魔法科高校の贋作者   作:ききゅう

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九校戦編Ⅳ

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 昨日の事故で、過保護な保護者からは九校戦自体の中止を求める声が上がったが、選手達は予定通り新人戦を迎えた。初日のプログラムではバトル・ボードの予選に光井が、男女スピード・シューティングに雫とエミヤが出場する。競技時間の違いのおかげか、誰一人試合の時間が重ならなかったのは運が良かったのかもしれない。

 

 朝食後、本部テントでは技術スタッフを含めた全員に市原が競技の注意事項を再度説明していた。昨日の事故の後に危険行為を試みる者はいないだろうが、念には念をという事なのだろう。解散を告げられ、エミヤ達と別れた雫と達也はスピード・シューティングの会場の選手控え室で競技用CADの最終チェックをしていた。

 

「何か違和感は無いか?」

「大丈夫。快適過ぎて怖いくらい」

 

 雫の言葉は偽りではない。雫が普段使っているCADよりも、達也が調整した競技用CADの方が使いやすい。まるで雫自身ですら気づいていない弱点、癖に合わせたかの様だ。雫はそれが達也に自身の全てを見透かされている様に思えて、少し怖かった。

 

「達也さん、CADの調整の仕方教えてくれない?」

「……意外だな。雫なら雇うぐらいは言い出しそうだが」

 

 達也は冗談のつもりで言ったのだろうが、雫は一度だけ達也に雇われないかと本当に口にしそうになった事がある。それは競技用CADの参考の為に、達也に自身のCADを見せた時の事。雫のCADは日本トップクラスの魔工師が調整しているため、高校生程度の知識では見たところで真似できるはずもない。しかし達也はCADの設定をコピーする訳ではなく、オリジナルの設定で競技用CADを自身のCAD以上の仕上りにして見せた。

 

「……目標が出来たから」

 

 それでも言い出さなかったのには理由がある。その直後に達也の監視のためにその場にいたエミヤに、五十里が複数の競技用CADを抱えて訪ねてきた。雫は何事かと二人に視線を向け、そして聞こえたのだ。CADの設定は自分でするので五十里は簡単な調整を、というエミヤの声が。前々から話は付いていたのか、五十里は素直に頷き部屋を出て行った。雫は思った。彼の横に立ちたいならば、今のままではダメだと。それ以降、嫌いだった魔法工学にも進んで取り組むようになった。

 

「分かった。……だけど時間がある時にだ」

 

 達也はディスプレイに表示された時間を確認すると腰を上げる。

 

「始まるな」

「うん」

 

 準備は疾うに出来ている。ならば後は全力を尽くすのみ。

 

「行ってくる!」

 

 雫の表情に憂いは無かった。

 

 ○ ○ ○

 

「あ、雫が出てきたわよ」

 

 エリカが反応したことで観客席で雑談に興じていた深雪達も口を閉ざし、ステージでCADを構えている雫に目を向けた。静寂に支配されている会場にカウントを告げる機械音が鳴り始める。最後の青のランプが点るとクレーが射出された。クレーは順調に有効得点エリアへ向かい、入ると同時に激しい音を立て砕けた。

 

「ほう……」

 

 エミヤは次々と粉砕されるクレーを眺めながら口角を僅かに上げる。彼の横で深雪と光井が解説している雫の魔法は、エミヤの魔法に似通っている部分がいくつかある。

 

「七草先輩とは真逆のスタイルですね」

「そうですね。精度より威力で物を言わせるのが雫のスタイルですから」

 

 派手に破砕されていくクレーに光井の言葉が説得力を増す。終了のブザーと共にクレーも姿を現さなくなる。結果はフルスコア。雫の予選通過は決まったようなものだった。

 

「にしても一気に試合があると、簡単に席も離れられねぇな」

「良い機会じゃない。アンタは落ち着きってモンを知りなさい」

「んだとぉ!」

 

