可能性がある事を知った。
クチバシティに到着して2日目。
スゥは彼に「クチバシティで待っていろ」と命令したカスミを、
ただ待っているのも時間のムダだと思い、クチバシティジムを下見することにする。
…そこで、スゥ達が見たものは。
Report6-3 [金髪碧眼の女]
クチバシティに到着してから二日目の朝。
スゥ達は皆、寝ぼけ眼で今日の予定を考えていた。
「スゥ、今日はどうするの?
また観光?」
寝巻姿で目を擦りながら、ファルナが尋ねる。
今日の予定が『観光か、訓練か』が分かっていないので
ファルナとメルティは、一旦着替える前に男性陣の部屋を訪ねていた。
「そうだなあ…、俺は皆にまだ休んでいて貰いたいと思ってるんだけど。
スターミーと戦ってから、あまり回復する時間が無かったし
まだ疲れが残ってるんじゃないかな…?」
頬杖を突きながらスゥが言う。
彼の言葉に、ファルナ達は皆口をそろえて答える。
『もう全然大丈夫!』と。
その言葉が嘘では無い事を示すように、
みんな眠気の残る表情だが、何となくソワソワした様子。
どうやら全員、力が有り余って落ち着かないようだ。
彼らの返事と、その姿を見ながら、
スゥは改めて『ポケモンの回復力・生命力』は
人間のそれとは別物なのだと感じ取っていた。
「本当にポケモンって凄いなあ。
あんなにスターミーとの戦いで力を使い果たしてたのに。
…
…よし!それなら、『クチバシティジム』に行ってみないか?」
クチバシティジム。
その単語を聞いた途端、皆の表情がキリッと引き締まった。
「んにっ!ジム戦だーー!!
やるやる!!」
「私も、今度こそ相手を倒してみせます!」
「家来達よ、そう張り切る事はないぞ?
最強の我が戦えば、呆気なくカタがついてしまうからの!
わははははは!!」
ピコ、ベルノだけでなく、メルティも息巻く。
メルティは、ハナダシティジムでは『攻略の突破口』をスゥに示したものの、
決定的な活躍が出来ていなかったことを、密かに気にしていた。
ジム戦という大事なバトルで活躍し、
もっと自信を付けたいと感じていたところだった。
そんなメルティ達を制止するように、スゥは言葉を付け加える。
「みんな、やる気満々の所悪いんだけど…
今日はあくまで『行ってみるだけ』だよ。
さすがに、ハナダシティで痛い目を見たからね。
先にジムの下見をして、攻略方法を考えることにするよ!」
…また『スターミー』みたいにデタラメな強さのポケモンが相手なら、
初見ではたまったものではない。
二度と自分の調査不足のせいでファルナ達をボロボロにしないよう
今回は『偵察』のつもりでジムを訪ねようと心に決めていたスゥだった。
スゥの言葉に、少し口を尖らせて腕組をするピコ。
「んにぃ…先に相手の戦い方を見るのって
ちょっとズルいような気がするけど…」
「ピコくん。
気持ちはわかりますけど、スゥくんの言う通りだと思いますよ。
確かに、ぶっつけ本番で行くとまた大怪我しちゃうかもしれませんし…」
「まったく家来は臆病じゃのう!
我にかかれば『下見』なぞ不要!
どんな相手でも我が軽く捻って終わりなんじゃからな!
