虐殺・ゲーム   作:屍原

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  ひょんな事から霧雨は二度目の生を受け、スパイとして長い人生を過ごしたものの、とある任務にて気絶してしまい、未来へ飛ばされた。そこは伊藤計劃氏のデビュー作こと代表作である『虐殺器官』であることを、彼はまだ、知らなかったのだ。旧時代の人間として、霧雨は檻の中で目覚め、特殊部隊であろう軍人の男と対面した。

あらすじっぽいなにかを書きました、しかも予め書いてました。
何を考えてるんだあの時の自分は。


変化

- 生まれ変わる

 

  私の檻の前まで椅子を運び、そこに腰を下ろしたのは軍服の男。名前はまだ分からないが、階位は大尉で、特殊部隊に所属してるのは間違いない。だが、やけに知的な雰囲気を漂わせてるのは何故だ。よくよく見ると、文学部出身、という面影も薄くはない。だが、何故よりによって殺しを専門とする、特殊部隊に?気になるのは、ここだ。もっと研究を励みたい、とは思わないだろうか。

 

  まあどっちにしろ、この大尉殿はすでに己の道を歩んでる、私が介入したところで、彼の決定を変えれる訳でもない。

 

「大尉殿、一つ聞いても?」

  スパイだと知られた以上、私がどんな手を使ってでも現状を把握しようとしてるのは、相手も分かりきってるはず。ならここはあえて真正面から聞き出した方が、より効率がいいだろう。どうせこの時代に関する知識なんてまったくないから、必要以上に警戒する必要もないだろう。

 

  ……横たわったままでは流石に失礼かと思い、ベッドから降りて、檻の前まで行き、大尉と対面する形になった。全てを見透かす青の瞳が、すぐそこに。この距離なら、いつでも隙間から手を伸ばして、大尉の首を絞めることだってできる。けど今のところ、行動に移ってもなんのメリットもない、むしろ状況も知らぬまま死んでもおかしくはない。大尉も、それを承知して、檻の前にいる。そこで、大尉は口を開く。

 

「答えられる範囲なら、構わない」

  相変わらず無愛想で、感情も読み取れない口調。軍人は、佐久間さんみたいな、時には激情に身を任せる人の方が多い、と思ったが、どうやら違うようだ。単にあの時代が帝国主義で、思考が限られてるからか。はたまたこの時代の技術が発展し、何かしらの方法で感情制御ができるのか。個人的には、後者の可能性が大きいと思う。理由は、思いつかないが、しいて言うならば、勘。

 

「今は、西暦何年だ?」

「2020年だ、おまえが第二次世界大戦の時代に生きてるのなら、80年近くは経っている」

  なるほど、実にシンプルで簡潔な返答だ。つまり、私は大尉たちにとって、あまりにも古い旧時代の人間で、どうやって生き残ったのも分からぬ、解明しがいのある被験者って事か。これは推測ではあるけど、目の前にいる大尉も、私と会うのが嫌だっただろうと、そう感じた。

 

  感情を表に出さないけれど、薄々と気配を感じる。加えて、あのぎこちない姿勢、意図的にとも言える『堅苦しい』目つき。科学的要素も含まれてるだろうが、どうも違和感を感じてしまう。ただの推測と、勘だけど。

 

「へぇ、そんなに経ってるのか…全く歳を取ってないのは、気にならないのか?」

  思わず、子供のようなイタズラの笑顔を浮かべたのは失策だった。スパイをやってる頃は『芝居』だらけで、ストレスが溜まってしまったのかな?とりあえず、ミスったのはしょうがない、大尉の反応を窺おう。

 

  思わぬところでドジしてしまい、それでも大尉に方に視線を向く。もちろんイタズラの笑顔を保ちながら。しかし返された反応は、やはり無表情、そして無反応。

 

「ふざけるのも大概にしろ。ぼくは尋問官であって、おまえの友人じゃない」

  なんて思っていたが、今度こそ眉間にしわを寄せ、眼光を鋭くして睨んできた。ようやく見せてくれた反応に、なぜか落ち着く。いつも不気味な人間たちと一緒に行動を取ってるし、これといって気持ち悪いなんて思ったこと無いが……やはり、久々にちょっとだけまともな反応が見れたから、だろうか?

