IS:ボンド   作:田中ジョージア州

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怪獣娘二期がようつべでも一周遅れで配信しました。
私はもち、リアルタイムで観ましたけど。

「キラッキラですね」ねっとりボイス
(・・?)



JJ 登場
( ゚д゚)



クレジット流れる



青柳尊哉

wwwwwwww


でした。


42話 襲いくる拳

「貴方はこれからどうするつもりだ。」

 

観光地の不人気点に2人だけ。

千冬は今しがた一夏達を助けるため村上を追っ払ったプレシアに尋ねる。

プレシアは少しだけ思案の時間を使って決定した。

 

「花月荘に戻ってあなたたちと一緒に居ることにするわ。まあ、みんなの前には姿を現わすつもりは今のところ無いから、それは覚えておいて。」

 

一見、要求じみた失礼さを与えかねない返答だが千冬はそれを構わないとした。

 

「こちらとしても貴方に警護して頂けた方が助かる。それで……」

 

一息置いて千冬はチラリと横目を行う。

向いた先はプレシアもよく知る方向。

直ぐにその理由を見つけてプレシアは返す。

 

「束ちゃんが心配?」

 

「いえ、」

 

即答して、直ぐに止まる。

今度は千冬が言葉に詰まる番だった。

否定しようとして心の中の束に対して抱くナニカがどうしても許容出来なかったのだ。

 

「、生徒のためです。アイツが失敗すればそれはあの子達に降りかかりますから。」

 

結局こじつけ的に解決して千冬はプレシアに返した。

無論そんなあからさまはカウンセラーでなくとも判る。

 

「いいんじゃない?別に親友が心配でも。」

 

髪をかきあげ品を付けるプレシアに反応を返すことができずに千冬はもう一度、今度は単にプレシアから逸らすためだけに横目を行った。

 

「私は束ちゃんとはそういう間柄ではないけれども、これから危険に身を投じようとしている彼女の事は想っているもの。」

 

そしてプレシアは言葉を中断した。

言葉尻的に続きそうな感覚を覚え待ってしまった千冬は思わず顔を向ける。

してやったりというような笑顔があった。

ケラケラ笑いながらプレシア。

 

「さあ、行きましょう。今のあの子たちは多分凄く不安がっている筈よ。」

 

「……」

 

「行ってあげて、織斑先生。」

 

ーー

 

「ああ、その通りだな。貴方は別に放って置いても困らんが、生徒たちはそうはいかないからな。」

 

「あら、」

 

歯に着せぬ言い方にプレシアは少しだけ肩を竦めて、しかし気にせずに2人は生徒たちの待つ花月荘へと戻って行った。

 

「……」

 

黙した千冬。

今度は振り向かなかった。

 

 

ーー

 

傾斜を駆け上がっていく。

息を切らさずにさっき駆け下りた山道を今度は上がっていく束。

ぞろっぺえスカートを振り乱し、見かけ的にあり得ない速度でそこそこのや傾斜を駆ける束は間もなく決戦の用意へと辿り着いた。

 

「ゴーレム起動‼︎」

 

優れたAIを持ち、所有者から遠く離れた地点でも単独行動が出来るゴーレムシリーズだが、起動だけは束から何らかの直接的なアクセスが必要となる。

それは声紋だったり、又は指紋や網膜スキャンだったり、兎に角彼女の意思が介入しなければ彼らはその高性能スペックを生かす事は永遠にない。

何故そんな仕様にしたかと聞かれれば、特に時間もなく束は「私の物だから」と何気なく答えるだろう。

 

自分が作ったものだから自分が動かす。

 

そういう潜在的な欲のような正当性を束は身につけて居た。

果たしてそんな製作者の信念の号令の下、ゴーレムⅢはその無機質な瞳を孤島へと向けた。

搭載されたデータなある福音の反応を速くも感知したのだ。

 

やはり近くに来ていた。

 

既に断定された事柄に束は執着しない。

言葉を発しない流線的な鎌首へと視線を譲って次に思考を移した。

発見の後は今後の戦力の展開だ。

なのはや巧からの連絡は未だない。

迎撃隊と共に先遣隊の役割を持たせた2人は、特になのははサーチャーなどでその方面への能力は全力ならば、今しがた束に福音の存在を知らせたゴーレムよりも上だ。

 

