微睡の中、ガルクは浮いてるような感覚を感じながらある光景を見ていた。
小さい頃のガルクが周りからいじめられている光景だった。
「一人じゃ何もできない」
「弱いくせにでしゃばるな」
「お前なんて必要としていない」
人であって人ではないような影に囲まれ、頭を抱えてうずくまる、見ていただけの状況から一遍し自分自身が囲まれ、責められていた。
「・・・あぁ・・・やはり、俺は無力なんだろうか・・・」
声が聞こえなくなる、ぐったりと脱力して座る、上を見上げるも視界に入る色は黒だけ
ザッ
足音がする、音がした方向を向く、そこにはどこか懐かしい風格の人が村を背に立っていた。
対峙しているのは、眼に紅を灯した黒き獣、その人はぼろぼろの体を無理に動かしその獣と戦っていた。その人は何度もその獣から弾かれ、叩きつけられる、だがその人は何度も立った。ガルクはその戦いを見て遠い目をする。
「・・・俺もそうやりたかったんだ、何度地面をなめても何度でも這い上がって・・・俺に命なんていらない、ただ父さんが守り続けた村を守りたいだけだ、でも・・・」
ガルクは自分の手首を強く叩いた。
「俺の体は命を優先するんだ、まだ叩けるのに体が言うことを聞かないんだ、だから弱いんだ、父さんみたいな強さが欲しかった、必死に鍛えても、俺は結局は自分だけを守ってしまう・・・」
顔をうつむけた瞬間体が大きく揺れた。
「・・・」
目を開ける、どこか古めかしい天井、拠点(ベースキャンプ)だ。
「起きたか、ガルク」
ラングスが入ってきた、ラングスの鎧は随分とぼろぼろだった。
「・・・すまないな、ラングス・・・俺を背負ってここまで来ただろう?」
「まぁ、な、でもまぁお前がそこまでひどい怪我追ってなくてよかったぜ」
ラングスはガルクの寝ているベットに腰かける。
「・・・何で突っ込んだんだ?」
目線を合わせないまま聞いてくるラングス、ガルクは重たく口を開く
「ただ、ただ自分の制御ができていなかった、考えよりも体が動いた」
「・・・そうか・・・」
ラングスはガルクと目を合わせる。
「お前は、自分の命と後ろの村はどっちが大切だ?」
「当然、守るべき村の方が大切だ」
ガルクは考える間もなく答える。
その瞬間
パァン!
乾いた音とともにガルクは頬を叩かれた。
「・・・なぁ、ガルク、こんなことしてすまないとは思ってるけどよ」
ラングスは静かに、それでいて鋭くガルクを睨んだ。
「お前は、自分の命を大切にしないのか?確かにたくさんの人が住んでいる村を守るのも正解かも知れない、だけどさ、死んじまったら意味無えと思わないか?」
ガルクは、睨み返す。
「思わない、俺の命一つでたくさんの命が救えるのなら俺は迷わず命を捨てる」
ラングスは唇をかみしめ、ガルクの胸倉を掴んだ。
「だからッ・・・!それでも・・・死んじまったら意味無ねえんだよ・・・」
ラングスはなぜかぼろぼろと涙をこぼしていた。
「お前は、大切なモノを失ったことあるか?」
「ある、両親を、父親は狩場で戦死し、母親は後を追うように病死した」
「違う、両親だけじゃない、関係を持った全ての人が目を覚ましたらいないんだ」
「・・・え・・・?」
ラングスはそっとガルクを離して、涙をぬぐった。
「死ぬ方はまだ気楽さ、思いをその人に託して楽になれる、だが、残された方はどうだ、深く関係を持っただけの穴が心の真ん中に開くんだ、何をやっても埋まることのない穴が」
「それだったら・・・」
俺だって同じ、そうガルクは言おうとしてやめた、ラングスの澄んだ蒼眼がラングスの心を映していたような気がした。
「・・・フレアって人がいるだろ?その人はいつまでもお前の帰りを村で待っていると思うんだ、ここでお前が死んでしまったら・・・お願いだ、人は弱いんだ、悲しみが積もればその悲しみから解き離れたくって命さえも手放そうとするかもしれない」
ラングスは左腕の部分の防具を外して手首を見せる、そこには生々しい傷跡が数本あった。
「わかるか?これが残された人間の心境だ、俺はお前みたいに強くないから、人の死を踏み台になんてことはできない、だからこそわかる、残された悲しみが」
「ラングス・・・」
「お願いだ、命を捨てるな、村の防衛なら命がある限り何度でもできる、無理なら一回退却してもいい、幸いイャンクックがいるのは少しだけ入り組んだ地形だから・・・だから・・・」
ガルクは唇をかみしめた、自分の考えがもしかしたら更なる悲しみを生んでしまうかもしれない、大切な村人の顔が悲しみの色に染まっていくのを考えた、そしてガルクは顔を上げる。
「人の考えはすぐには変えられない」
「・・・ガルク・・・」
「だけど、人の悲しみを知っているお前の考えは間違っていない、俺の考えは答えを求めすぎていたんだ、だから・・・」
ガルクは一度目を閉じると、決意を灯した目でラングスを見据えた。
「少し、お前を見習うよ・・・」
「ガルク・・・!」
ガルクはベットから降りると治療の時外した防具を装着し始めた。
「休憩は終わりにしよう、俺にとって長すぎた・・・行こう」
「・・・ああ!今度こそあいつぶっ倒してやろうぜ!!」
二人は武器を背にもう一度その歩を進めた。