[Report3-8 タケシの忠告]
シビシティ・ポケモンジム前。
相変わらずの威圧的な銅像佇む入口には、3日ジムの営業を中止する旨の札が掛かっていた。
その理由を当然知っているスゥ達。
昨日のタケシとの約束のため、その札をくぐりジムの中へと訪れた。
タケシ「…来たな。あれから調子はどうだ?
博物館でずいぶん活躍だったようだから、不要な心配かもしれないな。」
スゥ「あ、はは…。やっぱり知ってるんだ。」
博物館にてピコが起こしたひと騒動。
スゥ達は、原型を留めない姿のリニアモーターカーの横で館長にひたすら頭を下げてきたばかりだった。
しかしメンテナンス用の配線を剥き出しにしていた博物館側にも責任は有るとの事で、
なんとか弁償は免れたようだ。
タケシ「君たちは退屈とは無縁なのだろうな。
…さて、わざわざ呼びつけたのは他でもない。
昨日の連中…『ロケット団』について話しておきたい。不愉快な話になるだろうが、我慢して聞いてくれ。」
スゥ「ん…教えてほしい。あいつらは一体なんなんだ?」
タケシ「奴らは、一言で言えば『ポケモンを武器にした暴力団』だ。
昨日の件で知っての通り、ポケモンを悪用した盗み、傷害、誘拐などが主な活動だ。
10年ほど前から湧き始めたんだが、この数年、特に悪事が目立つようになってきた。」
スゥ「10年も前から…?警察はあいつらを捕まえられないの?」
タケシ「キリがないんだ。捕まえても捕まえても、奴らの仲間が増えていくペースの方が速い。」
スゥ「じゃあ、リーダーを捕まえないと!
捕まえた団員からリーダーを聞き出せなかったの?」
タケシ「…駄目だった。その名前を聞き出そうとすると、団員はみな『記憶喪失』を起こした。
催眠を掛けられているのだろう、ロケット団にいた頃の記憶が全て無くなってしまうようだ。」
スゥ「記憶喪失…?」
団員だった頃の記憶が全て無くなる。
いくら団員を捕まえた所で組織の頭を見つけられないことには、根本の解決にはならない。
そんな思いの他に、嫌な想像がスゥの頭をよぎった。
スゥ「…あのさ、記憶が無くなるって事はもしかすると
『自分の悪事まで忘れてしまう』っていうんじゃ…」
タケシ「もちろん、そういう事だな。」
ファルナ「全部忘れちゃうんだもんね。
…だけど、それがどうしたの?」
スゥ「ファルナ、考えてみて。
気がついた時には『自分が何故捕まっているのか全然わからない』んだよ。
だけど自分に覚えはなくても、自分が起こした悪事で傷ついた人が確かにいるんだ。
それって、凄く怖いことじゃないかな?」
ファルナ「あ…!」
ファルナは身をすくめ、それ以上言葉が出なかった。
『無実の罪』なら、いつかは疑いが晴れて救われるかもしれない。
しかし団員だった彼らは違い、無実ではない。
全く身に覚えのない罪の償いを強いられる。
タケシ「…それが、この集団の質の悪さだ。
団員は皆、目が覚めるといたって普通の人だ。穏やかで、人の気持ちを理解するまっとうな人間。
そんな彼らに、憎しみの目を向ける被害者。
あの辛さは幾度感じても慣れることはない…というよりも、もううんざりだ。」
ファルナ「…だけど!それでもロケット団を捕まえないと増え続けるんでしょ…?」
タケシ「わかっている…!
俺は決して諦めない。
こんな卑怯な手を使うリーダーを、必ず捕まえてみせる!」
スゥ「タケシ!俺たちも…」
タケシ「協力する、と言いたいのだろう?
そう言いだすと思ったが、ダメだ。
俺は君にそんな事を言わせる為に、ここに呼んだ訳じゃない。」
タケシはスゥの言葉を遮り、話の筋を戻す。
タケシ「君たちは今後も旅を続けるというならば、恐らく何度もロケット団とも出くわしてしまうだろう。
…干渉することが無ければそれが一番だが、最悪の状況を避けるための忠告をさせて欲しい。」
スゥ「忠告…?」
タケシ「忠告は『2つ』。まず1つ目だが…
奴らは、『疑い、辛さ、憎さ』といった負の気持ちに付け入ってくる。
君たちといえど、長旅で心まで疲れてしまうこともあるだろうが、
仲間と強い信頼を築いて、支え合うことができれば、きっと催眠術にかかる事も無いだろう。」
スゥ「うん、この子達となら絶対に大丈夫だ!
