IS:ボンド   作:田中ジョージア州

45 / 55
アーキタイプブレイカーハマってるぜーー。
人には勧めないけど…
正直ストーリーモードを進める意欲がバトルの度に削がれるんですけど…

あっ、更新が遅いのは元からです。ご心配なく。

推しはセシリアの田中ジョージア州です。


変質
40話 防衛作戦開始‼︎


緊迫感。 緊張感。 困惑。 不快感。 焦り。 不安。 まだ見ぬ要素。 まだ聞かぬ要素。 何かある。 全てを纏めてもまだ足りない。 過去。 経験。 データ。 纏めて出してもまだ足りない。

 

圧倒的。 究極的。 終息的。 結末的。 エンド。 完結。 筆を置く。

 

踏み出す。 砂の音。 水の音。 こっちは知らない。 満喫している。踏み出す。 アスファルト。 割れている。 熱がこもっている。 むしっとする。 むわっとする。 こっちは知っている。

 

種類の違う二方向。 片方が向かっている。 もう一方は知らずに待っている。 遊んでいる。

 

得体の、 種類の、 分別の、 知れない。

 

怖い、 恐ろしい、 気味が悪い、 敵の接近。

 

中間地点での交錯が真っ青な水平線を彩っていくーー

輸入品の絵の具が水平線に有り得ない色を引いていくーー

混ざったら最後、もう元には戻らない絵本物語ーー

 

………………………………………………………

 

『自覚ありな貴女は止まらない』

 

『救世主改め侵略者はそれでもめげない』

 

違う2人はその気が無くても世界を変えてしまいます。

もう後戻りは出来ません。

 

 

 

 

『機械頼りのヴァルキリーを描くキャンパスは外来品に侵される』

 

出来る事は上塗りだけ。

ボンドだけが破滅からの回避。

 

 

 

 

 

ーー花月荘

 

老舗とは言えないIS学園今年度一年生達の宿は早くも他の旅館、ホテルなどとは一線を画した魅力を有していた。

若女将の清洲を中心としたオーラというか凄みというかは特に観光地という訳でもない花月荘の立地を補って余りある魅力を産み年間の利用者数でも同規模の旅館、ホテルを引き離している。

何故IS学園ご贔屓になったのかその経緯は不明だがしかし好印象を与えた要因はその魅力にあるのだろう。

 

ただ幾ら常連さんといえどもこちらも商売。

予約人数の穴まで埋めてやって貸し切り状態にする程気を回してやる事は出来ない。

チラホラと見える学園とは無関係の人たちは全てそういった穴を埋めてきた人間たちであり特に学園との関係について何も知らない初見さんは世界有数の有名校の生徒たちの存在に目を白黒させている。

常連ならば兎も角噂を聞きつけ偶々今日初めて訪れた彼らの目は物珍しさに染まっている。

 

それでも例外は居る。

 

良くも悪くも目立つ十五、六の少女たちを観察する瞳の中に同じく初めての利用でありながらまるで周知の事のようにごく当たり前の視線が混じっている。

束の連絡を受け増設された出島の地点からバスをつけていた彼女たちの護衛役であるプレシアはあくまでもバレないように遠目から今は自由時間を海にて満喫してしている一同を観察している。

彼女が現在見張りの定位置としているのは花月荘の客間の二階部分。

丁度観光客が生徒たちと混ざり満喫している海とは壁と対面している部屋だ。

隠密行動を謳っているわけではないがそれでもその方が仕事がやりやすい事と急な要請だった為こんな部屋しか用意出来なかったためだがどちらにせよこれで万が一にも一夏たちにはバレる事は無くなった。

 

それなら死角的に監視など出来ないのではないか?

お忘れなかれ、彼女こそ前の世界では条件付きとはいえ無尽蔵に近い魔力量を誇り大魔導士とまで称された人間。

この世界には以前のような媒体となるような機械類が無いため少し不便ではあるがそれでも魔力運用という点でいえばなのは並に優秀な彼女は非常に効率的なサーチャーを数個生成し一夏たちや辺り一帯の様子を探っている。

体力の損耗を控えるために折角の海に興を乗らせることは出来ずに居たがそれでもプレシアは取り敢えずは束たちが到着するまではバカンス気分は抑える事にした。

 

「あ、ビーチバレー…良いなぁ……」

 

まあぼやくくらいは許されるだろう。

プレシアの小さな葛藤は誰も知らない。

 

 

ーー

 

みんなお待たせ。

このみんなに第三者が語り掛けているようなメタ的で二次創作的にはありきたりな描写をするって事は俺が誰なのか分かるよな?

 

そう一夏だぜ。

 

現在俺は疲れて居ます。

原因はついさっきまで一年生全員で熱狂していたビーチバレー勝負。

ここで重要なのはビーチバレーではなく勝負の部分である。

勝負とは勝ちに負けをくっ付けて勝負と呼ぶ。

そんな小学生になれば誰でも習う一般知識の勝負を俺は15年生きてきてまるで解っていなかったのだとついさっき思い知らされた。

まあなにが言いたいのかというとそのバレーボールの参加者が俺以外みんなガチメンバーだったという事だ。

 

相手チームに自称七月のサマーデビルこと谷本さんにハンドボール部所属でバリバリの体育会系である相川さん。

この時点でも、情けないが俺よりも余程戦力になっている。

それに加えて千冬姉と山田先生の4人ペアだ。

主砲にかつて世界を取った一振りを持つ千冬姉とハンドボールで鍛えた谷本さんを加えサポートにかつての代表候補生とあの七月のサマーデビル(どのサマーデビルさんかは知らぬが)を据えている。

攻撃特化のチームだが司令塔でもある千冬姉の正確な指示により抜群の攻守の切り替えが得意な強力チームだ。

 

対して俺が所属したチームの残りメンバーは俺と一緒に誘われた鈴と剣道部の仲間と遠泳していた箒とそれまではビーチパラソルの下で涼んでいたセシリアが入る一組、二組混合の純生徒チーム。

向こうが攻撃特化ならこっちは防御主体。

セシリアが伸びのあるジャンプで向こうのアタックを射出寸前で防ぎ溢れたボールは砂の上でも抜群の安定感を持つ足腰の箒と砂浜をまるで猫のように素早く駆け抜けられる鈴により拾われる。

