BLAZBLUE 黒の少女の物語   作:リーグルー

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第39話

第39話

 

 

 

清々しい程の晴天。穏やかな風。そんな、世界は自分達にとって優しく、温かなもので溢れているのではないか、と錯覚するような日に、セリカ=A=マーキュリーはイシャナの港に立っていた。

 

 

 

「………本当に、行っちゃうんだね。」

 

 

 

セリカは自分の目の前に立っている少女に確認するように言葉をかける。この少女を見送る為にセリカは今日、この港に来ていたのだ。

 

 

 

「最初からそういう約束だからね。タケミカヅチのコアを使った武器――――事象兵器(アークエネミー)が完成するまで、1ヶ月はハクメンさん達、残りは私が黒き獣を足止めする、って。」

 

 

 

少女――――イオは笑いながら答える。その顔には一切の恐怖も、不安も見ることが出来ない。

 

 

 

「………イオちゃんは怖くないの?」

 

 

 

セリカはそう問いかける。セリカが初めて黒き獣と会う直前、怖いと思う自分をおかしい、と言ったセリカに、イオは恐怖や不安を持つのは人として正しいと、決しておかしな事ではない、と言った。しかし、今のイオからはそれ等は感じられない。というよりも、イオと会ってからそれ等の感情を見たことがないのだ。それが、あの時、一瞬だけ感じた違和感の正体。

 

 

 

「怖くないよ。だって、そういう感情を私は持ってないからね。」

 

 

 

イオは笑いながら答える。それはまるで、イオが、自分は人ではない、と言っているように聞こえて、そしてそれを特に気に止める事は無い、と言っているようで、セリカは何も言えなくなる。

 

 

 

「あははは。はい、この話は終わり。暫く会えないんだし、もっと笑って笑って。心配しない、って約束でしょ?セリカちゃんがそんな顔してたら、こっちが心配しちゃうよ?」

 

 

 

イオが話を打ち切るように手をぱんっ、と合わせて言った言葉に、セリカははっと顔を上げて笑顔を作って見せる。そのまま、約1ヶ月前、ハクメン達が行く直前にイオとした約束を思い出す。

 

 

 

「イオちゃんは必ず戻ってくるから、私は心配しないで待ってる。でしょ?うん、覚えてるし、約束は破らないよ。だから、イオちゃんも破らないでね。」

 

 

 

セリカの言葉にイオは、あははと笑いながら頷いて答える。

 

 

 

「………そろそろ、時間かな?うん、じゃあ、行ってくるね。セリカちゃん。」

 

 

 

「うん。行ってらっしゃい、イオちゃん。」

 

 

 

イオはセリカのその言葉を背に、ハクメン達が乗って行ったのと比べるとかなり小さい船に乗り込む。

 

 

 

そして、イオを乗せた船は、ハクメン達の居る目標地点へと向けて出発した。

 

 

 

 

 

 

それから二日後。ハクメン、ヴァルケンハイン、獣兵衛を中心に組織された部隊は巨大な黒き獣と、魔素によって構成された無数の黒い魔物達に囲まれていた。

 

 

 

「くっ………これから撤退だという時に!」

 

 

 

ヴァルケンハインが険しく顔をしかめながら呻く。部隊は1ヶ月、黒き獣を足止めしてみせた。これ以上の足止めは不可能、と判断したのは昨夜。その判断に従い撤退しようとしたところで、まるで部隊を閉じ込める様にして魔素が噴出し、退路を塞ぐようにして黒き獣が現れたのだ。

 

 

 

「ヴァルケンハイン。奴は我が引き付ける。その間に、貴様はこの魔素の包囲を破り、部隊を引き連れて撤退しろ。」

 

 

 

ハクメンは静かに言い切ると、恐れなど微塵もない、まるで後ろに引く足等無いとでもいうかのような佇まいで黒き獣へと走り出す。その体は一気に黒き獣の方面に展開された部隊の最前列を抜け残り十数メートルで黒き獣に辿り着く、という所で、目の前に突き刺さった黒い閃光にその足を止めた。目の前に刺さっていたのは、剣だ。見覚えのある、黒い剣。

 

 

 

「はい、ストップです。交代の時間ですよ。ハクメンさん。」

 

 

 

「………イオか。」

 

 

 

後ろから掛けられた声に、ハクメンは顔だけを声の方向へと向ける。

 

 

 

「はい。………とりあえず、閉じ込めちゃいますね。」

 

 

 

イオはそう言うと笑いながら右手を軽く振る。それを合図に、ハクメンの目の前に刺さっている剣を境界にして、黒い壁が現れる。壁は八方から出現し、瞬く間に巨大な半円のドームが完成した。

 

 

 

「これで暫く、黒き獣は出て来れません。後は………」

 

 

