BLAZBLUE 黒の少女の物語   作:リーグルー

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第45話

第45話

 

 

 

「あの………すみません。こんな夜遅くに押し掛けて、その上………」

 

 

 

夜、オリエントタウンにある小さな病院。その中で体のあちこちに出来た小さな傷の手当てを受けながら、ノエルはそう申し訳なさそうに言う。

 

 

 

「いいのよ。此処を何処だと思ってるの?衛士さん。」

 

 

 

ノエルの言葉に、傷の手当てをしていた女医――――ライチ=フェイ=リンはたしなめるような口調でそう返した。その顔に浮かんでいるのは、気遣いと心配だった。

 

 

 

「これだけ傷を作っておいて、私の病院で手当てを拒めると思ったら大間違いよ。ああ、顔にまで傷を作って………。」

 

 

 

「………ごめんね、ノエルちゃん。私がもうちょっと気を付けてればそんなに怪我をしなくても良かったかも知れないのに………。」

 

 

 

ライチの言葉を聞いたイオは、申し訳なさそうにノエルにそう言った。ノエルの怪我のほとんどは、昇降装置が落下した時に出来たものである。自分がもう少し気を付けてノエルを守っていれば、この怪我も無かっただろう、とイオは思っているのだ。

 

 

 

「そんなこと無いよ!お姉ちゃんが居なきゃ私はきっと此処にいないし、それにお姉ちゃんだって………ってそうだ!お姉ちゃん、怪我は大丈夫なの?お腹、刺されてたよね?」

 

 

 

イオの言葉を否定しようとしたノエルは、途中でイオが自分の小さな傷など比べ物にならないほどの大怪我をしていた事を思い出す。違和感もなく振る舞うので忘れていたが、イオはノエルを庇って、背中から腹にかけて剣で貫かれた筈だ。

 

 

 

「あ、それなら大丈夫。治して貰ったから。」

 

 

 

ノエルの言葉に、イオはあはは、と笑いながらくるりと一度回ってそう答える。確かに、イオが何処かに怪我をしているような様子は無かった。

 

 

 

「確かに怪我をしているようには見えないけど………衛士さんの怪我の手当てが終わったら一応あなたも見せて貰うわ。良いわね?」

 

 

 

「はい、勿論です。」

 

 

 

「ありがとう。………それじゃあ、衛士さん。一応、服を脱いでもらえるかしら?全身に小さいけど傷はあるし、あなたのお姉さんの話だと何処かから落ちたみたいだから。」

 

 

 

イオの答えに満足そうに頷いたライチは、その視線をノエルに向けてそう問いかける。ノエルはそれに多少抵抗のあるような顔をするが、医者の前で服を脱いで診察を受けるのに不自然な事は無いだろう、と思い直す。

 

 

 

「わ、わかり、まし、た。」

 

 

 

そう言って意を決し、衛士の制服を脱ぐ。その視線は恥ずかしさに明後日の方向を向いてしまっているが。

 

 

 

「ああ、ほら。やっぱり痣が出来てる。」

 

 

 

溜め息を吐くようにそう言ったライチは痣の出来ている部分に白い軟膏を塗っていく。その視線にも動作にも心配ばかりが浮かんでいて、ノエルはくすぐったく感じる。

 

 

 

「………あら?」

 

 

 

ライチの疑問の声と共に、軟膏を塗っていた手が止まる。不思議に思ったノエルはライチの視線を目で追い、疑問の声の意味を理解して、気まずそうに顔色を翳らせる。ライチの視線の先、ノエルの胸元にあったのは、小さな印だ。広げた翼と、十二の数字。

 

 

 

「これ、よく分からないんです。私、両親に引き取られる前のこと何も覚えてなくて。どうも保護された時からあったみたいなんですけど。………お姉ちゃん、何だか分かる?」

 

 

 

ノエルはそう言って、近くに立っている姉の方を見る。いくらいろいろ知っている姉と言えども、これだけは知っている訳がないだろう。そんなことを思いながら。

 

 

 

「うん、知ってるよ。」

 

 

 

「そうだよね………え?」

 

 

 

イオの答えを聞いたノエルは、あまりの返答の短さと予想外の答えに一瞬聞き流しそうになる。

 

 

 

「知ってるの!?なら………。」

 

 

 

教えてほしい。そう続けようとした言葉は、イオの表情を見た途端に喉の奥へと消えていった。あまりに姉の表情が真面目だったから。ノエルにはその顔が、少しだけ悲しそうに笑っているように見えたから。

 

 

 