なのはは真面目だ。 そして世話焼きだ。

恐らく束の言いつけ通り魔導師かガジェットドローンの相手だけを専念しながらも全体のために福音や、それこそオルフェノクまでカバーしようとし、感じれば直ぐにでも自分に知らせるだろう。

 

なにかあったのだ。

 

知らせる余裕も無くなるほどの出来事、それ以外の選択肢に譲れない程の苛烈な戦いが。

豆粒並みの距離の小島で今も尚、それと戦闘を行なっているのだ。

 

「なのはちゃんがそうって事は、乾くんもそうか。」

 

巧に関しては単に束に伝えていないだけかも知れないが、敵はそこまで甘くはない。

十中八九、30分前に別れたあの2人は其々の戦いに専念している。

束はもう一度ゴーレムⅢに目を向ける。

急ごしらえの新型は本日前線に出せる状態の機体はコイツ一機だけだ。

どちらかに出せばどちらかはカバーできない。

 

(なんで私、あの子たちの事心配してるんだろう。)

 

目線はゴーレムのまま、心配ごとを妹達が居る花月荘ではなく、知り合って数ヶ月の単なる顔見知りに向けて居る自分に束は驚いた。

 

「あの子達との関係はスカリエッティ打倒までのものだ…」

 

言い聞かせるように束は今度こそ視線を小島ではなくその向こうから来ているであろう福音へと向けた。

 

 

ーー

 

「だったら早いとこソイツ向かわせりゃあ、いいんじゃねえの?」

 

軽い口調が束の琴線を叩く。

前へと飛び出しながら空中で身体を反転させ声の方向を睨んだ。

意外な程近くに居たソイツは口調と同じくラフに木々にもたれ掛かっていた。

 

「なんだ。」

 

口ずさんだ内容は単純。

真偽を問うだけながらもその受け取り方は多様すぎる。

しかしその単語を選んだ束の抱く大きすぎる敵意の感情はこの場の何よりも明快であった。

 

マンティスシュリンプオルフェノクはそのグラブ状の拳を器用に組んで、尚も、うーん。と軽薄に唸ってから答える。

 

「妨害行動。」

 

飛び出すのと飛び退くのは同時だった。

 

ーー

速度というものがある。

物体運動を表した数値の中で最も一般的に連想しやすい速さを人は国境の壁薄く、示し合わせた共通認識のように使っている。

 

距離を駆け抜ける時間が短い。

 

そういう点であれば今しがたマンティスシュリンプオルフェノクが突き出した右腕も、当然のようにそれに含まれるのだろう。

不特定多数の誰かによればプロのボクサーの拳が持つ速さの中、人体反射が追いつくことが不能と呼ばれるジャブの速度が、大体、時速40キロ程とされている。

 

野球選手の投球と比べるか、長距離走の走者の平均速度と比べるかで恐らく随分感じ方が違う速度だが、これが80センチそこそこの距離で放たれると想像してほしい。

 

人間の反射神経は(反射神経という神経は存在しないため表現としては可笑しいがここでは無視する)大抵が0.2秒、限界でも0.1秒を下回る事は稀というらしい。

それに比べて40キロという数値はこの距離内ではコンマの数字がもう一つ増えることになる。

つまり避けられないという事だ。

 

そんな不可避のジャブをもっと極限まで高め上げた生物がマンティスシュリンプオルフェノクがモデルとする『シャコ』だ。

最速、時速80キロに達するとされるその爆発的瞬間速度は余りの刹那に、彼の弾道上の海水が沸騰するほどだという。

 

ーー

 

オルフェノクとして受け継いだ特殊技能。

マンティスシュリンプオルフェノクが何気なく突き出した拳速は何万回の進化が重ねた洗練化への反復運動を唯の一度で超えていく。

最早その速さはこの世で最も早い進化である科学技術すらも上回り、物理的限界の最後の狭間。

その超至近距離まで到達して束を打った。

 

咄嗟のバックステップを軽く潰したダッシュ。

避ける暇もなく束はこの世で最も速いジャブに身を晒した。

……

………

…………

ぴかり。

 

 

ーー

 

「んん??」

 

急に目の前を眩ます閃光に、脊髄反射で拳を制止させる。

トサリ、と軽い着地音が直ぐ先で聞こえる。

オルフェノクの聴覚が女の声を拾う。

 

