1話
「次は演習場使用許可の申請書ね」
秋の空には雲ひとつ無くどこまでも青い世界が広がっていて、そのまま視線を遠くに向けて行くといつの間にか海と交わり目の前の港に視線が帰ってくる。
今日はなんとも素晴らしい航海日和と言えるが、私は今執務室で仕事をしていた。
あぁ、こんな日に海に行けないなんて何と勿体無いのだろうか。もういっそ、海上で執務してやろうか。左肩にある飛行甲板を首から下げ机代わりにしながら、仁王立ちで執務をしている姿を想像してみた。これは無い。
私『加賀』がやるべき仕事は多い。
我が鎮守府の秘書艦業務は、資材管理、月次報告書の作成、大本営へ送る書類作成、スケジュール管理、etc…となかなか終わらないような重い仕事ばかりだ。
提督が不在の時は、代理で作戦立案や艦隊指揮なども行う。
演習場の使用予定を確認すると、天龍と龍田率いる第六駆逐隊の演習とバッティングしている。
目の前にある陽炎と不知火から提出された申請書をみて、少し考える。
「……どうしようかしら」
通常なら先に予約した方が優先されるのだが、今回は微妙なラインだ。
何故なら天龍達が演習場を使用する目的は演習ではなく、第六駆逐隊と遊ぶ為だからだ。時々天龍から提出される申請書には艦隊行動の訓練と書いてあるが、私はあの2人が第六駆逐隊と海上で鬼ごっこをしている事を知っている。私も時間あれば遊んであげられるのに。
誰も使用していない時は目をつぶるが、演習場本来の目的である演習をしたい艦娘がいる場合は遠慮してもらうとしよう。
この鎮守府は100人を超える艦娘がいる。私が着任した頃は数人しかいなかったというのに、この鎮守府も大きくなったものだ。
この規模の鎮守府になると、どんなに少なくても秘書艦が2人または秘書艦補佐が必要になるが、私はその業務を1人で行っている。
提督も艦娘が増えるにつれ私以外にもう1人秘書艦を決めようとしていたが、私が拒否した。
それ以来いつも申し訳なさそうな顔を向けてくるが、無視している。あの人は作戦立案と戦闘指揮を行なっていれば良いのだ。適材適所という奴だ。
それにこれは私の仕事だ。他の子に頼ったり譲ったりするつもりはない。
よその鎮守府の加賀が私と同じ秘書艦になっても、私と同じ事は出来ないだろう。
私は他の加賀とは違うのだ。
私の仕事は秘書艦のそれだけではない。
鎮守府内の設備管理や壊れた箇所の補修、消耗品の交換発注などの些末な事から、艤装の修理や整備などの専門的な事まで行なっている。
明石と夕張もいるが、この2人が着任する前は全て私が行なっていた。なので余程酷い状態でなければ私でも対応可能なので手伝う事が多い。
今日もこの後、工廠で修理と整備を手伝う予定だ。
100以上ある艤装の修理と整備をあの2人だけに任せてしまうととても終わらないし、私はそれよりも彼女達には開発を優先して行なってもらいたいと思っている。開発はあの2人に任せるのが一番良い。昔、私も開発に手を出した事があるが、あれは掛かる時間と労力が半端じゃない。そういえば注文していたエンドミルと超硬バイトが今朝届いていたっけ。あれらはよく使う消耗品だから予備を切らせてはいけない。加工精度に直接影響してくる。
そんな状態なので私はいつも忙しいし、自分を仕事が出来る女だと思っている。
他の加賀とは違うのだ。
この様に比較的何でも出来る私だが、苦手な事が1つだけある。
ーーーー私は戦闘が苦手だ。
短くてすみません。
3話から長くなります。