BLAZBLUE 黒の少女の物語   作:リーグルー

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第42話投稿。



フェイズシフト編、これで終了です。次回はCT編の最後からCS編に入っていくと思います。


第42話

第42話

 

 

 

………その日は、黒き獣が活動を止め、動き出した日と同じ、一年の最後の日だった。森の中の奇襲隊の陣の中で昼食を終えたセリカは、森の入り口から西の方角を見つめていた。黒き獣が現れる筈の窯のある、西を。

 

 

 

「………怖い?」

 

 

 

不意に後ろから声が聞こえる。セリカがその声に振り向くと、そこには黒いコートを纏った少女、イオが何時ものように笑顔を浮かべながらセリカを見つめていた。セリカはイオの言葉に首を横に振る。

 

 

 

「ううん、怖くないよ。………でも、何か変な感じがして。これが最後、っていうのが、なんだか苦しくて。」

 

 

 

セリカの答えにイオはあはは、と笑う。それを見て、セリカは思い出した。イオと約束をした日、先程のイオと同じような質問をしたセリカに対する、イオの答え。

 

 

 

「………イオちゃんの嫌なもの、ってあるの?」

 

 

 

「随分急だね。どうして?」

 

 

 

イオはセリカの質問に不思議そうにそう返す。

 

 

 

「ほら、前にイオちゃん、怖いって感じないんだって言ってたから。嫌なものとかあるのかな?って。」

 

 

 

セリカの言葉にイオは少しだけ何かを考えるような動作をする。

 

 

 

「………無いことは、無いかな。あははは、でも、そんなにたいした事じゃないよ。」

 

 

 

「それでも良いよ。教えて。」

 

 

 

笑いながら頷いたイオに、セリカは続ける様に促す。イオはそれに再び頷くと、

 

 

 

「………うん、誰かに忘れられるのは嫌いだよ。」

 

 

 

そう答えた。その顔は何時もと同じような笑顔のままだ。そこから何も読み取る事は出来ない。

 

 

 

「はっはっは、お前がそういうのを嫌がるとは意外だな、イオ。」

 

 

 

突然、二人の後ろから声が聞こえる。振り向くと、獣兵衛が笑いながら二人の元へと歩いてきていた。

 

 

 

「意外って………私、結構普通の人のつもりなんですけど………少なくともハクメンさんとか、テルミさんよりはずっと。」

 

 

 

「イオ。黒き獣を二ヶ月も一人で足止め出来る奴を普通とは言えない。もっと言うなら、比べる対象を間違ってるぞ。」

 

 

 

獣兵衛の言葉にイオは言葉を詰まらせる。そう言われると、言い返す事がイオには出来ない。自覚はあるからだ。

 

 

 

「まぁ、緊張してなくて何よりだ。今のうちから神経をすり減らしても仕方がないからな。まだ何も始まって………!」

 

 

 

獣兵衛の言葉は突如ドンッ!という音と共に上がった黒煙――――魔素によって遮られる。

 

 

 

「………来たね。戻ろう、セリカちゃん。出撃するよ。………大丈夫、何時も通りだから。心配はいらない、でしょ?」

 

 

 

「うん!」

 

 

 

イオの言葉にセリカは頷くと、イオや獣兵衛達と共に、陣の方へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

大地を割って吹き出した魔素は波の様に海岸沿いの港町を破壊し、広がった魔素の中心が盛り上がり、黒き獣を形成する。

 

 

 

「そろそろかな?準備出来た?セリカちゃん。」

 

 

 

黒き獣に光の矢の雨が降り注ぐのを見ながらそう確認するイオに、セリカは頷く。イオはそれに頷き返すと、

 

 

 

「うん、敵の引き付けはハクメンがやってくれてるみたいだし、行こっか。」

 

 

 

そう言って走り出す。それと同時に、先に黒き獣に到達していた獣兵衛がその手に持つ獣の爪の様な武器――――刻殺しの刀(ヒヒイロノカネ)を振り下ろした。刻殺しの刀が切り裂いた跡は、大きな裂け目となって黒き獣に残る。

 

 

 

「それじゃあ、入るよ!しっかり捕まっててね、セリカちゃん。」

 

 

 

イオはそう言ってセリカを抱えると、一瞬でスピードを加速させ、セリカのもう一人の護衛であるニルヴァーナと共に黒一色の裂け目の中へと侵入した。

 

 

 

「………うん、もう大丈夫かな。」

 