その後再びセシリアが相手の嫌がる位置と角度に絶妙な力加減で放り込むのだ。

そしてやはりこちらも司令塔が優秀だった。

セシリアのまるで360度目が周るかのような適切な指示はとても分かりやすくお陰で俺も何回か見せ場を作る事が出来た。

 

多分セシリアの指示がなけりゃ試合中ずっと棒立ちか動いたとしても他の2人の邪魔になっていただろうからな。

試合は接戦の果てうちの負けに終わったが一組のみんなや他の組の子たち。 そして一般の観光客の人たちからの拍手と歓声に感動しながら俺は精一杯応えようと手を振った。

 

そんでもって今になってその疲れに襲われてダウンしているって所である。

因みに俺以外の面々は敵も味方も現在進行形で楽しく遊んでる。

どんな体力してるんだか…

俺は暫くこうして砂浜で体育座りに日光浴と洒落込む事にした。

 

「お疲れですか?」

 

「え?」

 

思わず飛び出た擬音は普段あまり聞く機会が少ない低い男性のものだったからだろう。

姿勢を崩して声の人物を見上げてその正体もはっきりと見て取れた。

三十代半ばくらいのその人は何故か黒いビジネススーツをぴっちりと着こなしネクタイまで締めていた。

最近までトレーニングにも支障をきたす程嫌悪していた暑苦しい格好そのものだが何故か男性からはそんな汗疹が浮かんできそうな類の感じはしなかった。

常人なら必然的に生じるであろう体温上昇を引き起こす厚着を男性は極めて涼しげに纏っている。

 

まあなんにせよ取り敢えず歳上の初対面さん相手にいつまでも無視を決め込むのも失礼だ。

俺は立ち上がって男性に向き直る。

尻の砂を軽く払いながら質問をした。

 

「あぁ、バレーですか?まあ、はい。」

 

言葉足らずな所は仕方ない。

俺だってアドリブが得意なわけじゃないんだもの。

男性も分かってくれているようで文句は言わずにいてくれた。

 

「接戦でしたね。若いとは素晴らしいものです。」

 

そう言って笑う男性は見た感じの年齢よりも落ち着いて見えた。

暇なためかなんだかこの変わった男性に興味が湧いてきた。

 

「観光客の方なんですか?」

 

「そう見えますか?」

 

くすりと笑われて、本人はそのつもりではないのだろうが少し気恥ずかしくなる。

まあ折角の海にスーツ着て遊びに来たりしないわな。

 

「お仕事かなにかで…」

 

「ええ、そのようなものです。」

 

男性は矢張り頷いて見せた。

俺はへー、と相槌をそこそこに話題として掘り下げることにした。

 

「失礼ですけどどんなモノなのか聞いても。」

 

言っててそれなりに勇気が必要で言い終わってからも少し緊張があったけど男性は快く教えてくれた。

 

「大事な待ち合わせです。」

 

「待ち合わせ…」

 

普段女子の中にいるからか無意識に愛人という単語が浮かんできてしまったがもう言った通りこの人は仕事だ。 そっちではないだろう。

俺が取引先ですかと尋ねると男性はまたそのようなものですと茶を濁したように返してきた。

 

「仕事と言っても所詮は人付き合い。ムードがある方がいいでしょう。」

 

そういうものなのか。

学生としての経験に商談相手との付き合い方なんてないので実感として湧かないがプロが言うのだからそうなんだろう。

 

「まだ時間があるので取り敢えず遊べはしませんが外の空気を吸うくらいは出来るだろうと出てきたら君たちのビーチバレーを目撃した訳です。」

 

そして男のくせに情けなくも1人だけ力尽きた俺もついでに目に付いたらしい。

うわぁ、なんかすっげぇ恥ずい……

そんな顔を熱くさせる俺の耳に砂浜を踏んだ際特有の足音が聞こえてきて反射的に振り返る。

水色の髪を内巻きの癖で流す簪さんがそこに居た。

大人しい彼女には珍しいホルターネックの黒いビキニは下にはフリルが付いていたがそれでもセクシーだ。

あ、意外と巨乳や。

 

「一夏くん、その人は?」

 

どうやらビーチから見ていて気になったらしく態々近づいて来たようだ。

当初と比べて明らかに仲良くなってきた簪さんになんだか嬉しくなる。

あとISの時も着けている頭の髪飾りみたいなのはいつでもつけるのだろうか。

 

「さっき知り合ったんだ。名前は……」

 

そういえばなんて言うんだろうこの人。

すると男性は俺の一歩前に出て簪さんに答えた。

 

「村上峡児です。」

 

 

ーー

 

空飛ぶ人参

 

何を言っているんだと思われるかも知れないが実際一夏たちが楽しむ花月荘に近づく飛行物体の形は人参そのものである。

雲の上を優れたステルス機能で空港や防衛省の把握する国内のレーダー網を鳥か虫の大きさで駆け抜けるこの巨大人参はそのテクノロジーのクオリティに反して中に居る製作者の身なりは中々残念なものであった。

ミュージカル女優が舞台でも滅多に着ないような普段着にいつのまにか着替えた束はそんな奇抜な格好をまったく気にせずに搭乗するなのはと巧に向いている。

 

緊張する機内、もとい人参内。

 

無言は時と場合によってはムードメーカーになり得るが今は空気を重くする。

そんな主催者による重い空気に晒されている状況でもなのはと巧の2人に力みやプレッシャーといった場の流れを気にする類は無い。

事前の作戦を遂行するために集中力を高めるなり普段通り振る舞うなりに落ち着き冷静な2人はさながら職人のようでもあった。

程よい緊張感の後に目的地近辺に近づいたことを示す電子音が鳴った。

製作者の束が確認し2人に報せた。

 

「先ず乾くんから降ろすね。」

 

言うが早いか次の瞬間には認識ロケットはゆっくりと目的地である離れ小島の1つに着陸し巧とそして束が前日に運び込んでいたオートバジンを一緒に降ろした。

無人島に足を着けた巧はなのはの労いもそこそこにロケットの邪魔にならないように森の中に入って行った。

再び飛び上がった人参ロケットは世間一般での被害よりも圧倒的に少ない噴射と音で離陸ともう一つの小島への着地を行った。

 

