BLAZBLUE 黒の少女の物語   作:リーグルー

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第40話

第40話

 

 

 

「………もう二ヶ月、かぁ。」

 

 

 

イシャナの街中を少し外れた場所。セリカはそこを歩きながら空を見上げ、月を見る。此処は約三ヶ月前、イオと「約束」をした場所だ。セリカはイオが黒き獣の足止めに行って以来、夜になるとそこに足を運んでいた。

 

 

 

「………大丈夫かな、イオちゃん。」

 

 

 

そう呟いてすぐ、その考えを頭から追い出す様に首を横に振る。その考え方は、イオとの「約束」を破るものだ。彼女は絶対に無事に戻って来る。そう自分に言い聞かせる。

 

 

 

「…………あ。」

 

 

 

顔を上げたセリカの視界に、人影が映る。見覚えのある、白い長身。ハクメンだ。

 

 

 

「こんばんは、ハクメンさん。」

 

 

 

「………セリカ=A=マーキュリーか。何故此処に居る。」

 

 

 

声を掛けたセリカに、ハクメンは首をわずかに動かし、セリカに顔を向けてから問いかける。

 

 

 

「少しだけ眠れなくて。後は………何となく。ここで待ってたら、イオちゃんがひょっこり帰って来てくれる気がしたから、かな?」

 

 

 

セリカはハクメンの問いかけに正直に答える。その顔には、不安や心配といった表情は一切見えない。ハクメンは、何かを考えるような仕草をする。

 

 

 

「………心配か?」

 

 

 

「ううん。「約束」したから。必ず無事に戻って来るって。それに、イオちゃんは一度した約束は絶対に破らないから。」

 

 

 

セリカはそう答えて、そういえば、と思い出したように付け足す。イオと約束をする前に、ハクメンと話していた内容を思い出したのだ。

 

 

 

「ハクメンさん、黒き獣の足止めに行く前に、話したこと、覚えてる?黒き獣の中でラグナに会ったこととか、イオちゃんにそっくりな銀髪の女の子が居たこととか。確かハクメンさんはあの子を黒き獣の心臓、って言ってたけど、どういうこと?」

 

 

 

セリカの問いかけに、ハクメンは考えを纏めるように少しだけ沈黙する。

 

 

 

「言葉通りだ。奴は黒き獣の心臓。奴と黒き獣の体。其れ等を同時に叩かなければ黒き獣を倒す事は出来ない。」

 

 

 

ハクメンの言葉には根拠となる情報やデータは何も無い。しかし、その断定するような口調には、どんなデータをも越える説得力があった。

 

 

 

「恐らくだが、心臓に攻撃を加えれば奴の意識を内側に向ける事が出来る。そうなれば、黒き獣は単純な誘導にも釣られる様になるだろう。」

 

 

 

ハクメンは言葉を続ける。セリカはそれを聞いて、何かを決意したように顔を上げた。

 

 

 

「私、黒き獣の中に入るよ。そこでラグナを探して協力してもらう。………とりあえず、イオちゃんが戻って来ないと話は始まらないんだけど。」

 

 

 

セリカの言葉にハクメンは頷く。確かに、セリカを戦場に連れていくなら、セリカの護衛であるイオもいなければならないだろう。それでなければセリカが黒き獣まで辿り着けないかも知れず、それ以前にセリカの姉であるナインが頷こうとしないだろう。

 

 

 

「………心配じゃないけど、報告くらいはしてほしいな。………きっと無理なんだろうけど。」

 

 

 

セリカは少し諦めたようにそう呟く。情報によると、黒き獣は二ヶ月前から少しも動いていないらしい。それはつまり、イオが休み無しで黒き獣と戦っている、ということだ。そんな状態では、本人どころか、戦っていない第三者でも、普通は報告など出来るわけもない。仮にそんなことが出来るとしたら、

 

 

 

「レイチェルさん位「あら、呼んだかしら?」ひゃあ!」

 

 

 

セリカは驚いて声のした方を振り向く。そこには、長い金髪を二つに結わえた少女、レイチェル=アルカードが立っていた。

 

 

 

「………道化か。何をしに来た?」

 

 

 

ハクメンが邪魔だ、と言わんばかりの雰囲気で問いかける。レイチェルはそれにくすりと笑みを溢した。

 

 

 

「ごきげんよう、随分ご挨拶ね、『英雄さん』。安心しなさい。今日の私は、ただの荷物運びよ。」

 

 

 

「荷物運び?」

 

 

 

「ええ、そうよ。………ほら、しっかり受け止めなさい。じゃないと、壊れるかもしれないわよ?」

 

 

 

セリカの疑問にレイチェルはそう答えると軽く手を振る。すると、セリカの頭上に薔薇色の魔法陣が現れ、そこから黒い何かが落ちてくる。

 

 

 

「へ?………わわっ!」

 

 

 

落ちてきたものをセリカは咄嗟に受け止める。落ちてきたのは、人間だった。長い黒髪の黒いコートを着た、セリカと同じくらいの身長の少女。セリカにとっても、ハクメンにとっても、見覚えのある少女だ。

 

 

 

「――――イオちゃん!」

 

 

 

セリカは驚いたようにイオに呼び掛ける。しかしイオは、規則正しく寝息をたてるだけで、起きる気配を見せない。

 

 

 

「イオちゃん?イオちゃん!起きて!」

 

 

 

「無駄よ。まだイオは起きないわ。」

 