わはははは!!」
慎重なメルティとは真逆に、相変わらず自信過剰で向こう見ずなベルノ。
そもそも今回スゥが慎重になっている理由は、。
ハナダシティジムでベルノがこっぴどい重傷を負わされたからだ。
サイコキネシスの滅多打ちでお手玉のようにされ、そして終いには冷凍ビームで氷漬け。
そんな凄惨な被害を受けたことさえ、ベルノは綺麗さっぱり忘れ去っている。
脳天気な彼とは逆に、むしろスゥ達の方がトラウマに近いものを植え付けられていた。
「いつか本当に命に関わることになってしまうのでは…」と、
相変わらずのベルノの態度に頭を悩ませるスゥ。
彼が軽く溜息をつく姿を見て、ファルナは苦笑を交えながら
スゥに質問をする。
「あ、あはは…
ねぇスゥ、クチバシティジムは確か『電気属性』が相手なんだよね?」
「そうみたいだね。
電気属性の相手なら、有利なのは『岩、地面』属性のポケモンだけど…」
そう言いながら、スゥはファルナ達面々を見る。
…残念ながら、今回は有利属性の仲間が居ない。
しかし、属性有利だけが勝負の決定打ではない。
それはニビシティジム、ハナダシティジムの経験で十分に分かっている。
ひとまず、ここで悶々と考えていても仕方が無い。
スゥは『パンッ!』と手で膝を叩き、皆に出掛ける支度をするよう告げた。
____________________________________
「んに…スゥにぃ。
何だかジム遠くない?道に迷ってるんじゃないのー?」
「いや、この方向で合ってるはずだけど…」
『クチバシティジム』に向かう道中、スゥ達は少し妙だと思っていた。
それは、街の重要な施設の一つである『ジム』のある場所が
やたらと辺境にある、という事に対してだ。
これまでのニビシティ、ハナダシティでは
ジムは比較的街の中心地に建っていた。
それなのに、クチバシティでは中心地ではなく、
街はずれの埠頭(ふとう)周辺という、人気が少ない場所にある。
その場所は有り体に言えば、『ガラの悪い連中が好みそうな場所』だった。
ジムに近づくにつれ、往来する人々の数が減っていく。
何故わざわざこんな所にジムを作ったのだろう…と
スゥ達は歩みを進めながら思う。
そしてようやくクチバシティジムが見えてきた頃合いでの事。
ドゥルンドゥルン!!
ババババババ!!
ボンボンボン!!
と、けたたましいエンジン音を立てるバイクに跨り、
スキンヘッドやモヒカン頭、黒い革のツナギ、そしてサングラスといった
『いかにもガラの悪いシンボル』を身に着けた大柄な男達が見えた。
要は『暴走族』だ。
そんな彼らの風体に、ファルナ達は少し警戒する。
「ね、ねぇスゥ…。
あの怖そうな人達の奥にあるのがジムだよね…?」
ファルナに聞かれ、スゥは改めて向こうの建物に目をやる。
オレンジ色に塗装された看板は、あまり手入れされておらず
薄汚れてはいるが、確かに「GYM」と書かれている。
「うん、間違いないみたい。
…だけど…」
スゥの言葉に続け、メルティが耳を押さえながら小声で言う。
「…近寄りたく無いですねぇ…
それに、あの人達が乗ってる『何か』分かりませんけど…
あれ、物凄くうるさくて耳が痛いです。」
人間のスゥでも「うるさい」と感じる程のバイクのマフラー音。
聴覚が特に鋭いメルティやピコには、もはや「痛い」レベルの音のようだ。
スゥ達全員が『アレに関わりたくない』と思うも、ジムに入るためには
暴走族達の傍を通らざるを得ない。
どうか絡まれませんように…、と願いながら近寄って行くと
スゥ達は何やら暴走族達の様子がおかしいことに気付く。
「スゥ!あの人達…!!」
「大変!女の子を取り囲んでます!!」
ファルナとメルティが気付いたのは、
暴走族達が一人の女性を取り囲んでいる事。
その女性は白いワンピースを身に着け、同じく純白の大きな帽子を被っている。
帽子の大きさのせいで表情が見えづらいが、
暴走族達に囲まれ、一歩も動かない様子を見るに、
恐らく怯えているのだろう。
「一人の女の子に、あんな大勢で!
ガウゥゥゥゥーーーッ!!!」
…と、見兼ねたファルナが『鳴き声』を繰り出す。
その音量は、バイクの排気音を軽々と貫通し、空気をビリビリと震わせた。
その場全員を怯ませるレベルの音量を、傍で聞かされたスゥ達。
「み、耳が…!!」
「ファルナちゃん…いきなり大声は…あう…!」
「んに"ぃぃぃ!!ファルねぇの鳴き声、こんなに強烈だったっけ?」
「ぬぅ…女子の出して良い声ではないぞい!!」
ファルナがリザードに進化してから「本気の鳴き声」を放ったのはこれが初めて。
ヒトカゲの頃でも、相手を威嚇するには十分な声量だったが、
今と比べてみれば可愛いものだ。
まさか力だけでなく、声量まで格段にレベルアップしているとは
ファルナ本人でさえ思っておらず、彼女は自分が出した「鳴き声」の迫力に顔を赤らめる。
「…がぅ…こ、今度からは加減するね…」
恥ずかしくなり、肩を狭めて口元を押さえるファルナ。
しかし、彼女の大声が功を奏した。
暴走族達は「鳴き声」に驚き、声の主であるファルナを呆然と見ている。
そのスキを突いて、取り囲まれていた女性は
暴走族の輪から抜け出すことが出来たようだ。
白いワンピースの裾をなびかせ、大きな帽子が飛ばないように手で押さえながら
その女性はスゥ達の方へ走ってくる。
そしてスゥの元まで駆け寄ると、彼をすがるように見上げる。
その目は綺麗な透き通った青色。帽子の端からは艶のある金色の長い髪がなびく。
顔つきも非常に端正なもので、「金髪碧眼の美人」という言葉がしっくり嵌る女性だった。
彼女はスゥに向かって必死に言葉を振り絞る。
「ヘルプミー!!