次はなのはの番である。

速やかに降りようとするなのはに束の待ったがかかる。

 

「ちょっと話しておくことがあるの。」

 

「はあ。」

 

本来なら一刻も早く行きたいのだが他ならぬ作戦立案者である束の呼び止めに素直に従うなのは。

束は最後の連絡を一分弱で終わらせるとタラップを降りるなのはにこう言った。

 

「気をつけて。」

 

それになのはは力一杯返事を返した。

飛び去って行くロケットを見上げる。

束は本土の方で事前に用意しておいたゴーレム部隊の方へ行くのだろう。

なのはは左腕に締めた腕時計を一瞥する。

 

襲撃予定時刻である午後二時まで後30分だ。

 

それを噛みしめると共に数キロ程離れたもう一つの離れ小島を見る。

生憎ポツンとしか見えない島に居る筈の巧の姿は確認できないがそれを名残惜しく想う場合ではない。

 

「じゃあ行こっか。」

 

懐の相棒に告げなのはもまた森の中へと足を進めた。

 

 

ーー

外からは密集してとても人が入っていけるような所ではないと思っていたなのははその実スペースのある木々の間を細身の体を何不自由なく滑り込ませて進んで行く。

高低差のある舗装なんて概念が入り込む間のない自然の道。

海の上でそれ程の広さもない小島には木々以外の生物は昆虫か飛び疲れて休憩する鳥くらいのものだろう。

不安な足元を器用に乗り越えながらなのははこの不便を楽しんでいた。

 

熱帯雨林さながらの温帯気質は着て来た服のチョイスを悔やむ程だがそれはそのまま自然という証だ。

頭上に登る木々は観葉植物のような美しく均一の取れた枝ぶりではなく他の木々に遮られたり自重で垂れたりぐるぐると奇妙な形がなんだか寧ろ自然な綺麗さになっていると思った。

水捌けの良い土壌も中心に行くごとにまるで山のような確かな豊かさが見えて来る。

もしかしたら本土から泳いで来た野生動物でもいるのかも知れないとなのはは辺りを見回す。

生憎その希望は今すぐに報われることは無いようである。

 

「急ごっと。」

 

言葉通りになのははそれまでの一概に観光気分に見える仕草から完全に切り替わっていた。

かざした手から桜色のサーチャーを数十個飛ばす。

ここまでの数ともなると最早ISの第三世代のコンセプトである『操縦者のイメージ・インターフェイスを利用した特殊兵装の実装』。

即ちセシリアのブルー・ティアーズやラウラのAIC並の負担が掛かる。

さしものなのはもこの数のサーチャーを同時並列で操作することは困難を極める。

いかに魔力量が高くとも脳までは特別性では無いからだ。

よって出来る人に少し手伝ってもらう。

 

「レイジングハート。」

 

なのはの呼びかけに電子音で応えたレイジングハートは中継役としてなのはの負担を軽減する。

人間の脳ならオーバーヒートを起こす動作量もレイジングハートを介せば問題ない。

一気に島を飛び越え辺り数十キロを花月荘を囲むように飛び散ったサーチャー群はなのはの感覚とリンクして襲撃に備える。

なのははもう一度左の時計の針を見た。

如何に福音が超高速移動が可能とはいえ時間的にそろそろ近辺に居なければならない。

未だに引っかからないレーダー網に警戒を向けながらなのはは更に広域にサーチャーを並べようと指示を飛ばす。

 

機械的な声は直ぐに響いた。

 

『master、魔力反応です。』

 

「っ…レイジングハート!」

 

顔を強張らせるなのは。

サーチャーに引っかかったのは福音ではなく魔導師の方であった。

なのはでは分散しすぎて感知するのに時間がかかる所をレイジングハートは誤差なしで報せる。

直ぐに懐から取り出されたレイジングハートは主人からの起動キーであるコマンドを待ちながら展開に備えた。

機械の洗練さに打ち勝ったのはまたもや未知の力であった。

 

「かはっ⁉︎」

 

衝撃。

 

浮かび上がるなのはの生身。

ショックで手元から零れた待機状態の宝石が草むらに落ちて汚れる。

香りのしない薔薇の花弁が舞った。

 

 

ーー

 

「くそ暑い…」

 

ボヤく巧に隣をその車重で沈む足元に苦労して歩くオートバジンが無言で追随する。

着いてみたはいいが手持ち無沙汰になった巧は取り敢えず付近の散策へと赴くことにした。

 

今思えばそれは照りつける太陽の下から見た木々の影が羨ましく見えた事や何だかんだ言って久しぶりの海に舞い上がって探検気分となっていたこともあったのだが巧は絶賛後悔中であった。

木々の影は確かに直射日光を遮ってはくれたがその分閉じ込められた空気の悪さといったら外の倍は不快である。

それでも引き返したりしないのは暑さへの嫌悪の方が勝るのだろう。

落ちている小枝や倒れた倒木を乗り越えて所々にある崖とは言えずとも深そうな割れ目などを飛び越えて巧はふと足を止めた。

 

「変身すりゃあいいじゃねえか。」

 

ファイズのスーツならばこの不快感からもシャットアウトしてくれる。

巧の発言にオートバジンは素早く応えた。

直ぐさま崖越しにビークルモードとなった彼はトランクのアタッシュケースを巧に差し出した。

気の利く行動をよしとした巧は台座代わりにオートバジンを使いながらアタッシュケースからアイテム類を取り出して同じく取り出したベルトに取り付ける。

デジカメ兼パンチングユニットであるファイズショットを左腰部分にはめ込もうとした所でそれは起きた。

 

長年渡って身についた巧の勘が背後から音もなく迫り来る光弾を交わさせたのだ。

しかし幸運はそこまで。

 

勘のないオートバジンは巧を狙った光弾をモロに車体に食らう。

オルフェノクの攻撃にも耐える装甲は見事に光弾を弾き飛ばしたが足回りの踏ん張りだけは彼は市販品のバイクと大差しない。

スタンドなんてなんの支えにもならずバランスを崩したオートバジンはそのまま巧に向かって後ろ側。

 

