そんなに待たせたんだからさぞ充実した内容なんだろうな?と思われるかも知れませんが4000字足らずのなんの新展開無しです。
教卓は今日も冷たそうだなぁと羨ましそうな視線を向けるのは夏服仕様の一夏だ。
特に汗っかきでも暑さに弱いわけでもない彼だがそれでも日本人ならば一年間のプラスとマイナスの振れ幅に適応するため標準値の気温に過ごし易さを設定されている。
これまでの10余年を過ごした所で来星したそれよりも明らかに生き生きと猛威を振るう太陽に熱せられ最新技術の結晶であるIS学園の制服に備わる空調機能が文字通り布の頼りなさになってしまう今日この頃。
織斑一夏は完全に参ってしまっていた。
前日にはたまの箒との剣道場を使用しての特訓をやった。
ISの操縦とは直接的には関係が薄いと箒が忠告するのを頼み込んで暇ではない彼女の1日に組み込んでもらった好意のトレーニングである。
頻度はまちまちであったが一夏にとっては友人の貴重な時間を使う特別なものであり強さの象徴である剣に最も触れ合える実は一番力を入れていた訓練メニューでもあった。
昨日もそうやって気合を充分入れて臨んだ。
気力は充分。 身につける数キロの重みとそれ以上に答える季節的に不似合いな空調にも負けず道場に備え付けられている余った竹刀でその日も箒に挑みかかって行った時にそれは起こった。
打ち込む刹那。
この数ヶ月で一息の仕草に真剣味を置くことが出来るようになりさながらスローモーションのような、といえば言い過ぎだが打ち込む間は油断なく。 周りの景色が見えるくらいにはゆとりを持てていた時であった。
昨日の一夏はまるで体に纏わりつく暑さがそのまま原動力へと変わったかのような勢いで突っ込みそれを見た。
周りのスローモーションに違和感を感じる。
なんだかボヤけている。
ボヤけた視界の中からボヤけた竹刀が一夏の面を叩いた。
ボヤけていない一撃だった。
元に戻りはしないが少しは落ち着いた視線の先で直る箒を見てぼんやりと自分も防具を取る。
ブワッと熱気が抜けていく。 箒が黙って剣道場の窓を全て全開にした。
精神修行のためだと1日の間殆ど開ける事を禁じられた透明を挟んだ向こう側へ熱気が風に巻かれるように流れていく。
いつのまにか玉の汗をかいていた一夏に箒は面を取って言った。
涼しそうな汗のかき方をしていた。
「今日はやめよう。」
理由はついに教えてくれはしなかったが直ぐに投げ渡されたスポーツドリンクに齧り付くように半分以上を飲み干した一夏は余程喉が渇いていたんだと感じた。
軽い脱水症状であった。
1日抜けても残る残心感と来たら発熱なんてしない教卓の冷たそうな金属部分に今すぐ抱きつきたくなるほどであった。
しかしそんなことは出来ないので取り敢えず一夏は手当たりしだいの涼しそうなものをその目に収めた。
床、窓、壁などの同じく発熱せずに体温より低い自然物は今すぐに手を伸ばしたいものではあったが大衆の面前でそんなことは出来ない。
一夏は日本人らしく周りの目を気にした。
(後は、そうだ、服装だ。)
一夏は涼しい夏服をしているクラスメートの姿に照準を変えた。
夏服だろうと暑いものは暑いし現在進行形の蒸し蒸しした不快感は拭えないがそれでも一番涼しい格好だ。
それに改造可能な制服に対しての女子の熱意は夏であろうと衰えないらしく中々バリエーションある様が一夏のちょっと参ってしまっていた脳を冷ます。
「て、なに見てんだ俺は。」
布地の少なくなった女性の体をまじまじと見つめている今の姿はさながら変態と揶揄されても文句は言えないものである。
暑さにやられすぎだと一度頭を振り煩悩を退散させる。
「おはよう一夏。」
白銀の髪はまるで雪のようでこれまた涼しそうであった。
おっ、これまた涼しそうなお召し物。
「ん、ああ。夏服だからな。」
「ウェ?」
どうやら声に出ていたようである。
特に気にした様子もなく尋ね人、ラウラ・ボーデヴィッヒはこのクラスでも特に薄着な夏服を一夏に見せるように振る舞う。
ラウラはシャルルを除けば唯一のズボン着用の生徒であると言える。
乗馬ズボンとも言える冬服のズボンと違い夏服の今は一般の男子の服を切り取ったような綺麗な半ズボンからラウラの小柄ながらに肉付きの良い脚が目に飛び込んで来る。
「うわああー」
そんな今日日テンプレなセリフで驚きながら目を両手で覆い隠す一夏にラウラは目を細める。
「なんだ、そんなに見るに耐えないか私は。」
「いや、そんなことはないぞ?」
慌てて片方の手を高速で振って否定する一夏だがもう片方がその分両目を覆うポジショニングに着手するだけでラウラにすれば一向に説得力など伝わってこないのだが、幸い彼女は体格よりも大人であったようだ。
一夏の失礼な態度をそれ以上追求せずにラウラは切り出した。