 何も知らない者が見ればハラハラとするだろうが、エミヤ達は似たような遣り取りを何度も目にして居る。その頻度の多さに美月でさえ、またかといった顔をしている。

 

「……話を戻すけどよ、午前は良いとして午後はどうするんだ? 光井の試合を見に行ってる間に席取られたら、士郎の試合見れなくなっちまうぞ?」

「そっか、まだレオには話してなかったね。光井さんの試合には達也と深雪さんが途中で抜けて、見に行くんだ」

 

 いつもより早く立ち直ったレオの質問に幹比古が答える。状況からすると知らなかったのはエミヤとレオだけらしい。エミヤは光井に顔を向けると、光井もまたエミヤを見ていた。先に口を開いたのは光井だった。

 

「私がそう提案したんです。今日出場するのは飽くまで予選ですから」

「……悪いな」

 

 いつもの調子であればエミヤが「私の試合など」と言いそうだが、エミヤは光井の厚意を無下にしなかった。

 

「代わりにといっては何ですが、明日以降の競技は必ず見に来てくださいね!」

 

 エミヤ以外の面子も光井に返事をする。一科生と二科生の壁を越えて、彼等は良好な関係を築けている様だ。

 

 ○ ○ ○

 

 新人戦女子スピード・シューティングの準々決勝。雫とその相手選手を除いて準決勝へと進んだのは既に三人、内二人は一高の生徒だ。もし雫が勝てば上位四人に一高選手が三人も入ることになる。

 

「なんかドキドキしますね」

 

 その事が美月の興奮剤となっているらしい。先程から言葉の端々から昂りが感じ取れる。だが予選の結果で考えれば、雫は準決勝どころか決勝まで勝ち進むだろうとエミヤは予想していた。準々決勝でこの様子ならば、決勝ではどうなるか分かったものではない。

 

「美月……ちょっと興奮しすぎ」

 

 普段からストッパーの役目を果たしているであろうエリカが美月を落ち着かせる。この光景も随分と見慣れたものだ。エミヤはそんな事を思いながら、ステージへと階段を上る雫とそのCADを見つめる。

 

「お気づきになりましたか?」

「……あぁ」

 

 深雪が後ろの席にいるエミヤに問い掛ける。幹比古とその一端を知る光井以外は二人が何について話しているか分かっていないらしい。その幹比古が確かめるように言葉を発す。

 

「あれは……もしかして汎用型なのかい?」

「吉田くん、正解です。詳しく言うと、汎用型に特化型専用の照準補助装置を搭載したお兄様が試合の為に作ったオリジナルです」

「去年ドイツで発表されたばかりだったと思うんだけど……」

 

 幹比古を称賛するように深雪は小さく手を叩く。それに対し高校生が競技のためだけに最新技術を利用したCADを作るという事に、エリカ達E組のメンバーは絶句している。

 

「……始まるぞ」

 

 エミヤはそんな彼女らを余所にそう告げる。競技開始のカウントは既に始まっていた。

 

 ○ ○ ○

 

 新人戦女子スピード・シューティングは一高選手が一位から三位を独占するという快進撃を見せた。ちなみに優勝したのは雫だ。

 

 午前の競技時間が終わり深雪達と別れたエミヤは一旦部屋に戻り、スピード・シューティングの会場を再び訪れていた。ただ今回は観客としてではなく選手としてだ。控え室に向かっていると扉の前には花音が突っ立っていた。

 

「入らないのかね?」

 

 エミヤに気づいていなかったのか、声を掛けられた花音は驚いたように後ずさる。何か言おうとしているが、焦っているのか口をパクパクさせるだけで言葉に出来ていない。花音がはっきりと声が出た時にはエミヤが扉に手を掛けていた。

 

「待っ――!」

 

 だが漸く口にできた言葉も、中で作業をしていた五十里と目が合うことで途切れてしまった。

 