 

  しかしこの大尉殿、意外と人間味がある、やはりいつの時代でも、人間は人間って事か。私のスパイ同僚は当てはまらないけど、あいつら全員化け物。

 

  危うく『ご乱心』になりかけた大尉を目の当たりにして、態度を改めて、本題に入る。

 

「そうだな、悪かった。君だって必要でなければ、俺なんかに会いたくもないしな……正直な話、俺は現状すら把握できない身だ。話せる事も恐らく、本名以外、君の資料に書いてあるだろう」

  仕事のときの口調で話してやれば、相手も気づき、私のことばに耳を傾けてくれた。尋問官ではあるが、私みたいな特殊なケースもあるゆえか、まずはこちらから話したほうがいいだろう。こっちの身が危うくなるかもしれないが、どうせ『元の時間』に戻れはしないんだ、ならいっそ好き勝手やらせてもらったほうがいい。

 

「…随分素直だな」

「どうせ、もう後戻りできないんだ。なら、君に従ったほうが、よっぽどいいさ」

 

  時代遅れで、旧時代の『忘れ形見』だからな。

 

  自虐的なことばを口にし、思わず流れた感情に身を任せてしまった。目を伏せて、苦笑いをする姿を見られたが、もう、どうでもよくなってきた。せめてまだ生きていられるこの時、スパイではなく、本物の自分になりたかった、かもしれない。本当は、もう疲れたんだ。仮面をかぶるのも、他人を詮索するのも、各国を回るのも、疲れきった。

 

  どうせなら、君にすべてを話したほうが、楽かもしれない。

 

「聞きたい事は、知ってる範囲なら全部話すよ。なぁ、大尉……私は、君を、信じてもいいか?」

 

  大尉の目は、またもや見開いた。

 

 

 

 

 

「手前は風呂場とトイレ、奥にぼくの部屋があるが、勝手に入るな。リビングとキッチンは好きに使ってくれ、けどきれいに使ってくれよ?ああ、そうだ、冷蔵庫にある物は好きに取っていいよ」

  大尉殿……もといクラヴィス・シェパードの説明を、徹底的に頭の中に叩き込み、大人しく後ろについていく。

 

  状況を説明すると、なぜか私は檻から出してもらい、さらにはクラヴィスのところに住んでもらうという『命令』を受けた。命令と強調したのは、アメリカ側のお偉いさんが決めた事、だからだ。どうせ祖国日本にはもう私の戸籍など存在しないし、合衆国にも私の戸籍など存在せず、いわば『死人』と同等だ。こちら側の指令を、大人しく従うしかない。

 

  私の命は、こっち側の人間の掌にあることだ。

 

「あんたの寝床も考えないと…」

「あ、大丈夫です。リビングの床でも構いません、慣れてますので」

  さすがに家主に向かってタメ口は失礼だから、きちんと礼儀のある口調で対話した。しかし当のクラヴィスはなぜか、眉間にシワを寄せる。

 

「畏まった話し方はしないでくれ、慣れた口調でいい」

  どこか不機嫌そうに話す彼を見上げ、思わずドキッとしてしまう。だって、あんなにも感情を見せてくれなかった人が、自宅に帰った途端に、人が変わったようになったから。もしかしたら軍人が皆そうなのかもしれないが、きっと、違う。ただの予想だけど。畏まった話し方…日本人の癖が出てしまうから、変えるに変えない、むしろ長くスパイとして生きてるからかもしれない。長らく抑えられた癖が、思わず出してしまう。

 

「そうか?あー…ごめん」

「素が日本人なのは意外だな」

「今までは『スパイ』だったからね。じゃ、お言葉に甘えさせてもらうよ?」

「ああ」

 

  いや、本当にごめんね素が日本人で。仮面かぶるの本当に疲れたんだよ、あちこちで人を騙さないといけないし、名前もぐるぐる変えなきゃいけないし。しかも、D機関の化け物たちと一緒に生活しなきゃいけないし、本当に、疲れる。『死んだ』とされる今を、思うがままに生きたい、好き勝手に生きたい。もちろん、家主であるクラヴィスに迷惑はかからない。

