階層都市ってどんな名前の所が有るんだろう?
第9話
「そっか〜。ノエルちゃん、任務で来たんだ。時間とかは大丈夫?」
「あ、大丈夫です。遅れないように何日か早く着く予定だったんです。」
飛行船の墜落場所から暫く行った場所にある岩壁が削れて洞窟の様になっている場所。その中に二人の少女が座っていた。片方は黒いコートを着て、フードを深く被り、顔の見えない少女、イオ。もう片方は見る人が見れば分かる統制機構の武装魔術師第四師団の制服を着た金髪碧眼の少女、ノエル・ヴァーミリオンである。
暫くバイクに乗っていた二人は、暗くなってきた、という事もあって、近くの洞窟の様な所で一晩を過ごすことにしたのである。
「それにしてもイオさんは凄いですね!強いし、今作ってる料理も美味しそうですし。」
………ノエルがイオを「強い」と言ったのには理由があった。この洞窟に入った時、先客がいたのである。体長数メートルのなかなかに大きな野獣が。その野獣を目にして立ち尽くすノエルとは違い、イオは怯むこと無く突っ込んで行き、十数秒で叩きのめしたのである。………ちなみに、現在その野獣は、イオの作っている料理の材料となっている。
「ん?まぁ、強くは無いけどね。強いて言うなら師匠に叩き込まれたからかな。戦い方もこういう知識も。」
ちなみに、ノエルもイオの料理を手伝おうとしたが、「こういうの、慣れてないでしょ?なら、私に任せちゃいなさい!」という言葉に断念していた。………その選択に内心イオが「良くやった!過去の私!」と思うようになるのは暫く後の話である。
「うん、そろそろ良いかな。出来たよ。ノエルちゃん。」
「とっても美味しそうですね!それじゃあ、いただきます。」
「はい、どうぞ。」
「とっても美味しいです!」と言って食べ始めたノエルを少し眺めた後、イオも食べ始めた。
◆
「とっても美味しかったです。ありがとうございました。」
「あははは。ありがとう。まぁ、明日も道案内、頑張ってもらうからその気でいてね。」
そうイオが言うと、ノエルは「はい!」と頷いた後、不思議そうな顔をして周りを見て、その後にイオを見る。
「どうしたの?ノエルちゃん。」
「いえ………今まで気にもしてなかったんですけど、ここ、魔素が薄いな、って。それも階層都市の上層位に。何でだろう、って考えてたら何かイオさんがフードを取らないのが凄く気になってきて………嫌だったら良いんですけど、出来たら顔を見せてくれませんか?イオさんがどんな顔をしてるのか、凄い興味があります。」
その言葉にイオは、少しだけ考える。………別に顔を見せるのは良い。どうとでも誤魔化せるからである。だから、問題はノエルの方である。いくら髪と目の色が違うからと言って、同じ顔が目の前に有ると混乱する筈だ。そこまで考えてイオは、
「………良いよ。良いけど………どんな顔が出ても落ち着いててね?」
そう言ってフードを取る。それまで制限されていた視界が広がり、視界の端に自分の黒い髪が映る。
ノエルの方を向くと、呆然とした表情でイオを見ている。当然だろう。目の前にあるのは自分と瓜二つの顔なのだ。驚かない方がおかしい。そしてノエルの目は、その状態からどんどん輝いて行って、
「へ?ノエルちゃん、何でそんなに嬉しそうな顔してるの?普通、もっと別の反応しない?気味悪がるとか、拒絶する、とか。」
その言葉にノエルはぶんぶんと首を横に振って「そんな事無いです!」と否定する。
「イオさんが、何となくお姉ちゃんみたいだなぁ、何て思って顔を想像してたんです。そしたら本当にお姉ちゃんみたいだったんですよ。これで嬉しくない訳がありません!」
その言葉にイオは、少しだけ驚いた表情をした後、あはは、と笑って、
「じゃあ、本当にお姉ちゃんになってあげる?」
と聞く。その言葉に今度はノエルが驚いた表情をして、
「良いんですか?」
と聞いてくる。イオは、更に笑って、
「良いよ。私って、家族いないし。さっきの一つ目の質問に繋がる事だけど、何か変な研究所みたいな所の被験体みたいな感じで、ずっと色んな実験されてたみたいで、体の中に変なものも入れられるしね。」
「変な、もの?」
