………何て言うか、最後の方、ぐだぐだになった気がします。
第61話
「『櫛灘の楔』………だと?おい、カグラ。てめぇ、あれを持ってんのか?」
「持ってる、って言えば嘘になるな。正確には、『櫛灘の楔』が封印されている場所を知っている。もちろん、『門』も確認済みだ。………間違いねぇ。あれは、『櫛灘の楔』が封印されてる門だ。」
切羽詰まったような表情で詰め寄ってきたラグナに、カグラは軽薄そうな笑みを浮かべてそう答える。………本当に何処までも、悪役にしか見えてこない二人だ。
「さらに、だ。今此処に、『櫛灘の楔』の起動キーも、居るぜ?」
「な!『櫛灘の楔』を起動する方法は失われた、って………居る?」
続くカグラの言葉に、ラグナは更に驚愕の声を上げた。ラグナがレイチェルから聞いた話によれば、『櫛灘の楔』を起動する術――――つまり起動キーはもう失われてしまった筈なのだ。可能性としてはレイチェルが嘘を吐いたか、レイチェルも知らないことだったか、の二つだが、レイチェルは基本、こういう嘘を吐くことはない。………つまりは、その起動キーというのは、レイチェルが知らない事だったのだろう。
「ほら、そこだよ、そこ。」
「………どうも~。」
ラグナから発せられた疑問の声にカグラは目線だけで後ろを向くように指示をする。ラグナがそれに従って後ろを振り向くと、そこには相当気まずそうに笑顔を浮かべながら、おずおずと手を挙げているセリカの姿があった。ラグナはそれを見て、つい焦ったような表情でセリカに詰め寄り、その肩を掴もうとする。しかし、ラグナの伸ばした手は、目標を掴む前に、横から伸びてきた少女の手によって抑えられた。
「はい、ストップだよ。落ち着いてね、ラグナ。どういうことなのかは後で説明してあげるし、焦ってもラグナがやることはきっと変わらないよ。だから、今は落ち着いて。セリカちゃんは、きっとラグナに骨を折られても平気な顔をしてると思うけど、怪我をさせちゃ駄目だから。」
何時ものように、誰もを安心させるような笑顔でゆっくりとそう言った少女――――イオの言葉に、ラグナは自分の頭が急激に冷めていって、冷静になっていくのを感じる。………確かに、ここで焦ったところで、やるべきことは全くと言っていいほど変わらないのだ。
「さて、と。ラグナが冷静になった所で、少しだけカグラさんに聞きたいんですけど――――カグラさんは、セリカちゃんを『櫛灘の楔』の起動キーにすることの意味、分かっていますか?」
イオの問いかけに、ラグナとヒビキは訳が分からない、と言ったような表情で首を傾げる。………そう、それが普通だ。先程のイオの言葉は、どういうことかが分かる者だけが理解出来るものだ。だからこそ、イオの言葉が理解できているココノエとセリカはイオへと視線を向けてきている。そして、カグラは、
「………どういうことだ?」
そう、イオヘ向かって訝しげな顔をしながら問いかけてきた。………その顔は、演技をしているようなものではない。本当に、イオが言ったことを理解していない顔だ。――――それなら、わざわざ今、真実を言って味方同士で不信感を作る必要も無いだろう。
「あはは。分からないなら良いんです。なんでもありません。」
笑いながらそう答えたイオに、カグラは不満げな顔をしながらも、一応は納得したような顔をしてラグナの方を見る。
「………まぁ、イオちゃんには後で説明してもらうとして………そういうわけだ、ラグナ。今のお前には十分な報酬だろ?だから、死ぬ気で働け。」
「………カグラ、てめぇ、その話、本当だろうな?」
軽薄そうな笑みを浮かべて言ってくるカグラに、ラグナは疑いの取れきっていない声でそう確認する。その質問に答えたのは、ヒビキだった。
「本当ですよ。もしカグラ大佐が案内しなかった場合、自分が案内します。」
「そうか。………そういや、さっきてめぇら、何か計画があるっつってたが、何だ?」
そう言ったヒビキの言葉に一先ず納得はしたのか、ラグナは頷いてみせる。そしてそのまま、先程までのカグラ達の話の中で、疑問に思っていたことをふと口に出す。………計画がある、ということは聞かされていたが、詳細までは言われていないことを思い出したのだ。
「帝を倒して、統制機構を乗っ取る!!」
「なっ!?」
ラグナの質問に間髪入れずに答えたカグラの言葉に、ラグナは驚愕の声を上げた。カグラの言ったことは、それだけ今の世界ではあり得ないような発言だったのだ。………最も、ココノエはラグナに自分達の目的を明かすつもりはなかったようで、カグラの事を睨んでいるが。