 

 

目を開けているのかも分からないような一面の黒。その中でイオはそう呟いた後、抱えていたセリカを下ろした。

 

 

 

「うん、そうみたいだね。………まずは急いでラグナを探さないと。」

 

 

 

セリカの言葉にイオは頷いて、セリカと共に走り出す。暫く走り続けていると、セリカとイオの周囲が黒一色から、生命力の感じられない森へと変化する。イオとセリカ、そしてラグナが最初に出会った廃村だ。

 

 

 

「ここ………イオちゃん、ニルヴァーナ、行こう!」

 

 

 

セリカはそう言うと、そのまま走り出す。目的の人物を見つけるまでには、そう時間は掛からなかった。

 

 

 

「ラグナ!」

 

 

 

「うおぉっ!?」

 

 

 

走る速度を上げたセリカにそのまま抱きつかれたラグナは驚愕の声を上げると、セリカ達を振り向き、そのまま呆気に取られて固まった。

 

 

 

「んなっ………はぁ!?てめえ馬鹿か、何でまだ此処に居るんだよ!さっき外に出した筈だろ!?」

 

 

 

「あははは、それは外だと半年くらい前の事だよ、ラグナ。此処、時間の流れがおかしいから。」

 

 

 

怒り、というより動揺に満ちた声で怒鳴ったラグナに、イオは笑いながら返す。ラグナはそれに一瞬だけ困惑した様な表情を見せた後、納得した様な表情に変わる。

 

 

 

「………成る程な。お前の勘が当たったって訳か。」

 

 

 

「そうみたいだね。それでね、ラグナ。黒き獣を倒すのに協力してほしいんだ。」

 

 

 

イオの言葉にラグナは一瞬だけ怪訝そうな表情をするが、すぐに納得したような表情に戻る。

 

 

 

「もうそんなとこまできてんのか………事象兵器はあるんだろうな?」

 

 

 

「へ?何で………ってそっか、ラグナも未来から来てるんだから、知ってるよね。うん、あるよ。ニルヴァーナもそう。」

 

 

 

それにラグナは今度こそ訳が分からない、という顔をする。そしてそのまま何かに気付いたようにイオを睨み付ける。睨み付けられたイオは、悪戯が見つかった子供のような表情になる。

 

 

 

「あはは、私達が未来から来たってこと、セリカちゃんには言っちゃったんだ。」

 

 

 

「………はぁ……で?俺に何を手伝えって?」

 

 

 

ラグナは呆れたように一つ溜め息を吐くと、イオとセリカに説明を求める。それに応じて、セリカは説明を始めた。黒き獣を、外と中から同時に倒すという、ハクメンの考えた策を。

 

 

 

「………それがお面野郎の策ってか?ったく、俺は何時からあいつの一味にさせられたんだよ。」

 

 

 

「あはは、まぁ、言いたくなるのも分かるけど。とりあえずそれは後にしよ?」

 

 

 

ぼやく様にして呟いたラグナをイオは笑いながら宥める。確かに、一度は殺されかけた相手なのだから、そうなる気持ちも分からないでもない。

 

 

 

「そうだね。とりあえず、黒き獣の心臓を探すの、ラグナに手伝ってほしいんだ。私達だけじゃ何処を探したらいいか………」

 

 

 

「探す必要はねぇよ。」

 

 

 

セリカの言葉を遮ってそう言ったラグナは、セリカの後方を睨み付ける。セリカがその視線を追うようにして振り返ると、そこには白いケープを羽織った銀髪の少女が佇んでいた。

 

 

 

「ラグナ、こんなところに居たんだ。ニュー、ずーっとずーっと探してたのに、ひどいよぉ。」

 

 

 

愛らしく媚びたような口調で少女――――ニューはそう言った後、その視界にセリカとイオを納める。その瞬間、先程までと一転して、その瞳に冷たい殺意が浮かび上がる。

 

 

 

「ラグナ、ニュー、そいつ嫌い。早く殺して。それに、気を付けて。そっちの黒いのは危険だよ。」

 

 

 

「危険って………イオ、お前何やったんだ?」

 

 

 

「へ?黒き獣を二ヶ月、一人で足止めしたくらいだよ?」

 

 

 

ニューの言葉に疑問を持ったラグナの質問に、イオは首を傾げながら答える。ラグナはそれに、今度こそ疲れたように溜め息を吐いた。

 

 

 