「「黒の魔導書」って言うらしいよ?ほら、ちょっと前までバイクになってた剣の事。常に私の周りの魔素を無効化してるんだ。」
「それって、軽い都市伝説になってる………イオさんはその研究所の人をどう思ってるんですか?恨んでたりとか、してるんですか?」
「恨む?んー、無いかな?あって、被験体に女の子を選ぶなんて趣味悪いなー、位かな?ほら、これもなかなか、いやむしろすっごい便利だし。少し感謝する位かも。」
イオはそう言って、あはははと笑う。ノエルは、それを見て、強いな、と思う。もし自分だったら、もしかしたら復讐に走っているかもしれない。いや、そうじゃなくても、あそこまで明るくはなれないだろう。
「ほらほら、顔が暗くなってるよ。それで?ノエルちゃんは、今の話を聞いても私をお姉ちゃんにしたいって思う?」
その質問にノエルは、「勿論です!」と間髪を入れずに答える。イオは、そのノエルの返事を聞いて、嬉しそうに頷くと、
「そっか。じゃあこれから私達は姉妹だね。よろしく。ノエルちゃん。」
「よろしく!お姉ちゃん。」
「それじゃあ、明日も早いし、そろそろ寝よっか。」
「うん。」
その会話を最後に、イオ達は眠りについた。
◆
「ここ………ようやく着いたね。」
次の日、昼頃。朝早くから出発したイオは、ノエルの案内に沿って、目的の階層都市に辿り着いていた。イオはバイクを消すと、ノエルと共に下層を歩いていく。
「ノエルちゃん。気を付けてね。統制機構の衛士のノエルちゃんには少し、危険だから。」
「……?どうして?」
ノエルはここの状況を理解していないらしい。イオはそう判断して説明を始める。
「いい?ここは上層とは違って統制機構の管理が行き届いて無いの。貧困のサポートも出来てない。だから、ここには統制機構に不満を持っている人がたくさんいる。それでも普通は衛士さんに手を出しはしないんだけど、我慢の出来ない少数の「おい、ねーちゃん。あんた、統制機構の奴だな。」………こういう人がいるんだ。」
そう言ってイオが振り返ると、そこには5〜6人のガラの悪そうな男が立っていた。それを見て、溜め息をつきながらイオは口を開く。
「何か用ですか?………いや、殺気が出てる時点で大体どんな用かは分かるので言わなくて良いです。それを踏まえた上で、あなた達の下らない遊びに付き合ってる暇はありません。急いでいますから。」
そう言ってノエルを連れて通ろうとするが、道を塞がれて通れない。
「てめえ、「下らない遊び」だと?ふざけんじゃねえ!!」
先程の言葉に切れた男の一人が殴りかかってくる。イオはもう一度溜め息をついて、殴りかかってきた男の腕を掴むと、そのまま腕をひき軽く足を掛ける。男はそれだけでぐるん、と1回転して地面に叩き付けられ、気絶する。それを見て、イオは男達の方を向いて、笑顔で、
「もう一度言います。あなた達の遊びに付き合ってる暇は無いんです。怪我をしたくないんだったら、消えてください。そうじゃ無いなら相手をしますけど、………大変な事になりますよ?」
と言った。それを見て、男達は怯えながら走り出す。何故なら、イオは顔が笑っていても、目が笑っておらず、自分たちでは考えられない程の殺気を放っていたからである。男達には分かった。あれは本気だと。
男達が居なくなったのを確認した後、イオはノエルの方を笑いながら振り返る。………今度は純粋な笑顔である。
「それじゃあ、もう少しだよ。行こっか。ノエルちゃん。」
「うん。お姉ちゃん。」
そう言ってノエルの手を引いて上層へと上がっていく。暫くすると、統制機構に辿り着いた。
「それじゃあ、ここでお別れだね。楽しかったよ。ノエルちゃん。」
その言葉に、ノエルは少し不安そうな顔をすると、イオに質問をする。
「また………逢えるよね?お姉ちゃん。」
その不安そうな表情を見たイオは笑いながら答える。………何時もと同じ笑い方で、
「あははは、もっちろん!だって、私はノエルちゃんのお姉ちゃんだもん。逢えない訳が無いよ。」
と言った。そのまま「またね〜」等と言いながらノエルに背を向けて歩いていく。後ろから、「またね!お姉ちゃん!」という声を受けながら。