IS:ボンド   作:田中ジョージア州

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や、やめろー やめてくれー
俺はカレー派なんだーーーーー

田中ジョージア州です。



36話 再び来たよ!公園だー!

なんだか俺って主役としての存在感が行ったり来たりしてると思う。

 

目を覚ました俺は先ず千冬姉が家から持ち込んでくれた数少ない備品の内の一つである置き時計を確認した。 デジタル式の数値は夜中でも見えるようにほんのりと寝つきの邪魔にならないレベルで光っていて読み取るのに苦労は掛からなかった。 というか支障どころかお日様がすっかりのぼって明るい。

 

……うん、遅いな。

 

いや、約束の時間にはかなり間があるんだよ? そこは勘違いしないで欲しい。

ただ何時も平日の規則正しい時間と比べれば遅いって意味な時刻はもし今日が休日でなければ今から朝食も抜きで走って校舎に行っても織斑先生の雷は絶対に避けられない数字を表示していた。

 

俺はうーんと布団の中で唸った。

自慢では無いが最近の俺は休日でも早起きをしていた。

理由は鍛錬。 わざわざ古風に言ってみたのは軽い拘りだ、まあ単なる文字数稼ぎだとでも思ってスルーしてくれ。

毎朝空が暗い内にランニングをする。 最初はキチンと先生に申告したのだが「理由が薄い」と断られてしまったため無断で走りに行っているのだ。

因みにこれも文字数稼ぎだがその先生からはもう一つ理由を言われた。

一般生徒が外出する時は部活なんかの長期的な理由がない限りその日の朝に当直の教師に許可を貰わなければならないらしいがそれが面倒だからだそうだ。

その先生自体は笑いながら冗談のように言っていたが俺にはなんだかそっちが本心のように思えた。

 

取り敢えず俺はそこらの学生より余程早起きであったのだが今日は普通の学生とおんなじような休みの起き方をしてしまったようだ。

横を見てみると同部屋のシャルは居ない。

あ、

 

「そういや一人部屋なんだったな。」

 

シャルルからシャルロットになった彼女に先生たちはかなり早急に俺との部屋割り変更を言い渡した。

今シャルはラウラと同じ部屋に居る。 何でも元々ラウラが偶然余っていたらしい。

シャルの話だと仲良くやっているらしい。

 

「今度部屋に遊びに行こうかな。」

 

なんだか急に寂しくなって来た俺は一人部屋の広さも有って自然とそう呟いた。

 

「私も同席して構わんか。」

 

良いけど…………………………………………………

……………………………………………………………………………………………(;0w0)ウェ?

 

「おいAAは嫌う人も居るから控えろ。」

 

「箒⁉︎」

 

なぜに?

どして?

なんでかは知らんがこの女子校生活でずっと欲しい欲しいと思っていた念願の一人部屋に音も無く忍び込んでいた箒は椅子に座り込み足を組んでいた。

どうでも良いが慌てている内心この仕草の似合い具合にまるで映画のワンシーンみたいだなぁとチョット見惚れていたのは内緒だ。

 

「昨日一緒に行こうと言ってきたのはお前だろ。」

 

そうだったと俺は思い出す。 それでわざわざ迎えに来て俺が起きるまで待っていてくれていたらしい。

……もしかしたら俺が寝過ごしている間もずっと待っていてくれていたのかもしれない。

眠っている俺を起こしたりせずにずっと待っていてくれていたとしたら、

 

暇なの?

 

「暇なの?」

 

「……」

 

箒は無言で何処からか取り出した竹刀を上段に構える。 スッとした立ち姿はあの日から真面目に頑張ってきたと分かる綺麗なものだった。

 

スパーン!!

 

「いっじぃぃぃぃ⁉︎」

 

痺れる痛さ!