()()()()()()()()

 

「あっ」

 

巧の言葉のように呆気なくオートバジンは戦線を離脱していった。

無論アタッシュケースに入れていたベルトごと巧の前から消えていったのである。

呆気に取られる巧に更に光弾が襲いくる。

舌打ち一つし巧はそれを回避する。

ベルトがない以上巧はそれを防ぐすべはない。

木々を盾にしながら連続して巧より少し上から放たれる光弾を必死に躱す。

自慢がえぐれ木の破片が飛び散り土煙のように辺りを濁らせる。

光弾を放った襲撃者は一旦攻撃を辞めすっかり大人しくなった巧を探すため近づいてくる。

 

バッと襲撃者の上に影が出来た。

 

慌てて空を見上げるといつのまにか頭上を取っていた巧のが右腕を掲げて襲撃者に襲いかかっていたのだ。

面を食らいながらも冷静な頭で回避は不可能と悟ったか襲撃者は左腕を巧に翳す。

すると淡い光に包まれた左腕を中心に隙間を開けて光の玉が形成され彼乃至彼女を包み込んだ。

防御を記す魔法陣である。

敵は魔導師である事を悟る巧はそれでも変えられない結末に抵抗する形で拳をバリアへと叩きつけた。

 

いい音がするなと巧は思った。

 

巧の拳は魔導師の張ったバリアを突き破り魔導師の顔面を捉えて撃ち抜いた。

地面に仰け反った状態で叩きつけられた魔導師の近くに巧も両手をついて着地する。

直ぐに身構えるが余程効いたのか魔導師は殴られた所を抑えて立ち上がれないでいた。

巧は自分の右手に目を落とした。

カシャリと金属音が拳に嵌め込まれたファイズショットから鳴った。

 

「これだけ掴んでて良かったな。」

 

正に藁をも掴む思いで落ちて行くベルトからなんとか掴み取ったパンチングユニットは生身でも絶大な威力を齎した。

油断も有ってか大して危惧もしていなかった魔導師は軽めに張ったバリアを見事にブチ抜かれてクリーンヒットを許してしまった訳だ。

しかしそんな哀れな魔導師に巧は容赦しない。

 

「この野郎」

 

言いながら巧は魔導師に馬乗りになりながら未だに反撃を取れない魔導師の顔面を無理やり開けさせ更にファイズショットで殴った。

正体を隠すためか彼に被せられた仮面からくぐもった声が溢れる。

巧はついでに左腕でも魔導師の顔にハンマーを下ろす。

 

「よくもやってくれたな、お前のせいでな。」

 

巧の視線はオートバジンが落下していった割れ目に向けられる。

怒りの顔に悲しさが混じった。

拳を振り下ろしながら魔導師へとその悲しみをぶつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「折角変身して涼もうと思ってたファイズのベルトが落ちちまったじゃねえか‼︎」

 

 

哀れオートバジン。

 

 

 

 

汗を滴らせながらも吹っ切れたのか巧はそんなものを気にせずに魔導師の顔面に振り下ろす。

被っている仮面は多少の歪みはあれども未だに健在だ。

何か仮面にも防御魔法がかけられているらしい。

いい加減切れてきた息で鈍くなった動きの隙間を突いて先ほどまでダラけていた魔導師が急に動く。

不意をつかれた巧はそのまま跳ね飛ばされ背中を汚す。

それでも直ぐに立ち上がり反撃する巧に今度は魔導師が先手を取る。

 

「あいてっ」

 

巧のファイズショットの威力を警戒した魔導師はなんと魔法ではなく綺麗な前蹴りで巧を迎撃。

モロに腹に食らった巧は翻筋斗打って再び背中を汚す。

そして開けた距離を突いて今度こそ差し出した左手に魔力を集中させる。

オートバジンを谷底に落とした光弾だ。

巧の表情に焦りが生まれる。

 

混乱しながらも巧は目の前の仮面の魔導師がかつての戦いで駅にて結界を張った張本人かも知れないと当たりを付けていた。

ともすれば相手はスカリエッティ陣営の使い。

なのはなら兎も角テロリストの仲間がわざわざ非殺傷設定なんて優しいものを付けるはずがない。

正真正銘の殺意。

生身の巧が取れる選択肢は限られていた。

巧は迷う事なくソレを選んだ。

 

ブワッと舞い上がった視界を遮るもの。

魔導師はそれをすぐに木の葉や土などの自然物だと看破しそれが巧の悪あがきだと一笑した。

大方目隠しのつもりだろうがいかんせん子供騙しだ。

オートバジンを吹っ飛ばした魔力弾は巧の読み通り物理破壊設定の物であり人間ならば土手っ腹ひ風穴が開く威力を持つ。

魔導師はなんの躊躇いも無く光弾を放とうとし、

 

 

カツンと木の葉や土の煙幕から飛び出したやけに重量のあるつぶてに仮面の顔をのけぞらせた。

巧の悪あがきは確かに子供騙しであったがそれを一笑に付すには魔導師の読みはいささか浅すぎた。

 

巧が木の葉を巻き上げたのは目隠しの意味合いで間違いなかったがそれは光弾から逃れるためではなくつぶてとして投げつけるファイズショットを魔導師に悟られ避けられないようにするためであった。

怯んだ魔導師に巧は今度こそ反撃をする。

つんのめるような体勢を逆に利用してスピアー・タックルを仕掛け魔導師を再び地面に落とした。

もがく魔導師は必死に組みつく巧を離そうと肘で対抗する。

もうこの距離では彼の中に使える魔法は存在しない。

巧もそれを解っているため絶対に離れようとしない。

もし離れれば巧が圧倒的に不利だ。

一対一の決闘と呼ぶには不恰好な泥沼の取っ組み合いは互いに汚れながら地面を転がりながら続いた。

 

突如響いた歌声のような電子音に耳のいい巧が反応して空を見上げる。

 

ソレが突っ込んできたのは直ぐだった。

衝撃で巧と魔導師は吹き飛び宙に浮く。

地面に叩きつけられた巧は口の中に鉄の味を感じながら痛みに耐え立ち上がる。

歌うように魔導師の前に立ちはだかるISは噂に聞いた銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)であると巧に確信させた。

