BLAZBLUE 黒の少女の物語   作:リーグルー

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第43話



此処までがCT編です。次回からCS編に行きます。


第43話

第43話

 

 

 

「………ん……?」

 

 

 

誰かが歩いている音。その音で、統制機構の衛士の制服を着ている金髪の少女――――ノエル=ヴァーミリオンは目を覚ました。

 

 

 

「やっと起きたか。」

 

 

 

起きたばかりで頭の働かないノエルに、後ろから声が掛けられる。ゆっくりとした動作でノエルが振り向くと、そこには銀髪の、赤いジャケットを着た青年が居た。

 

 

 

「………あなたは……?」

 

 

 

と、そこまで言ったところでノエルの意識が完全に覚醒する。それと同時に、眠る前の事も思い出した。ノエルともう一人、ノエルの姉であるイオは、この青年――――イオがラグナ、と呼んでいるからには、ラグナ=ザ=ブラッドエッジなのだろう、に助けられ、今は閉じている「窯」に落ちかけたラグナを二人で助けもした。

 

 

 

「………あれ?」

 

 

 

そこまで考えたノエルは、今の視界に入ってくる光景に大きな違和感を感じる。居なければいけない人物が一人、足りないのだ。

 

 

 

「あの………ラグナ、さん。一つ聞いてもいいですか?」

 

 

 

「あぁ、何だ?」

 

 

 

ノエルの質問を続けるように促すラグナの口調が思っていたよりも優しくて、ノエルは安心したように息を吐く。どうやら、統制機構で噂されているほど凶暴な性格ではないらしい。

 

 

 

「お姉ちゃんが何処に行ったのか、知ってますか?さっきまではいた筈なんですけど。」

 

 

 

ノエルのその言葉に、ラグナは何かを耐える様に顔を歪ませる。そのまま、ノエルの前まで歩いてきて、

 

 

 

「………悪かった。」

 

 

 

そう言って、頭を下げてきた。突然の事に頭がついていかず、呆然としているノエルに、ラグナは何があったのかを説明する。「窯」を閉じようとしたこと。その途中、誤ってラグナが窯に落ちかけたこと。それを庇ってイオが窯に落ちたこと。そして、ラグナがイオに頼まれたこと。

 

 

 

「あの、顔を上げてください、ラグナさん。お姉ちゃんなら、きっと大丈夫ですから。」

 

 

 

説明を聞き終えたノエルの言葉にラグナは驚いた様に顔を上げる。どうしてそんなことを言えるのか、分からなかった。

 

 

 

「だって、お姉ちゃんは「私が戻るまで」って言ったんですよね?なら、絶対に戻って来ます。お姉ちゃん、約束は何があっても守りますから。」

 

 

 

そう言ったノエルの言葉にあるのは、イオへの絶対的な信頼。それにラグナは苦笑する。

 

 

 

「あぁ、それもそうか。あいつ、無駄にしぶといから死ぬこともねぇだろうしな。………そういや、あんたに助けて貰ったのにまだ礼を言って………」

 

 

 

「ああ、よかった。まだ此処にいらしたんですねぇ、ノエル=ヴァーミリオン少尉?」

 

 

 

ラグナの言葉を遮るようにして、辺りにラグナには聞き慣れない声が響く。咄嗟に声の方を振り向くと、窯の反対側にあるエレベーターの方のラグナ達から離れた所に、黒いスーツ姿の男が立っていた。

 

 

 

「ハザマ大尉!申し訳ありません、私………。」

 

 

 

「ああ、いいんですよ。中々戻ってこないものですから、何かあったのかと気になって。」

 

 

 

ノエルの謝罪にスーツ姿の男――――ハザマはにやにやと軽薄そうな笑みを浮かべて返す。そのまま、宥めるような仕草で歩み寄り、少し離れた位置で止まる。そして、指で目深に被っていた帽子を弾き飛ばすのと同時に、

 

 

 

「ところで………ノエル=ヴァーミリオン。俺を見ろ、俺を、よぉく観測(み)ろ!」

 

 

 

一瞬で、その雰囲気をがらりと変えた。それに合わせ、丁寧だった口調も一気に荒々しいものへと変化する。

 

 

 

「ハザマ………さん?」

 

 

 

「ノエル!その男を観測(み)ては駄目!」

 

 

 

ハザマの変化に頭が付いていかないまま、言われた通りにハザマを見つめ、首を傾げるノエルに、転移してきた長い金髪を二つに結わえた少女――――レイチェルが珍しく焦りに声を張り上げた。………しかし、すでに遅い。

 

 

 

「違う………貴方は、ハザマさんじゃ、ない?………黒い影………誰?」

 

 

 

震えた声で問いかけるノエルの言葉に、『ハザマ』は笑う。両腕を天に掲げて高らかに。その場を染めるように。

 

 

 

「俺か?俺は………ユウキ=テルミだ。………ヒッ、ヒヒヒ、ヒャーッハハハハハ!認識したな?テメェ、この俺を認識しやがったな?ようやく取り戻したぜ!さすがは『蒼の継承者(カラミティトリガー)』だ!」

 

 

 

笑い続けるテルミに、震えるノエル。何か不味い事が起きているのは、事態を飲み込めないラグナにも分かった。そのまま抜いた剣をテルミに突き付け、ノエルを庇う様に立つ。

 

 

 

「おい、あんた!しっかりしろ!」

 

 

 

「あれ………何……黒い………スサノヲ………」

 

 

 

ラグナの呼び掛けに、ノエルはまるで反応することなく怯えたような表情で目から涙を零し続ける。それでも尚、強制されているようにテルミから目が離せない。

 