「……花音、僕は何て言ったっけ?」

「……衛宮くんの邪魔になるから控え室には来ちゃダメって」

「そうだね。なのに花音はどうしてここに居るんだい?」

 

 エミヤは何故花音が部屋に入らなかったのか理解した。五十里はエミヤに配慮してくれたようだが、エミヤにとってその様な気遣いは不用のものだ。

 

「気にするな。それに一昨日は私も居たのだから、お互い様だろう」

 

 花音の肩を軽く叩き部屋の中に入るよう促す。花音の時は単なる打ち合わせで今回は最終確認だと喉まで出掛かったが、五十里はぐっと飲み込んだ。

 

「……はぁ」

 

 代わりに大きな溜め息をつく五十里にビクリと花音の肩が跳ねあがる。普段は温厚な性格の彼でも怒った時は怖いのだろう。五十里の気を紛らわそうと花音が話題を変える。

 

「さっきから気になってたんだけどそれって?」

 

 花音が言っているのはエミヤが持ってきたケースの事だろう。エミヤはそれを持ってくる為に一旦部屋に戻ったのだ。

 

「その中に入っているのは衛宮君個人の汎用型CADだよ」

「え? いくら何でもデカ過ぎない?」

 

 花音の言う通りケースだけでも二メートル半位はある。ここまで持ってくる間に何人かとすれ違ったが、その全員がまじまじとエミヤとケースを見つめていた。それにスピード・シューティングで個人のCADを使用する選手はほとんど居ない。

 

「彼以外は参謀の市原しか知らないんだが……」

 

 エミヤが市原と言った事を花音達は言及しない。エミヤがゆっくりと開いたケースの中身に花音は目を奪われる。

 

「……これを使うの?」

「それが今のところは使わないみたいだよ」

 

 特化型でも大き過ぎるCADを食い入るように見つめていた花音は、不思議そうにエミヤへと顔を上げる。

 

「どうして?」

「私のこれは備えとして用意したものだ。相手選手の腕が相応のモノでなければ出番はないだろうよ」

 

 花音はエミヤがただの自信家とは思わない。彼は学年次席という実力者だし、五十里と市原がそれを認めている時点で判断としては妥当なのだろう。それに。

 

「……カッコいいじゃない」

 

 思ったことが口から溢れるほど、今の花音は心の底から沸き立つ興奮を抑えるのに必死だった。

 

 ○ ○ ○

 

 雫と達也がスピード・シューティングの観客席を訪れたのは競技開始の十分前だった。ほぼ満員の会場で達也は迷う事無く深雪達が居る方へと進む。

 

「雫、優勝おめでとう。お兄様もお疲れ様です」

「ありがと」

 

 達也達の気配に気づいていたのか深雪が笑顔で彼等を迎える。エリカ達も一足遅れて雫の優勝を祝福してくれた。そして偶然か深雪達の前の席に陣取っていた市原、渡辺、真由美の三年生トリオも。

 

「渡辺先輩、お体はもう宜しいんですか?」

「君まで私を重症扱いするのか……」

 

 達也は親切心でそう言ったのだが渡辺にとっては余計なお世話だったらしい。達也の認識では十分に重症なのだが、渡辺はちょっと怪我した程度にしか思っていないようだ。

 

「大丈夫だ。……それで肝心の主役はまだか?」

「渡辺委員長。この競技には他の一高の生徒も出ているんですから、特定の人物を主役と呼ぶのは如何なものかと」

 

 市原の言葉の通り、新人戦男子スピード・シューティングにはエミヤの他に森崎ともう一人が出場している。ただ渡辺のように多くの一高生がエミヤに期待しているのも事実で、三年生トリオも実質的にはエミヤの試合を見に来ているようなモノだった。

 

「その主役が出てきたみたいですよ」

 