「………まぁいい。下がってろ。こいつの始末をつけるのは俺の役目だ。」

 

 

 

「あははは、却下。アルテミス、召喚。」

 

 

 

ラグナに答える様にしてイオはそう呟く。するとイオの伸ばした手の先に魔法陣が現れ、光を放った、と思った瞬間には、イオの手に白銀の弓が握られる。

 

 

 

「援護はさせてもらうよ、ラグナ。それに、私もニューちゃんに思いっきり刺されたからね。………それなりに痛かったんだよ?あれ。」

 

 

 

「………勝手にしろ。」

 

 

 

イオの言葉にラグナは諦めた様にそう言うと、幅広の剣を抜いて腰を落とし、身構える。ニューはそれに歪な微笑みを浮かべると、

 

 

 

「いいよ、おいでラグナ。愛してあげる。ラグナは全部全部、ぜぇんぶニューのものなんだから。………アハハハハハ!」

 

 

 

そう言って、静かに宙に浮かび上がった。

 

 

 

 

 

 

黒で埋め尽くされた世界の中で、ニューは崩れ落ちるように膝をつく。

 

 

 

「ひどい、よぉ………どうして、ニューを苛めるの?ラグナぁ。」

 

 

 

「苛めてる訳じゃねえよ。」

 

 

 

すすり泣くニューの言葉にラグナはそれだけ返すと、剣をその小さな体に突き立てた。すると、ニューの体は土くれの様にぼろぼろと崩れ落ちていき、やがて跡形もなく消え去った。

 

 

 

「………これで、黒き獣の心臓は潰した。後はお面野郎が上手くやるだろ。………もう戻らねぇとな。」

 

 

 

「あははは。そうだね。」

 

 

 

ラグナの言葉に、イオは頷く。何となく、此処からなら戻れると分かっていた。

 

 

 

「そっか………寂しいな。」

 

 

 

「そうだな。ずいぶんお前を待たせちまうみたいだ。」

 

 

 

「あは、百年だもんね。………でも、会えるんだ?」

 

 

 

明るく尋ねたセリカにラグナは一瞬だけ面食らった様な顔をしてから、それを崩して笑う。

 

 

 

「会えるよ。俺はお前との約束を果たすために、此処に来たんだからな。」

 

 

 

 

「どうしよう。今の、すっごい嬉しい。」

 

 

 

ラグナの言葉に、セリカは満面の笑みを咲かせる。ラグナはそれを見て笑うと、辺りを見回す。

 

 

 

「さて………どうやって戻ればいいんだ?」

 

 

 

「ラグナ、戻り方知らなかったんだ………レイチェルさん。聞こえてますよね?」

 

 

 

ラグナの台詞に呆れたようにそう言ったイオの言葉に答えるように薔薇の香りが通り、長い金髪を二つに結わえた少女――――レイチェルが現れる。

 

 

 

「ええ、聞こえてるわ。特別に、次元を繋いであげる。感謝しなさい。」

 

 

 

そう言って手を翳すと、イオとラグナの足元に魔法陣が現れる。それによって二人の姿が消える前に、セリカはイオへと目を向けた。

 

 

 

「また、会えるよね?」

 

 

 

それにイオはセリカを見つめて、笑う。それは、イオが何時もする、見る側を安心させるような笑い方。

 

 

 

「ラグナみたいに断言は出来ないけど、会えるよ。セリカちゃんが会いたいって思い続けてくれれば。いつかきっとね。」

 

 

 

「なら大丈夫だね。イオちゃんの勘はよく当たるから。それに、私もまたイオちゃんに会いたいもんね。」

 

 

 

イオはそれに、一瞬だけ驚いた様な顔をする。そして、

 

 

 

「あはは、そうだね。じゃあ、いつか会ったらよろしくね。セリカちゃん(シスター)。」

 

 

 

そう言って、ラグナ共に黒一色の世界から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

その後、黒き獣は倒され、その中心人物であるハクメン、獣兵衛、トリニティ、ヴァハルケンハイン、テルミ、ナインの六人は『六英雄』と呼ばれるようになる。

 

 

 

しかし、中心人物でありながら、人々の前にあまり姿を見せず、黒き獣と同時に姿を消してしまった少女の事は歴史には残らなかった。彼女はその後、彼女を見た少数の人々の言葉から、一つの都市伝説の様なものになる。

 

 

 

――――六英雄の影、居ない筈の英雄、『影の英雄』と。

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