行け。

 

光の晴れた先に変化が訪れた。

 

「ん〜〜?」

喉を鳴らし辺りを見渡すマンティスシュリンプオルフェノクに、その数メートル先に佇むうさ耳の女は煽るように口を開いた。

 

「どうしたの?死んだらお目目まで腐っちゃったのかなぁ?ねぇ、『近藤さん』。」

 

煽りには応じず、しかし遊びを感じない軽い声を束に掛ける。

重圧感のある軽薄さを近藤は発する。

 

「篠ノ之束は人の名前は覚えないって聞いてたけど?」

 

「私の常人の数兆倍有能な脳細胞を死なせたバカの名前なら特別に覚えておいてやったんだよ。」

 

殺意を交えた束がデフォルメの狂気を出す。

笑顔の能面の奥が晒された。

「それは光栄で、それよりさぁ。」

 

近藤は再び辺りを見渡す。

モノクロな瞳には呆れの情が混入していた。

 

「俺とタイマンでやる気か?」

 

先ほどまで襲撃にも反応せずに鎮座していた真紅のゴーレムが影も形も無かった。

 

「生憎、時間がなかったんで肝心のプログラミングは不十分でね。登録しておいた相手以外には攻撃もなんもしないのよ。」

 

対福音としてセッティングされたゴーレムⅢはそのものズバリ、対福音だけのものであった。

足りない時間を何とか機能制限という打開策で解決した結果、ゴーレムは銀の福音以外の対象を攻撃する事は出来なかった。

 

「それでも簡単な命令なら聴くだろうに…自殺志願者なんかね?」

 

尚も我、納得いかぬ。という近藤はグラブ状の手で器用に頭をかく。

 

「別に、唯邪魔されたくないだけだよ。スカリエッティもそうだけどお前にリベンジしていいのは私とちーちゃんだけだ。」

 

10年前に自分をコケにし、殴り、そして親友を拉致した。

あの日に関わりを持った人物くらいしか束には介入を許さなかった。

その言葉を最後にして束は拳を握り黙した。

 

「……」

 

窮したか?

同じく黙したままながらもやはり優位にいるのはマンティスシュリンプオルフェノクだった。

束と自分の間にある差は決して生身の恩恵で、しかも正攻法で何とかなるものではない。

ガジェットドローンを素手で破壊する豪腕は大したものだと言えるがそれもオルフェノク、特に甲殻類特有の固い鎧を持つマンティスシュリンプオルフェノクには通用しない。

 

強さだってそうだ。

 

この数メートルの間合い外だって、潰そうと思えば直ぐにでも、束の反応が追いつく遥か前にあの華奢な体躯を砕いてやれる。

 

「ま、死にたいんだったら別に断る理由もないし?」

 

トントンと軽いステップを踏む。

 

「そらっ!!」

 

先ほどと同じくジャブで沈める。

軌道も同じ、それでも予測上での回避など間に合う筈もない。

吸い込まれるように束の胸元にマンティスシュリンプオルフェノクの拳が打ち込まれ、

 

「またかい。」

 

光が視覚を奪った。

またもや反射で止まってしまったマンティスシュリンプオルフェノクの体が突然の浮遊を体感する。

そしてその意味を考える暇も与えられず、彼の体は90度の人為的な調整の後、彼の鼻っ柱を打ち付けた。

 

「ぶへ、」

 

気体排気が滞り詰まったような声が漏れる。

異形の体で起き上がった彼は人間臭くも打ち付けた鼻をさする。

再びの浮遊感。

今度は回復した視力を妨げる光が無かったことにより、よりハッキリとした集中でマンティスシュリンプオルフェノクは物事を認識した。

異形の体躯をその細腕で軽々と担ぎ上げた束は、再び、慈悲もなく顔面から固い地面へと叩き落とした。

 

タンッと、一足跳びで距離を離した束はスカートに付けたポケットを弄る。

手触りを感じる。

明らかな固体を握りしめて束はそれを取り出した。

見る者が見ればそれは驚きと畏敬に似た念を抱くだろう完成度であった。

 

「デバイスか…」

 