「………何だよ。これくらい良いだろ?どうせ目的は同じなんだ、言った方が協力もしやすい。」
「それはそうだが………まぁいい、ラグナ=ザ=ブラッドエッジ。くれぐれも、私の邪魔だけはするなよ?イオ、お前もだ。」
カグラの言葉に疲れたように溜め息を吐いたココノエは、ラグナとイオに釘を指すようにそう言った。
「あはは、安心してください。邪魔はしませんよ。」
「へいへい、精々、爆発させられないよう気を付けますよ。」
イオとラグナはそれぞれの答えを口にする。それと同時に、こんこんこん、と扉がノックされる音が響き、カグラがそれに何かを言う前に、統制機構の制服を着た、金髪碧眼の青年――――ジン=キサラギが焦ったような顔をしながら入ってきた。
「カグラ!これはどういうことだ!どうして………兄さん!?」
ジンの台詞は、ジンの視界に入り込んできたラグナに対する驚愕で止まってしまう。しかし、それも一瞬の事で、ジンはラグナから、迷いを断ち切るように視線を外すと、いつも通りの冷静な顔をしながらカグラの方へと視線を向けた。
「つい先程、兄………ラグナの賞金を掛けた闘技大会の事を聞いた。………どういうことだ?闘技場はツバキ救出の為の舞台ではなかったのか?説明をしろ。」
「何も変わってねぇよ。ただちょっと、手順を変えるだけだ。」
「手順………だと?」
ジンの疑問の声に、カグラとヒビキ、ココノエは説明を始める。カグラが一足早く、ツバキと会ってきたこと。その時のツバキの様子を踏まえて、ツバキの救出は早くに行った方がいい、という結論になったこと。その為に、ココノエが装置をフルに稼働させること。テルミへの対策として、カグラが『切り札』を用意してること。それらを聞いたジンは、納得したような表情になる。………とりあえずは、理解出来たようだ。
「………それにしても、実はそれなりに仲が良いですよね、あの二人。」
納得した直後、ラグナの方へと向かっていったジンと、カグラの言葉で部屋を出ていくカグラとジン、ラグナ、イオ以外の面々を横目に見ながら、イオは小声でカグラにそんなことを言ってみる。あの二人、というのはもちろん、すぐ近くで頭をぶつけ合って、殺気を放ちあっているジンとラグナのことだ。………どう見ても一触即発の空気にしか見えないのだが、イオには何となく、仲のいい兄弟に見えてしまう。
「………あれ、仲良いように見えるか?」
「はい。………正直、これで剣を抜かないなら、ほんとに仲良いと思うんですけどね~。」
イオはカグラに向かってそう言うと、両手に黒い剣を出現させて間に入り、二人が抜いて振り下ろそうとした剣を受け止める。
「はい、そこまで。それ以上はこの部屋が壊れちゃうから、外でやってね~。………まぁ、これ以上ここでやるって言うなら私が相手になるけど、その場合『黒き獣』を相手にするくらいの覚悟で来てね。『兄様』。」
あはは、と笑いながらそんなことを言ったイオに、ジンが何かを言おうとして口を開く。しかし、言葉を発する前にその言葉はノックによって遮られた。
「失礼します。お呼びでしょうか、カグラ、さん!?へ?キサラギ少佐?ラグナさん?お姉ちゃんまで?ど、どういう事ですか!カグラさん!」
「………どういうことか説明しろ、カグラ。」
ノックをして入ってきた少女――――ノエルは部屋の中の状況を見て、どういうことなのかが理解できていないらしく、カグラへと説明を求める。どうやらジンも、何故この状況でノエルが呼ばれたのかが分からないらしく、カグラに説明を求めた。
「何でって、お前ら仲悪いじゃん?交流会ってやつ?」
「あははは………。」
カグラの言葉に、イオは笑うことしかできない。………カグラとしては気を使ったのかもしれないが、さすがにタイミングが悪すぎるだろう。ジンもそう考えたのか、ラグナに「地下で待ってる。」とだけ告げると、扉の前に立っていたノエルを突き飛ばして部屋から出ていった。
「よっと。大丈夫?ノエルちゃん。」
「うん、大丈夫。ありがとう、お姉ちゃん。」
突き飛ばされたノエルが転ぶ前にその体を支えて、安否を確認してくるイオに、ノエルはそう笑顔で答えた。イオはそのノエルに笑い返すと、
「さて、と。あの二人のどっちかがひどい怪我をする前に止めないと。………じゃあまた、すぐに会おっか、ノエルちゃん。」
そうとだけ言って、いつの間にか出ていったラグナを追いかけて、部屋を出ていった。