思わずベッドから転がり落ちてのたうち回る俺の耳に冷静な声が聞こえた。

 

「目が覚めたか。」

 

おかげさまで…

やがて引かない痛みが何とか他の事に思考がまわるようになった所で箒はしずしずと部屋の扉を開けた。 外に出て行くようだった。

 

「どっか行くのか?」

 

ここまで待ってくれてた割にはアッサリ出て行くんだと思っていたが箒は相変わらず厳しい顔で言う。

 

「何処にも行けないからサッサと着替えて出て来い。」

 

そうして箒は扉を閉めた。

余りに淡々としていたので本当に出て行ってしまったのかと一瞬寂しくなったけど箒に限ってそんな薄情な事は無いだろう。

それでも俺は急かされたようにクローゼットから適当に見繕った服を着込み充電中だった携帯の残量を確認してそれもポッケに放り込む。 交通機関を使うため財布の中身を確認してそれもズボンに押し込む。

脱ぎ散らしたパジャマに一瞬尾が引かれた。 一人暮らしでかなりルーズな部分が出てきたからだった影響に一瞬ドアの方へ向かおうとしたが矢張りぐうたらはいけない。

キチンと畳んで取り敢えずベッドの上でよしとしよう。

 

「おまたせ。」

 

やっぱり待っていてくれていた箒はチラッとこちらを向いてから一言だけ行くぞと言った。

 

 

ーー公園

一足早く。 協力者として他のメンバーよりも束と密な関係を持つなのははそのためこの日は朝早く出発をした。

出来る事なら束に会ってスペースを考慮してもらうつもりだったが生憎日曜以外で外出の機会は無かった上ここ数日は束も通信機に応じずに完全に音信不通の状況が続いていたため当日しか無かった。

今更感はあるがなのはは一番早いバスの便よりも早くにタクシー配給を使用。 多少値は張ったがそのお陰でまだ誰も居ないうちに公園にたどり着いたなのはは駆け足で管理人室へと急いだ。

 

 

でっかい人参があった。

 

 

「……ナニコレ」

 

「珍百景。」

 

「束さん!」

 

後ろから聞こえた合いの手になのはが振り向くといつも通りのアリス装束に身を包んだ束がいつも以上にご機嫌になって立っていた。

 

「あの、何ですかアレ。」

 

なのははアレと巨大人参を指差す。

改めて見ると本当に巨大だ。

形としては人参を丁度ひっくり返した造形で円錐形になっており幅はこの割と広い広場の三分の一を埋めるほどで高さに至っては完全に辺りの木々を突き抜けている。

よくここまで来るのに気づかなかったなと思う。

 

「今日はなにかと大所帯だからねー。束さんも狭いの嫌だから外にしようかと思ったんだけどぉ…ほらっ最近暑いじゃん?」

 

その格好の方が暑苦しいと思ったが言わないでおいた。

 

「狭いのもいや、暑いのもいやでどうしようかなーって三日三晩悩んでたんだ。」

 

もっと他にやる事があると思ったが言わないでおいた。

 

「それで束さん思いついたんだ、新しく広くてクーラーも効いた建物を造ろうってね。」

 

なのはは改めて人参を見た。 正直なんで今の理由だけであんな物が出来たのか分からない。

 

「最初はさ、私も簡単にプレハブ小屋みたいに管理人室を増築するだけにしようと思ってたんだけど。ほら、私って平凡な物相手だとイマイチやる気が起きないんだよね。」

 

段々と話が見えてきた。

要するに当初は束ももっと現実味に乗っ取った解決策を作ろうと思っていたらしいがそこは発明家としての性か。 単に空調の効いた部屋一つ造るのにもこの天災はオリジナリティを凝らさなければ気が済まなかったらしい。

 

その結果がこの巨大人参ハウスだ。

 

(よくもまあこれだけ、)

 

ここまで無駄な物というのも無いだろう。 ようはスッゴく涼しいだけの建物だ。

通信に応じなかった理由も分かった。 創作活動に没頭し過ぎて気づかなかったのだろう。

ホクホクとした表情の束に色々と言いたい事が無かった訳ではないがなのはは取り敢えず好意的に受け止めることにした。

目下の不安要素であったスペースの問題はこれで解決した。 新たにいらん問題が浮上した感はあるが兎に角これで早起きしても間に合わないと思っていた問題は無くなった。

 

「入って入って、入って。」

 

「分かりました。」

 

余程人に見せびらかしたいらしい束は手で急かす。

もしかしたらその一心でこんなにデカくしたのかもしれない。

言われた通り巨大人参の側面のドアらしき所を開く。

玄関辺りだけだがどうやら内装はかなり作り込んであるらしく二階もあるらしい。 普段のどぎつい配色センスを目にしているなのははもしかしたら内壁の隅々まで明るい人参色で構成されているかと思ったが意外とそこら辺の感性は一般的らしく、明るくも優しい色合いはなのはも気に入った。

