まっしろレポートとふたつの炎   作:アリィ

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Report4-2 [悩めるポニータ(後編)]

[Report4-2 悩めるポニータ(後編)]

 

 

「私は…あの鉱山での件以来、ダイチの元から逃げ出したんです。

 行く当ても無く、しばらくしてからあなた達の後をずっと付いていました。

 あなた達なら助けてくれるかもしれないって、勝手に期待して…

 ごめんなさい。

 私だってあなた達を攻撃したのに、調子がいいですよね…」

 

ポニータは耳を伏せながら申し訳無い様子で話す。

 

「そうだったんだ…

 逃げ出す程嫌なことが有ったんだな…

 だけど、そもそもどうしてポニータはダイチの仲間に?」

 

スゥが質問した。

ポニータは過去を思い出すようにしばらく目を閉じた後、答えた。

 

「ダイチは初めはあんな人じゃなかったんです。

 ロケット団員なんかでも無かった。

 …

 私は、ダイチがトレーナーを始めて最初の仲間でした。

 強くなるために、あの人と色んなトレーナーと戦いましたが、

 私もあの人もまだ戦い方が分からなくて、負ける事がほとんどでした…。

 段々とあの人は負けが続いて嫌気がさしてきたのか、私との会話が少なくなって…」

 

ファルナとピコは黙ってポニータの話を聞いている。

 

「嫌気がさしてきた…か。

 さっき戦ってきたトレーナー達のような状況だったのかな…」

 

ふと、スゥが呟いた。

ポニータは頭を横に振り、話を続けた。

 

「いいえ、もっと荒んでいました。

 周りのトレーナー友達からもバカにされ、自信を無くしていました。

 …

 …私がダイチと組んでから半年くらいの時だったと思います。

 ダイチの前にロケット団員が現れたのは。

 そのロケット団員は、『団員になれば、この強いポケモンをあげよう』と言って

 『M-プロト』という黒いモンスターボールを1つ、ダイチの前に…」

 

ファルナとピコが「強いポケモン」という言葉に反応した。

ポニータが現れる直前に戦ったトレーナー達の会話。

その時の嫌な感じを思い出して。

 

「元々強いポケモンが欲しいって、さっきの人達も言ってたね…」

 

ファルナが呟く。

 

「それでダイチは!?『じゃあ入る!』ってすぐ答えちゃったの?」

 

ピコがポニータに問いかけた。

 

「…少し迷っていた様子でした。

 まだ私と戦ってくれる気持ちが残っていたのか、迷った後に断りました。

 ロケット団というもの自体が怪しいと感じたのも理由だと思いますけど。

 …

 …でも、その誘ってきた団員が『団員にならなくてもいいから、とりあえず使ってみろ』

 と、そのボールを有無を言わさずに渡して去っていきました。」

 

ここまでポニータの話を聞き、スゥはその後の展開に大体の見当がついてきた様子だった。

 

「…ダイチは使ってみたんだね。そのポケモン。」

 

「はい…。それがニドリーノの『ソルト』です。

 ニドランの進化系である彼は、私とは比べ物にならない位強かったです。

 彼を戦わせた時は全戦全勝…

 ダイチをバカにしていたトレーナー達には、特に酷いやり方で勝っていました。

 …そのトレーナー達の心が折れそうになるほど、彼らのポケモンを徹底的に痛めつけて…」

 

スゥは話を聞いているファルナ達の様子を心配して目をやった。

二人は手に持った食べ物を強く握り締めていた。

心配した通り、すでにかなり憤っているようであった。

スゥは一旦ファルナ達に問う。

 

「二人とも…大丈夫か?」

 

「っ…うん、大丈夫だよ。ポニータちゃん、続けて。」

 

「んに"っ…!だんだんボクが知ってるアイツっぽくなってきた…!」

 

その様子を見てポニータは心苦しそうにしていた。

続けていいのだろうか、と問うようにスゥの顔を見る。

 

「ポニータ、大丈夫。

 まだまだ話したい事はそんな物じゃないんだろ?