 

「まったく、調子が狂うな…」

  呆れた口調に変え、仕方ないようにため息を漏らす姿は、やはり人間らしく見える。ただ、家主を困らせてしまったのはこちらの予想外、まさか私を一人の『人間』として扱ってくれるなんて思いもしなかった。単に『化け物』扱いされるのに慣れてしまっただけ、というにが正しいけど、どうも慣れない。嬉しいのは間違いないが、慣れるのに時間がかかる。感覚まで『あいつら』と同じになりかけてると、ここで初めて思い知った。

 

「そういえば、あんたの事はなんて呼べばいいんだ?」

「図々しいかもしれないけど、君といる時は、本名で呼んでくれないか……?」

  せめて『信頼』できる相手にだけは、本当の名で呼んで欲しい。偽名もわりと好きだったけど、今はもう、スパイじゃないんだ。ならここで初めて出会い、初めて私と関わりを持ってくれる君には、そう呼んで欲しい。今まで一人でいても、心細いと感じたなんて一度もなかった。寂しいなんて思わなかった、気が狂ってしまうとも思えない。

 

  なのに、ここで『目覚めた』きり、消したはずの感情たちが途端に舞い戻ってきた。正常な『かんじょう』たちが、戻ってきてしまったんだ。もう、あの頃のように化け物になれない。あの頃のように一人で過ごせない。だから、せめて……

 

「『ひと』らしく、生きてみたいんだ…」

 

  縋るようなことばを口にしてる、こんな私の口から出てる。前の私だったら、想像もしなかった、自身の辞書にも書かれていなかったろう。どうして、君に出会ってから、感覚が甦ったんだろうな。本当に不思議だ。君は知的で、強靭で、冷静に判断を下し、かつ優しい心の持ち主だ。たとえ進歩した医学やテクノロジーによって『調整』されていても、君は私なんかより、よほど人間らしい。もしかしたら、共に生活していくうちに、人間らしさを、取り戻せるのではないかと、考えてしまう。

 

  ふと気づくと、クラヴィスの慌ててる声が耳に入った。妙に朦朧としてる視界に戸惑い、瞬きする。瞼が開く瞬間に、視界がクリアになり、頬になにかが流れていく感触がする。微かに濡れた感触、目から流れ出るもの……そうか、私は、泣いてるのか。感情を封じてきた反動か、是か非かは知らない、でも、久々だ。頬に残した涙の軌跡に触れ、掌を自分に見せ、戸惑う。

 

「……アマギリ、大丈夫か?」

  妙に不安げに聞こえる声に、なにも答えられない。どうして、だろうな。不信から、一瞬で気にかけるほど親しくなってくれるなんて、不思議な人だ。もしかしたら、またなにか情報を引き出そうと、してる行動かもしれない。騙すために、わざと『飴と鞭』を使ってるかもしれない。様々な可能性や、シチュエーションが頭の奥に浮かぶ。

 

  ああ、違う。違うんだ。彼は、もしかしたら、本気で……

 

「…?」

「おい、顔が真っ青だぞ!ひとまず…ソファで横になれ、少しは良くなるはずだ」

 

  ふらふらする、声が遠ざかる、意識が、ブラックアウトする。これは、気を張っていた反動、長時間の眠りによる身体機能低下、精神的にも肉体的にも衰弱しきってる反応。ああ、もう、なにも感じ取れない。

 

 

 

- 激変

 

  上の命令で、『旧時代の忘れ形見』……旧時代に『元』スパイであるアマギリ・サクヨと同居することとなった。正直、納得いかない。他にいくらでも適任者があるはず、なのにどうしてよりによってぼくを選んだのか?いくら『調整』を受けたとはいえ、尋問官を担当してとはいえ、安易に任せてくれて、本当にいいのだろうか?

