BLAZBLUE 黒の少女の物語   作:リーグルー

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第31話

第31話

 

 

 

「…………ん。」

 

 

 

瞼の向こうに明るい光を感じ、セリカはそっと目を開けた。視界に入ってきたのは見知らぬ部屋の天井だ。

 

 

 

「良かった、起きたんだね。おはよう、セリカちゃん。」

 

 

 

見覚えの無い部屋に何故自分が眠っていたのか分からず、考えをまとめようとしていたセリカに声が掛けられる。体を起こして見ると、イオがセリカに笑顔を向けている。その隣には、ナインがセリカの眠っていたベッドの毛布に突っ伏している。

 

 

 

「具合はどう?」

 

 

 

「ちょっと体がだるくて頭がぼうっとするけど、それぐらいかな。それより………ここどこ?どうして私、こんなところにいるの?」

 

 

 

矢継ぎ早に問い掛けようとするセリカに、イオは笑ったままナインを指差し、人差し指を口に当てて落ち着かせる。何が言いたいのか理解したセリカが口を閉じると、一つ頷く。

 

 

 

「うん。じゃあまず一つ目の質問からだね。ここはイシャナの総合病院だよ。セリカちゃん、黒き獣との戦いの途中で気を失っちゃったんだよ、覚えてないかな?それで、ここに運んできたんだよ。ナインさんが。」

 

 

 

「そっか………それで、黒き獣は?皆は?あの魔法陣は何だったの?」

 

 

 

「大丈夫。皆は無事だし、黒き獣も倒せなかったけど撃退は出来たんだって。後はあの魔法陣だけど、セリカちゃんの魔力を吸い上げていったみたいだね。ニルヴァーナのおかげで死んじゃうことは無かったみたいだけど、魔力を殆ど吸いとられちゃったらしくて、セリカちゃん、四日も昏睡状態だったんだよ?その間、ナインさんも寝ずに看病して、少し前に倒れちゃったんだよね。」

 

 

 

イオは苦笑を浮かべながらナインを一瞬だけ見てそう言った。セリカは、そんなイオに向かって自分の魔力を吸い上げた、という魔法陣の事をもっとよく聞こうと口を開き、

 

 

 

「………セリカ!」

 

 

 

突然がばりと顔を上げたナインに言葉を遮られた。

 

 

 

「おはよう、お姉ちゃん。よく眠れ………」

 

 

 

「セリカ〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」

 

 

 

体を起こしているセリカを見て、急激に生気を取り戻したナインは、小さい子供の様に涙声でセリカに飛び付く。

 

 

 

「っ、かった………よかった。目が覚め………本当に………心配したん………だから……!」

 

 

 

しゃくりあげ、ぼろぼろと大粒の涙を落としながら何度もそう言うナインに、セリカは苦笑する。

 

 

 

「く………苦しいよ、お姉ちゃん。…………心配かけてごめんなさい。もう大丈夫だから。」

 

 

 

セリカはそう言いながら、少し遠くに立っているイオにナインを一緒になだめてくれと目だけで頼む。イオはそれに笑いながら頷くと、セリカと一緒にナインをなだめ始めた。

 

 

 

 

 

 

看護師を連れた医師がやって来て、セリカの容態を確認する。その医師の言葉によると、二、三日は安静にしていなければならないらしい。

 

 

 

「あーあ、何だ、まだ家に帰れないんだ。」

 

 

 

「あははは。仕方ないよ。四日も昏睡状態だったんだからね。ニルヴァーナのおかげでこんなに早く起きれたんだから、これくらいは我慢しないと。」

 

 

 

セリカが少し不満そうにいった言葉に、イオは笑いながら返す。そのイオを、ナインは呆れたような顔で見つめた。

 

 

 

「………どうしたの?お姉ちゃん。」

 

 

 

「………ニルヴァーナだけじゃなく、イオのおかげでもあるのよ。セリカがここまで早く起きられたのは。イオがいなかったら、セリカ、あなたは最低でも後一日は昏睡状態のままだった筈よ。そもそも、ここに来るまでのセリカの応急処置と体調管理を殆ど完璧にこなしたのもイオなのよ。………イオ。あなた、この四日、一睡もしてないでしょ?」

 

 

 

溜め息を吐く様にしてそう言ったナインの言葉に、セリカは驚いた様な表情をしてイオの方を見る。イオの話し方や顔色からは疲労の色は殆ど見えてこないし、何より自分の為にそこまでしてくれたのに、先程までの会話からは、そんな様子は少しも感じ取れなかったから。

 

 

 

「イオちゃん。………今の事、本当?」

 

 

 

「うん、一応ね。」

 

 

 

セリカの問いかけにイオは笑顔を浮かべたまま返す。その顔にはやはり、微塵も疲れを感じ取れない。とても四日間一睡もしていないとは思えなかった。

 

 

 

「………どうして言ってくれなかったの?」

 

 

 

「特に言う必要も無いからかな。私じゃなくてもきっと出来るし、ほら、私、セリカちゃんの護衛だからね。これくらい当然だよ?」

 

 

 