見る者であるマンティスシュリンプオルフェノクが呟く。

ダメージなど感じていないようにコキリと首を鳴らす。

無言で束はひし形に造形されたソレの裏側にある留め具で服に取り付けた。

よく見れば彼女の胸元あたりには普段は見ないブローチが付けられていた。

形はひし形、中央に付けられたガラス玉のような宝石が収められている。

束はそれを、新しいブローチと交互するように取り外し、ポイっとマンティスシュリンプオルフェノクに投げつけた。

 

(攻撃、ではないか。単に捨てるよりは良いと思っただけだろう。)

 

果たして予想通りか、固い表皮に弾かれたブローチはそのまま地面に落ちそのまま軽い音を出した。

パチリと留め具を付けた音が鳴る。

中央に付けられたガラス玉は少し白く濁っていた。

マンティスシュリンプオルフェノクにはその正体が直ぐに分かった。

 

「魔力か…どうやった?」

 

先程は無言であったが果たして束の閉じられた上下の口唇(こうしん)は静かに開いた。

 

「作った。」

 

一言。

その一言がどれほどの意味を持つのか、瞬時にそれは無表を強張らせて表された。

 

「無茶苦茶だねぇ。」

 

呆れたようにマンティスシュリンプオルフェノクは宝石、それに込められた人口魔力を見る。

 

「別に難しい事じゃない。魔力素自体はそこら中にあるし、そっち関係の専門家も居た。魔力を爆発的に解放させる機構くらいならこのサイズにする程度、束さんなら簡単。」

 

そう言い束は再びマンティスシュリンプオルフェノクへと駆け出す。

右へ、左へ、スカートをたなびかせてまるで四足歩行の獣のような俊敏さで接近して来る。

今度は見逃すまいと必要以上に目を凝らすマンティスシュリンプオルフェノクの集中に、またも妖しい白光が揺らぎを与えた。

途端に鈍くなる体にマンティスシュリンプオルフェノクは舌を打つ。

 

(認識阻害か錯乱系か…厄介なもんまで付与されてやがる。)

 

ただ込められた魔力を閃光弾のように爆発させ目を眩ますだけかと思っていたが、どうやら簡易的なあのブローチに施された技術は思いの外厄介なものであったようだ。

バッチリ目を凝らして見てしまったマンティスシュリンプオルフェノクは、これまで以上に混乱状態へと陥った。

腰元に確かな感触を感じる。

張り付いた瞬間、跳ね飛ばしてやろうかと考えていたが、それすら出来ずにマンティスシュリンプオルフェノクは3度目の地面とのキスをした。

 

 

ーー

 

高高度。

鳥が届かない位置。

羽虫が見上げるしかない位置。

ゴーレムは真紅を太陽光で光らせて飛んでいた。

 

急ごしらえという束の不安を抱かせたゴーレムIIIは、しかし確かな力を持っていた。

銀の福音という固体情報にだけ特化させた結果、それ以外の敵性存在には、任務の障害と彼のAIが判断しない以上攻撃をしないため後手に回らざるを得ないが、 それでもその戦力は並みのオルフェノクならば状況次第では単独での打倒も可能な代物だ。

そんなハイスペック機だが、矢張りいざ登録外の強者による攻撃には無力であったようだ。

 

突如、背部に突き立つ灰色の凶器が目下の目的意識を破断させた。

突き立てられたのは長く、細く、鋭いもの。

見上げた先は頭上。

天高く、あの翼を焼かれたイカロスを嘲笑うかのように太陽を逆光に輝くモノクロの大翼。

ホークオルフェノクが自ら虚空より生み出した弓を携えてゴーレムを見下ろしていた。

シャコと違い敵に軽口など言わずにホークオルフェノクは再度、何もないところから精製した特性の矢を継がえる。

ハイパーセンサーを利用したゴーレムの認識可能範囲からすれば大した距離ではない。

それでも人が狙いをつけるには十分すぎるほど、安心を抱ける安全圏である。

ギリギリ、と弓が軋む音をゴーレムの好感度ソナーが捉えた。

引き分けに要する力は一体、如何程であろうか。

おおよその隙と取れる、鷹の見せた唯一の油断。

 

潰したのは矢張り意識の差。

 

初めから狙っていたホークオルフェノクと予期せぬ攻撃にその後の行動を改めてCPUで処理し直したゴーレムとでは雲泥の差があった。

 

果たして打ち出された矢は音速を超え、ゴーレムの中枢システムに強く打ち立てられた。

 

 

