BLAZBLUE 黒の少女の物語   作:リーグルー

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第28話

第28話

 

 

 

「お姉ちゃん、まだかなぁ。」

 

 

 

「うーん、いつもくらいの長さならもう少しだと思うよ?」

 

 

 

大海に浮かぶ孤島、イシャナ。その中心に建てられている学園の中庭のすみにあるにあるベンチで、二人の少女――――セリカとイオは話をしていた。二人は、魔道教会の建物の中の会議室で会議をしている、ナインとナインの仲間達を待っていた。

 

 

 

「それにしても、イオちゃん、良かったの?会議に出なくて。」

 

 

 

セリカはふと思い出した様にそう告げる。イオは、現在黒き獣に有効的な攻撃を仕掛けられるたった二人の人材のうちの一人であり、本来なら会議に参加しなければならない人物の筈だ。そう思って言ったその言葉に、イオは笑いながら答える。

 

 

 

「うん。ナインさんが、私が今日の会議で特にやることは無いから、って。それに、私の今の仕事はセリカちゃんの護衛だから。」

 

 

 

イオの言葉に、セリカはとりあえず納得したような顔をする。そのまま、辺りを見回すと、胸いっぱいに空気を吸い込んだ。

 

 

 

「ねぇ、イオちゃん。ラグナをこの島に連れてきたら、どんな顔をしたかな?」

 

 

 

「うーん、どうかな?ラグナには見慣れない風景だろうから、驚くかも…………セリカちゃん?」

 

 

 

セリカの問いかけにイオは答えようとして、途中でセリカの様子がおかしい事に気付く。どこを見るわけでもなく視線を空中にさ迷わせながら、無表情でぼんやりとしているのだ。イオが呼び掛けても反応せず、揺すっても気付く素振りさえ見せない。どうしようか、そう考えてセリカから手を離した瞬間、セリカは跳ねるように立ち上がり、

 

 

 

「―――ラグナ!」

 

 

 

そう叫んで学園から出て、坂道を駆け上がっていった。

 

 

 

「へ?………セリカちゃん!何処に行くの!」

 

 

 

突然の事にイオは間の抜けた声を上げると、慌ててセリカを追いかけていく。坂道を駆け上がり、丘に着くと、セリカの他にもう一人、人が立っていた。白銀の髪を持つ長身の男、ハクメンだ。

 

 

 

「………セリカ=A=マーキュリーに、イオか。」

 

 

 

「………ハクメンさん。会議、どうしたんですか?確かハクメンさんも呼ばれてましたよね?」

 

 

 

セリカとイオの方を向いたハクメンに、イオはそう問いかけた。その問いかけにハクメンはまるで声に感情を乗せずに、

 

 

 

「雁首揃えて御託を並べる事に何の意味が在る。我は我が魂の求める儘、敵をほふるのみ。」

 

 

 

そう答えを返す。あまりにもぶれないその答えに、イオは笑うしかない。

 

 

 

「あははは………全然ぶれませんね。でも、出来るだけ行った方が良いとは思いますよ?ほら、黒き獣との戦闘では、私とハクメンさんが主力になるんです。その時に、他の人達がハクメンさんの動きを把握していないと、逆にハクメンさんが動き辛くなっちゃうかもしれませんから。」

 

 

 

「………ラグナ。先程御前はそう言った。其れは「ラグナ=ザ=ブラッドエッジ」の事か?」

 

 

 

「え?えっと、私あの人の名前は「ラグナ」としかしらないの。」

 

 

 

笑いながら会議には出た方が良い、と諭すイオを、ハクメンはスルーしてセリカに話しかける。セリカは突然話しかけられた事に驚きながらも答える。その言葉に、ハクメンは顎を引いて、考え込むような動作をした。

 

 

 

「………ハクメンさん?ハクメンさん!………どうしよう、イオちゃん。ハクメンさんが、って何やってるの!?イオちゃん!」

 

 

 

突然電池が切れたように動かなくなったハクメンに気付いたセリカは、呼び掛けても反応しないハクメンが心配になり、どうすればいいか、とイオの方を振り向く。そこでは、イオが黒い剣で作り出した、ハクメンの身長程もある巨大なハンマーを振りかざしていた。驚いてセリカが聞くと、イオは、

 

 

 

「ショック療法だよ。セリカちゃんはハクメンさんの事どうにかしたいんでしょ?ならこうするのが一番早いかな?って。それに、ハクメンさんには人の話を聞かないとどうなるか、教えてあげないといけないから、ねっ!」

 

 

 

そう答えながらハンマーを降り下ろす。そのスピードに、セリカも、物思いに耽っているハクメンも対応出来ない。ハンマーはそのままハクメンの頭へと吸い込まれていき、スパァァァァン!と、勢いの良い音が鳴り響いた。

 

 

 

「…………へ?」

 

 

 

「うん。こんな感じかな。………思ってたよりいい音だね。これ。」

 

 

 

「イオちゃん………何それ?」

 

 

 

「えっと、ハンマー型ハリセン完全版。試作版の時はラグナが気絶するくらいの威力があったんだけど、これは音がするだけ。痛くないんだよ?」

 

 

 

唖然としながらやっとのことで言葉を絞り出したセリカにイオは当然のように返す。セリカには、何故そんなものを作ろうと思ったのか、ラグナで何回も試したのか、等、大量の疑問が浮かんできたが、それらの言葉は口から出る前に、

 

 

 

「………ほう、成る程。ならば、次は御前が気絶する番だな?」

 

 

 