イオは当たり前の様にそう言う。自分がやった事はやって当たり前の事で、特に口に出すような事でもないのだ、と。

 

 

 

「………それでも、だよ。言ってくれなきゃ、お礼も言えないから。………ありがとう。イオちゃん。」

 

 

 

セリカのその言葉に、イオは少しだけ驚いた様な顔をする。その顔は、すぐに笑顔へと変わっていき、

 

 

 

「あははは………次からは考えるね。………どういたしまして。セリカちゃん。」

 

 

 

そう言った。ナインはセリカ達に背を向け、扉の方へと歩き出す。セリカはそのナインに向かって、ずっと胸に引っ掛かっていた問いを発した。

 

 

 

「ねぇ、お姉ちゃん。私が倒れた時の事、詳しく聞かせてもらえないかな?」

 

 

 

「セリカ、その話はまた今度にしましょう。今は体を休める事だけ考えなさい。」

 

 

 

それは隠し事をしている時の顔だとセリカは直感する。しかし、ナインの顔つきが、セリカの言葉を喉の奥に押し留めた。

 

 

 

「うん、分かった。後でゆっくり話そ。それならいいでしょ?」

 

 

 

「………そうね。時間があったらね。」

 

 

 

その曖昧な言葉に、それでもセリカは頷く。ナインもそれを見て頷くと振り向いて扉の方へと行き、扉を開けて出ていった。

 

 

 

「………じゃあ、イオちゃんに聞いちゃおうかな。私が倒れた後の事。」

 

 

 

ナインの靴音が聞こえなくなったのを確認して、セリカはイオに向かってそう言った。疲労の大きな姉の手前、遠慮してみせたが、やはり詳しく知りたいのだろう。

 

 

 

「あははは、残念だけど、私もナインさんから聞いたことは言っちゃ駄目って口止めされてるんだよね。」

 

 

 

「なーんだ。残念。………どうしても駄目なの?」

 

 

 

笑いながらセリカの頼みをやんわりと断るイオに、セリカはもう一度聞いてみる。

 

 

 

「うん。残念だけど無理だよ。………だから、私が元から知ってる範囲の話を教えてあげる。」

 

 

 

「何だ………へ?いいの?」

 

 

 

悪戯っぽい光を瞳に宿しながらそう言ったイオに、セリカは聞き返す。

 

 

 

「うん。もちろん。ナインさんが禁止したのは、ナインさんから聞いたことだけだからね。私が元から知ってた事なら関係ないでしょ?………あ、でも、これから話す事は中々信じられないだろうし、誰にも知られちゃいけないから、誰にも話さないでね。」

 

 

 

「うん。分かった。」

 

 

 

イオの言葉にセリカが頷くと、イオは笑いながら声を小さくして話し始める。

 

 

 

「じゃあ、一番気になってるだろう事。というより、これ以外は話せないんだけど。セリカちゃんの足元に出てきた魔法陣。あれは、事象兵器・タケミカヅチを召喚するために必要なものだよ。」

 

 

 

「タケミカヅチ?」

 

 

 

「そう。稀代の大魔導師、六英雄の一人のナインが黒き獣を倒す為に作ったっていう事象兵器の最初。威力自体は大きかったんだけど、その分伴う犠牲も大きい、っていう代物だね。」

 

 

 

「え?ち、ちょっと待って!どういうこと?六英雄って?ラグナもそんなこと言ってたけど、確か、黒き獣を倒したって。」

 

 

 

イオの言葉をまるで理解できず、セリカはイオの発した言葉の断片からラグナの言っていた言葉を思い出す。あの時は、ラグナの記憶が混乱しているだけ、とそう思っていた。しかし、イオの言葉はまるで、

 

 

 

「未来を覗いてきたみたいでしょ?でも、違うよ。私もラグナも、未来から来てここに居るんだ。ここから百年後位の未来からね。まぁ、信じるかどうかはセリカちゃん次第だし、こういうの、あんまり言いふらしちゃ不味いんだよね。だから、これ以上は話せないし、セリカちゃんも誰にも言わないで、自分の心の中だけに留めてほしいんだ。」

 

 

 

そう言いながらセリカを覗き込むその目は、どこまでも真剣で、嘘を付いている様には見えなくて、

 

 

 

「うん、約束する。誰にも話さないよ。」

 

 

 

セリカは、そう真剣な顔で頷いた。イオは、その言葉に表情を緩ませると、

 

 

 

「ありがとね。それじゃあ、私もセリカちゃんの家に行ってるね。………実は、四日徹夜ってそれなりに辛いんだよね〜。」

 

 

 

そう言いながら今まで我慢していたのか、一つ欠伸をしてから、部屋を出ていった。

 

 

 

「………行っちゃった。じゃあ、私も少し、寝ようかな。」

 

 

 

セリカはそう言うと、ベッドに横になる。四日も寝ていたらしい体は、あまり疲れが取れていないのか、すぐに眠気の波に飲み込まれていく。セリカは、意識を失う直前に、傍らでずっと佇んでいたニルヴァーナと、つい先程この部屋を出ていった友人に向かって、

 

 

 

「………助けてくれて、ありがとう。」

 

 

 

そう、呟いた。

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