 渡辺の期待に応えたかのように姿を現したエミヤに会場内の注目が集まる。当たり前ではあるがエミヤは今、一高の競技指定ユニフォームを着用している。ユニフォームの色は各校のイメージカラーであり、一高は緑と白がこれに当たる。つまり何が言いたいのかと言うと。

 

「ユニフォーム、全く似合ってないな」

 

 渡辺が漏らした言葉は達也達全員の気持ちを代弁していた。エリカに至っては笑いを堪えきれておらず、周囲の注目を一時的に集めたほどだ。その笑いが収まる頃には、エミヤがシューティングレンジへの階段を上り終えていた。

 

 騒がしかった会場も波が引いていくかのように静まり返る。無機質なブザー音と共にランプが点り始めると、エミヤが小銃型CADを構える。その構えに多くの者が既視感を覚えた。どことなく真由美の構えに似ているのだ。

 

 そして遂に青のランプが点りクレーが射出された。有効得点エリアに向かうそのスピードは本戦と何ら変わらず、新人戦ではスコアの半分程撃ち損なうのも珍しくはない。クレーが有効得点エリアに入った刹那、クレーはその形を失ってしまった。

 

「……え?」

 

 会場の所々で真由美と似たような反応が起こる。エミヤはクレーを打ち砕いたのだ。ドライアイスの亜音速弾で。それはスピード・シューティング始まって以来、遠隔視系の知覚魔法と驚異的な精度をもった真由美だけが取れた戦法。その筈だった。

 

 エミヤは一方向にではなく有効エリアを取り囲むように魔法を発動させ、炎の光に魅入られた虫の如く飛んでくるクレーを次々に破砕していく。射出されるクレーは残り少し。

 

「リンちゃん、士郎くんは知覚系の魔法を併用しているのよね?」

 

 こうは尋ねたが真由美の意図するところは知覚魔法の名称であり、市原もそれに気づいて答えをくれるものだと思っていた。しかし返ってきたのは質問自体の否定だった。

 

「残念ながら会長の考えは誤りです。彼が使用しているのは会長も使用したドライ・ブリザードのバリエーションのみです」

「あり得ないわ!」

 

 真由美は思わず大声を上げてしまう。雫達は真由美の気持ちが分からなくもなかった。速度は速いし同時に複数射出されたクレーを裸眼で全て把握するなど、とても人間業ではない。

 

「信じ難いでしょうが事実です」

「ですが会長の戦い方と酷似していませんか?」

 

 深雪の言う通り、何も知らないものが見ると真由美と全く同じように見えるだろう。そして人真似はあまり良い印象を与えない。それを懸念しての言葉だろう。

 

「司波さんの言わんとする事は分かりますが、戦法が同じというのは他の選手も同じでしょう。特にスピード・シューティングにおいては、ほとんどが振動魔法か移動魔法です。今回は珍しい戦法が偶々かぶり、その印象が強くなっただけでしょう」

 

 確かに正論だ。だが雫達がそれを理解していても、他の大多数の観客はやはり人真似と思うのではないのか。

 

 終了のブザーが鳴り、それ以上は質問が続かない。結果はパーフェクト。だが目の前で行われていた光景があまりに衝撃的で、会場に歓声が上がることはなかった。

 

 ○ ○ ○

 

 決勝トーナメントが始まって以降、エミヤについての様々な噂はその伝達速度を加速させた。予選後も本選で優勝したあの”妖精姫(エルフィンスナイパー)"と同じ戦い方なのだから、話題になるのは当たり前だろう。だがそれも人から人へと伝達される度に事実から懸け離れていき、エミヤが決勝進出を決めた頃には酷い内容になっていた。

 

「大丈夫だよ! 衛宮君が七草会長のCADとバイザーを使ったなんて話、誰も信じないさ!」

 