ーー

 

距離を取る。

それが生命線。

魔法により混乱状態に陥ったマンティスシュリンプオルフェノクを叩きつけた束はすぐ様軽やかに跳び去った。

 

チラリと今しがた自分には害のない光で瞬間の隙を作り出したブローチを弄る。

 

(これはもうダメだな…)

 

白く濁っていた宝石は先程のブローチ同様ガラス玉のように透けていた。

確認した束はブローチを服から取り外し、今度は捨てずにポケットにしまい、新しく取り出した白く濁ったブローチを付けた。

のそりとマンティスシュリンプオルフェノクが起き上がる。

相変わらず外装はダメージを見受けられないが魔法の効果か少しフラついている。

それでも束は近づかない。

無機質な瞳がこちらを写していなかろうと関係ない。

10年経った今でも束の脳裏にはあの日、自分を殴り飛ばしたこのオルフェノクの姿が強く残っている。

僅かなダメージなど一撃でひっくり返される。

だからこそ束は行動を止めたわけだし、それがマンティスシュリンプオルフェノクの新たな展開を許したわけだ。

 

「ん〜、くらっくらするなぁ。」

 

頭を小突きながら立ち上がったマンティスシュリンプオルフェノクは何を思ったか、元居た場所である腰掛けて居た木の場所へとふらつく足取りを進める。

 

(逃げるか?)

 

それならそれで別に良い。

マンティスシュリンプオルフェノクは確かにスカリエッティに匹敵して憎い相手だが、それでも現段階の装備で打倒できる相手ではない。

口惜しいことには変わらないがその実束は内心「ほっ」と一息着いたような心境であった。

 

ガサリとシャコが木の葉を散らす。

背を向けながら草むらを弄るオルフェノクの姿というのは中々場違いな物であったが、やがて気怠げに振り向いたマンティスシュリンプオルフェノクに束の顔が強張る。

 

「ワリィがそっち系の魔法には耐性が無いんでね、チョイとドーピングさせて貰うよ。」

 

金属音が鳴る。

灰色で構成された体には異質な色。

それでも黒と白のモノクロ調なデザインはある意味彼らの体色に合っているものであったが、機械式という要素がその相容れなさを上長させていた。

 

「ファイズ⁉︎」

 

マンティスシュリンプオルフェノクがその腰に付けた貴金属の類は紛れもなくベルト。

実用品としては巨大すぎ、装飾品とするならば些か無骨なメカニカルな見た目は束の言う通り、ファイズと同等のものであった。

 

「いや、違うね。」

 

マンティスシュリンプオルフェノクがグラブ状の拳で器用にベルトの右側に付いてあった電話型デバイスを耳元に運ぶ。

 

「変身。」

 

巧と同じ単語。

あちらが決意を込めての力強い言葉ならこちらは単にそれが入力コードだから。

次いで続いた電子音がまたその機械的な言葉を馴染ませた。

 

《Standing by》

 

ファイズギアとは別種のガイダンス経緯。

我に帰った束が閃光魔法を使おうとする前にマンティスシュリンプオルフェノクはその身を変えていた。

 

《Complete》

 

ブローチの光を掻き消す閃光が今度は束の目を眩ます。

 

ファイズが鮮やかな紅ならこちらはモノトーン色。

黒いライダースーツを走る白いブライトストリームが妖しい力を感じさせる。

冷徹なオレンジ色の瞳が束を見据えていた。

 

「デルタってんだ。」

 

変わらぬ軽い口調は紛れもなく近藤のものであった。

 

「他のベルト…」

 

(ファイズの説明書には書いてなかったし…つか、言っとけよあのガキっ。)

 

心の中でデルタの存在を一切匂わせもしなかった巧に毒づく。

束が知るよしもないが、遠く離れた孤島において巧も同じく束に毒づいていた。

歯軋りをする束の表情は苛立ちと焦りが写し出されていた。

デルタが足を踏み出す。

変身の影響からか、その足取りはシッカリとしたもので錯乱の効果は見えない。

 

(ならもう一度ピヨらせるまで。)

 

束がブローチに、正しくはブローチに内蔵されたコアへと秘密の命令を下す。

誤爆を避けるため束にだけ分かる命令を受けた簡易デバイスとも言えるブローチは内包された魔力をただ解放、そしてそれに唯一付与された魔法である錯乱系の魔法を狂気の光としてデルタへと浴びせた。

