行ったっきりだった。

 

金のかかった部屋の空間がそのまま気密性を持って1人だけという現状をより強くしているとシャルロットは感じた。 壁一つ隔てた向こうにいる筈のお隣さんの存在を感じながらもシャルロットは孤独に似た微量な我儘に感じる感慨深さを楽しんでいた。

 

まるでデュノア社のようだ。

 

あの時もシャルロットは豪華絢爛な部屋で生活をしていた。

シャルロットの存在は一部の者以外極秘だったがその部屋の場所は会社の一室だったので勿論日々の停滞の中で人の気配を感じたしそれを見つけることがいつしか楽しみだった。

しかし事情を知らない社員達にシャルロットは一切知覚されない。

防音壁の直ぐ数メートル下に確かに感じる人間の気配を察知しながらシャルロットは自分がまるでこの壁一つ隔てて、向こうの世界とは別の場所の住人かも知れないと感じ始めた。

 

それは長い停滞で麻痺した感覚だと分かってはいたがその後遺症のようなものが今ベットの上で寮の気配を感じるシャルロットの達観した感情を産んでいた。

 

少し前までは一夏の存在が孤独な別世界の感覚を薄れさせていてそれをシャルロット自身も心から喜んでいた。

一夏が居なくなり1人部屋となった中で改めて再発した感情は既にシャルロットの心底まで根深く張っていた。

恐らくこの奇妙な趣味が自分から消えることはないだろうと受け入れながらもシャルロットは不意に立ち上がり窓を開けた。

冷房の効いた部屋に生暖かい夏の空気が入り込んでくるがそれでも外の世界に触れて居たかった。

 

再びベッドに転がるシャルロットは回想する事で普通に勤めようとした。

思い出しているのはパートナーの鈴音が出て行った後。

教師の指示で控え室で大人しく待っていた時のこと。

恩人の1人がラウラ相手に健闘し追い込む所に一喜一憂していた時である。

突如モニタ越しで変化するラウラの姿に鳴り響く避難指示。

相部屋の同じ境遇の参加券を失った選手たちと共に慌てながらも外に出て途中の人の波に躊躇いながらもあれよあれよと流されながらアリーナの外で待機していた教員数名に誘導された。

その途中何度も友人の方向を向いていたが流れには逆らえずどんどん小さくなるアリーナを見つめながらシャルロット達は海の近くの広場でクラスごとに集められた。

まだ穴が目立つ一年一組の中で一夏の分のスペースを見ながらシャルロットは事態の収束を願っていた。

 

そして無事決着した安心感を翌日の今日噛み締めながらシャルロットの精神は今は少し嫌な懐かしさに囚われていた。

 

VIP。

IS学園にその日訪れていた世界中からの来賓。

その情報は生徒にもある程度開示される。

無論公のものではないが視察の情報事態には然程重要度は無いのか手段次第では生徒の立場でもVIPの情報を手に入れることが出来るのだ。

そうしてシャルロットが直接護衛に当たる教師を探し当てそれとなく聞いて手に入れた情報。

流石に大雑把なものしか教えてはくれなかったがそこにシャルロットの懐かしさを触発するワードが入っていた。

 

デュノア社の社長が来るらしい。

 

一言だけのそれは当時のシャルロットにとっては衝撃としか言えないものであった。

父アルベールの件は束によって解決しデュノア社は今元の経営不振の状態へと戻っている筈だった。

そんな渦中にわざわざその当の本人が正に問題のIS学園に足を運ぶなんて。 シャルロットは驚き実は今になっても一夏や鈴音達にも言っていない。

 

アリーナで試合をする度に硬質ガラス越しのVIP席を覗いた。

その結果幸いアルベールの姿は居なかった。

 

どうやら教員の勘違いかなにかだったらしい。

 

思えば護衛に当たる教員もあくまで部屋の外周辺で各国の護衛達と紛れて警戒するだけでVIPの人間については特に知らないと言っていたなと思ったシャルロットはこの話題をそう切り捨てた。