「それで一夏よ。私の水着を見てほしい。」
「ブウェッ」
吹き出す一夏。
再度慌てて手を振り首を振り辺りを見回す。
どうやら聞かれてはいないようであったがいずれにしろ今のご時世。 もし人の耳に入れて良いものではない。
そんな抗議の目を正しく感じ取ったか、少なくとも疑問の類は感じ入ったかラウラはその理由をなんの感慨もなしに話した。
「もうすぐ臨海学校だ。そして臨海学校ではそれぞれ水着の持参が必須事項だという。」
今朝のSHRでも真耶が水着の購入を勧めていた。
そのことかと一夏は嗚呼を返した。
「当初私は学園指定の水着を持参物に当てようとしていたのだが同室のシャルロットに止められてな。」
「学園指定の水着って…あの?」
あの古き良きスクール水着、略してスク水を連想して一夏は再び口をすぼめた。
つまり目の前のドイツ軍の少佐殿はあの胸元に大きく「ボーデヴィッヒ」とゼッケンで記したあの服装を大衆の前でご披露するつもりだったらしい。
(よく言ったシャル。)
取り敢えずルームメイトのファインプレーに心中親指を立てて讃える一夏は一先ずその色々な意味で目を引く格好を一旦頭の隅に置きラウラの話題に乗ることにした。
「それで新しく買いに行く水着を選んでほしいってか。」
「そうだ。」
「嫌だよ。」
言ってて少し恥ずかしくなってきたか赤らめながらの質問にラウラはにべもなく頷き一夏もにべもなく頭を二回振った。
対して断られる可能性を考えなかった訳ではないが一応驚いたラウラが口を開く。
「理由を聞きたい。」
「いやだってさ…」
少し吃りながらキョロっと後ろを振り向き人波を確認した一夏はその後少し小声になり言った。
「男が女の服を見るなんて可笑しいだろ。」
恥ずかしさから早く終わらせるため出来るだけ簡潔にした説明が返って展開を先延ばしにした。
「どう可笑しいのだ?」
「えー…」
漠然としてなくもない自分の言葉も悪かったがそこは言わなくても分かってほしい。
一夏は少し唸って火照った頭を使う。
改めて考えてみるとラウラではないが少々説明しづらい内容だ。
男女の違いとそれにより生じる服選びへの弊害を論理的に説明しなければならない。
それを正しく言葉で表すのに一夏の人生は若すぎた。
依然として赤い片目が急かさずじっと返事を待っている。
あんまり時間は掛けられない。 第一頭がオーバーヒートする。
取り敢えず思考を止めて頭を冷却した一夏は一息の後にラウラに向き合った。
「男女では波長が合わないんだよ。」
どうだ。
「そうなのか?」
疑問符を語尾に付けるラウラに一夏は「しめた」を隠して頷いた。
「ああ、男は女の服を選ぶ能力は無いんだ。」
腕組みして見るからに物知り顔して自信ありげに話す一夏にラウラもふむと喉を鳴らして聞き入る。
因みに一夏の言う理由はあながち嘘ではない。
少なくとも一夏に女性の服装の良し悪しなど分からない。
「だからラウラはおんなじ女の子…そうだなぁ、シャルなんかいいんじゃないか?」
さり気なく自分の代役を仕立てる辺りこの猪突猛進を地で行く少年も中々小癪になってきたと言えよう。
「ふむ…分かった。そうしよう。済まなかったな。」
「おう、また機会があれば買い物に付き合うよ。」
一夏のせめてもの労いの気持ちに右手を振って応えたラウラはそのまま今度は言われた通りに既に自分の席で数人のクラスメートと笑顔を交わすシャルロットに歩み寄る。
シャルロットが近づくラウラに笑顔を向けた。
そんな様子を見る一夏は一息を吹き出した。
大分溶け込めてきたみたいだ。
そうひとりごちる一夏の顔は安心のそれである。
シャルロットがその正体を知らせてからの数日はなんだか学校中からピリピリとした鋭い意識が彼女に向けられていた。
口など表立っての手段こそ少なくとも一夏は目にした事はないがそれでも制服を着て登校を繰り返すシャルロットを遠巻きに見つめる同門たちの目にはこう言っているように聞こえた。
「あなたなんでここに居るの?」
もちろん一夏に気づけた事が当のシャルロットに分からない筈がない。
賢い彼女ならそれらの敵意とも嫌悪とも付かない無言の意識伝達を全て正しく認識していた事だろう。
それでも今の状態までもっていったのはやはり大したものだ。
一夏はウンウンと腕組みして頷く。
「あ、首振ったらなんかボンヤリしてきた…」
暑い日が続くIS学園の日常。
短ーい。
うん分かってる。
ホントごめん。
不定期更新でも待っていてくれている方には感謝しています。
今回はどうしても文の繋ぎが考えつかなくて遅れた上に少数字での投稿となりました。
次回からは流れを一気に変えるため今回とは生合成なく急展開に移ります。
次回、福音編
※人気投票の開催。詳細は活動報告にて