 

「いいじゃないですか。素敵です。それに涼しいですね。」

 

素直にそう漏らすなのはに束も嬉しそうな笑みを湛える。

 

「そうだ、キッチンもあるんだけどなのはちゃんって朝食食べた?」

 

かなり早い時刻に来たことに束も不審に思っていた。

 

「いいえ、急いで来たから食べてないです。」

 

「だったら食べていきなよ。なのはちゃんなにか作れる?」

 

「はい…って、私が作るんですか?」

 

「だって束さん料理作ったこと無いんだもん。」

 

いつしかなのはの顔にも笑顔が生まれていた。

直に他のメンバーが到着するまで2人の小さな笑い声が閑静な自然の中に陣取っていた。

 

 

ーー公園 集合時間

 

急遽建造された巨大人参型の集合場所。

総勢11人の男女がその一室。 大きな丸テーブルを取り囲んで向かい合っている。 他の一般家庭と変わらない内装と違いメカニカルな印象を受ける部屋であった。

今は全員が黙っている。 大体が巨大な人参のインパクトにまだ立ち直っていない。

先ず最初に口火を切る事になった束は少し不機嫌だった。

なのはも不思議がる急な変動はもう直ぐ知れる事になった。

 

「君。」

 

束が対面し合うメンバーのある一点を向いて言う。

その人物は飄々とそれに答えた。

 

「呼んだ覚え無いんだけど?」

 

それは楯無だった。

 

楯無は何時ものように扇子を開く。 珍しく無地だった。

 

「初めまして篠ノ之博士。私はIS学園で生徒会長をやっております更式楯無と申します。こちらの都合で身分は明かせませんが取り敢えずは日本国の使いとお思い下さい。」

 

何時もとは違う種類の読めなさに親しい一夏もギョッとする。

束は少し目を細めるだけで後は特に何も言わずに視線を外した。

 

「じゃあ始めるよ〜。」

 

打って変わりにぱーっと笑顔で呆気を取った束はなのはの不安に反して実に真面目に説明をこなした。

 

驚きだらけの情報の質。 それでも最初で最大の驚きはやはり来訪者たちの存在であった。

なのはと巧の正体を束は本当にアッサリと言ってのけた。

なのはがあっと漏らした。 巧が目を開いた。 千冬が頭を抱えた。

その次に驚くともつかない呆気に取られた一夏達の顔が束に映る。

 

(せめてもう少し段階積んでから話せば良いのに。)

 

言葉を見つけようもなく黙ってしまう一同を見てなのはが思う。 こうなった以上隠し立ては出来ない。

なのはは頭で情報と段取りを組み立てながら立ち上がって皆に話し出した。

 

 

兎にも角にも混乱。

最早混乱要件過ぎて一周回る程の密度を一夏は感じた。

 

束から切り出された突拍子のない話は当の本人であるなのはにより認められた。

乾巧と高町なのはは別世界からの人間だ。

 

「あり得なくはない話だ」

 

一夏はこれまでの数ヶ月を振り返った。

アリーナ強襲の灰色の怪人もそれを相手取ったなのはのあの魔法じみた力も巧の謎のパワードスーツも余りに異質だった。

異世界から来たものとすればその違和感も納得だった。

一夏は取り敢えず結論づけた。

 

異世界人。 うん、考えられる。

 

そう思うと不思議とその後のファンタジー小説の設定じみた情報もスルスルっと頭に入ってきた。

そして今なのはの説明は今この場で一番謎であった3人組に向けられていた。

 

「プレシア・テスタロッサです。」

 

「娘のアリシアです。」

 

「リニスです。家政婦のような者だと思ってください。」

 

口々にさぞ当たり前のように遅れなく自己紹介をする女性達は3人ともなのはと同じ異世界人らしい。

 

「私とリニスはそこのなのはちゃんと同じ魔法使いよ。私たちは魔導師とも呼んでいるわ。」

 