あのバッドガイズ、いきなりミーを取り囲んできて…怖くて…!!」
…つい最近、どこかで聞いたような言語でその女性は助けを求める。
スゥは戸惑いながらも、やはりトラブルが起きていた事がわかり、
ひとまずは彼女の背中を軽く叩いて落ち着かせた。
「あ、ああ。怖かったね。
俺達みんなが居るから、もう大丈夫だからな!」
「Oh...何て親切な方ネ…!」
この状況で、当然黙っていないのは暴走族の方。
バイクで騒音を撒き散らせながら、今度はスゥ達を取り囲む。
「おいおい、逃げちゃ困るぜ!
ニィちゃん、ヒーロー気取りのとこ悪ィがよ…
その子、オレ達のツレなんだ。
…こっちに返してくれねぇかな?」
「な、な。ケガはしたくねぇだろ?な、な?」
ドゥルンドゥルンとアクセルを煽り、スゥ達を威圧する暴走族達。
さすがに彼らの大きな体格や身なりを見ると、少し怖気づくものがある。
…当初スゥ達が願った、「どうか絡まれませんように」という願いは天に届かなかったようだ。
完全に暴走族達のターゲットとなってしまった。
それはさておき、暴走族が言うには、このワンピースの女性は彼らの知り合いらしいが
スゥ達は到底「あ、そうなんですか」と納得出来る訳がない。
「…ツレだって?この子、怯えてるじゃないか!
知り合いなら逃げたりするもんか!」
スゥはその女性をファルナ達に預け、暴走族達を問いただす。
そんな彼の態度に、暴走族達は苛立ちはじめる。
「アァ!?ヒョロガリの癖に生意気だな?
ポッと出のお子様がガタガタ言ってんじゃねぇ!」
「な、な。
そんなに疑うなら本人に確かめてみろよ!
それが手っ取り早ェだろ?な、な?」
苛立つ言葉の調子からは意外だが、暴走族達はすぐに手を上げてこない。
スゥは彼らが言うように、本人に確かめてみるのが一番だと思い、傍らの女性に尋ねる。
「…って、コイツらは言ってるけど。
キミ、本当にこの暴走族の知り合い?」
するとワンピースの女性は、目を潤ませながら首を激しく横に振り
間髪入れずに大きな声で答える。
「ノー!!
あんな人達、ミーは知りまセーン!!」
スゥ達はその返事を「やっぱり…」と聞いていた。
その一方、暴走族達は口をあんぐりと開けたかと思いきや、仲間内で騒ぎ始める。
「な、な、な…!!」
「そ、そりゃアンマリじゃねーかアンタ!!
…仕方ねぇ、こうなりゃ力ずくでも…!」
「いや、戦闘はマズいだろ!
勝手にやったらアニキに怒られるぞ!」
「うるせぇ!!バレなきゃいい話だ!
それよりあの人に逃げられて怒られる方がもっと怖ェだろが!
テメェらが行かねえなら、オレが行く!!」
暴走族の一人が腰に付けていたモンスターボールを手に取る。
彼らもどうやらトレーナーのようだ。
戦闘態勢になった彼らを見て、ファルナ達も警戒する。
「スゥ!あの人達、襲ってくるよ!」
「あっちも大勢です。私たちみんなで戦いましょう!」
「んにーっ!体を動かしたかったんだ!
ちょうどいいや!」
「ぬはははは!!我に挑むとは愚かなり!
悲しいものじゃな、力量差が分からぬというものは!
わはははははは!!」
今回のバトルは久しぶりの人助け。
ただ相手を打ちのめすだけでなく、
ワンピースの女性に被害が無いように戦わなければ…
と、スゥが気を張っていた矢先のこと。
ザバァァァァン!!!