俺は仲間を疑ったり、憎んだりなんかしないよ。」
タケシ「いい返事だ。スゥ君だけでなく、ファルナ、ピコ。二人とも。
そして、今後増えていくだろう仲間もだ。その決意を忘れないでくれ。
ロケット団が付け入るのは、人間だけではない。君たちもなんだ。」
ピコ「んに?ボク達も…?」
タケシ「見ただろう?あの『黒いモンスターボール』を。
あれは、恐らくポケモンの心を操り、催眠をかけるボールなのだろう。
ナツ君のスピアーも危うく取り込まれる所だった。」
ファルナ「あの、シュガーやソルトっていう二人も…?」
タケシ「ポケモンの中にも初めから破壊や戦いを好むタイプもいる。
彼らが自ら進んで団員となったのか、黒いモンスターボールに操られているのかは分からない。
…2つ目の忠告だ。
『組織を甘く見るな』。昨日のダイチと名乗った奴でさえ、ロケット団の中では下っ端程度の実力だ。
それでも、俺のイワークを、万全とは言えない状態だったがあれだけのダメージを負わせた。」
スゥ「あれで下っ端なのか…。上の団員はどれぐらいの強さなんだ?」
タケシ「うむ…、恐らく上のクラスの団員なら俺たちジムリーダー程度の実力を持つ人間が数人がかりで止められるかどうか…
彼らは『ステージ』という称号を与えられている。
ダイチは最も下の『ステージ1』。その上にはステージ2, 3…とあるようだ。
トップの人間には更に別の称号があるらしいが…それは分かっていない。
特に『ステージ1』の団員は各地の至る所に潜んでいる。
彼らを君の実力で退けたとしても、彼らは君を脅威と見なし、すぐさま上に報告し潰しにかかる事だろう。」
スゥ「だけど、今回みたいに誰かが酷い目に遭ってるのに見捨てるのはできないよ。」
タケシ「スゥ君、思い上がらないことだ。
今度だって、ダイチに勝った訳ではない。勝敗着かぬまま逃げてきたのを忘れたのか?
リスクが高すぎる相手に、君の大事なパートナーを危険な目に合わせるつもりか。」
正義感を抑えられないスゥを、安直だというように諌めるタケシ。
タケシは、今回の一件からスゥはまた同じ状況に置かれれば
再び首を突っ込むと確信して彼に忠告をした。
スゥの方も、タケシの言う事がもっともであると分かっていた。
スゥ「…タケシ、忠告してくれてありがとう。
でも、目の前で苦しんでる人を見捨てなくてもいいぐらい俺たちは強くなるよ。
…それまでは、手を出さないようにする。」
タケシ「…ふむ、それが君の譲歩できる限界か。
君たちはこれから月日を重ねて間違いなく強くなる。
だが、強くなったとしてもロケット団の上層部には歯が立たない。
だから、やはり止めておけ。」
ファルナ「…そんなの…」
ピコ「そんなの!」
ファルナ・ピコ『やってみないと、分からないでしょ!』
スゥ達の話をじっと聞いていた二人が我慢の限界になり、声をあげた。
スゥ「ふ、二人とも…?」
ピコ「さっきからボクたちの事をバカにして~!
困っている人がいたら助けるに決まってるでしょ!」
ファルナ「そうだよ!タケシさん、そんな当たり前の気持ちが分からないの?」
やれやれ、とタケシは困ったように頭を掻いた。
トレーナーに似たのか…あるいは『似たもの同士』が集ったのか。
所詮イワークに二人がかりでようやく互角だというのに、目の前のポケモンとトレーナーに
彼は妙に心強さを感じた。
タケシ「はははは!
…当たり前の気持ち、か。まさかこの俺が忘れている訳がないだろう。
だが、そういう台詞は『力を持たない者』が気安く使っていいものではない。
言われっぱなしで悔しいのなら、まずは俺に力を見せてみろ。
そうでなければ、ただの戯言だ。君たち自身の破滅を招くだけだ。
そんな『当たり前のこと』が分からないわけではないだろう?」
だからこそ、彼はこの子達に期待を持って挑発的に言い、悪者になってやろうと思った。
スゥ「…分かったよ、タケシ。
まずはあんたに勝って納得させろって事だね。
そういう事なら、今度挑戦する時を楽しみにしててくれ!
…今日は忠告してくれてありがとう。そろそろ帰るよ。
行くよ、二人とも。」
ファルナ「うん!スゥ、早くこれから特訓しよ!」
ピコ「今度こそはボクがイワークに勝つからね!待ってろよーっ!」
目の色を変えて帰っていく彼らを見送るタケシ。
去り際にスゥ達から挑戦の言葉を受け取り、彼は笑っていた。
タケシ「まったく、真っ直ぐな子達だ。
…今度はさらに手強くなりそうだ。バトルが楽しみになってきたな。
ジムリーダーになってからこんな気持ちは久しいな…」
タケシ「しかし流石にピコ君は相性が絶望的だったな。
実質ファルナとイワークの一騎打ち、どこまであの子を強くしてくるだろうな…?」
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鼻息を荒くしてジムから出てきた三人。
ジムの裏の岩山で座り込み、さっそく特訓の内容を考えていた。
ピコ「『力を持たざる者』が気安く使ってはいけない!