プレシアがゆとりのある笑みでそう言う。 プレシアの話ではアリシアも素質だけなら有るらしいが彼女は魔導師では無いそうだ。 なのは達の世界でも魔導師とは誰でもなれるものでは無いらしい。

 

「魔法って言ってもそんな大仰なものではないの。謂わば試験や資格のような身近なものよ。成れる人もいるけど落ちる人もいる程度。」

 

へー、と一夏がそう漏らす。 因みに今のプレシアの台詞は一夏の質問に対してのものだ。

すると何だかんだいって対応してみせる一夏に鈴音が呆れながら毒づいた。

 

「アンタって本当に可笑しい奴ね。」

 

「なんだよ。」

 

「可笑しいから可笑しいってんのよ。文句ないでしょ。」

 

「それだけじゃ人間納得しないだろ。」

 

いつしか丸テーブルの空間は最初とはまるで違う穏やかなムードが流れていた。

それを確認しなのはは一先ず胸をなでおろす。 突拍子も無い内容なら寧ろ少し場違いなくらい和やかなくらいが丁度いいかもしれない。

一息置いてからなのはは束にそれとなくバトンを託した。 これから先は自分では上手く説明できない。

束はそれに明るい笑顔で受け止める。 開始からちっとも変わらない図太さになのはは返って感心した。

変わらない束でも次の話題は一同を緊張に戻した。

 

「それで敵の正体だけどね。」

 

なに、と千冬が漏らした。

 

「待て。」

 

すかさず待ったをかけた千冬は束に問いただす。

 

「今更お前の生合成の無い滅茶苦茶な説明に文句を付ける気は無いが、それでも言わせろ。敵とは何だ。」

 

それは一夏たちも同じであった。

今までの数ヶ月でここにいる人間は其々命の危険に瀕した経験がありそれらは全て異世界からの来訪者達が要因だと分かっている。

しかしそれでもこうして明確に()と言われては緊張もしてしまうのが道理であった。

思考停止とまでは言わないがそれでも言葉を詰まらせるくらいのインパクトをその言葉は秘めていた。

知ってか知らずか束は間の抜けた声でうんと頷く。

 

「先ずこの話をするには白騎士事件まで遡る必要があるんだけど。」

 

にわかに千冬の眉が釣り上げられる。 驚きの顔だ。

 

「あれの首謀者が私とちーちゃんだった事はみんなも知ってるかもしれないけど。」

 

「えぇ⁉︎あれ千冬姉なのか!」

 

一夏がガタリと立ち上がるが横の箒に無理矢理席に着かされる。 箒を始め大体の候補生達はその可能性を考えていたらしく驚いたりはしたものの一夏のようにわざわざ席を立つ程ではなく皆黙っている。

 

「まず最初にね。」

 

束は相手に説明するという事は不得手だ。 しかし今回はその元来の他人への淡白さが事務的な説明の仕方として発現し特に誤解という行き違いも生まれなかった。

無論だからといって内容のインパクトまで薄めるものではなかったが。

 

「なに、」

 

千冬の瞳が細められる。

明らかに笑ってはいない千冬の目に束はチョット身を引いた。

千冬が低く言う。

 

「何故言わなかった」

 

白騎士事件以後の事は本当に些細しか聞いてはいなかったが千冬の優秀な頭脳はそれだけでもじぶんが10年間もの間親友の足枷となっていた事実に辿り着くには充分だった。

 

「あー…そのー…」

 

「何故言わなかった。」

 

言い淀む束に千冬の語気が強まる。 シンとなる丸テーブルの空間に一夏が慌てて待ったをかけた。

 

「ち、千冬姉。落ち着こうって、な?」

 

ジロリと。

反論は聞こえず、代わりに射殺すような視線を食らう。

うっとなる一夏はすっかり黙ってしまう。

普段の教員生活では決して見せない表情は一夏の口を噤ませるのに十二分だったのである。

 

「まあいいじゃない千冬さん。」

 

初対面ということで先程より柔らかくなっても鋭い目つきにもプレシアはマイペースに千冬を宥めた。

 

「束ちゃんは貴方の事を守りたかったのよ。それで充分じゃない。」

 

黙ったままの千冬は表情を変えないままだ。

 

「それにもう隠し事はしないから。ね、束ちゃん。」

 