『うわあぁぁぁぁぁぁーーー!!!』
…と、海岸から大波が押し寄せ、暴走族や、彼らのバイク、
そしてスゥ達をまとめて飲み込んだ。
波が引き、ジムの前で全員が目を回して倒れている。
程なくして、少し意識が戻ってきたファルナは
ヨタヨタと立ち上がって周りを見渡す。
「ケホッ、ケホッ!!
…な、何…?何が起こったの…?」
そうファルナが呟くと、空からの返事。
「やっほー!ファル!
さっそくクチバで人助けかしら?精が出るわね~」
その飄々とした口調。
ファルナの記憶にも新しい人物。
彼女はその名を口にする。
「か、カスミさん!!
それにスターミーさんと…ノンも!!
何でここに居るの!?」
彼女が見たもの。
それは宙を浮くスターミーに跨る、カスミとノンだった。
ファルナの問いに、カスミ達が上機嫌に答える。
「あーっはっはっ!!
何、忘れちゃったの?
アタシ、アンタ達に『クチバで待ってなさい』って言ったじゃない。
約束通り合流しに来たところよ!」
「‥‥そう。‥‥‥‥迎えに、来たの。」
カスミの言葉に続けて、スターミーが相変わらずの抑揚の無い声で答える。
ノンが、それだけではファルナには状況が分からないと思い補足する。
「で、先にクチバジムでも見ておこうかと思ったら
そこで伸びてる奴が、何やら暴走族と揉めてたんでな。」
「事情は分かんないけど、関わるのはメンドーだから皆まとめて
スターミーの『波乗り』でぶっ飛ばしてやったってワケ!
いやー、スッキリしたわ!
おほほほほ!!」
「そうか、それは良かった。
俺に負けたストレスも多少はマシになったか?」
「んがっ!!
あ、アンタ達、覚えてなさいよ…!
アンタ達に立て続けで負けて、
スターミーもアタシもすっかり落ち込んじゃってるんだから!!」
「それだけ元気よく騒げる奴を『落ち込んでる』とは言わない。」
「きぃぃぃぃ~~~っ!!
アンタはそういうスカした所が癪に障るのよ!
戦い方も、コツコツネチネチとこっちが反撃しにくい攻め方だし!
そこのソイツはソイツで、ビックリ玉手箱みたいな攻撃してくるし!!」
ノンの茶々入れに、ギャンギャンと騒ぐカスミ。
彼らの会話に全く割って入ることができず、ファルナはただ苦笑する事しか出来ない。
そんな中、喚いているカスミの声でスゥが目覚める。
「っつつ…。ノンもカスミに勝ったんだ。
それにしても、相変わらずのキンキン声だなあ…
みんな、大丈夫か?」
スゥは周りで伸びているメルティ達の体を揺らす。
幸い、全員無事のようだ。
彼は一先ず胸を撫でおろすも、カスミに一言文句を言わずにはいられない。
「おいカスミ!
酷いじゃないか、いきなりスターミーの技をぶちまけるなんて!!
『トレーナーの大原則』はどうしたんだよ!?」
トレーナーの大原則。
それは「トレーナーはポケモンの攻撃で、故意に人間を傷つけてはならない」というもの。
スゥがハナダジムで『電撃封じ』として苦しめられた要素の一つだったが、
今の状況は何だ。
思いっきりスターミーの攻撃を浴びせられ、気絶までさせられたのだが。
そんなスゥの言い分を全て分かってる上で、カスミが彼にかけた言葉は…
「どうしたも何も、『攻撃』なんてしてないわよ?
アタシの可愛いスターミーは、ただ『波に乗ってはしゃぎすぎた』だけなんだから♪
まあ、どこかのオマヌケさん達が巻き込まれちゃったみたいだけど?
おーっほっほっほ!!」
…と、全く悪びれないものだった。
「ウソつけーーーっ!!
『メンドーだからまとめて"波乗り"でぶっ飛ばした』って、
さっきファルナに言ってたろ!」
「チッ、聞こえてたか…」
軽く舌打ちして悪態をつくカスミ。
しかし、スゥはスターミーの『波乗り』で
戦闘モードだった頭が多少冷えたのか、
冷静に周りを見渡す。
そして、気付いた。
「あれ…?