 

イオは左手に握っていた白銀の弓を上空に向け、一本の巨大な光の矢を放つ。矢は空中で弾け、光の雨となって地上に降り注ぎ、部隊を取り囲んでいた無数の黒い魔物達の殆どを消し去った。

 

 

 

「………其れが、武器か。」

 

 

 

「はい。事象兵器、天弓・アルテミス。ナインさんと造った、タケミカヅチのコアを使った武器の中の一つです。………とりあえず、退路の確保はしました。後は私に任せて下さい。」

 

 

 

イオはそう言いながら黒いドームへと向かって行く。そのまま、ドームの壁をすり抜ける様にして、ハクメンの視界から姿を消した。

 

 

 

「ハクメン殿!これは一体………?」

 

 

 

イオが姿を消すのとほぼ同時に、ヴァルケンハインが狼の姿で走り寄り、尋ねる。その顔に映っているのは、困惑。当然だろう。魔物達は突如降り注いだ光の雨によってほぼ全てが壊滅し、黒き獣は突然現れた黒いドームに閉じ込められた。ハクメンも、それをやった本人を見ていなければ、同じように困惑していた筈だ。

 

 

 

「………退くぞ。我等の役目は終わった。」

 

 

 

ハクメンはヴァルケンハインにただそうとだけ返し、黒いドームに軽く目をやった後、踵を返す。

 

 

 

「一体何を………成る程、そういう事か。」

 

 

 

ヴァルケンハインは一瞬、訳が分からない、というような顔をするが、ハクメンの視線と言葉から、何が起こったのかを大まかに把握し、残った魔物達の殲滅のために走り出したハクメンを追い掛ける様にして走り出した。

 

 

 

 

 

 

「さて………と、久しぶり、ラグナ。」

 

 

 

壁をすり抜ける様にしてドームの中に入ったイオは、何故か暴れること無くその中でじっと止まっていた黒き獣に笑いながらそう言葉を掛ける。

 

 

 

「あははは。まさか、暴れずに待っててくれるとは思って無かったよ。流石ラグナ。そんな姿になってまで、空気を読むスキルが衰えて無いんだね。」

 

 

 

イオは笑いながら言葉を続ける。それは、何も知らない人間から見れば異常過ぎる光景。一目見れば、誰もが「恐怖」という感情が嫌でも沸き上がってくる、「恐怖」という概念をそのまま形にしたような化物に対して、まるで古くからの友達であるかの様に、気安い口調で話しかけているのだから。

 

 

 

「………あ、もしかして、動かなかったんじゃなくて、動けなかったのかな?………幽霊が怖くて。」

 

 

 

思い出したように手をぽんっ、と打ってそんな言葉を口したイオに、それまで動く事が無かった黒き獣が突然怒り狂った様に咆哮を上げる。他の人間から見れば恐怖そのものでしかないその姿も、イオには犬――――と言うよりも幽霊の話を持ち出した時のラグナの様にしか見えない。

 

 

 

「あははは。やっぱりラグナはラグナだね。どんな姿になっても変わらない。………うん。出来ればもっとこうやって話してたいけど、そろそろ限界なんじゃないかな?ニューちゃんも黙って無いだろうしね。だから………久しぶりに、喧嘩、しよっか。」

 

 

 

イオの言葉に呼応するようにして、黒き獣は再び咆哮を上げる。それにイオは少しだけ笑うと、

 

 

 

「行くよ、ラグナ。見せてあげる。誰にも見せたことのない、私の全力。」

 

 

 

そう言って、差し伸べる様に、右手を上げ、目を閉じる。

 

 

 

「第零式拘束機関解放。」

 

 

 

イオの口から言葉が紡がれるのと同時に、彼女の黒いコートが、侵食されるように、剥がれ落ちるように、白く染まっていく。

 

 

 

「次元干渉虚数方陣展開。」

 

 

 

次に変化があったのは、髪。水に濡れたような漆黒が絹の様な金へと瞬く間に変わっていく。

 

 

 

「『真蒼の書(ブレイブルー)』、起動。」

 

 

 

イオは静かにそう言い切り、目を開く。唯一変化する事の無かった蒼色の瞳は、この白いコートを纏う金髪の少女が、先程までいた黒いコートを纏う黒髪の少女と同一の人物である、ということを何よりも証明していた。

 

 

 

「あははは。それじゃあ行くよ、ラグナ。準備は良い?」

 

 

 

少女――――イオはそう言うと、黒き獣(ラグナ)に向かってこれ以上ないというほどに完璧な笑顔を浮かべて見せた。




第39話投稿。



「真蒼の書」は「蒼炎の書」とは違います。勿論、「蒼の魔導書」、「碧の魔導書」とも違うものです。………簡単に言えば独自設定です。
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