 しっかり全部聞くから、気にしないで続けてくれ。」

 

落ち着いた声でポニータに言ったスゥ。

ありがとうございます、と言い彼女は続けた。

 

「最初の頃のダイチは大人しい人でした。

 けど、ソルトを戦わせ始めてからは次第に攻撃的な性格になってしまって…

 ソルトは、ダイチが変わり始めた頃からロケット団に勧誘するようになりました。

 『ロケット団に入ったら、俺と同じくらい強い相方も貰える』と言って。

 

 ダイチがソルトの勧誘を受けて間もなく、ソルトを渡してきた団員がまたやってきて…

 その時はもう迷わずに、ロケット団に入ってしまいました。

 ソルトの言う通り、2つ目の黒いボールに入ったニドリーナの『シュガー』を仲間に加えて。

 …それからは、もう元の大人しい性格に戻ることはありませんでした。」

 

ファルナとピコは、寂しそうに話すポニータの気持ちを考えていた。

もしスゥがそんな風に変わってしまったら、自分達はどんなに辛いだろうかと。

ファルナは暗い口調でぽつりと呟いた。

 

「…もしかしたら元に戻ってくれるかもしれないって…

 そう思って傍に居るんだろうなあ…私なら。」

 

「ええ…その通りです。

 まだ引き返せるんじゃないかって思ってダイチの傍に居ました。

 ダイチから『出来損ない』って呼ばれても…」

 

ポニータは自嘲的にはにかんで言った。

 

「そういえば鉱山でそんな呼び方してたな、アイツ…!

 そんな扱いが続いて、限界だったんだな…ポニータ。」

 

スゥは鉱山での件を思い出しながら、顔をしかめた。

ダイチはポニータの能力をちゃんと分かって戦わせたのか?

得意な所を伸ばそうとしたか?苦手な所をフォローしようとしたか?

もし、それらを怠っていたのなら『出来損ない』はどっちだ?

…そんな思考を巡らせたが、今は口に出さず我慢して

ポニータの話の続きを聞こうとした。

 

少しの間を置いて、ポニータは再び口を開いた。

 

「はい、さすがにそんな日々に限界を感じていました…

 だけど、私が逃げ出した一番の理由は…

 『躾』でした…。」

 

「しつけ…?」

 

話を聞くファルナは普段では見られないような険しい顔をしている。

彼女は正直なところ、もうこれ以上ポニータの話を聞きたくは無かった。

あまりにも自分のいる環境と違う、酷い扱い。

更に今までの話を上回るものが『躾』とポニータが言う。

 

スゥとピコも含めて一同、その『躾』の内容が聞くのさえ辛い事なのだろうと

腹を括って次の言葉を待っていた。

 

ポニータは、スゥ達がまだ話を聞いてくれる様子でいる事に感謝しながら

苦しそうに話す。

 

「『M-プロト』…

 …

 あのボールに入れられたポケモンは…手遅れになってしまったら悪に染まります。

 破壊を好んだり、平気で人間や弱いポケモンを痛めつけたり…

 ロケット団の悪事の為に操られるんです。

 …だから、スピアーさんが完全に染まる前にスゥさん達が助けてくれた事、

 本当に感謝しています。」

 

ポケモンを洗脳したように従順にさせるという、そのボール。

スゥはタケシからロケット団について話を聞いた時の事を思い出した。

 

「そのM-プロトっていうボール、タケシから聞いたよ。

 ポケモンに催眠術をかけて従わせるんだったかな…」

 

スゥの言った『催眠術』。

その言葉を聞いた途端、ポニータは先程までの大人しい口調から

一転して語気を荒げた。

 

「あれは『催眠術』なんてものじゃありません!!」

 

急なポニータの豹変ぶりに、その場の全員が驚く。

彼女の顔は真っ赤になり、怒りと恐怖を露わにしていた。

 

「ぽ、ポニータちゃん…?」

 

「おねえちゃん、怒ってるの…?泣いてるの…?」

 

堰を切ったようにポニータは荒い口調で続けた。

 

「あのボールに入れられたら、ずっと『悪夢』を見せられるんです!!

 思い出したくない事や、絶対に起きてほしくない事、

 自分が嫌だと思う事を…延々と!!」

 

彼女は涙を止められずに、唇を震わせながら声を絞り出した。

 

「…あれは…『心を破壊する』ための道具なんです…!