 

「あのクソ兎、担当するんじゃなかったのかよ。」

 

毒づく巧に福音は展開している銀色の羽から無数の光弾を射出した。

やはりこの一件に一枚噛んでいるらしいスカリエッティ陣営の魔導師には一発も当てずに辺りの木々を薙ぎ払いながら巧を地面ごと吹き飛ばした。

 

 

ーー

時を同じくして孤島にて防衛作戦に当たっていたなのはもまた絶体絶命の危機に陥っていた。

宙に足を浮かすなのはは突如空中に現れた異形の左手に首を掴まれ締め上げられていた。

 

「ぐ、っ…」

 

咄嗟の判断で自身に掛けた身体強化の魔法で上がった腕力でビクともしない異形の敵になのはもまた巧と同じくタイミングでその正体に当たりを付けていた。

 

「オルフェノク…」

 

気道が狭まり掠れた声でなのはは喘ぐ。

数十個のサーチャー群を掻い潜りなのはの懐に突如姿を現したこの左手は紛れもなくこの世界ともなのはの世界とも違うもう一つの来訪者たちの一員だと確信する。

するとその確信に解答を送るように何処からともなく赤い紙切れがその左手に集まってきた。

顔を歪めながらもよく見ればそれは紙ではなく花だった。

 

薔薇の花びらが左手に集まりそして一つとなっていく。

まるでビデオの逆再生のように元あった場所へと戻るかのように赤い花びら達は左手へと集まりその情熱とも評価される色素を薄めて行く。

やがて全ての花びらが寄り集まり白へと変色した頃に浮かんだのは薔薇ではなく異形の怪人であった。

 

右腕を背中に回し正中線で立つその姿はこれまでのどんな敵よりも紳士的であった。

薔薇の花びらから産まれたローズオルフェノクは尚も強い力でなのはの首を締め上げた。

 

「が…っ!」

 

苦悶の表情を浮かべながらもなのはは冷静に新たに入ってきた情報を整理していた。

 

(サーチャーは事前に登録した魔力やエネルギー以外の反応は拾わない。そういう場合は術者自身の認識が異常を判断するけれどそれでも穴は生じる。このオルフェノクは瞬間移動でサーチャーの穴を突いたんだ。)

 

冷静に素早くこの事態の事情と敵の能力を解析したなのはは細めた瞳で落ちた相棒を確認する。

なのはの足元すぐに落ちている紅い宝石を確認したなのはは依然として強められ絞られる気道の苦しみに耐えながらかつてのお節介通りの動きを再現してみせた。

 

ふわりと…

 

ローズオルフェノクの腕から柔らかく解放されたなのはは重力とともに落ちながら補助系魔法であるフローターを与えて浮かせたレイジングハートをキャッチする。

ローズオルフェノクがその不思議に囚われている所に桃色の濁流がその体躯を吹き飛ばした。

仮面の魔導師のモノとは違い先人や管理局の理念である非殺傷設定で放たれたディバインバスターはそれでも強力であった。

如何にオルフェノクと云えども無抵抗に貰えば卒倒は免れない砲撃の果てにローズオルフェノクは立っていた。

 

今度は両腕とも後ろで組む格好は先にも増して紳士なそれを想わせる。

バリアジャケットに姿を変えながらなのはは顔を歪める。

 

(サーチャーは一旦切るべきかな…)

 

戦闘行為に入れば直ぐに解除するつもりで限界まで広げた負担はレイジングハートの助けを含めても先程の砲撃魔法はなのはの精神力を大きく削った。

これ以上同時並列での戦闘は不可能な程に。

 

そうでなくとも相性の悪いオルフェノクとの戦いに足枷を被せて臨むのは愚としか言えないと判断したなのはは現在数十キロに広がる監視の目を数個に減らしこれまた華麗に歩み寄って来るローズオルフェノクにレイジングハートを構える。

油断なく睨むなのはの瞳に決意が宿る。

 

間違いなく目の前のオルフェノクは強い。

初めて遭遇し戦慄したアリゲーターオルフェノクとは格が違う。

マンティスシュリンプオルフェノクやホークオルフェノクをも凌駕しかつての絶対的な強者である闇の書の意思や聖王の鎧にすら匹敵するかも知れない。

かつて三大ライダーを持ってしてもトドメをさせなかった最上位のオルフェノクがゆっくりと歩を進める。

 

手加減して挑める相手ではない。

 

レイジングハートがギュッと握られる。

 

「レイジングハート、対物理破壊設定に移行。」

 

この世界では3度目の使用。

相手を殺傷する力を優しいなのはは使い慣れない。

本当なら誰だって殺したくないしなんなら魔法自体誰かに向けたくはない。

それでも自分の背後にある本土の人々のためになのはは十字架を背負う。

 

「なんというのですか?」

 

不意にかけられた言葉にやにわになのはが緊迫する。

ローズオルフェノクは印象そのまま礼儀正しくなのはに尋ねた。

 

「いえ、ね。先程私の腕から逃れた技ですよ。一瞬左腕が自分の意思に無いような感覚とともにいつのまにか貴方は私の腕から脱していた。」

 

そう言いながら左腕を眺めるローズオルフェノクは心底余裕そうであった。

 

「私も立場上護身術には馴染みがそれなりに深いのですがイマイチピンと来ませんで。何か武術でも嗜んでいらっしゃるのかと。」

 

その言葉とともにローズオルフェノクは黙った。

なのはからの返答を待っているのだ。

無視しても構わないのだがこんな時この少女は真面目である。

 

「えっと…父が昔剣術をやってまして、独り立ちする前にどうしても覚えておけと…」

 

 

『なのはは可愛いんだから不埒な奴が絶対に現れる!護身術くらい憶えておきなさい!』

 

 

後継者への道を捨て平穏を望んでいた筈だがやっぱり親バカであった士郎より無手での護身術という形で伝説の御神真刀流を教わった事があり先程の首しめから逃れた技はその内の一つを応用したものだ。

 

ほう、と感心するローズオルフェノクになのはは照れながら頭をかく。

ゆったりとした空気がなんとも不似合いである。

 

「いえ結構。魔導師の方は皆魔法が主だと先入観でみなしていましたが緊急時への備えは大事な事。頭が下がります。」

 

「あ、いえそんな、ありがとうございます。」

 

ローズオルフェノクは気品のある仕草で手を叩きなのはに拍手を送る。

さっきまで殺されそうになっていたというのにすっかり萎縮し照れてしまうなのは。

 

(もしかしたらそんなに悪い人じゃない?)

