因みにCSⅡのラグナのストーリーモードを参照しています。
第7話
そこはいつもの森ではなく、焼け落ちた教会―――――ラグナやサヤが、しばらく預けられていた教会だった。銀髪で、赤と緑の目が特徴的な青年――――ラグナと肩を越えるほどの黒髪で、青い目を持つ少女――――イオは獣兵衛に連れて来られてそこにたっている。
「ラグナ、イオ、お前達の修行を始めてから結構経ったな。」
獣兵衛は自分の目の前二人に向けて、昔を思い出す様な目をしながら言う。――――イオが修行を始めてから約三年が経っていた。
「そうですね。大体三年位ですか。何か、早かったようなそうじゃない様な。今までありがとうございました。師匠。」
「まあな。いらねー知識もあったけどな。でも、感謝してるよ。」
二人はそれぞれに答える。二人の答えはまるでそれぞれの性格を写したかのようなもので、それに対し獣兵衛は、少しだけ、この二人は分かりやすいな、等と思いながらも、
「そうか。」
とだけ返事をする。その返事を聞いたラグナは、何かを決心した様な顔になり、
「師匠、ちょっと行ってくるわ。」
と、ただそれだけを言う。獣兵衛は、振り向きもせずに「ああ。」とだけ答え、ラグナと、ラグナについて行ったイオの足音が遠ざかったことを確認すると、ぽつりぽつりと教会だったものに向かって話しかける。
「結局、ラグナもイオも巻き込んでしまったよ。すまないな恨んでくれて構わない。お前に預けていたもの、もう使うまいと思っていたが。」
呟きながら瓦礫の中を進む。その足取りに迷いは無く、やがて目的の場所――――一つだけぽつんと建っている墓の前で獣兵衛の足は止まった。
「また、少しだけ借りるぞ。」
その獣兵衛の、少しだけ後悔を滲ませた様な呟きは、風の音に掻き消され、誰にも届く事は無かった。
◆
ラグナとイオは、幼い頃、ジンとラグナのお気に入りだった大きな木の根元に居た。その近くには、長い金髪を左右で二つに束ね、真っ赤な色をした大きな瞳を持つ少女――――レイチェルが立っている。
「感傷かしら?それとも後悔?」
レイチェルはそんなことをラグナに向かって聞いてくる。いつも通りの人をからかう様な口調ではなく、その言葉は、どこまでも真剣味を帯びていた。
「…………。」
「…………。」
しばらくの間、沈黙が続く。イオも、何も言わなかったが、心の中で、師匠のところに残れば良かったかな、と少しだけ後悔していた。
「レイチェル。」
ラグナはそう切り出す。その口調は、真剣そのもので、冗談では返させない、と告げている用でもあった。
「何かしら?」
それに対しレイチェルも一言で返す。その口調いつも通りのもの。
「ジンとサヤがどうなったか、お前なら知ってんだろ?」
ラグナの口から出た言葉は、既にレイチェルがそれを知っていることを前提として聞かれている。その言葉にレイチェルが静かに目を閉じると長い睫が僅かに揺れた。
「ええ。」
レイチェルは簡潔に答える。そして答えながら、次に来る言葉も分かっていた。何故なら、この会話はただの通過点に過ぎないから。同じ会話を何度も、何度も繰り返してきたから。
「師匠の言っていたことは本当なのか?」
いつもと同じ会話、同じ台詞。まるで演劇の様だ、と思いながらも、レイチェルは答える。
「「あれ」に関しては私も干渉出来ないの。」
その言葉にはどんな感情が込められているのか。聞いただけでは判断がつかない。
「知ってるよ。」
それにラグナも答える。――――その事は、獣兵衛からも、イオからも聞いていた。
「それでも貴方は戦える?」
それは、選択でも質問でもなく、念押し。目の前の男がどういう道を取るか何て、とうの昔に知っていたから。
「そう決めたからな。」
「貴女は?イオ。貴女は戦えるのかしら?」
今度は、質問。それは、しっかりとした疑問の声。それに、イオは、考える素振りも見せずに答える。
「自分で、決めましたから。戦うって。」
「そう………辛いわよ。」
二人の答えにレイチェルは少し目を伏せてそう言う。その仕草からは殆ど感情を読み取れない。
「十分に地獄は見たつもりだったが。」
「多分これから進む道には、もっと悲惨なものが待ち受けているわ。」
ラグナの誰に言うでもなく呟いた台詞を、レイチェルが引き継ぐ。それに対しラグナは、