最後にウィンクで束に振ったプレシアはそのまま満足げに椅子に座った。

えっとなる束に再び無言の千冬が目を向ける。

しかし今度は睨んではいない。 ただ黒い瞳が束を映していた。

2人は暫し2人だけの空間を作っておりその間はなのは達ですら立ち入りを自制した。

やがて束が口を開く。 それは今まで箒も数度と見たことがない真摯なものだった。

 

「ごめんね。」

 

今までひたすらに隠し騙してきたことに謝罪。

短いだけの文体に千冬の心を動かすものがあったのか果たして千冬は静かに呟いた。

 

「ありがとう。」

 

10年もの間ずっと自分を見守っていたことに感謝。

目を丸くする束はだが瞬間必至にその頭脳をフル回転させその真意を結論づけた。

 

恐らくの余地もなく感謝の類の発言はとても心地の良いものであった。

束は少しの至福の後しかし次の議題に移った。

まだ話すべきことは残っている。

目を少し向ければ蒼が会合開始から変わらぬテンションでこちらを見ている。

まるで今までの情報は全て眼中にないとでも言うように全くのノーリアクションであったセシリア。

普段は要領の良さから隠されていた復讐者としての一面に初めてその片鱗を見る箒も戸惑っている。

 

「それで次は敵の戦力…取り敢えず今分かっているのはアリーナを襲ったそら豆ロボットと灰色の怪人の事だけど。」

 

セシリアの表情が変わる。

セシリアだけではない。 ここに居る学園関係者にとってあの日の事と彼らの事は今でも強烈な記憶だ。

更に高まる緊張感に束も真面目さが増していき。そして、

 

「じゃあそうだな…こっからは乾くんに説明してもらおうか。」

 

「あ?」

 

ライダー、バトンタッチ!

 

「いや、オルフェノクの事だけで良いから。なのはちゃんもお願いできる?」

 

「ガジェットドローンですね?分かりました。」

 

頷くなのはに仕方なく巧も了承した。

漸く歯車が噛み合い始めたのだった。

 

 

ーー

帰路へ着く一夏は巧から聞かされたオルフェノクの話を思い出していた。

 

「死んだ人って蘇るもんなのかな。」

 

行きしと同じく隣を歩く箒は少しの後に言った。

 

「別の世界の常識なんぞ知らん。」

 

そうだよなと一夏も返す。

なのはの話してくれたガジェットドローンという無人機や魔法の存在も驚いたがこちらは二つとも一夏はあのアリーナの戦いで見ている。

当時から魔法みたいだと連想したなのはのバリアジャケットや砲撃を目にしていた一夏には改めて魔法について説明されても「言われてみればそうか」と納得することが出来た。

予想がついたからだ。

しかしオルフェノクについてはそうではない。

オルフェノクは一夏にとって最初から謎の生物であった。 予め予想してもピンと来るものなんて浮かばなかった。

ましてや人間が正体だと言われた時には本当に頭を叩かれたような衝撃を覚えた。

帰り道の暇を利用して考えてみても答えなんてついぞ生まれなかった。

 

「トーナメント、」

 

え、と一夏が言う。 箒はすっかり紅くなった夕焼けを見上げながら続ける。

 

「いやトーナメント。中止になってしまったな。」

 

「ああ、」

 

そういえばと一夏の関心がオルフェノクからクローズアウトされる。

ラウラのVTシステムの件であれからトーナメントは一切を禁止されてしまった。

優勝目前まで迫っていた一夏と簪のペアも直前までラウラのシールドエネルギーが残っていた事でノーカンとなってしまい一夏も人並みに残念がったが今こうして改めて言われると思い出すくらい時は流れていた。

 

「アレの優勝商品、そういえばお前は知っているか?」

 

急な話にハテナを浮かべながらも首を振る一夏に箒は悪戯っ子のような笑みを浮かべた。

 

「優勝したペアにはお前と付き合う権利が与えられるらしい。」

 

「は?」

 

間抜けな声が隣から漏れる。

一夏の表情は正に鳩が豆鉄砲そのものであった。

思わず口元を右手で隠す箒に一夏は漸く声を漏らす。

 

 

 

「買い物か?」

 

 

 

「ばかかお前。」

 

箒の右手は今度は頭を抑えた。

 

 

ーー公園

 

