BLAZBLUE 黒の少女の物語   作:リーグルー

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第38話

第38話

 

 

 

魔道協会会議室。タケミカヅチをイシャナの街に降ろした翌日、ハクメン、トリニティ、獣兵衛、テルミ、ヴァルケンハイン、イオの六人はナインに呼び出されてそこに集まっていた。現在はナインから、タケミカヅチから摘出されたコアの欠片を使って作られる武器の説明を受けている。

 

 

 

「兵器の破壊力はタケミカヅチと比べれば当然落ちるけど、作るのは兵器じゃなくて武器。つまり、人が使うものよ。使用者が優秀であればあるほど武器も力を増すわ。それによって、十分な破壊力も備える事が出来る筈よ。」

 

 

 

ナインはそう断言すると、会議室に集まった六人に目を向ける。ナインは自身を除く六人にこれを渡そうと考えていた。

 

 

 

「………それで、ここからが相談。一つだけ、大きな問題があるの。武器の開発期間と、黒き獣がイシャナに到達するまでの時間の事よ。」

 

 

 

ナインはそう言って苦い顔をする。タケミカヅチがイシャナの上空に転移された時、タケミカヅチの肩に張り付いていた黒き獣の首が消えてから、黒き獣の行動は今までの規則性の無い行動が嘘の様に、イシャナへと真っ直ぐ向かい出したのだ。黒き獣はイシャナを認識し、更にそこを脅威になる、と理解したのだろう。

 

 

 

「武器の開発はまともにやれば最低でも半年以上はかかるわ。でも、黒き獣がイシャナに到達するまでは、遅く見積もっても4ヶ月。」

 

 

 

「実質、武器は間に合わん、ということか………。」

 

 

 

ヴァルケンハインは苦い顔でそう呟く。しかしナインは、そのヴァルケンハインの言葉に対して、首を横に振った。

 

 

 

「いいえ、間に合うように、出来るだけ黒き獣を足止めしてほしい、ということよ。」

 

 

 

冷静な口調で言い切ったナインの言葉に、イオとハクメンを除く全員から動揺が漏れる。

 

 

 

「おいおい、正気か?黒き獣を足止めって、シャレになんねーって、いやマジで。」

 

 

 

「正気だし、本気よ。黒き獣を倒すには、タケミカヅチのコアから造った武器が必要よ。でも、このままだと間に合わない。………イシャナが滅ぼされたら全てが終わり。それまでに、対抗手段を完成させなければならないの。」

 

 

 

その為に、黒き獣のイシャナ到達を遅らせなければならない。言外にナインはそう告げて、冷静な口調のままテルミに言葉を返した。

 

 

 

「なら、都合が良いですね。ハクメンさん。」

 

 

 

ナインの言葉に答えるようにしてイオはそう言い、ハクメンもそれに頷く。ナインはそんな二人に怪訝そうな表情を向けた。黒き獣の足止めなど、テルミの言った通り正気の沙汰とは思えない無謀な案だからだ。

 

 

 

「ハクメンさんや獣兵衛と話していたんです。イシャナだと兵器や陣の配置が難しくて、犠牲が多すぎます。だから、海を渡る前に迎撃が出来ないか、って。」

 

 

 

イオはそのまま説明を続ける。黒き獣が窯を順に渡っていること。イシャナに辿り着くまでには、どのルートを通っても必ず通らなければならない窯が数ヵ所あること。黒き獣が一定期間で必ず地上へと現れること。

 

 

 

「もちろん、今の状態でまともにやり合えるとは思っていない。負けるのは確実だろう。だが、攻めては引いてを繰り返し、衝突を長引かせることで、時間稼ぎくらいは出来る。」

 

 

 

そう断言してみせた獣兵衛に、ナインは一瞬だけ憂う様な表情を見せるが、すぐに表情を引き締める。

 

 

 

「それで、どのくらい引き延ばせる?」

 

 

 

「その前に、ハクメンさん、質問です。私が居ないとして、どのくらい黒き獣を足止め出来ますか?」

 

 

 

ナインの質問を遮り、イオはハクメンへ質問する。

 

 

 

「………1ヶ月だ。」

 

 

 

ハクメンは少し顔を俯かせた後、そう答えた。それは自信ではなく、それ以上は無理だ、という事実。

 

 

 

「それなら、私が居たらどうですか?」

 

 

 

「あまり変わらんだろう。多くて数日程度の違いだ。」

 

 

 

続けて問われた質問には、獣兵衛が答えた。イオはその答えに頷いてみせる。今の自分なら、その程度だろうと分かっていた。

 

 

 

「分かりました。じゃあ、1ヶ月、黒き獣の足止めを頼んでも良いですか?」

 

 

 

「………貴様は如何する。」

 

 

 

ハクメンはイオに問いかける。イオの言葉はまるで意味が分からなかった。他の人物ならば命が惜しくなった、とも考えられるが、目の前の少女――――黒き獣を前に平然と笑っていられる彼女に限って、そんなことは有り得ないだろう。