 

停滞した感覚から抜け出し一時は不安と恐怖を抱いたが今では消化不良になったものの過去の出来事として処理していた。

シャルロットは誰もいない部屋で気配を感じていた。

 

 

ーーIS学園

 

頼み込んでは見るものだと一夏は思った。

休講にはなっても外出禁止になった訳ではなくたまたま出会った真耶に心配のラウラに会いたいという意図を伝えると真耶は想像していたよりもアッサリとそれを了承してくれた。

途中で仕事があるらしく別れた真耶の「静かに」の忠告に気をつけながら医務室への廊下を進む一夏はあれからラウラに会っていない。

気を失ったラウラはすぐに教員部隊に連れていかれそれから一夏達も千冬の指示でほかの生徒と同じく広場に連れていかれそして今日こうして会いに行っているのだ。

 

道を上靴の噛みしめる音が響く。

休講の事態に本来ならばイレギュラーな聴き慣れた音がなんだか一夏には謎の高揚感を抱かせる。

自分の足からイレギュラーが鳴っている事へちょっと楽しくなってきた一夏はようやく着いたラウラの居る医務室に少し真面目な顔になる。

 

外見上では損傷は無かったようだが一夏はあれからラウラについての報告を聞いていない。

戸惑いながらもスライド式のドアを開ける。

放っておいても自動で閉まるように作られた重さと抵抗感がそのまま一夏を躊躇わせる恐怖だった。

 

そして開けた先の驚きの感情から見えない絶望のモノを見て一夏は一安心した。

 

 

「織斑くん」

 

まさかといった表情を見せるラウラは思わず千冬からの命令(本人にそのつもりはない)を破って起き上がる。

 

良かった。 元気らしい。

 

「えっと、来ちゃった?」

 

「そうか。」

 

しかし直ぐに無表情に戻り歓迎ムードでは無い雰囲気で一夏を迎えた。

返事の来ないだろうを悟り部屋に備え付けの余った椅子を引っ張り出して自分も座る。

ベッドの直ぐ隣の位置は特に考えて設定したわけでは無いがラウラの顔が近くで見たかった。

ベッドに腰掛ける小柄なラウラは長身な一夏と丁度同じ高さの目線になる。

沈黙は一夏も予想していたが事務的なラウラは気まずさの耐性にめっぽう強く意外なほどアッサリと2人の会話は盛り上がった。

 

「休校なのでは無かったのか?」

 

「そんなに厳しくはないんだよ。山田先生に頼んだら結構簡単に入れてくれた。」

 

最初の緊張が薄れた一夏はいつのまにか心配の念から訪ねて来たことも忘れラウラとの会話を楽しんだ。

笑いかける一夏にラウラは相変わらずの仏頂面だったが彼女自身の絶妙な態度に不快な馴れ馴れしさは無い。

円熟した人間のように一夏と同年代トークを進める。

 

「試合、またやろうな。」

 

一夏が決意を持った目で言った。

 

一夏はあの試合の決着に満足していなかった。

全てを出し尽くしたとは思っている。 死力を尽くして自分を叩きつけたし仲間との搦め手は王道ではなくとも卑怯では無かった。 ラウラ・ボーデヴィッヒという強者に対して自分がしてきた事は決して後悔などしていないし気持ちのいいものであった。

 

それでも決着がないと締まらない。

 

しかし一夏の独白にラウラは冷めた返事を返した。

 

「きみの勝ちだ。再戦の余地はない。」

 

無表情でもフレンドリーで懐が広いラウラの感じでテッキリ了承してくれると思っていた一夏は言葉に詰まった。

ラウラは事務的に言う。

 

「試合だから最後まで挑もうとしたがあの展開で私に勝ち目は無かった。」

 

実戦では思考の余地なく撤退。 むしろ何故それ以前に逃げなかったのかというレベルの敗北予感。

ラウラは頑なに譲らなかった。

あの試合は決した。

そして勝負のついた試合に再戦の価値は無いとラウラは言った。

 