あのワンピースの女の子がいない!?」
スゥの言葉に、ファルナ達も顔を青くする。
「大変!!
もしかして、さっきの『波乗り』に流されちゃったのかも…!」
そんな彼らの様子を見て、カスミとノンが言う。
「ワンピースの女の子…?そんな子、居たかしら?
ノン、あなたは見た?」
「いや、見なかったな。
少なくとも、『波乗り』を被ったのはスゥ達と暴走族だけのはずだ。
そんな一般人が居たら、俺がスターミーを止めている。」
カスミとノンは、スゥ達の言う『ワンピースの女性』を見ていないという。
「そんなハズはない」と、スゥ達は再び周りをキョロキョロと見渡した。
ちょうどその時。
「Hey!!スー、皆さん!
ダイジョウブでしたか…?」
と、スゥ達の死角から彼らを呼ぶ声。
件の『ワンピースの女性』の声であった。
唐突に声をかけられ、スゥ達だけでなくカスミ、ノン、スターミー、
その場の全員が驚いた。
ビックリして上昇した心拍数を落ち着け、スゥはその女性に話しかける。
「び、ビックリした…!
こっちは大丈夫だよ。君は大丈夫だった?
…って、全然濡れてないのか!
あの波からよく逃げられたね。」
「ミーはダイジョウブでーす!
皆さんの後ろからビッグウェーブが来てるのは見えてたんデスが、
ワーニングする余裕が無かったので…
ミーだけエスケープしてしまって、アイムソーリー…」
どうやらワンピースの女性は、スターミーの『波乗り』に気付き
物陰に隠れて難を逃れていたようだ。
それを聞いてひとまずホッとしたスゥ達。
そしてカスミとノンも、一般人を巻き込まなかった事に安心していた。
そんな彼らに、ワンピースの女性が改めて礼を言う。
「ミーをバッドガイズから助けてくれて、
サンキューベリーマッチ!
ミーのネームは『レヴィン』と言いマース。
以後、オミシリオキを!」
『レヴィン』と名乗ったその女性は、
大きな帽子を被ったまま、スカートの裾を軽く掴んで
スゥに向かって深々と礼をした。
「レヴィン、っていう名前なんだ。
どういたしまして。
カスミ達が来てくれたおかげで
結局、俺達も暴走族と戦わなくて済んだよ。
お陰で大した被害は…
…
…まあ、受けてない…かな…?」
"普通に暴走族達とバトルした方が被害がマシだったかもしれないのでは?"
という疑念を持ちながらも、スゥは一応、カスミとノンにも礼を言っておくことにした。
そして彼はレヴィンに質問する。
「それにしても、何でこんな所に女の子一人で来てたんだ?
こんな人気が無い場所、危ないと思うんだけど。」
スゥの質問に、レヴィンは少し顔を赤らめて答える。
「Oh~…実は、ミーは迷子になってしまったんデス。
本当は『サントアンヌ号』が泊まっている港に行きたかったんデスが、
いつの間にかこんな場所に。
テヘヘ…なのデス。」
舌を小さくペロッと出し、自分の頭を手で軽く小突くレヴィン。
その仕草は冷静に見れば『あざとい』が、何せ彼女は『金髪碧眼の美人』。
イヤミに感じるどころか、彼女の可憐さを引き立てるに一役買っていた。
そんな仕草を間近に見せられて、全く何も思わない男は居ないだろう。
当然、スゥも例外ではない。
「そ、そうだったんだ。
まあ広い街だし、仕方ないよね。」
と、少し緩んだ顔で答えるスゥ。
その様子をカスミが冷ややかな表情で見ながら毒づく。
「ハァ…アンタ、そういう所は中々学習しないヤツよねぇ…」
そう吐き捨てるようにスゥに言った。
…ファルナの形相を横目で見ながら。
「がうぅぅぅ~~~~~っ……!!」
そこには髪の炎を燃え上がらせ、鋭い目でスゥを睨み唸るファルナが居た。
カスミの言葉で、ファルナの焼き餅に気付くスゥ。
「しまった…」と言いたげな表情でファルナに弁解する。
「ご、ごめんってファルナ!」
「ふーんだ!
別に"ごめん"って謝る事なんて無いんじゃないの?