 五十里はそう言うが、大会実行委員には噂の事実確認を求める他校の男子生徒が来たらしい。高校生とは言え真由美は十師族の一員。その再現を魔法経験の浅い一年生が出来る筈がないというのが根拠。そして動機は優勝候補だった渡辺が退場を余儀無くされた事による焦燥感によるものらしい。大会委員は競技前のCAD検査では全く問題がなかったとして、この申し出を拒否した。

 

「と言うか一部の男子が衛宮君の実力に嫉妬してるだけでしょ? 女子は女子で騒いでるけど、こっちは好意的なモノよ」

 

 好意的という表現は控えめで、準決勝では前列で多くの女子がエミヤに向けて甲高い声を送っていた。花音が聞いた噂によると、女子の間では十師族である真由美の再現が出来るのはエミヤに同等以上の魔法力があるからという噂が主流らしい。

 

「二人とも気に掛けてくれるのは有り難いが、今は決勝の相手についてだ」

 

 だがエミヤにとって赤の他人がどう思おうがどうでも良かった。彼の意識はスクリーンに映されている試合にある。

 

「……森崎くん、負けちゃうわね」

 

 森崎の相手は三高の吉祥寺真紅朗という選手。彼もエミヤ同様、これまでの試合の結果は全てフルスコアだ。

 

「となると三高の彼が決勝の相手か……。決勝はスピード勝負になるね」

 

 エミヤも花音も、きっとここに居ない雫達も五十里と同じ様に考えているだろう。どちらが先に全てのクレーを撃ち終えるのか、決勝戦はその一点に尽きる。

 

「いやはや、本当にこれを使う事になるとは」

 

 エミヤは態とらしく口にすると、ケースの中から自身のCADを取り出す。五十里はまぁまぁとでも言いそうな笑みを浮かべ、花音は待ってましたと言わんばかりに目を輝かせる。

 

「悪いが決勝戦のCADはこっちで登録しておいてくれ」

 

 五十里は大きく頷くと、エミヤの手にあったCADを両手で受け取った。

 

 ○ ○ ○

 

「噂をすれば」

 

 声を上げた雫に釣られてエリカ達も最寄りの出入口に視線を向ける。そこには競技を終えた光井とその観戦に行っていた達也と深雪の姿が。雫達はちょうど今まで、光井達がエミヤの決勝に間に合うか否か心配していたところだ。

 

「ほのか、本選出場おめでとう」

「ありがとう、雫」

 

 光井達は取ってもらっていた席に腰掛ける。

 

「それにしても、本当に多いですね」

「多いと言うよりも、この人数は既に会場のキャパを越えているんじゃないか?」

 

 達也は辺りを見渡す。競技を見るだけなら各校の本部テントで十分事足りるのだから、会場に足を運ぶ必要もない。おまけに観客は各競技に分散するのだから会場が満席になる事はあっても、立ち見客が出るなど思ってもいなかった。

 

「それだけ士郎くんが注目を集めているってことだ。どういう意味かは別としてな」

 

 渡辺は腕を組みながら目を閉じる。突然会場が沸いた。両選手が姿を現したのだ。そしてまたもエミヤは人目を集めることになる。

 

「あれは……弓よね?」

 

 真由美の口から漏れた言葉は自身の目を疑ってのものか。だがエミヤが手にしているのは紛れもなく弓である。

 

「自分に自信がないから弓に逃げたんだろ!弓に魔法は関係ないもんなー!」

「ここはアーチェリーの会場じゃないでちゅよー!」

 

 三高選手側の前列の方で起こった他校の男子によるエミヤに向けた罵倒と嘲笑。レオは力付くで黙らせてやろうかと立ち上がるが、エリカに腕を捕まれ阻まれた。

 

「確かにムカつくけど、アンタが行っても何も変わらないわよ」

「でもよっ!」

「落ち着け、西城。あぁ言う輩はどこにでも居るもんだ」

 

 いつになく息を合わせたエリカと渡辺に西城も冷静になる。見ると嘲るように笑っていた男子達は、エミヤを応援している女子達に睨まれ大人しくなっていた。その様子に何故か真由美が微笑む。