 

 

 

「私はナインさんの言う武器を造ります。ハクメンさん達が足止めしている間に、自分が使うものを完成させて………他の武器が完成するまでの時間は、私が稼ぎます。」

 

 

 

「一人で、か?無茶だ。イオ、ナインの言う武器がいくら強くても、あれの足止めを一人では出来ない。いくらお前でもな。分かっているだろう?」

 

 

 

イオの言葉に獣兵衛は反論する。黒き獣は、今いる戦力が集まって、ようやく対等に渡り合えるレベルの相手なのだ。それを一人で止めるなど、それこそ正気の沙汰ではない。

 

 

 

「私は出来ないことは断言しませんし、出来そうにないこともやろうとは言いません。「全力」でやれば、黒き獣の足止めは、出来ない事でも、出来そうにない事でもありませんから。」

 

 

 

「………その「全力」とやらを何故今まで使わなかった?」

 

 

 

「………今は誰にも見せられないからです。理由は聞かないで下さい。」

 

 

 

ヴァルケンハインの問いかけに、イオは、曖昧に答える。

 

 

 

「成らば、何故今使おうとする?」

 

 

 

ヴァルケンハインに続けるようにして、ハクメンはイオに問いかける。イオの言葉通りなら、全力を使わないのが最善なのはイオ自身が分かっている筈だ。

 

 

 

「此処で全力を出さずに、武器の開発が間に合わなくて、イシャナが壊滅したら、ラグナの努力が無駄になっちゃいますから。私は、ラグナが作った一年を、無駄にするつもりはありません。」

 

 

 

ハクメンの問いかけにイオは何時もの様に笑って答える。そこにあるのは、決意。どこかセリカのそれを彷彿とさせる目は、それだけで彼女の決意の硬さをその場にいる全員に感じさせた。

 

 

 

「………分かったわ。ハクメン、獣兵衛、ヴァルケンハイン。1ヶ月、足止めをお願い。その間に私は最低でもイオの武器を完成させて………その後は、イオに足止めを任せるわ。」

 

 

 

「はい、任せて下さい。」

 

 

 

ナインの言葉にイオは、まるで何も特別な事は無いように、笑ってそう答えた。

 

 

 

 

 

 

夜。イシャナの街中を少し外れた場所をイオは歩いていた。理由は特に無い。ただ、何となくの行動だ。

 

 

 

「イオちゃん!」

 

 

 

「こんばんは、セリカちゃん。どうしたの?そんなに慌てて。」

 

 

 

後ろから聞こえてきた声にイオは振り向いて声の主――――セリカにそう答える。

 

 

 

「さっき会った、ハクメンさんから、聞いたんだ。イオちゃんが、一人で、黒き獣を足止めする、って。それ、本当?」

 

 

 

セリカは肩で息をしながらそう答える。どうやらイオを見つける為に走り回っていたらしい。

 

 

 

「あははは、本当だよ。私が行くのは1ヶ月後になるけどね。」

 

 

 

「無茶だよ!そんなこと、出来るわけない!死んじゃうよ!」

 

 

 

笑いながら答えるイオに、セリカは必死に抗議する。黒き獣を見たことがある者なら、そう考えるのが当たり前だ。

 

 

 

「大丈夫だよ。私は死なないし、死ぬわけにもいかないから。時間を稼いだら絶対に戻って来るよ。心配しないで。」

 

 

 

「無理だよ、そんなこと………。」

 

 

 

諭す様に笑いながらそう言ったイオに、セリカは今にも泣き出しそうになりながら、それでもイオを止めようとする。イオはそれに、少しだけ困った様に笑って、

 

 

 

「………約束。」

 

 

 

と、セリカにだけ聞こえる程度の声で呟いた。

 

 

 

「………へ?」

 

 

 

「だから、約束。ラグナみたいにね。私は、黒き獣の足止めをしたら、必ず戻って来るから。だから、心配しないで待っててね。」

 

 

 

イオはそう、何時も通りに笑って告げる。セリカにはそれが、一年前、同じ様に「約束」したラグナと重なって見えて、

 

 

 

「うん、約束だよ。イオちゃん。」

 

 

 

セリカは笑ってそう答えた。イオはそれに、安心したような顔をする。

 

 

 

「じゃあ、そろそろ戻ろっか。」

 

 

 

イオはそう言うと、セリカが来た方向に歩き出す。セリカはイオのイオに遅れないように隣に並んで、二人はセリカの家へと戻って行った。

 

 

 

夜が終わり、朝になる頃、ハクメン達を乗せた船は、イシャナを出発した。イシャナを出発した彼らに待ち受けているのは、ただ悪戯に絶望を積み重ねていくだけの1ヶ月。多くの人が死に、生き残ったものはそのその屍を踏み越え続けた。――――そうして、底の無い、泥のような1ヶ月が過ぎて行った。

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