氷よりも尚冷たい声に掻き消された。セリカが声のした方を向くと、ハクメンがこちらを向いて立っている。それだけなら先程と変わっていないのだが、言葉と、言葉に乗った感情で分かってしまう。あ、怒ってるな。と。

 

 

 

「あははは、遠慮しておきます。それより、ほら。会議、終わった見たいですよ。行きましょう。」

 

 

 

イオはそんなハクメンの言葉も笑って受け流し、建物の方を指差す。そしてそのまま、逃げるように早足で建物の方へと歩き出した。

 

 

 

「わっ、待って!イオちゃん。」

 

 

 

セリカは早足で歩いていくイオを小走りで追いかけていく。ハクメンはそんな二人見ながら、その後ろをついて建物へと向かった。

 

 

 

 

 

 

「………大丈夫かな。セリカちゃん。」

 

 

 

イシャナのメインストリートから少し外れた喫茶店。そこで、イオは心配そうな表情をしてそう呟いた。会議をしていた建物の前の中庭から此処に来る途中、セリカとナインは十聖―――魔道教会の最高峰の二人、セブンとエイトに話があると言われ、イオ達を先に行かせて中庭に残ったのだ。

 

 

 

「大丈夫ですよ〜。ナインも居るんですから、心配は要りません〜。それに、ほら〜、来ましたよ〜。」

 

 

 

「いたいた、お待たせ!………あれ?三人だけ?」

 

 

 

トリニティの声に呼ばれるように、靴音を弾ませながらセリカが現れる。セリカはイオ達が座っているテーブルに近付くと、疑問の声をあげた。その言葉に二本の尾を持つ獣人―――獣兵衛は、

 

 

 

「ヴァルケンハインとハクメンは別件の用事だ。テルミは途中で厠に行くと言って勝手に消えたな。」

 

 

 

と答える。それを聞いたセリカはがっくりと肩を落とすが、すぐに気を取り直し、ウェイトレスを呼び止めてナインと共に注文を済ませる。イオはそのまましばらくナインと獣兵衛の仲の良い会話を聞いていたが、視界の端に映った人影にそちらの方を向いた。その視線に気付いたトリニティはイオと同じ方を向くと、声を漏らす。

 

 

 

「あ、カズ………テルミさん。」

 

 

 

フードを目深に被った長身の男―――テルミがテーブルの側へとやって来ると、ナインの目付きが鋭くなった。

 

 

 

「どこに行っていたの?」

 

 

 

「便所だ便所。そいつらから聞いたんじゃねーのか?」

 

 

 

テルミはナインの鋭い声音を笑い飛ばすように答える。その返答に更に機嫌が悪くなっていくナインを見て、イオは二人の間に割って入る。

 

 

 

「はい、そこまでです。ナインさん、テルミさんの『強制拘束(マインドイーター)』は少なくとも今はしっかり効いてますし、テルミさんがナインさんの指示に逆らった事はないはずです。それに、これ以上は此処の店員さんに迷惑に思われちゃいますよ?」

 

 

 

イオがそう言うと、ナインは息を一つ吐いてから視線を外した。テルミはウエイトレスを足止めし、一方的に注文をする。

 

 

 

「よし!何か楽しい話をしよう!」

 

 

 

どこか重くなった空気をどうにかしたいと思ったのか、セリカが立ち上がる。しかし、その瞬間、セリカの足がテーブルを強く蹴った。

 

 

 

「わっ、わっ………。」

 

 

 

「大丈夫?セリカちゃん。」

 

 

 

弾みでバランスを崩して、大きく仰け反ったセリカの手を、イオは掴んで引き上げようとする。しかし、パニック状態になったセリカは、イオの腕を支えにするのではなく、獣兵衛の座っていた椅子の背もたれを力一杯に握りしめた。獣兵衛の尻尾を巻き込んで。

 

 

 

「うぎゃぁっ!」

 

 

 

獣兵衛の口から誰も聞いたことの無いような悲鳴が上がり、獣兵衛の体が跳ね上がる。その膝がセリカとは比べ物にならない強さでテーブルを蹴りあげ、それに驚いたナインの手からナインが頼んだアイスコーヒーが跳ね上がり………ばしゃっ、という音と共にトリニティの顔面にかかった。

 

 

 

「………眼鏡が、汚れてしまいましたねぇ。」

 

 

 

「あ、あの、トリニティさん?ご、ごめんなさい、まさかこんなことになるなんて思ってなかったっていうか………!」

 

 

 

「話し合いましょう、トリニティ!私たち、きっと分かり合える!」

 

 

 

「え、えっと、ナインさん?セリカちゃん?これって…………?」

 

 

 

緊迫感だけは伝わってきても事情が分からずに首を傾げているイオの手を、セリカが掴む。

 

 

 

「イオちゃん、事情は後で!とりあえず謝って!」

 

 

 

「え?う、うん。」

 

 

 

まるで状況は分からないが、とりあえずトリニティに謝らなければならないことを理解したイオは、セリカに向かって頷いた。向こうでは、ナインが獣兵衛とテルミに謝るよう促している。

 

 

 

「チッ、ったくよぉ、なんなんだよ。大体眼鏡ごときが汚れた程度で…………。」

 

 

 

「「ごとき」?今「ごとき」とおっしゃいましたか?」

 

 

 

テルミの悪態をトリニティの囁きが黙らせる。イオは此処に来てようやく、何故謝らなければならないのかを理解した。もう手遅れだということも。やがて、沈黙の中でトリニティはゆっくりと息を吸い、

 

 

 

「………皆さんにお話があります。」

 

 

 

そう言って、ぞっとするほど優しく微笑んだ。

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