なぜかと言われれば特に理由は無いのですが。
こちらも不定期ですが、出来るだけ最後まで続けて行こうと思っていますので、よろしくお願いします。
「………はぁ。明日、かぁ」
ラグナとジンが部屋を出ていき、それを追ってイオが部屋を出ていってから時間が経ち、もう、夜も遅くなる頃。
カグラから与えられた統制機構内にあるノエルの部屋で、ノエルは一人、ベッドに腰掛けて溜め息を吐いた。
脳裏に甦るのは、全員で夕食を食べた後にマコトと共にジンに集められ、話された、明日の作戦――――ツバキを救う為の作戦の事。
その話の中で、ジンは、マコトとノエル、それぞれに役割を与えていた。
マコトには、ツバキの限界まで追い詰めさせる、という役割を。
そして、ノエルには、ツバキの、正確には封印兵装『イザヨイ』の「真の姿」を観測する、という役割を。
「………でも、なぁ」
ばたん、とベッドに転がって、ノエルはそう呟く。
自分にしか出来ない事なのは分かっている。そうでなければあのジン=キサラギが自分なんかに役割を命じる訳がない。
自分にその力があるのも分かっている。だからこそ、カグツチで、自分はテルミ達に狙われたのだから。
何より、自分がやらなければならない、と思っている。………だってツバキは、親友なのだから。
でも、それでも。
「『観測』なんて、『眼』を使うなんて、どうしたらいいか分からないよ………」
ぽつり、と、大きな不安が言葉となって溢れだす。
力の使い方なんて分からない。
だって、そんなことを知る余裕は、あの時の自分には無かったから。
だって、自分は、あの時の記憶がすっぽりと抜け落ちているから。
だって、その時の記憶を持っている『もう一人の私』は、今は眠っていて話すことも出来ないから。
だって…………
「………ノック?誰だろ?」
ノエルが、思考の泥沼にはまり掛けた丁度その時に、コンコンコン、と扉をノックする音がノエルの耳に入り込む。
回らない頭で無理矢理していた思考を一度止め、重い体を起こし、のろのろと扉へ向かう。
そのままゆっくりと扉を開ける。そこにあったのは、見馴れた黒い少女の姿。
「こんばんは、ノエルちゃん」
「………お姉ちゃん!?どうしてここに?」
扉の外にいた黒い少女―――イオに対して驚きながら問いかけたノエルに、イオはどこか得意気にふふん、と笑ってみせる。
「私のお姉ちゃんセンサーがノエルちゃんが何か困ってるって事をビビッと感知したからね。来てみました」
「………ふふふっ、何それ」
イオの返答に、一瞬だけぽかんとした表情を浮かべたノエルは噴き出すように笑ってからイオを自分の部屋の中に入れ、二人並んでベッドに腰掛ける。
イオはそれから少しだけ真面目な顔をしてノエルの顔を覗き込んだ。
「それで、何か困ってることは無いかな?ノエルちゃん。思い詰めてないで、誰かに話すとすっきり出来るかもしれないよ?」
ああ、本当に、お姉ちゃんには敵わないな。
問いかけ、というよりは、何処か確認に近いその言葉に、ノエルはそんなことを思う。
気が付けば、さっきまで思っていた事、考えていたこと、そして不安をイオに打ち明けていた。
イオはそれを聞いて、うんうんと頷きながら、ぽん、との頭に手を乗せる。
「それじゃあ、もう一度会ってみる?」
「…………え?」
「もう一人のノエルちゃんに。ノエルちゃんの『眼』の使い方を知っている彼女に。ノエルちゃんと向き合おうとしてくれてるあの子に。『眼』を使おうと思うなら、大変かも知れないけど、あの子に向き合わないといけないからね」
一瞬、誰の事を言っているのか分からなかったノエルは続くイオの言葉で誰の事を言っているのか理解する。
そして、少しの迷ってから、決意を固めたように、頷いた。
イオはその返答にふわりと微笑むと、ノエルの頭に手を乗せたまま、軽く眼を閉じる。
「じゃあ、いくよ。第零式拘束機関解放。次元干渉虚数方陣展開。アマテラスユニット、接続。『真蒼の書(ブレイブルー)』、起動。………行ってらっしゃい、頑張ってね。ノエルちゃん」
そんな応援を聞きながら、ノエルの意識は、イオが『真蒼の書』を解放したのと同時に発生した強い光に包まれて、ゆっくりと消えていった。
◆
「……ん、ぅ。此処は…………」
自身に当たる冷たい風。
その感触により眼が覚めたノエルは閉じていた目蓋を開いて立ち上がり、辺りを見回す。
そこは、以前に一度、何処かで見たような気がする場所だった。
記憶は曖昧で、いつ来たのかははっきりとしない。
それなのに、何処なのか、ということだけははっきりと分かる場所。
そう、此処は、カグツチにある統制機構の最上階だ。
自身が、一度『精錬』された場所。
ノエルがそう認識するのとほぼ同時に、近くにあった『窯』の、繭のようになっていた部分がゆっくりと開いていく。
そして、その中から、前に一度だけあった事のある、自身と瓜二つの、いや、真実自分であるケープを纏った少女が降りてくる。
少女はふわりとノエルの前に降り立つと、その蒼い瞳でノエルの事を見据えた。
「………久しぶり、だね。『私』」
「………そうね。それで、何をしに来たの?」
ノエルの挨拶に、少女は素っ気なく返答してから、質問を投げ掛ける。
その言葉に、ノエルは内心首を傾げた。
眠っていたとはいえ彼女はノエルでもある。
ならば、何を思ってノエルが此処に来たのか、分かるような気がしていたからだ。
とはいえ、あくまでもそれは予想の話でしかなく、何か確証があった訳でもない。
そう割り切り、ノエルは此処に来た理由と、此処に来るまでの経緯―――ツバキの事、眼の事、そして、イオの事を少女に話す。
少女はそれを、まるで人形のように無表情のままで聞いていた。
「だから、お願い。ツバキを助けるために、力を貸し「断る」て………え?」
ノエルの懇願は、少女の感情を全く乗せていない一言でばっさりと切り捨てられた。
その言葉の意味を一瞬理解出来なくて、呆けたような声をつい上げてしまったノエルに、少女は追い討ちを掛けるように言葉を続ける。
「力を貸す、なんて事はする気がない。と言った」
「どう……して?」
「興味が無い。関係が無い。やる気が無い。………そして何より、今の貴女が気に入らない。神輝・召喚」
簡潔に、誰にでも分かるように。
分かりやすく理由を述べた少女はそのまま、自身が戦闘態勢に入るための言葉を紡ぐ。
それと同時に少女の背後に突き刺さった巨大な剣は、少女を包み込み、一瞬にして少女の姿を背に八本の刃を浮かべた戦闘態勢へと変えた。
ノエルは今の状況に全く付いていけないままで、それでも少女の強い敵意を受けて、反射的にベルヴェルクを召喚して構え、少女から距離を取る。
その瞬間に、一瞬だけ少女が眉を潜めたのを、ある程度の距離を取っており、かつ混乱の極みにいるノエルは気付く事は無かった。
「………でも、一つだけチャンスをあげる。私を倒しなさい、ノエル=ヴァーミリオン。そうすれば、貴女は貴女の望んでいたものを手に入れる事ができる。」
少女はそう言ってから、未だに混乱しているノエルに、刃を向けた。