この光を浴びた者は一定時間、脳の判断能力に軽度の障害を負い戦闘に支障をきたす。

さっきから近藤が反撃しようにもおぼつかなかったのはこの光に含まれた魔法に掛かってしまったからなのだ。

そしてその混乱の魔性がデルタのそのオレンジの瞳に吸い込まれていき、

 

微かな赤い稲妻が光を跳ね返した。

驚く束に近藤の軽い声がかかった。

 

「悪いね。洗脳させたかったんだろうけど、先約が入ってんだ。」

 

トントンと自分の胸部を指で叩くデルタ。

 

「よくは分からんがデルタはこっから特殊な電気信号で装着者の闘争本能を無理矢理上げさしてんだ。」

 

「まあ、変身する奴もピンキリでね。誰でも使いもんになるように付けられたらしいけど、これがちと厄介でな。」

 

「意思が弱いとデルタに飲まれるらしい。オレ程となるとそんな心配も無いけどな。せいぜい少しテンションが上がるくらいだ。」

 

饒舌に語るデルタは確かに少々昂揚している風に見えた。

一方の束は冷静に、既にブローチを破られた衝撃から立ち直っていた。

 

(闘争本能…脳内麻薬の分泌を作用させてるのか。それとも脳波に…だとしたらガンマ波か…どちらにせよこいつはもう本当に使えなくなった。)

 

自分の置かれた状況を理解した束はらしく無い冷や汗をかいた。

新しいベルトの戦士の実力は未だ不明だが、最低でもファイズと同等と考えても生身の自分では勝ち目はない。

その上唯一の対抗手段であった人口魔法はもう使えないときた。

今更ながら束はゴーレムを身元において置かなかった事を後悔した。

デルタはゆっくりと、確かに束へと足を進める。

ジリジリと追い詰められていく束はそれと同じく後退していく。

とん、と背中が詰まった。

 

「っ…」

 

いつのまにか木を背にしてしまった束は一瞬血の気が引いた。

咄嗟に後ろを振り向き動きを止めた彼女をデルタは見逃さなかった。

 

 

 

「がっ⁉︎」

 

 

 

空気と少量の血を声とともに吐き出す。

ファイズ以上の俊足で瞬時に距離を詰めたデルタの拳が、あの時よりも成熟した束の腹に突き立てられたのだ。

木を背にしていたため衝撃をモロに食らってしまう。

 

「づっ、!」

 

それでも意地が拒んだか、地へは倒れずに踏み止まる。

苦悶ながらも強く睨みつける束にデルタは笛を吹いた。

 

「やるねぇ。」

 

「っ…束さんは、細胞レベルでオーバースペックなのよ…」

 

微量の血を口から垂らしながら、掠れた強気がデルタを叩く。

それがお気に召したのか近藤は機嫌が良さそうにケラケラと笑った。

 

「そいつはスゲェ。もしオルフェノクに覚醒したらさぞ素晴らしい力を得るだろうよ。」

 

それは恐らく掛け値無しの賞賛であったろうし、それからの彼の変化を言い表せば、それは怒りに他ならなかっただろう。

 

「気味が悪いねぇ…」

 

「なに?」

 

息を乱しながらの束の弱々しい呟きに近藤の今までの軽さが陰った。

 

「お前らみたいな出来損ないの死に損ないになるくらいなら、いっそきっぱり死んじゃった方がまだマシだよ。」

 

心底思っている事だった。

束にとってオルフェノクの価値は侮蔑の域にあった。

足掻きにあがいた結果、死に。

それでも残り落ちたほんの燃えかすから現世に蘇った、究極の往生際の悪さに束は嫌悪した。

 

「お前らはその醜い姿が至高のものだって勘違いしてるかもしんないけど、私に言わせればオルフェノクなんて美的センス0の凡人が、死んで、そのどうしようもない感性からひねり出されたダッサイ格好みたいなもんだよ。」

 

「天才な束さんはそんなのヤだね。死んだ方がマシ。」

 

嘲笑う束に暫しデルタは仮面を黙らせていたが、急に束の細首へと左腕を飛び込ませた。

 

「ぐはっ⁉︎」

 