 私がダイチの悪事に口答えしたらそのボールに閉じ込められて…

 …心が壊れそうになるギリギリで出されて…

 また言う事を聞かなかったら閉じ込められて…

 …それが、私がされた『躾』…」

 

ポニータがその言葉を出し切った瞬間、ファルナはポニータを抱きしめていた。

ファルナの頬からも、涙が止まらず流れ続けている。

彼女はポニータにどんな言葉をかけたら慰められるか、いくら考えても思いつかなかった。

ただ体が勝手に動いていた。

ファルナに抱きしめられたポニータは、彼女の胸の中で叫んだ。

 

「あのボールに入れられたくない!!

 今度は本当に心を壊されちゃう!!!

 …私、もうこんなの嫌!!

 これからずっとずっとずーーっと!!

 あの人たちに怯えながら…見つからないように祈りながら生きていくなんて!!

 うわああぁぁぁん!!」

 

悲痛な叫びを吐き出して、ひたすら泣きじゃくるポニータ。

スゥとピコは、あまりの内容に呆然として何も言えなかった。

今の気持ちを何とか整理する事に、かなりの時間を要した。

 

最終的に至った結論はファルナ達皆同じ。

ポニータを再びダイチの手に渡してはいけないという事。

 

しばらくポニータが落ち着きを取り戻すまでの間、ファルナは彼女の頭を撫で続けていた。

泣き疲れてきたのか、その声が小さくなってきた頃。

スゥはその場に立ち上がり、ポニータにしっかりと聞こえるように

大声で言った。

 

「ポニータ、俺たちの仲間になるんだ!!

 ダイチ達にもう怯えなくたっていいよ。

 俺と、ファルナと、ピコがみんなでポニータを守る!」

 

それを聞いたポニータはスゥ達全員の顔をすがる表情で見て言った。

 

「グズッ…いいの…?私、このままみんなと一緒に居させてくれるの?

 みんなを危険に巻き込んじゃうんですよ…?」

 

そんな彼女を元気づけるように明るくスゥは答えた。

 

「あいつらみたいな奴が何だ、みんなで戦えば目じゃないよ!

 そうだろ、ファルナ、ピコ!」

 

ファルナとピコは互いに見合わせ、

笑顔でポニータの前に拳を立てて答える。

 

「当たり前でしょっ、スゥ!

 ポニータちゃんは誰にも奪わせたりしないから!」

 

「ボク達が居れば大丈夫!

 あんな奴ら、みんな黒コゲにしてやる!!」

 

「み、みんな…!」

 

スゥはポニータの目の前に屈み、頭を撫でながら伝えた。

 

「実はさっき名前を考えてたんだ。

 『メルティ』なんて、どうかな…?」

 

ポニータはその名前を気に入ったようだが、

喜びを一杯に表す力が残っていなかった。

力無くスゥに顔を向けて答えた。

 

「メルティ…私の、名前…えへへ…

 ありがとう…みんな…」

 

彼女はひとしきり泣き疲れ、スゥ達に受け入れられて安心した途端に

ファルナに抱えられたまま寝てしまった。

その表情は心地よさそうな、憑き物が落ちたものであった。

長きに渡り張りつめていた糸が切れたのだ。

 

「メルティちゃん…呼ぶならメルちゃんかな?

 よろしくね、メルちゃん。」

 

ファルナは寝ているメルティの頭を優しく撫でながら

新しい名前を呼んだ。

 

「ボクは今度からメルねぇって呼ぶね!

 よろしくー!」

 

ピコも、本人には聞こえていないだろうがメルティの名前を呼んだ。

ピコは悪戯心に眠るメルティの頬を指でつつくと、彼女は口元を緩ませた。

そしてスゥとファルナに向かってしたり顔で言った。

 

「ほらね二人とも、メルねぇ笑ってるよ!

 泣いちゃった後は笑えるようになるんだよ!」

 

全く、ピコにはかなわないなあと、

スゥとファルナは互いを見ながら大きな声で笑っていた。

 

 

 

 

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