………文才が超欲しい。
プロローグ
2193年某月某日――――時刻不明
イカルガと呼ばれる地で続くイカルガ内戦が激化する中、まるでそんなものから目を背ける様にして、第11階層都市イウラの地下深くの研究所では日夜実験が続いていた。
冷たい金属の壁で覆われた冷たい空気が漂う部屋の中、しかし、白衣の男達の声は熱が籠っていた。
「………これは面白い。」
男の中の一人がそう呟く。その手に持っているのは黒い菱形の形をした物体だった。
「まさか、これを、対術式の為だけに造り出され、誰にも使えない筈のこの魔導書が、こんな人形に適合するとはな。」
そう、男の持つ菱形の物体は、「対術式」をコンセプトとして造られたものであった。しかし、それを使うには特殊な術式適性が必要で、只の失敗作として忘れ去られる筈のものだった。
そこで、男達は部屋の奥の、無数のケーブルに繋がれた円筒状のケースに目をやる。ガラスの様に透明でありながらそれよりも遥かに頑丈なケースの中は青い液体で満たされ、その中ではやはり無数のケーブルに繋がれた少女が眠る様に浮かんでいた。彼女の、あられもなく晒された鎖骨の辺りには『九』の刻印が入っている。
彼女こそが、『失敗作』を『成功』へと変えた「特別」だった。
「『これ』との適合は明日にしよう。焦って取り返しのつかないミスをしてしまっては不味いからな。」
その言葉に、男達の頭は頷き上下する。
「忘れるなよ。これは極秘の実験だ。絶対に外部に漏らさない様にするんだ。」
その言葉にまたしても男達は頷く。そう、これは、この人形の本来の使い方を逸脱した実験だった。「人形」の本来の名称は「次元境界接触用素体No.9――――Ι(イオタ)」。元は『窯』から境界に接触するのを目的として造られた人形である。当然、この様な実験が許される筈がないだろう。そう判断したために、男達は独断で実験を行うことにしたのだった。
「今回の実験を終えた後、本来の実験を行えば良い。」
そう言った後、男達は研究所から出て行った。その背中には自信すらも窺える。
準備は滞りなく進み、準備に抜かりはない。勿論機材には僅かな不備すら無かった。確かに失敗の可能性もあったが、それもあくまで現実的ではない程度である。この実験は失敗する筈が無かった。
…………その筈だった。
実験当日。
研究所のあった第11階層都市イウラは、突如謎の爆発事故を起こした。規模は尋常ではなく、イウラの都市らしい部分を一度に吹き飛ばした。
都市は火の海となり、数え切れないほどの死者が出た。原因は不明。研究者は勿論、その瞬間に都市にいたイウラの住人は全滅した。
その中で、只一人生き残った少女――――最大のイレギュラーを巻き込んで、繰り返される神の夢は、運命の日へと近付いて行く。
これは、繰り返される物語の中で、唯一生まれたイレギュラーの、黒い少女の物語。