やましい事なんてしてないんだし!」
「んにぃ…まーた始まったよ~…」
「あらら…ファルナちゃん、拗ねちゃいましたねぇ…」
ファルナをなだめるのにアタフタしているスゥを見ながら、
ピコ達は頭を抱えている。
「ま、確かにレヴィンちゃん美人さんだものね~。
アンタじゃなくても、男ならクラッと来る奴は多いんじゃない?」
と、その場の収拾をつかせるために珍しくカスミが助け船のような言葉をかける。
そして更に言葉を続ける。
「ほらファルも。
イチイチ男のこんな反応で拗ねてたらキリが無いわよ?
機嫌直しなさいっての!
そんな事より、アタシ達もさっさと行くわよ!」
そう言ってカスミはスゥやノン達をせっつく。
「行くって、どこに?」
目的地を知らされていないスゥが、見当もつかない様子で尋ねる。
そんな彼に、カスミは興奮を交えて答える。
「そんなの決まってるじゃない!!
わざわざこのカスミ様が遠路はるばるクチバシティまで足を運んでるのよ?
目的は一つよ!『サントアンヌ号』よ、『サントアンヌ号』!!」
その答えに、スゥは一瞬で目を輝かせる。
「サントアンヌ号!?
あの船に乗れるのか!?」
スゥだけでなく、ファルナ達も食い入るようにカスミに視線を向けた。
それに気を良くしたカスミは、鞄から『紙切れ』を何枚か取り出して
スゥ達の前で見せびらかす。
「ほーっほっほっ!!
その様子じゃアンタ達、乗船を断られたんでしょ!
そりゃそーよ!
サントアンヌ号は『選ばれたお客様』しか乗れない豪華客船なのよ?
お金持ちや、アタシみたいな超絶美少女ジムリーダーみたいな
トクベツな人だけに配られる、この『チケット』!
これが無きゃ乗れないんだから!
…ま、アンタ達がアタシに敬意を払うなら、このチケットで招待してあげなくもなくてよ?
おーほほほほ!!!」
カスミが鞄から取り出した物は、なんとサントアンヌ号の乗船チケットだった。
スゥ達一同は、それがチケットだと分かった瞬間、カスミに尊敬の眼差しを向ける。
「敬意だって?もちろん払う払う!
さすがハナダシティにその名を轟かせるカスミ様だ!!」
「がうーっ!私、カスミさん大好きー!」
「やっぱりカスミさんって凄い人だったんですね!」
「んにーっ!おねーちゃん、初めて見た時から美人だと思ってたんだー!」
「ぬぅぅぅ!仕方あるまい!お主も我と同じ『王』を名乗るのを許そう!」
それはもうスゥ達によるヨイショヨイショの嵐。
ノンはスゥ達の浮かれっぷりを見て「よくもここまで掌を反せるものだ…」と
呆れ気味の表情。
こんな単純なおだて方でも、鼻高々と上機嫌になるカスミ。
テンション最高潮!とばかりに号令をかける。
「おーっほほほほほ!!!
そうよ、もっともっとアタシを敬いなさい崇めなさい!
その調子でアタシに着いて来なさーい!!
レヴィンちゃん、あなたも行くんでしょ?サントアンヌ号に!!」
「Oh!
ユーがかの有名な『ハナダのおてんば人魚』のカスミさんだったんデスね!
是非ミーもトゥギャザーしますネ!」
サントアンヌ号の停泊所に行こうとしていただけあって、
レヴィンはレヴィンで、自前のチケットを持っているようだ。
『特別な人だけに贈られるチケット』を、
何故レヴィンが持っているのか。
彼女の身なりを見るに、恐らくどこかの社長令嬢か、モデルか…?
そんな事を、浮かれているスゥ達を傍目にノンはぼんやりと考えていた。
騒がしく行進する、カスミ率いる集団。
その列に交じりながら、ふとスターミーは心の中で呟く。
「‥‥‥‥‥‥‥『レヴィン』‥‥‥‥ね‥‥。
‥‥‥私、不意打ちで『波乗り』したんだけど。
‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥‥‥まぁ‥‥偶然‥‥‥‥かな。」
‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥
‥‥
‥‥
カスミ達がサントアンヌ号に向かって行った後。
シーンと静まり返った埠頭(ふとう)に倒れたままの暴走族達。
一人の暴走族が目覚め、遠い目で誰に聞かれる事もない言葉を絞り出していた。
「う…ぐぐ…
スンマセン、アニキ…
俺らにゃ、あの人のお守りは荷が重かったでさぁ…」