締め上げられる束は更に空気を吐き出し表情を歪める。

引き剥がそうと伸ばされた両手がデルタの左腕を叩く。

が、まるでピクリともしない万力は更に束の思考を薄れさせて行く。

 

「なら死ね。」

 

低くデルタ。

尚も締め付けを緩めないデルタはそのまま束の足を空へと蹴らせていく。

 

「あっ…ああ…!」

 

呼吸を断たれた束はどんどんとその顔を青ざめさせる。

強化された聴覚が軋むような音を拾ってもデルタは構わず力を強めていった。

着実に死へと近づく束。

最期の一押しを込めようとした時であった。

 

 

 

 

 

 

♪〜

 

 

 

軽快な、場違いな旋律。

何処と無く安っぽいメロディはデルタの腰にある変身道具にも使うデルタフォンから流れていた。

 

「……」

 

何かの有名ヒット曲を短く切り取ったそれを二、三回ループさせた後に近藤はそれに出た。

 

 

ーー

 

崖の上に男が居た。

崖へと波を打ち付け弾ける水飛沫を見下ろしながら立つ男の足元には福音迎撃に向かったゴーレムⅢが仰向けになっていた。

綺麗な真紅を傷一つなく誇るゴーレムだが、たった一つだけの例外に、胸の中央に刺さった矢がその流線型からはとても歪だった。

動かないゴーレムの側に立つ男は耳へと当てる携帯に向かい一言述べた。

 

「撤退だ。」

 

電話の向こうの相手は少し間を開けてから答えた。

 

『分かった』

 

男は携帯を切りズボンのポケットへと仕舞い、そして次の瞬間にはその場から消えていた。

 

 

ーー

 

「がっ⁉︎」

 

地面へと投げ捨てられた束は受け身も取れずに自慢のドレスを土で汚す。

一方のデルタは空気を貪るように咳き込む束になんの感慨も抱いてないように踵を返し、その場から離れていく。

 

「ま…待て、っ。」

 

喉元を抑えながら立ち上がった束がデルタを止めた。

 

「その待てはどういう意図での待てだ。」

 

デルタが振り返った。

オレンジの瞳が束を写す。

 

「まさか、まだやり合おうって意味じゃないよな?」

 

デルタの問いかけに束は目を逸らし黙るしか無かった。

「それでいい。大人だもんな?ちゃんと考えて行動しねーと。」

 

元の調子に戻った近藤の声に飛びかかりそうになる体を抑えて束は拳を握りしめる。

 

「ご褒美にこれやるよ。」

 

俯いたままの束の視界に突如金属製のベルトが滑り込んでいた。

デルタだ。

慌てて顔を見上げるとデルタではなくマンティスシュリンプオルフェノクへと姿を変えた近藤が束を見下ろしていた。

 

「今のままだと俺達が余りにも有利だからな。」

 

それだけ言うとマンティスシュリンプオルフェノクは跳躍。

痛む身体も忘れて立ち上がり追うが、直ぐに木々の向こう側へと消えてしまった。

今度こそ無人の周辺。

束は少し躊躇しながらもデルタのベルトを取り上げた。

見た目通りの重さが右腕にのしかかる。

 

「……」

 

無言で視線を向けていた束だが、不意に無造作にベルトを肩に担ぐとブローチを入れていた所とは別のポケットに手を突っこむ。

やや乱暴に取り出された携帯型デバイスの画面を睨んだ束はチッ、と舌を打った。

 

「やっぱやられてたか…」

 

画面には束の現在地を示す点と、その位置からは少し離れた所で点在している赤い点がピクリとも動かず点滅していた。

ゴーレムを表すものである。

製作者権限で福音迎撃を防がれたことを知った束は次に別のデバイスを取り出し画面を操作する。

それはかつてなのはに与えた通信機と同型のものであった。

耳元は当てコールを数回確認する。

 

なのはは出なかった。

 

「……っ!」

 

頰を嫌な汗が流れた。

駆け出す気を抑えて束は今度は別の番号へと通信を掛けた。

しかし結果は同じ。

向こう側からの肉声は決して届きはしなかった。

そして今度こそ束は走り出した。

既にデルタにやられた怪我は回復したのか、それともやせ我慢か、しかし傾斜を駆け上がる束は苦しさなど感じさせない足取りで山道を駆けていく。

 

はやる気持ちをそのまま原動力として束は走った。

 

 




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