 

 

不安そうな顔で何度も呼び掛けるセリカに、レイチェルは断定する様にそう言い切る。

 

 

 

「無駄って、どうして………。」

 

 

 

「彼女は今、二ヶ月という長い一瞬を戦い続けた揺り戻しを受けて眠っているわ。だから、最低でも後数日は目を覚まさない筈よ。」

 

 

 

そう言い切ったレイチェルに、セリカはよく分からない、といった表情を見せる。レイチェルはそれを見て、はぁ、と溜め息を吐いた。

 

 

 

「簡単に言えば、イオは自分の全力を使った反動を受けているのよ。だから、安心しなさい。彼女は無事よ。あなたとの約束の通り、ね。」

 

 

 

レイチェルの言葉に、セリカは安心したようにほっと息を吐くと、微笑みを浮かべてイオの顔を見る。

 

 

 

「………そろそろ私は行くわ。」

 

 

 

レイチェルはそれだけ言ってセリカとハクメンに背を向けると、薔薇の香りを残してその姿を消した。

 

 

 

「それじゃあ、私もそろそろ帰るね。イオちゃんも寝かせてあげなきゃいけないから。」

 

 

 

「………そうだな。」

 

 

 

ハクメンはセリカの言葉に頷くと、セリカと歩調を合わせて歩き始める。

 

 

 

「ありがとう、ハクメンさん。」

 

 

 

ハクメンが自分を送ってくれるつもりだ、という事が分かったセリカはハクメンにそう言うと、自分の家へと歩いていった。

 

 

 

 

 

 

巨大な黒いドームが、天井から地面に沈み込むようにして消えていく。ドームが消え去った後に残ったのは、二つ。片方は身体中に大きな傷の残る、影を固めたような巨大な化物。もう一つは、傷どころか汚れさえ付いていない、白いコートを纏う金髪の少女だ。

 

 

 

「そろそろ夢も終わりかな?」

 

 

 

イオはその光景を第三者の目で見ながら、そう呟く。これが自分の夢だ、という事は、最初から理解している。自分が今眠っている、ということも。

 

 

 

と、そこで、化物――――黒き獣は地面に沈み込むように姿を消した。撤退したのだ。それを確認した少女――――イオは一つ息を吐く。それと同時に長い金髪も白いコートも、瞬く間に黒に染まる。そしてそのまま、力が抜けたように地面に膝を付いた。

 

 

 

――――なかなか面白いものを見せて貰ったわ、イオ。

 

 

 

――――あははは………お久しぶりです、レイチェルさん。

 

 

 

突然現れたレイチェルに、イオは笑いながら答える。その体は、今にも倒れてしまいそうだ。

 

 

 

――――ええ、本当に面白いものを見せて貰ったわ。お礼に、私がイシャナまであなたを運んであげる。感謝しなさい。

 

 

 

レイチェルは口元に笑みを浮かべながらそう言った。それにイオは、一瞬だけ意外そうな表情をした後、笑顔を浮かべる。

 

 

 

――――ありがとうございます。………後一つ、お願いを聞いて貰ってもいいですか?

 

 

 

――――ええ、お安い御用よ。あれだけ面白いものを見せてくれたんだもの、お代はしっかり払わないといけないわ。

 

 

 

レイチェルはそう答えて、イオに先を続けるように促す。イオはそれに少し笑うと、急激に無くなっていく意識をギリギリで繋ぎ止めながら、

 

 

 

――――セリカちゃんに、数日で目を覚ますから、心配、しないでって………伝えて………

 

 

 

そうとだけ言葉を絞り出して、意識を失った。

 

 

 

「………ん……。」

 

 

 

目を覚ましたイオの視界に、見覚えのある天井と、しばらく見ていなかった太陽の光が入ってくる。寝かされていたベッドから上半身だけを起こしたイオは、辺りを見回して自分が何処にいるのかを理解する。

 

 

 

「………ここ、セリカちゃんの家…………そっか。レイチェルさんが運んでくれたんだっけ。」

 

 

 

イオは呟いてベッドから出ると、扉の方へ歩いて行こうとする。しかし、イオが歩き出す前に、扉が開いた。

 

 

 

「おはよ………え?イオ…………ちゃん?」

 

 

 

「おはよう、セリカちゃん。」

 

 

 

扉を開けてイオの姿を確認するなり固まってしまったセリカに、イオは笑いながら挨拶をする。それがスイッチとなったのか、セリカの目に溢れんばかりの涙が溜まっていく。

 

 

 

「本物………だよね?」

 

 

 

「本物って………確かに、そっくりな顔をした人なら何人か見たことあるけど。少なくとも見た中で黒い髪をしてるのは私だけだったよ?」

 

 

 

あはは、と笑いながら言葉を返すイオを見て、本物だと理解したのだろう、溜まっていた涙が零れ落ちて………すぐにセリカはそれを拭う。決めていたのだ。彼女を迎える時は、笑顔で迎えるのだ、と。

 

 

 

「あ、そうだ。忘れてたね。」

 

 

 

と、そこでイオが思い出したようにそう呟く。そのまま、セリカを真っ直ぐに見て、

 

 

 

「ただいま、セリカちゃん。」

 

 

 

そう言って笑った。セリカはそれに釣られるように口を開いて、

 

 

 

「お帰りなさい、イオちゃん。」

 

 

 

そう言ってから、イオに向かって笑顔を浮かべた。

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