 

「どうした真由美?」

「いえ、士郎君にもファンがいるんだなって……」

「まぁ性格はともかく、見てくれは良い方だからな」

 

 達也は脱線し始めた話の舵を取る。 

 

「御二人とも、話を戻しませんか?」

「そうだな。どうなんだ市原?」

 

 渡辺は市原に丸投げする。

 

「どうと言われましても……。あの弓の事を仰っているのなら、衛宮君個人のCADとしか」

「あれがですか? 大き過ぎると思うんですけど」

 

 疑問を呈したのは光井だ。だが答えたのは市原ではなくエリカだった。

 

「弓にも種類があるの。士郎くんの場合は多分和弓をイメージしてるのね」

 

 そこまで分かっても何故携帯性に優れない和弓をモチーフにしているかは理解できない。エミヤを見ると相手選手と握手を交わしていた。

 

 ○ ○ ○

 

「三高の吉祥寺真紅朗です」

「……一高の衛宮士郎だ」

 

 突然差し出された手をエミヤは動じること無く握る。

 

「それにしても意外でした。噂に聞く贋作者さんがこんな人だったとは」

 

 動揺を誘うつもりなのだろう。小馬鹿にするような調子の声で真紅朗は話続ける。

 

「策を練ったようですが……。まぁ妖精姫(エルフィンスナイパー)の紛い物として頑張ってください」

 

 真紅朗はエミヤに背を向けCADを構える。贋作、紛い物。エミヤにとってはどれも懐かしい言葉だ。赤のランプが点る。エミヤは矢を番え、弓を引き分けた。

 

 ○ ○ ○

 

 青のシグナルが点るまでは見えていた矢も、クレーが射出されると目で捉えきれなくなってしまう。白いクレーが有効得点エリアに入った次の瞬間。クレーだったものが割れた皿のように砕けた。砕いたのは恐らくエミヤの放った矢だ。だが次なる矢は放たれていない。勝負を諦めたか。顔も知らない誰かがそう口にする。そして二つ目の白いクレーが有効エリアに入った刹那。

 

「嘘……」

 

 それは原型を留めていなかった。相手選手による妨害ではない。

 

「何が起こっているの……?」

 

 そう思っているのは真由美だけではない。分かっているのは市原と興味深そうな表情をしている達也、ここには居ない五十里の三人。そして真由美達に教えてくれたのは市原だった。

 

「簡単な事です。最初に放った矢が追い続けているんですよ」

 

 矢が追い続ける。つまり自然法則を無視しているという事だ。

 

「重力ベクトルとかを操作してるって事かしら?」

「それもあるみたいですが」

 

 真由美の推測を達也がより正確なものにしていく。

 

「士郎は仮想領域を構築しているのではありませんか?」

「正解です」

 

 市原が続きを引き継ぐ。

 

「衛宮君は有効エリア全体に一辺三メートルの正二十面体の仮想領域を構築しています。番号付けした各頂点は生成した疑似真空チューブで繋いでいます。頂点には矢の各ベクトルを操作する魔法が記録されており、衛宮君は番号を入力して矢の進行方向を操作しています。矢には硬化魔法の刻印が刻まれています」

「……なるほど。誘導弾というわけか」

 

 渡辺が納得した表情を見せても市原は口を閉ざさない。

 

「衛宮君と話をした時は仮想領域内全てが真空になるとの事でしたが、それでは大会の規定スペックをギリギリ越えるので各辺を真空チューブで結ぶことにしたそうです」

 

 一つのクレーにいちいち魔法を発動する必要はないが故に、クレーを破壊していくスピードは凄まじい。だがその分処理能力が要される。

 

「しかしそれだけでは相手選手のクレーも砕いてしまうのでは?」

 