「………だろうな。」
と肯定する。その台詞と共に、ラグナとイオ、レイチェルは教会の方へと向かって行った。
◆
「戻ってきたか。」
「ああ、わりぃな。待たせちまって。」
三人が戻って来たのを確認し、そう言った獣兵衛にラグナは答える。そしてすぐに、獣兵衛の目がレイチェルを捉える。
「ほぉ、お前も来ていたのかレイチェル。」
「ごきげんよう、獣兵衛。」
獣兵衛が目配せをすると、レイチェルは静かに頷いた。
「ラグナ、これをお前にやろう。」
「何だ?これ、ジャケットと、剣か?」
ラグナが渡されたものは、真っ赤なジャケットと幅の広い大剣だった。
「元々シスターに預けていたものだ。ラグナ、イオ、年寄りの長話に付き合う気はあるか?」
その言葉に、ラグナとイオは顔を見合わせて頷く。
「アンタの話が長いのは今に始まった事じゃねーからな。」
「問題ないです、師匠。師匠の話は短い方が珍しいですから。」
その、言い方こそ違えど言っている内容は同じ言葉に、獣兵衛は苦笑しながら答え、話し出す。
「そうだな。かつて、黒き獣が世界を襲っていた頃。広く知られていないが、活動を休止した時期があった。約一年の間だ。その間に六英雄と呼ばれた俺達は集い、人類は術式を獲得した。この時期が無ければ、人類は確実に滅んでいただろう。」
「そうね。」
獣兵衛の言葉にレイチェルは相槌を打つ。
「それで?」
ラグナが先を促す。
「その一年はな、ある一人の人物が作った奇跡だった。俺の二人の「友」の一人だ。」
「そいつは?」
「「ブラッドエッジ」、奴は、そう名乗っていた。」
「ブラッドエッジ……。」
ラグナは噛み締める様にその名を口にする。
「黒き獣の恐ろしさは話したから覚えているだろう。命という命を喰らい尽くすだけの化け物。あれの恐怖は圧倒的だった。だが奴等は誰に知られる事もなく、絶望の淵に立たされてもなお決して諦める事無く戦い続け……俺達にその時間を与えてくれた。自らの命と引き換えにな。」
「私は、それを観ていることしか出来なかった。」
「俺は、奴等こそが本当の英雄だと思っている。この剣と服はな、その時ブラッドエッジが使っていたものだ。」
「何か、重いと思ったよ。」
「ああ、重い。その重さを感じ取れたなら、修行は今日で終わりだ。これからは、お前自身の戦いになるだろう。」
「ああ。」
ラグナはそう答える。イオは少し遠慮がちに獣兵衛に聞く。
「えっと、師匠。奴等って、師匠のもう一人の「友」って人の事ですか?」
「ああ、そうだ。」
「何をした人何ですか?」
「ああ、あいつはな、黒き獣との最後の決戦の少し前、黒き獣が黒き獣の対策本部を見つけ、そこを襲おうとしていたんだ。その時、そこでは事象兵器が造られていてな、黒き獣の到着に事象兵器の開発は間に合わなかった。………約2ヶ月程な。俺達は1ヶ月、使える戦力を使って足止めしたが、それでは間に合わなかった。そこで、あいつは、たった一人で黒き獣を1ヶ月足止めして見せたんだ。ここで自分がやらなければ、ブラッドエッジの努力が無駄になるから、と言ってな。………あれが無ければ、人類は滅んでいただろうな。」
「そうですか………」
「ああ、それと、ラグナ。」
「何だ?」
「どうなったとしても、それはお前が選んだ道だ。結果を受け入れろ。それと、「蒼の魔導書」を絶対に己の力と勘違いするな。」
その言葉は、ラグナにとって聞き慣れた言葉。修行の始めから言われ続けた、忠告だった。それに、ラグナはニヤリと笑いを浮かべて答える。
「ああ。アンタの口癖だもんな。」
獣兵衛は振り返らず、ゆっくりと歩を進める。
「ハハッ、師匠と呼べというのに、お前もそういうところは変わらんな。ラグナ、イオ、俺はここまでだ。時が来れば、また会う事もあるだろう。」
こうして、獣兵衛の姿は森へと消えて行った。
「行っちまったな。」
「行っちゃったね。」
ラグナとイオはただそう呟く。それにレイチェルが答える。
「あら、寂しいの?」
二人はそれに答えず、それぞれ別の方向を向く。
「じゃあな、俺も行くわ。」
「私も行きます。レイチェルさん、また。」
「ええ。」
レイチェルはそう言って二人を見送る。そして、教会を見上げ、
「結局、最後にここに残ったのが私だなんて皮肉な話。ねぇ、そう思わない?」
ただ一人、そう呟いた。