 

一応やり取りの間もずっと突きつけていたレイジングハートがほんの僅かに下ろされた。

 

「下の上ですね。」

 

なのはは優しいが甘い訳ではない。

一度決心した事はどんなに辛くとも投げ出さない姿勢は幼馴染たちをして一番頑固と言わしめた彼女の意志は今回も変わらない。

しかしローズオルフェノクに感じたもしかしたらの感情がなのはの意識していないところで腕を僅かに下げさせたのだ。

 

ローズオルフェノクが予備動作なしでその姿を消す。

目を見開くなのはの丁度背後にローズオルフェノクは再度左腕を今度は余韻なしの本当の瞬殺の想いで彼女の脊髄へと振り下ろした。

瞬間速度だけならかつての龍人態のそれにも追随する抜き手はファイズの装甲すら破壊する鋭さを誇っていた。

 

0コンマの極限。

 

王を除けばこの攻撃に対抗できうるオルフェノクはかつてのラッキークローバー最強の存在である北崎か前社長である花形の他一部の上級オルフェノクぐらいであるローズオルフェノク珠玉の打撃はなのはの栗色の髪一本揺らす事なく空中で静止していた。

 

ローズオルフェノクがほう、と漏らす。

 

「素質は上の下程度だが些末な私情に捉われるマイナス査定で下の上程度………と思っていたのですが。」

 

ローズオルフェノクの攻撃をレイジングハートが自動的に展開したラウンドシールドで防いだなのはは今度は照れない。

 

デバイスは事前の設定により術者からの詠唱を待たずに自らの判断でそれらの行使を行うことが出来る。

現在のなのは最強の盾『ラウンドシールド』もオルフェノクやISとの戦闘を経てなのはが組み入れていた設定が功を奏したのだ。

ライダー達も恐れる自身渾身の一撃を防がれたローズオルフェノクだが彼はシールドの強固さではなくその向こう側に佇むなのはの姿を捉えていた。

 

当初データとして仕入れていた彼女のスペックをローズオルフェノクは頭に叩き込んでいる。

ラウンドシールドもその内の一つだ。

その結果現状のなのはでは先の攻撃を防ぐ事は不可能である。

魔導師とオルフェノクの相性やローズオルフェノクの実力。 なのはのリミッターを加味して彼自身が出した結論だ。

過剰評価も過小評価もしていない。

なのははローズオルフェノクには勝てない。

それがこの異常事態。

ローズオルフェノクは確かに情報の範囲外の力をなのはから感じていた。

なのはが小さく言う。

 

「分かりました。」

 

閃光がローズオルフェノクを撹乱する。

ラウンドシールドの表面を過剰に走った魔力が暴走。 爆発したのだ。

本来ならバリアバーストに相当する技術をそのままラウンドシールドで応用したなのはは離れたローズオルフェノクに向き合う。

 

「私はこれから勝手に判断します。貴方に色んな事情があっても私には関係ない。私は全力で貴方を倒します。」

 

今度はローズオルフェノクはなにも反応しない。

嘲笑も感心も余分であると目の前の相手から本能で感じたのだ。

なのははレイジングハートを再度構える。

今度は下ろしたりはしない。

真っ直ぐにローズオルフェノクへと向けられている。

 

「束さん、早速使わせてもらいます…」

 

30分前にロケットの中から見えた束の表情を思い出す。

読み取れた訳ではないため偉そうに言えないがなんだかなのはを心配そうに見ていたあの顔。

最後まで危険性を念押ししてできる事なら使って欲しくなさそうであったあの話し調子。

それでもなのはは迷わない。

 

「レイジングハート…」

 

彼女の声にレイジングハートは一切の迷いなく行動を終始させる。

それが諸刃の剣だとしても。

 

 

「エクシードドライブ‼︎」

 

魔力の膨張がなのはの身体を駆け巡る。

自らの魔力量がそのまま負担に繋がる事態になのはは悲鳴一つ上げずに耐える。

持ち主の身体を食い破らんとするように暴れる魔力はレイジングハートによりあと一歩の所で法の形となる。

最大運転時間を追求したアグレッサーモードを更に高町なのは用へと進化させたバリアジャケット。

 

 

『エクシードモード』がその戦化粧を晒した。

 

 

「づっ…」

 

顔が歪む。

移行完了したなのはは再びの反動にこみ上げる鉄の味を飲み殺しローズオルフェノクを睨みつける。

そんななのはにレイジングハートが事務的に告げる。

 

『エクシードモードへの完全移行完了。出力15%ダウン。後遺症の影響などから活動限界時間は8分です。』

 

8分。

それが現在の限界だ。

なのははコクリとそれに頷き痛む体を抑え込みながらその所為である莫大な力を相棒へと込める。

 

「エクセリオン…」

 

ガションとカートリッジが排出される。

既に満身創痍の体に余計に負担をかけるなのはを離された位置から見据えるローズオルフェノクは黙って冷淡に見ていた。

 

ローズオルフェノクは今なのはから告げられた言葉が頭の中で反復していた。

 

「勝手に判断…ですか。」

 

高まる魔力は魔法には専門外な彼にも確かに伝わってくる。

かつて三本のベルトと共にスマートブレインの研究員達が進めていた二本のベルト。

その内の一本である地のベルトは彼のファイズにすら匹敵する力を持っていたとして記憶に残る。

あの力があれば以前の戦いは自分たちの勝利に終わっていたかも知れないとこの世界で巧を見た際に思わず浮かび下らぬセンチだと一笑に付した絶大なスペック。

あの時は一蹴した机上の空論に限りなく近い力が今や目の前にいる。

 

『間違いなく目の前の相手は強い』今度はローズオルフェノクが思う番であった。

 

 

「バスタァァァァ‼︎」

 

 

 

