恵との帰り道、少し気になった書店があった。
「けーくん、書店によってもいいかしら?」
「別にいいですよ。」
私は少し嬉しくなる。
書店独特の本の香り。
「あら、新刊が出ているわ。」
好きな作家の新刊が出ている。
「本当に先輩はその人の小説が好きですね。」
恵に言われる。
「え?なんで知ってるの?」
「だって前に・・・。
その、ちらっと鞄から本が見えたからです!」
なぜか誤魔化される。
「そう、女の子の鞄を覗き見とか・・・。
サイテー。」
恵に軽蔑した目を向けてみる。
「え?ご、ごめんなさい」
「冗談よ。この人の小説はおすすめよ。」
私はペロっと舌を出す。
でも、何かがひっかかった。
私は、鞄の中に本をいれる時に防水カバーを必ずかけている。
それも茶色い、本の題名がみえないような。
「先輩、何かおすすめの本を教えてください。」
ひとまずはいいか。
恵を見てると退屈しなくて済むし。
*******
今日はいつもより警戒している。
実は、一緒に帰るのは今までにない展開だから。
予定通りならば、先輩は一人で帰り、そのままお風呂で溺死するはずだった。
だから、この展開にはほっとしているが、不安もある。
先輩はいつも見せるような大人びた表情ではなく、
年相応の可愛らしさがある。
おすすめの本を選んで貰ったけれど、
その本のタイトルは「人間失格」だった。
太宰治の。
「その小説、ちゃんと読んだ事ある?」
「いえ。ないですね。」
先輩は笑顔で言う。
「ちなみに、私はその小説が大嫌いだけど愛しているわ。」
矛盾している。
どういう意味だ?
「私、実はね。
心中する人が嫌いなの。」
さっき、心中しない?とか言ってたのに?
「確実に二人が死ねるなんてないわよ。
大抵、失敗するか、片方が怖くなってやめるか。よ」
忌々しげに人間失格を見つめる。
「でもね・・・。
この小説を読んでいるとね、自然と夢中になってしまうの。
読み終わったら、そのまま死にたくなっちゃうけど。」
忌々しげな表情が一転、見とれる程の笑顔に変わる。
「ねぇ、けーくん。
私を殺してくれないかしら?」
今まで彼女に言われた事がない訳ではない。
でも、今日は何かが違った。
「好きな人を殺せなんて、残酷な事を言うんですね。先輩。」
先輩の顔が硬直する。
するすると仮面が外れるかのように作った笑顔が剥がれる。
あぁ。先輩のこの表情が一番好きだ。
「けーくん。死んで。
死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んでっ!
気持ち悪いっ!この為に私の邪魔してたの!?
偽善者っ!汚らわしい!
金輪際話し掛けないで。」
・・・。
ここまで言われるのは初めてだ。
嫌われたかな?
「なんてね。
冗談よ。えぇ、冗談。」
言い聞かせるように呟く先輩。
「けーくん。ここで今日はさよならにしましょ?」
可愛らしく微笑む姿がとても愛らしい。
「はい。
お風呂で眠らないでくださいね。」
忠告をする。
「お風呂で眠らないわよ。
それよりか、お布団で寝るわよ。
ねぇ、私の事が本当に好き・・・なの?」
「好きです。」
「そう。あなたって物好きね。」
そう言って彼女は帰った。
甘い、残り香をふわりと残して。
**********
初めてだ。
恵に限ってそれはないと思っていた。
今まで、気持ち悪いとしか思わなかったのに、
不思議と嫌じゃなかった。
それより、胸がドキドキしている。
違う。
私は男が嫌いなの。
これはきっと、不意だったからだと思った。
でも、聞き返してもドキドキする。
どうしよう。
私の胸が壊れたみたい。
私は眠るのが怖い。
眠る度に怖い夢を見る。
それは私が死ぬ夢だ。
その通りに死のうとすると、恵が止めにくるのに、
夢の中では恵は来ない。
私は、眠っている間に死ぬのだけは嫌だ。
ちゃんと、起きている間に死にたい。
何の為に生きているのかが見つかれば、きっと生きるのが楽しいのかしら。
こんな能面みたいな私でも、
表情を作らないと笑えない私でも死にたくない、なんて思えるのかしら。
そんな事を考えていたからか、
私は目の前で包丁を持った男に刺されるまで、
状況が理解出来なかった。
「先輩!?」
手に私のさっき買った本を持った恵がいた。
わざわざ届けにきてくれたのね。
「きゅっ、救急車っ」
慌てて電話を掛ける恵。
本当に優しいのね。
私を刺した男はどこかへ逃げた。
「けーくん。」
周りの人が集まっていく。
あら、注目されながら死ぬのは嫌ね。
「す・・・きに・・・ってくれ・・・て・・・ありが・・・とぉ」
気が付いたらそう言っていた。
最後に見えたのは、泣きじゃくる恵だった。
*********
先輩が動かなくなった。
満足気な顔のまま。
これから俺は1週間前に戻らないと。
また先輩が死なないように、先輩が殺されないように。
恵と先輩は高校生くらいで考えてくださいませ♪
容姿についてはそこまで考えてませんが、先輩は黒髪ロングなのは絶対ですw
今日の投稿はここまでにしておきます。
次回の投稿は来週くらいです!
少々お待ちくださいね!
それでは闇に飲まれよ!