 

 

「くそっ………んの野郎!」

 

 

 

ラグナはそう言ってテルミの方を向き、足に力を込める。ノエルをどうすることも出来ないなら、テルミを。そう思ってラグナはテルミに斬りかかろうとして、

 

 

 

「………助けて………お姉ちゃん……。」

 

 

 

呟いたノエルの声と同時に現れた、薔薇色の魔法陣に驚き、その足を止めた。

 

 

 

「………良いタイミング。あなたはいつもそうね。」

 

 

 

「おい、ウサギ!テメェ、あれが何なのか知ってんのか?」

 

 

 

レイチェルの呟きにラグナは噛みつく様に聞いた。レイチェルはそれに、呆れたような顔でラグナを見る。

 

 

 

「あなたはいつも鈍いわね、ラグナ。………彼女が、『影の英雄』さんが戻って来たのよ。」

 

 

 

影の英雄。その言葉を昔、ラグナは聞いたことがあった。それはまだ、サヤがいて、ジンがいて、シスターがいて、いつも笑って平和に暮らしていた頃の話だ。いつもの様に、暗黒大戦の話をしてくれるシスターが、その言葉を口にした。強くて、いつも自分を護ってくれた親友なのだ、と。

 

 

 

「んじゃ、その影の英雄?だかが来んのか。それ、お前の知り合いなのか?ウサギ。」

 

 

 

「あら、あなたも知ってるわよ。よく、ね。」

 

 

 

ラグナの疑問にレイチェルは少しだけ微笑を浮かべて答える。意味の分からないその言葉を聞き返そうとしたその時、薔薇色の魔法陣の中央からその答えが現れた。

 

 

 

「うわぁ、窯なんて久しぶりに見たなぁ。あ、ラグナ。レイチェルさんも。………あれ?ノエルちゃんは?」

 

 

 

その答え、黒いコートを纏った黒髪蒼眼の少女――――イオはおどけた様にそう言って辺りを見回す。

 

 

 

「影の英雄って、お前かよ、イオ。」

 

 

 

「………ごめん、ラグナ。今はそういう話、後にしてくれないかな?」

 

 

 

魔法陣から現れた時のおどけた雰囲気から一転、急に静かにそう言ったイオは、そのままラグナの後ろの方へと歩き出す。そこにいるのは、ノエルだ。自らの震える体を縋るように抱きしめ、涙を零し続けている。そんなノエルにイオは近付くと、しゃがんでノエルと目の高さを合わせる。

 

 

 

「久しぶり、ノエルちゃん。………って言っても、こっちではついさっき、なのかな?………とりあえず、私の眼を見て。」

 

 

 

「お……姉、ちゃん?」

 

 

 

イオの言葉に釣られるようにして、ノエルはイオの眼を見つめる。次の瞬間、先程まで怯えしか宿っていなかったその目に、安心の色が浮かぶ。

 

 

 

「大丈夫、大丈夫。ノエルちゃんは怖がらなくても良いんだよ?私が付いてるから。私が、ノエルちゃんを怖がらせるもの全部から、ノエルちゃんを護るから。」

 

 

 

「うん……うん………!」

 

 

 

安心しきったように何度も頷くノエルにイオは笑顔を浮かべて、ノエルの頭に優しく手を置く。そのまま立つと、今度はテルミの方を振り向いた。

 

 

 

「そういう事です、テルミさん。今はあなたがノエルちゃんを怖がらせてるみたいなので………早く消えてください。じゃないと、本気で攻撃します。」

 

 

 

そう言ったイオの両手と背中に、黒い剣が合計で八本、展開される。更にイオの瞳から、一瞬で感情の色が失われていき………

 

 

 

「お〜、怖い怖い。さすがは『影の英雄』ってとこか?テメェみてぇな化物と正面からやって勝てるわけねぇからな。今は退いといてやるよ。」

 

 

 

イオが剣を展開するのを見たテルミはそう言うと、暴力的な哄笑を撒き散らしながら地下の空間からその姿を消した。それを見たイオが剣を消し、ふぅ、と一つ息を吐いた瞬間、窯を囲んでいた装置の一部が爆発を起こした。

 

 

 

「きゃ………!」

 

 

 

「大丈夫?ノエルちゃん。………何で爆発なんか……。」

 

 

 

「どこかの誰かさんが適当に機械を操作したみたいね。機械の強い損傷が原因よ。」

 

 

 

イオの疑問に呆れたようにレイチェルが答える。それにイオも納得した。………この場でそんなことをするのは、一人しかいない。

 

 

 

「分かりました。つまり、大体ラグナのせい、って事ですね。」

 

 

 

「んなことより、このままここにいたら潰されるぞ!」

 

 

 

イオの言葉に被せるようにして、焦ったようにラグナが言う。どこか思い当たるところがあるようだ。

 

 

 

「安心しなさい。私が連れていってあげる。」

 

 

 

レイチェルがそう告げるのと同時に、レイチェルを中心にして足元に薔薇色の魔法陣が展開される。その魔法陣はその場にいた四人の足元まで広がっていき、四人は薔薇の芳香と共に、崩れ落ちる地下から転移して消えた。

 

 

 

――――2200年、1月1日、明け方。第十三階層都市カグツチ地下深くで起こった大規模な爆発は瞬く間に駆け上がり、市街のあちこちを砕き散らした。

 

 

 

その日の内にとあるニュースがカグツチを駆け抜ける。

 

 

 

深夜の爆発は、史上最高額の賞金首にして、世界虚空情報統制機構の支部を襲撃し続ける極悪人、『死神』ラグナ=ザ=ブラッドエッジの仕業である、と。

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