かつてなのはの体を蝕む要因の一つとなった『エクセリオンバスターA.C.S』が成長し強化されたデバイスからより大きな力となり放たれた。

 

放たれた砲撃はローズオルフェノクに接触。

少しの拮抗と共に飲み込みその背後に広がると背景を包み込みながら海へと着弾。

熱エネルギーに類似せずとも確かな高エネルギーは数億リットルの蒸発を引き起こしそれがそのまま水蒸気として天高く昇る。

かつて闇の書の意思に向けた時の数倍の威力はそのままなのはの成熟した体を襲った。

 

「っ…!」

 

がくりと膝が曲がる。

プレシアにより無理矢理解除されたエクシードモードは本来積み重ねるべきであった綿密なリミッターの移行を介せず一気にレイジングハートにより全てのリミッターを解放させた。

元は全て川の流れに当てはまる筈である貯められたダムの水も一気に解放させれば許容範囲を超え決壊するようになのはの体に到来した彼女自身の魔力量はそのままなのはを傷つけた。

 

それでもなのはは倒れない。

卒倒しそうな痛みに耐える。

 

「レイジングハート残り時間は…」

 

『5分です。』

 

事務的に話すレイジングハートもその声に僅かにノイズが入る。

それでも主人が耐える以上デバイスである彼女が参る事は無い。

なのははレイジングハートを杖代わりに体勢を立て直す。

手応えは十分。

それでも彼女の双眼はそれを捉える。

薔薇が舞った。

 

「 」

 

のそりとエクセリオンバスターの通過点で立ち上がるローズオルフェノクは自身の体を見下ろした。

ライダーシステムの中でも最高スペックを誇るデルタの拳も跳ね返した鎧が砕けていた。

 

小さく唸る。

 

破損した筈の鎧がまるで嘘のように修復され直ぐに元の純白の装甲へと戻る。

両手を後ろで組んだローズオルフェノクはしかし今度はその風貌を本物の狂気へと変えていた。

表情のない目がなのはを睨む。

 

「目的は足止めだけだったのですが」

 

優しげな声は変わらないのになぜこんなに怖く接することが出来るのかなのはには分からなかった。

 

「私も勝手にさせてもらいましょうか。」

 

スマートブレイン2代目社長、村上峡児が笑った。

 

 

ーー

 

正にマシンガン。

 

正に砲撃。

 

ISという人型に近いサイズと風貌に騙されるがアレらは立派に兵器である。

巧を狙った福音の光弾は小島に広がった数百年ものの自然の進化を焦土へと変貌させた。

太い木々をなぎ倒し地形をすら変え森に大穴を開けていた。

軍用を目的とし更に暴走状態なため本来掛けるべきリミッターを解除したISの威力に仮面の魔導師は生物の生存を否定した。

 

生きとし生けるもの全てを刈り取り黄泉国へと誘う福音の翼に耐えられる生物など。

 

ドシュッ

 

焼け焦げた倒木を跳ね除けナニカが残った森の遥か高みに跳び上がる。

 

「逝って帰ってきた奴くらいか…」

 

本来ISにしか反応しない筈の福音が戦闘体勢へと移行する。

咆哮が轟いた。

かつては四つ葉の内の一枚に数えられた実力を持つ狼の力を受け継いだオルフェノク。

 

ウルフオルフェノクがその福音へと飛びかかった。

 

四足歩行の動物の力を受け継いだオルフェノクは大抵が前傾姿勢を取る。

法則性の解明にはスマートブレインでさえ至っていないがただそういうオルフェノク達は大抵()()

福音の高価なAIの処理速度は泥のISを凌駕する。

ウルフオルフェノクは福音に行動や思考すら許さなかった。

 

認識。

それ以外に福音がダッシュから直撃までの間に行えた事は無かった。

全オルフェノクの中でもトップスピードではゴートオルフェノクに並び機動力では他の追随を許さないウルフオルフェノクの体当たりは正に砲弾であった。

一瞬で福音の体躯を持っていき森の中を残った木々を丸ごと引き倒しながら疾駆する。

嫌な金属音の中に強化された耳に歌うような電子音が入る。

破損しながらも福音が再度羽根を展開しようと引きずられ軋む背部ユニットを無理矢理地面を抉りながら動かす。

スカリエッティとスマートブレイン、そこに亡国機業(ファントム・タスク)が技術提供した事で通常なら経験により操縦者との共鳴を蓄積しなければ発源しない第二次移行を強制的に発源させ生まれた福音の第3世代武装が再び光を生み、

 

人外の握力により両翼ごと引きちぎられた。

 

推進力を大幅に失った福音はそれと同時に重要機関を根こそぎ破壊された福音はウルフオルフェノクに投げ飛ばされ無様に純銀の機体を汚す。

島の反対側の端までほんの数秒の出来事であった。

そんな福音とは対照的に軽やかに着地してのけたウルフオルフェノクはふと後ろを振り向き対角線に映るもう一つの小島を見据える。

ウルフオルフェノクとして強化された視力は数キロ先で起こった戦いの気配をシッカリと感じ取っていた。

友人の身を案じながらもウルフオルフェノクは未だに活動を辞めない福音の機械的な動作に終止符を打つ事にした。

 

火花を散らしながら尽きかけたシールドエネルギーを更に酷使しながらも体勢の立て直しを狙う福音の巨躯が引っ張り上げられる。

片腕一本で福音を持ち上げたウルフオルフェノクは空いた方の腕を握りしめる。

両手に装着されたメリケンサックはシールドエネルギーに頼ったISの装甲など容易く貫き日の光を通すだろう。

未だに行動停止を選ばない福音のAIは後ろの脅威を排除しようと既に全損した羽根を広げようと火花を上げ続けている。

ウルフオルフェノクはそんな哀れな機械人形へと引導を渡そうとし聴いた。

 

規律正しい駆動音の中。

イカれた金属音の中。

規律の崩れた音の中にある規則正しい音階。

 

()()だ。

 

 

『人が乗っている』

その結論に至った巧は驚き福音を離す。

解放された福音は地面の岩や窪みに当たりその体勢を変える。

()()()()()()()()()()()()()()向いた福音はサブ装備に付けられたISの共通機能であるパススロットから取り出したアサルトライフルを放った。

 