既に夕日は暗みを帯び始めている。 後1時間もしないうちに辺りは闇に包まれるだろう。

既に交通機関を通じてここへ訪れた者たちはそれぞれ帰って行った。

ここに残っているのは2人だけ。

公園前に停めてあったオートバジンの側で立つ巧は自分用とは別に後部座席用のヘルメットを投げ渡した。

 

「いいんですの?」

 

もう1人。 セシリアはすっかり普段の蒼の瞳で鈴音が買ってきたヘルメットを見る。

 

「だってあいつが帰っちまったんだから仕方ねぇだろ。俺だけバイクで帰んのも悪りぃし。」

 

巧の後ろで公園にやって来た鈴音は帰りはどういうわけか1人で帰っていってしまった。

それは最近ぎこちない2人の仲を取り持つつもりで行った気遣いだったが今2人は正に気まずい感じになってしまっている。

 

「巧くん。あなたにだけは話しておきますわ。」

 

口火を切るセシリアの表情は何も変わらない。

 

「あの駅前であなたが見た鷹のオルフェノクは私の父です。」

 

不意に吹いた風の音がやけにうるさく感じた。 黙っていたままだった巧がヘルメットを弄りながら答えた。

 

「そうか」

 

セシリアは続けて言った。

 

「父は私が幼少の頃に母と共に寝台列車にて旅行へ行き、その夜列車は事故を起こしました。」

 

その時にオルフェノクに覚醒したのだと巧は思った。

 

「その三日後の夜に父は私の目の前に現れました。 衣類はボロボロでしたが紛れもなく父の姿でした。」

 

「安心する私が母の安否を聴くと父は残念そうに私の両の手に灰を手渡したのです。」

 

オルフェノク達が行う使徒再生というものだった。 セシリアも母の死を感覚的に知った。

 

「その後に私は羽を広げる父の姿を見ました。」

 

父は生前空を悠々自適に舞う鷹の姿に切望していた。 死んだ事で漸く父は夢を叶えたのだとセシリアは語った。

夢という単語に巧は視線を向ける事で反応を示した。

 

風が広い公園の間を通り抜ける。

生暖かい空気が肌を触った。

 

巧はヘルメットを弄るのを辞めた。

 

「巧くん。もしよければで構いませんわ。」

 

セシリアの目線はオートバジンの後部に取り付けられたアタッシュケースに向けられていた。

 

「そのベルトを私に使わせてくれませんこと。」

 

蒼い瞳が力を込める。

セシリアの懇願に巧はしばらく黙っていたがやがておもむろに後部のアタッシュケースをセシリアに投げ渡した。

ヘルメットで塞がったままでも軽く受け止めてみせたセシリアは無言で巧を見た。

 

「変身してみろ。できたらくれてやる。」

 

巧は特にファイズに固執してはいない。

セシリアは一旦鈴音のヘルメットを巧に預けてからアタッシュケースを開きベルトとファイズフォンを取り出した。

巧のサイズに合わされたベルトを括れた腰に合わせたセシリアは以前一度だけハイパーセンサー越しに見た指先の動きからファイズフォンにコードを入力する。

 

《Standing by》

 

電子音が鳴り待機音が繰り返される。

そしてベルトの窪みが上を向いていることを確認したセシリアはまるで長年連れ添ったブルー・ティアーズの展開のようにスムーズにベルトへ差し込み、倒した。

入力されたコードがファイズフォンに命令を与え最後の起動キーとなる。

そのキーをベルトに直接差し込むことでファイズは変身を完了するのだ。

 

《Error》

 

跳ね上がる。

真理やほかの非資格者と同じようにその軽い体が宙に浮く。

フワッと、以前見せたISでの10センチ着地と同じような軽やかな着地を生身で披露したセシリアはしかし失敗したという事実を地面に落ちたファイズドライバーが示していた。

ベルトを取り上げアタッシュケースに入れた巧は再びオートバジンに備え付けた。

 

「乗れ。」

 

ヘルメットをもう一度投げ渡して言った。

 

素直に後部へ跨がったセシリアを確認しながら巧は黙ってオートバジンを走らせた。

 




巨大人参は後日ちゃんと撤去されました。

※人気投票の開催。詳細は活動報告にて
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