だってー!くっそぉーっ、あの細目男ーっ!」
ピコはタケシに言われた言葉に一番敏感に反応していた。
特に彼はイワークとの戦いで手も足も出ず、ファルナよりも余計に悔しいのだろう。
今はその悔しさをぶつける先がなく、ひたすら電撃を放っている。
スゥ「こら、ピコ!今そんなに体力を無駄遣いしちゃ駄目だろ!」
ピコ「んにぃぃぃっ!だってぇー!」
ファルナ「スゥ、私も悔しかったよ!強くならないと困っている人を助けられない。
だから私も強くなりたい!ねえ、私はどうしたらいい?」
スゥ「よしよし。二人ともまずは落ち着いて。
ちゃんと整理して、それぞれに頑張ってもらう事を説明するから。
…まずはファルナ。ファルナの炎はイワークへの相性は悪いけど、確かに効いてた。
もっと炎の威力を上げないといけない。
炎が怖いと思うけど、頑張れそうかい?」
ファルナ「うん…今までの火の粉なら慣れてきたけど、もっと強くするのはちょっと怖い…」
スゥ「やっぱり、そんなに早く怖さは無くならないよね。
やれるだけやってくれないかな?」
ファルナ「…出来たらたくさん褒めてくれる?」
スゥ「ん。ファルナがして欲しい事を何でもしてあげるよ。」
ファルナ「な、何でも!?え、えーと…」
スゥ「ファルナ、何をして欲しいかもう考えてるのか?」
ファルナ「えぅ!?
な、何でもするって言ったのはスゥだからね!それじゃあ、頑張ってくるから!」
そう言ってファルナはスゥ達から走って離れようとした。
まだ何を頑張れば良いのか全く説明を受けてないのに、一体どうするつもりなんだろう…とスゥは思った。
声が聞こえる距離にいる間に、急いで大声で手短に説明する。
スゥ「その転がってる大きな岩があるよねー!
まずはそれに穴を開けられるぐらいまで火の粉で攻撃して!」
ファルナ「はーーいっ!!」
背中を向けたまま手を挙げて返事するファルナ。
早速、炎が燃え上がる音が聞こえてきた。
ずいぶんやる気なのか、スゥの出した目標を達成するのにそれ程時間はかからなさそうだ。
続いて、スゥはピコに目をやった。
鼻息荒く、どんなトレーニングをするのか期待に満ちた目をした彼の姿がある。
スゥ「よし、次はピコだな!
まずはこれから俺が説明することをよく聞いて欲しいんだけど、いいかな?」
ピコ「んにっ!早く説明してー!ボクも早く強くなりたい!」
スゥ「ピコ、正直に言うと、どんなに頑張ってもイワークにピコの電撃じゃダメージを与えられない思う。」
ピコ「…ふぇ?
スゥにぃ!どういうこと!?やっぱりボクじゃ役に立たないの?」
スゥ「まあ待って。そんなに落ち込まないでピコ。
『直接』のダメージは無理なだけ。ちょっと作戦があるんだ。
…うまくいくか分からないけど、ピコの電撃がどれだけ強いかに掛かってる。」
ピコ「…?スゥにぃ、よく分からない。」
今一スゥが何を言いたいのか分からず、文句を言うピコ。
スゥ「…もし、俺が考えてることが出来るのならあのイワークに一泡吹かせてやれるよ。
ピコの電撃でね。」
ピコ「うーん、でもボクの電撃は効かないんでしょ?」
スゥ「電撃も使いよう、って事だよ。
まずは実験だ!こっちにおいで、ピコ!」
そう言ってスゥがピコを連れてきた先には、モンスターボールくらいの大きさの岩玉が2つ、転がっていた。
スゥ「さて、ピコ。思いっきり電撃を打つ準備は出来てるか?」
ピコ「んにっ!おっけー!いつでもバリバリできるよ!」
ピコは両手の拳を握り締め、それぞれの手から火花をほとばしらせている。
スゥ「よし!ピコ、右手で右の岩に、左手で左の岩に全力で電気ショックだ!」
ピコ「え、右手で右に…んで、左手で左に…だよね…。
いけぇぇぇーーーっ!!」
ピコの両手から強烈な電撃が放出され、地を這い、そして二つの岩に命中した。
…その瞬間…
パアァァァン!!…
ピコ「んにっ!?」
一瞬の出来事に、電撃を放ったピコ自身が呆然としていた。
スゥだけ、満足げな顔を浮かべている。
…そこに二つあったはずの岩は、見事に粉々に砕けていた。
ピコ「ね、ねぇスゥにぃ…?これ、どういう事…?」
スゥ「言っただろ。電撃も使いよう、だよ。
さて、これからもっと大きい岩に挑戦だ!」