「でもそれじゃ」

 

後味が悪いよと言おうとして一夏が止まった。

それは自分の主観だ。

怪我をしているラウラに無理強いをしているようで躊躇われた。

黙る一夏はしかし少し後に口を開いた。

 

「じゃあシングルやろうぜ。」

 

「なに。」

 

聞き返すラウラに一夏は笑いかけた。

 

「アレはタッグマッチだったろ。今度はシングルでやろうよ。」

 

暫しの間。

やがてラウラが言った。

 

「分かった。」

 

感慨の無い台詞と声。

しかし一夏は嬉しくて笑った。

いつしか病人だからと気遣っていた抑えた声も次第に大きくなりすっかり普段のテンションに戻っていた。

 

「織斑くん。」

 

そんな一夏を無言で見つめていたラウラは思い出したように切り出した。

ずっと無表情の姿を見てきて慣れたせいからか一夏にはその時のラウラの表情がさっきまでとは違っていた感じがした。

ラウラは無表情で言った。

 

「一夏と呼んでいいか。」

 

「え?」

 

予想だにしなかったとは正にこの事。

普段から、そして今も寡黙な軍人ポジションでいるラウラを知っている。

親しくても常に一歩引いた位置の彼女は最近になって急に仲良くなってきたと思っていたがそれでも急すぎる要望に一夏は少し目を点にさせる。

 

でもそれは直ぐ。

 

人懐っこい笑みをたたえて一夏はラウラの肩を叩いた。

不意な行動に驚くラウラだが一夏にとっては弾や数馬によくする友愛の精神だ。

寡黙なラウラは箒以上にこういう扱いが似合っていた。

 

「いいぜ。じゃあ俺もラウラでいいか?」

 

「構わん。」

 

体格差があるため肩に手を回す一夏にぐわんぐわんと揺らされながらもラウラは悪い気はしなかった。

 

 

ーー吾輩は猫であるー名前はまだない

 

もう慣れた徹夜の作業で会合場所の用意とこれまでの情報のまとめを終えた束は今しがた千冬から送られてきた了承のメールを閉じ一息ついた。

今回は特に疲れた。

開かれたままになっているモニターは暗い室内を目が悪くなりそうな照明で照らす。

束はそんな不健康な生活に構うことはせずにモニターも消さずに椅子に深く座り込んでそのまま寝た。

完全に熟睡した主人を起こさないようにクロエが散らかった部屋を片付ける。

そしてスパコンの画面だけを消して一礼してから部屋から出ていった。

 

 

ーー

 

 

3人がいる。

 

相変わらずの殺風景さは逆にこの煌びやかな街並みからその空間を目立たせていた。

一番高いビルに設けられた部屋に一つのテーブルを挟んで3人が向かい合う。

スカリエッティが口を開いた。

 

「大分馴染んだんじゃないかね。」

 

スカリエッティの言葉にはまるで子供のような待ち切れないものに対しての感覚を抱かせた。

異世界人ではないスコールはそれに無言で笑みを浮かべて答え代わりに村上が上品な声で答えた。

 

「先日の作戦でもその結果は出ています。三世界同士のズレにこの世界が対応してきている。」

 

村上は確信を持って答える。

確信を持った調子で村上は言った。

 

「今まではこの世界の許容量を気にし、先の襲撃以来の介入は出来ませんでしたが今回はオルフェノクやガジェットドローンの他に結界という魔法までも使用出来た。」

 

 

「でもそれって認識阻害の結界があったからじゃありませんこと。」

 

艶のある声でスコールが尋ねた。

現場に居たスコールからしてみれば世界が壊れなかったのはこの世界の住民の認識が結界により妨げられたからだと思っていた。

 

「それに篠ノ之束を除けば私たちを認識出来たのは全員あなた方の世界の住人だわ。まだこの世界があなたたちの存在を許容し切れていない可能性がある以上、あなたたち2人がこのビルの外に出るのを認める訳にはいきませんわね。」