「………でもね、真実は辛いよ。もしかしたら、これを聞いたら人を、世界を、信じられなくなっちゃうかもしれないくらいに。それでも、聞く?嫌なら、話さないよ。必ず、今現実と向き合わなきゃいけない訳じゃないから。逃げても、誰も責められる人はいないから。」

 

 

 

そう告げた姉の言葉に、ノエルは何も言えなくなってしまう。イオの顔に浮かんでいるのは先程ライチがノエルに向けていたのと同じだ。心配と、気遣い。それだけで、イオがノエルのためにそんな事を言った、という事が痛いほど伝わってくる。

 

 

 

「たったたた、大変ニャ〜〜〜ス!!」

 

 

 

突然、病院に広がっていた暗い雰囲気を壊すように扉が開かれ、人影が飛び込んでくる。

 

 

 

「………タオちゃん?」

 

 

 

「おお!いい人、久しぶりニャス!んでそっちは………」

 

 

 

飛び込んできた人影――――タオカカはイオに挨拶してから隣にいるノエルの方を見つめる。しばらくノエルと、そしてライチを交互に見てから、

 

 

 

「ない人ニャスね!よろしくニャス、ない人!」

 

 

 

そんな事を言ってくる。それにノエルはライチと自分の胸元を交互に見てショックを受けたような顔になり、「現実って、辛いね………」等と先程聞いたような、少しだけ違うような言葉を呟き、ライチはそれに困ったような顔になる。

 

 

 

「あははは………それでタオちゃん。大変って、何があったの?」

 

 

 

「おお、そうニャス!さっき白い人が上からずばーんって落っこちてきて、ボロボロのグチャグチャで、死にそうなのネ。」

 

 

 

イオの問いにタオカカはそう答える。タオカカが付けるあだ名から具体的な人物に行き着くのは至難の技ではあるが、今タオカカが口にしたあだ名はイオが聞いたことのあるものだ。

 

 

 

「………ラグナが?」

 

 

 

「ニャス。」

 

 

 

イオの呟きにタオカカは一つ頷く事で答える。それを聞いたイオは、話を続けるライチやノエルの言葉を聞かずに病院を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……ここ………?」

 

 

 

カカ族の村の、一つの家。全力で走ってそこに辿り着いたイオは、少し息を切らしながらその中に入る。そこには確かに、ラグナが眠っていた。身体中傷だらけで、骨もあちこち折れている、どころか見たところ、砕けてすらいるだろう。

 

 

 

「………これくらいならラグナの「蒼の魔導書」でも一週間もあれば治るだろうけど………。」

 

 

 

そう言ってイオは自分の手のひらをじっと見つめる。そのまま決心したようにラグナに向かって手を翳すと、ぼんやりと温かい光が手に灯る。

 

 

 

「あははは、まさか、一番最初にラグナに使うことになるなんてね。」

 

 

 

そう言いながら、温かい光を灯した手をラグナの体をなぞるように滑らせていく。手の進路上にあった目に見える傷は、小さいものから順にその姿を消していく。イオが使っているのは、治癒魔法だ。暗黒大戦の時、セリカとトリニティ、そして時々ナインに一年がかりで教えてもらった唯一の魔法。ナイン曰く、ほとんど唯一イオに適正があった魔法らしい。

 

 

 

「………って言っても、まだまだ全然なんだけどね 〜。」

 

 

 

そう言ってイオは笑う。一年しかなかった事もあり、イオの魔法はまだ未熟なものだった。現にこうして今のイオでは小さな傷は治せても、それ以上は傷を小さくするので精一杯だ。更に集中力もかなり必要で、すぐに疲れてしまう。

 

 

 

「ふぅ、もう少し頑張らなきゃ。………ラグナもさ、こんなに怪我するくらいだったらあんな格好つけてノエルちゃんを突き放す必要は無かったのにね。」

 

 

 

一度手を止めたイオは一息吐くと、愚痴を言うようにそう言って、それでも休まずに再び治癒を再開する。

 

 

 

「………あ、これってノエルちゃんも来ちゃうんじゃ………。」

 

 

 

イオは思い出したようにそう呟く。先程までは頭がいっぱいで気付かなかったが、ラグナが此処にいて、イオも此処にいる状態ではノエルが来ないわけが無いのだ。そこまでイオの思考が回ったところで扉が開き、

 

 

 

「ラグナさん!………って、お姉ちゃん?何、それ?」

 

 

 

イオの思考を証明するように、大きな声を上げながら、ノエルがライチとタオカカと共に家の中に入ってきた。




第45話投稿。



イオは実際、セリカ並かもしかしたらそれ以上に治癒魔法の才能があります。イオの正体が正体なので。
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