 深雪のこの質問に市原は苦笑する。その表情で何か察したのか思ったことを渡辺が言葉にする。

 

「……まさかとは思うが自身の分だけでなく、相手のクレーの軌道まで把握しているのか?」

「そのまさかです」

 

 相手選手の分も含めると二百ものクレーの軌道を肉眼で把握し、同時に魔法を行使している事になる。

 

「これでは本当に同じ人間なのか疑ってしまうぞ」

 

 渡辺は頭痛がするのか片手で両目を覆っている。だが達也達は未だ肝心な事を聞いてない。

 

「魔法の名前は何と言うんですか?」

「《猟犬(ハウンド)》だそうです」

「……これはまた物騒な名前ね」

 

 空を舞っていた最後の白のクレーが砕かれる。決勝戦を制したのはエミヤ。見せつけられたエミヤの実力に会場には、耳を塞ぎたくなる程の大きな歓声が響いた。

 

 ○ ○ ○

 

 控え室で待っていた五十里達と本部テントに向かうとエミヤは拍手で迎えられた。

 

「……祝われるような事は何もないはずだが」

「また君はそう言う事を言う」

 

 エミヤに歩み出てきたのは渡辺。彼女の後ろには雫達もいる。

 

「君は(ろく)でもない噂に屈すること無く自身の実力を証明した。それは誇っていいことだ」

 

 渡辺はエミヤの背中をバシバシ叩く。その勢いは本当に怪我人なのか疑ってしまう。

 

「お疲れさま。今日はじっくり休むといい」

 

 自由気ままと言うべきか、エミヤの返事を待つこと無く彼女は本部テントを去っていく。残されたエミヤに雫が駆け寄る。

 

「優勝おめでとう」

「……雫も、おめでとう」

 

 お互いの瞳を見つめながら祝福の言葉を掛ける。だがそれは一瞬の事。秒針が三つ針を進めた頃には、エミヤの目はもう雫を映していなかった。

 

「おめでとうございます、衛宮くん」

「……ありがとう」

「今じゃ有名人だな、士郎」

「なに、少し悪目立ちしただけだ」

 

 冗談を交えて深雪と達也もエミヤと言葉を交わす。

 

「じっくり話したいが明日も新人戦だからな。今日はもう部屋に帰ろう」

 

 達也の一声が合図となりエミヤ達は揃ってテントを出る。

 

 日は既に半分程沈み空は赤に染まっている。地では影がその色を深め夜の訪れを感じさせる。その地を這う蛇が白髪の男をじっと見つめていた。




先ずはお礼を。累計ランキング入り、またお気に入り登録者が5000人を越えました!本当にありがとうございます!また高評価を頂きました、Sohya4869様、rica様、迷宮様、金獅子様、アーチ様、мiуa様、エクロ024様、金本様、武蔵国の住人様、わんこ熊鍋様、弓瑠斗様、まめ鈴様、ルピナス様、緋雫様、ばぶるす様、HANEKAWA-san様、zunda312様、ハルナ@霧の提督様、被子植物という名のおから様、近藤 大介様、Canno様、からあげ3号様、資源様、松江陸様、黒田りあ様、ケーガー様、あっこ様、kaiki様、羅玖熾阿@鄂爾多斯様、Type S様、小米様、SE.RA.PH様、モッチー様、たくやん様、Reiassk様、瑠歌様、レグルスアウルム様、奈々奈々。様、めざし様、咲やん様、MA@Kinoko様、かたゆぅ様、blank s様、kei2736様、HAL.HAL様、赤身様、感想を下さいました皆様、本当にありがとうございます!
感想や高評価を頂く度に作者も頑張らねばという気持ちになっています!

さて今回はエミヤ君が少しだけ活躍(?)しました。本当は投影とかバンバン使わせてEMIYATUEEE!ってしたいんですが……。まだまだ道は長そうです。

これからも魔法科高校の贋作者を宜しくお願いします!
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