 

妖艶な調子で敵意を向けるスコールはしかし直ぐにスカリエッティの笑い声により中断される。

笑う姿はスコールを馬鹿にするものではない。

ただ自分のためだけを考えた種類のものでありどちらにせよスコールには耳障りなものであった。

スカリエッティは笑いながら言った。

 

「まだまだ原理を理解し切れていないようだね。スコール。

いいかい?60億居ようが70億居ようが人が世界の認識を決めるのではない。人はあくまで流動する物語に流される登場人物に過ぎないからね。」

 

生徒に諭すようにスカリエッティは話す。

 

「分岐点を作りそこから無数の枝分かれを作っていくのは他ならぬ改変され歪んでいくこの世界自身なんだよ。」

 

「そしてその世界で我々イレギュラーが介入する方法は簡単だ。ただそこに居れば良いのだ。」

 

「イレギュラーはただ存在しているだけで世界を蝕み改変を与えていく。認識阻害の結界だろうとそこに存在しているだけでこの世界はどんどん歪み形を変えていくのさ。」

 

笑うスカリエッティにスコールは冷たい目線を向けながらもその真意はもっと別の所から来ていると感じていた。

それに気づいているのかは知らぬがスカリエッティが初めてスコールから目を逸らした。

 

「それに外に出るなという事なら既に私は10年前に篠ノ之束に会っているし村上君もつい昨日この世界に認識されたよ。」

 

隠れていた苛立ちの理由が現れた事にスコールは感づいた。

 

「どういう事かしら。」

 

疑惑を突かれた村上は呆気ないほど素直に答えた。

 

「貴方が近藤さんと連れ立って彼等と交戦をしている間に私は私でIS学園に介入していたんですよ。」

 

驚くスコールに村上は直ぐに弁明をした。

村上が言うには介入の理由は勝手なものではなく正史に関わる事だという。

 

「あの時織斑千冬はアリーナを離れる可能性が有った。そしてそれは後の織斑一夏に影響を与えるイレギュラーになり得た。」

 

黙って続きを聞くスコールは聞き覚えのあるワードを聞いた。

 

「VTシステム?」

 

「ええ、それの解除は織斑一夏によってでなくてはならなかったのです。」

 

頷く村上は千冬が消えたことで生まれた一夏のラウラ救出を消す危険性を潰すためにIS学園に潜入したのだ。

 

「幸いIS学園に入れる手段は難しくはありませんでした。そして私は織斑一夏を妨げる危険を排除しながら昨日の飛行機でようやくついさっき帰って来たのですよ。」

 

優雅に軽く、まるで旅行気分な村上にスコールは呆れながらも窓の外を見た。

この高さにはもう視線の直線上にはなにも入らない。

スコールは空全体が少しずつ違和感に覆われていくのを感じた。

 

 

 

 

 

 




千冬姉達教師は色々と忙しい中一夏達は休みエンジョイです。

シャルの後遺症描写が嫌にシリアスなものになってしまいましたが別段害がある訳ではありません。
謂わば『中二病』みたいなものです。いい思い出です。
アルベールさんの事を出しましたがこれは特に意味はありません。
シャルの心情描写をするために入れました。

ラウラと一夏はフレンドになりました。
一夏にとっては鈴にゃん以上に異性だと感じない友達扱いです。


ーー3ボスについてーー

スカさんの世界が馴染む発言は簡単にスカさん達がこれまで以上に好き勝手出来るようになったということです。
バラ社長が行った危険性の排除とは分かりやすく言えばワンサマーがラウラ攻略イベントを終えるまで邪魔する人をアリーナへ近づけないようにするだけです。

ぶっちゃけ教員部隊の人たちが汗水垂らして走り回ったのはバラ社長が隔壁閉じた所為です。

※人気投票の開催。詳細は活動報告にて
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