通常ならば避けられた筈である。

しかし人命を確認し狼狽えた事によりウルフオルフェノクはその身体を弾丸へと晒した。

 

オルフェノクの硬い表皮にISサイズの鉛玉が弾かれ火花が散る。

特に踏ん張りを付けなかったウルフオルフェノクは先のオートバジン宜しく衝撃とともに宙へと飛ばされ、

 

チャポンと…

 

呆気なく荒波へと消えて浮かび上がっては来なかった。

 

 

 

 

「…」

 

完全に稼働を停止してしまった福音にやっと追いついた仮面の魔導師が確認する。

そして巧が落ちた海に目を向ける。

岩場に打ち付ける漂流物の中にも巧は居なかった。

 

轟音が鳴り響く。

数十メートルの水飛沫がもう一つの小島から上がるのを仮面の魔導師は視認する。

恐らくもう1人の仲間が交戦しているのだろう。

仮面の魔導師はもう一度福音に目をやる。

ウルフオルフェノクにこっ酷くやられた損傷は如何にスカリエッティ達とはいえ今日中には直らないだろう。

 

「襲撃は二日目に持ち越しだな。」

 

遠く離れた花月荘を見据えながら仮面の魔導師は福音と共に転移魔法で姿を消した。

 

 

ーー

 

その時は急に訪れた。

 

「!」

 

上空から砲撃魔法を打ち続けローズオルフェノクを攻撃していたなのはは一切の身動きも取れずに落下した。

脳裏にかつての事故が蘇る。

 

(もう落ちない!!)

 

「っ、レイジン…」

 

『Floater』

 

間一髪で補助魔法を自身に掛けたなのはは自分の砲撃で焦土とかした島の土へとその身を横たえた。

 

『エクシードモード解除。』

 

解除されたバリアジャケットが桃色の粒子となって散っていく。

活動限界時間が過ぎたのだ。

と同時に今までの反動か、先程までとは比にならない体の負担がそのまま痛覚となってなのはを襲う。

 

「ーーっ。づ、あぁぁ…っ!」

 

動けない中喉だけを震わしてその痛みを吐き出す。

直ぐにでも気を失いそうになるのを今度も鋼の精神力で抑える。

ここで終わる訳にはいかないのだ。

元の宝石に戻ったレイジングハートが目の前に転がるのを捉え必至に近い右腕を伸ばす。

痛みなどもう通り越し悲鳴を上げた内臓などの重要機関が仕切りに脳へと声を飛ばす。

度重なる悲痛に脳が意識をシャットアウトさせようと信号を飛ばす。

人間が持つ生命維持の全ての機能がなのはの敵だった。

 

それでもなのはは立ち上がろうとした。

 

背骨が軋みを上げる。

胃や肺、心臓が100キロの重みを受け潰れそうになる。

表現しようにない痛みが更に増す。

 

「がっ、あああああ⁉︎」

 

悲鳴を上げるなのはをなのはの背中を踏みつけるローズオルフェノクが見下ろす。

装甲は所々朽ち灰が零れていた。

しかしそれも一瞬のうちに白へと戻る。

 

「失礼、どうやら私の秘書が失敗をしたようです。貴方の相手はこれ以上出来ない。」

 

悲鳴を上げるなのはになんの感慨も抱いていないのかローズオルフェノクはまるで普通に部屋で机を挟んだ相手に対して離すようになのはに語りかけた。

 

「非常に有意義な時間でした。貴方の力を見くびっていた。過小に評価していた事を認めなければなりませんね。」

 

ゆっくりと踏みつける足を動かし自重のバランスを変える。

ローズオルフェノクの気品はそんな背徳的な姿勢でも映えるものであったがなのはからすればそれは地獄の拷問であった。

 

「がはっ⁉︎」

 

骨と内臓が踊り狂う中行き場を失った水風船の水が穴から出てくるように特大の血の塊を吐き出したなのははそのまま力を失ったように伸ばした手を下ろした。

漸く足を退けたローズオルフェノクは腕を後ろで組んだ。

 

「貴方は上の上の…魔導師です。」

 

その言葉と共にローズオルフェノクは花弁に包まれ消えていった。

 

最後まで睨み続けていた瞼が重くなってきた。

 

なのはは目を閉じた。

 

 

 

 

 




最初の気持ちの悪いポエムっぽいのはただの黒歴史なんで相手にしなくて大丈夫っす。はい。

ービーチバレーってメンバー違くない?ー
一夏は今のところ関わらせたい女子はモッピーと鈴にゃんとセッシーなのでシャルとラウラは遠慮してもらいました。

後この作品での一夏への恋心を抱いている女性キャラクターは今のところ箒と鈴音の他には蘭だけです。

シャルは一番の原因であった正体バレを巧や鈴音にも見られ解決を協力されましたから一夏へのキッカケは無くなり彼への想いは単なる恩人に留まったのです。
ラウラは単にキッカケが無かっただけで2人ともこれから恋心に発展する可能性は大ですが2人とも既に箒と鈴音の事を知っているのでもし解っても遠慮します。

ー薔薇社長ー

現時点でのスカリエッティ陣営最強の戦力です。
個人的にローズオルフェノクの強さはアーク以下、銀河騎士&嘉挧おじさまと並んでスリートップくらいだと思います。
ただエラスモさん屠ったブラスターに耐えた最終回ホースオルフェノク激情態なら勝てるかも?

ーなのはのエクシードモードー

プレシアおばさんが無理矢理使えるようにしただけで本来の力より劣化しています。
反動も半端ではなく実はなのはさんはもう数秒無理してたらあの世行きでした。

ー福音の襲撃ー

最初は原作通り二日目に当たる予定でしたがどうしても巧となのはを絡ませたかったため1日目にしてたっくんによりフルボッコにさせました。
それでも翌日にはピンピンにして返してくれるスカさんマジチート。

ー主人公勢瀕死ー

ファンの方すいません。
敵とか物語の今後の展開的に2人には一時離脱してもらいました。
たっくんは何時もの(笑)『水落ち』
なのはさんが即入院レベルの重症です。

ただもちろん殺す気なんてないのでご安心を。

ではまた次回。

※人気投票の開催。詳細は活動報告にて
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。