 

「…はぁ、認めたくないけど、きみの言う通りだよ」

  同僚兼友人であるウィリアムズのことばが蘇る、不条理なものは全部カフカだ。まさに、その通りかもしれない、全部とはいえないが、幾分かは認めたい気持ちが増えてしまった。彼からしてみれば、ただの雑談に過ぎなかった内容だとしても、思いもよらない『意味』がことばの中に含まれることを、彼は知らない。

 

  たとえ命令を下した大佐でも、ことばに込められた意味を悟ってない。

 

  ペンタゴンから離れ、タクシーをつかまえて自宅の付近に帰る最中でも、何一つ話さないアマギリに目をやる。窓の外の景色を眺め、鏡のように薄々と映った顔を覗く。徹底した無表情は、いかにもスパイらしく見える。唯一違和感を漂わせるところとすれば、あの瞳だろう。墨のような真っ黒な瞳は、移り変わる風景を見てるのではなく、まるでここではない、遠いところを眺めてるようだ。

 

  なにを、考えてる。祖国を、考えてるのか?虚ろな瞳に映ってるのは、目の前の景色なのか、遠いむかしの祖国なのか、それとも……死者の国を、覗いてるのか。

 

「進歩とは、常に人を驚かすな」

 

  微かな訛りが残された英語が、キリサメの口から流れる。スパイらしからぬ、悲しげな微笑みも浮かべて。彼のことばには、明確な感情が含まれていた。呆れ、落胆、悲痛、郷愁。どれも感傷的で、ネガティブな感情だ。見かけによらず、ということばを思い出す。まさに、彼のことを示してるようなことばだ。掴みどころがなく、予測不能、生意気なスパイ。資料と、ぼくの主観で見た第一印象。あらためて、消極的なイメージを与えてくる彼は、ことば通り、驚きを与えてくれる。

 

「人はいつだって、ぼくらの想像を上回るさ」

「…ああ、そうだな」

  目を見開く彼だったが、すぐさま苦笑いに変更され、困った口調で返事を返す。奥深くに潜む虚ろは、未だ消えない。解消されない重苦しい空気は、沈黙によって塗り替えられる。

 

 

 

 

 

  自宅に到着し、幾度か会話を交わした。途中から顔色が徐々に悪くなっていく彼が、とうとう倒れてしまった。操り糸が切れた人形のように、地面に吸い込まれていく姿を目の当たりに、反射的に滑り込んだ。頭を打たないようにしっかりと体を抱き、状態を確認する。息はある、脈絡は正常、体は微かに火照ってる。

 

「……どれだけ無理してるんだ」

  時代遅れの彼にとって、ぼくらの生きる今がどれだけ常識離れしてるのか、まさに、底知れない。元スパイとはいえ、整理しきれない莫大な情報を、ひとすら頭の中に叩き込むだけでは、悪影響になるのみ。倒れるのも、無理はない。

 

  しかし微弱な呼吸を繰り返すあたり、悪夢に襲われる予兆はない。せめて意識をなくしてる間、平穏がきみに訪れることを願おう。実に、ぼくらしくない考えだ。他人の心配をするほど、暇なわけでもない、お人好しでもないのに。

 

  思いのほか軽い彼を抱き上げ、自室に運ぶ。さっきは入るな、と言ったが、病人を邪険にするほど、冷酷な人間ではない。久々に感じた、人の温もりが、自分の腕の中に閉じ込めてる。心なしか、薄く強張っていた体が、(ほぐ)していく。まるで、倒れる彼を心配していたような反応だった。会って半日も経たない、不信感を覚える相手を心配していたというのか。

 

  違う、そうじゃない。きみを心配するようになったのは、きみに気を取られたのは、最初からだ。初対面での『スパイ』と、自宅での『ジャパニーズ』のギャップに、ぼくは、惹かれていた。狭間に立つきみは、魅力的に見えた、ぼくが愛してる『ことば』みたいで、目と耳を奪われてしまう。

 

  教えてくれ、ぼくは、きみは、一体どうしたんだろうな。

 




Q.虐殺器官のブルーレイはまだですかー?
A.あっ、まだチェックしてなかった…(うっかり)

Q.原作小説はまだかー?
A.諸事情により入手困難です、早く読みたい。
普通にスマホのストアで買えばいいけど、電子書籍より紙の本がいい。

某アニメの槙島先生(CV櫻井孝宏さん)の言葉を引用してるけど、あの方の意見に異論はない、むしろ同意しかない。



夜中で投稿するの楽しい、単に深夜テンションだから、というだけかもしれない
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