10話
翌日、私は明石に起こされて目を覚ました。どうやらまだ疲労が溜まっているらしく、回復には当分時間が掛かりそうだ。
時刻はすでに1000を回っている。完全に寝過ごした。
明石は昨日意識が戻ったばかりなのだから、と何でもない様に笑っているが、私からすればありえない時間帯だ。
ため息を吐きながら起床して明石に身支度を手伝ってもらう。
外からは明るい光が差し込んでベッド脇にある仕切りのカーテンを照らしている。
今日は雲ひとつ無い快晴になりそうだ。
ベッドで上半身のみを起こして消化の良いものを食べてから、解体に必要な手続きを思い出していると明石が話しかけてきた。
「そういえば、明日から提督は数日の間だけ大本営へ出張に行くそうですよ」
「そうなの。前から時々行ってるようだけど、今回もまたそれかしら」
「大本営って提督達の憧れなんですよね」
「人によるんじゃない? 確かに功績や能力を認められた人しか所属できないし、大本営所属になりたい提督は多いって聞くけど、鎮守府に居たいっていう提督だっているでしょう」
「うちの提督はどっちなんですか?」
「昔から大本営に行きたいとは言っていたけど、皆が心配だからここを離れるのは嫌らしいわ」
「難儀ですねぇ」
明石はそう言って私の点滴を交換し始める。
私はそれを見ながら解体の手順について考えていた。
艦娘を解体をする場合、作業は工廠で行う事になる。今のうちに解体の件を明石には言っておいた方が良いかもしれない。
私が明石に口を開こうとした時、医務室のドアがノックされ、誰かが入ってくる。その人物はドアを閉めながら明石を呼んだ。
「明石さん、いるー?」
「はーい。ちょっと待ってくださいね」
明石は点滴の交換を終わらせると、カーテンの向こうへと出て行った。
私はそれを見ながら何故か少し緊張している。この声は瑞鶴だ。医務室に来たという事は怪我でもしたのだろうか。
彼女は明石に話しかけている。
「今、大丈夫だった?」
「はい、大丈夫ですよ。いつものですか?」
「うん、加賀さんの様子を聞きに来たわ。まだ意識は戻ってないの?」
「ああ、皆に押しかけられると思って提督と夕張さん以外には黙っていますが、実は昨日気が付いたんですよ」
「ええ!? そうなの!? なんで教えてくれないのよ!」
「そんな風に興奮した人が一度にたくさん来るからです。瑞鶴さんには特別に教えましたけど、まだ他の人には秘密ですよ?」
「わ、分かった。って何で私だけ特別なの?」
「だって、ねぇ……。ここで言って良いんですか? 加賀さん、今そこのベッドで起きてますけど」
「えっ、今加賀さん起きてるの!? 早く言ってよ! いや違うそうじゃない待って言わないで!」
そうか。瑞鶴は私を心配してくれていたのか。
瑞鶴の慌てたような声と明石の笑い声を聞きながら、カーテン越しに私は声をかける。
「瑞鶴、私はもう大丈夫よ」
足音で瑞鶴がこちらに近づいて来るのが分かる。
その間隔がこちらに近づくにつれて早くなり、そのままカーテンをめくって中に入って来た。
「「……………」」
瑞鶴と無言で見つめ合う。
しかしすぐに彼女は泣きそうな顔になりベッドの脇に近づいてきた。
「……かがざぁん」
「ちょ、ちょっと、何で泣いてるのよ!」
瑞鶴が私の名前を呼んだ時にはすでに彼女の顔は決壊しており、涙がポロポロと頬を伝って流れていく。
彼女の涙を見た私は不覚にも動揺を隠せず、柄にもなく焦ってしまった。
こんな時はどうするんだったか。そうだ、取り敢えず頭を撫でよう。昔から陽炎や不知火などの駆逐艦が泣いた時はよく頭を撫でていた。
私は何とか左手を伸ばして瑞鶴の頭を撫でる。少し無理をしないと届かない距離だが、泣かれ続けるよりはマシだ。
「う゛ぁぁぁあ! ががざぁぁん゛!」
なぜだ。泣き止むどころか悪化してしまった。
瑞鶴はそのまま声をあげると私に抱きついてきた。胸に顔を押し付け背中に手を回してくる。
力一杯に抱きしめてくるので思わず口から変な声が出てしまい、明石が何事かと顔を覗かせた。しかし瑞鶴と私の様子を見ると彼女はニヤニヤしながら言ってくる。
「あ、私これから工廠に用事があるのでしばらく外しますね。2時間後くらいに帰ってきます」
「明石、その前に瑞鶴をどうにかして」
「自分でやって下さい。瑞鶴さんは加賀さんの事を心配してほぼ毎日様子を見に来てたんですから」
そう言って明石は本当に医務室を出て行ってしまった。
昨日は瑞鶴にもう会えないかもしれないと思っていたが、まさかこんなに早く会えるとは。それに気まずさを感じる暇も無くこの状況になってしまった。
私はまだ泣いている瑞鶴を片腕で抱きしめ返しながら、彼女をなだめ続けた。
ーーーーー
しばらくすると瑞鶴は少し落ち着いてきたようだが、まだ顔をあげられる程ではないらしい。私に抱きついたままスンスン鼻をすすっている。
しかし私は彼女が何とか泣き止んでくれそうで安堵していた。涙で濡れた服が冷たいが我慢しよう。
だがこの体勢は恥ずかしいな。
「瑞鶴、いい加減泣き止みなさい」
「もう泣いてない」
「なら離れなさい」
「ヤだ。離れない」
「……いつからそんなに子供っぽくなったのよ」
「加賀さんのせいだもん。すごく心配してたんだから」
「………」
それを言われると言い返せない。
私のせいなら仕方ないか。もう少しくっつかれていよう。
「…………私、加賀さんが運ばれて来たのを見て、もう死んじゃうのかと思った」
「……待って、あなた地下に避難してたんじゃないの?」
「地下の避難所で目が覚めたけど、戻って来た」
「戻って来たって、ダメじゃないそんな事したら」
「それは今はいいの。……結局、死にそうな加賀さんを見て、何も出来なくなったんだから」
「……」
「……私、その時すごく後悔した。最後に喧嘩したまま、一生謝れないのかと思った」
「あれは私も悪かったわ」
「ううん、私こそわがまま言ってごめんなさい。……その後、提督さんから加賀さんの事情を聞いてもっと後悔した」
「…………そう」
「あの時、加賀さんが私に指導役を交代する理由を言わないのは、私に原因があるからだと思ってた」
「そんな訳ないでしょう」
「加賀さん優しいから私に遠慮して言わないんだと勘違いしてた」
「……ごめんなさいね。最初に関係者で話し合って、瑞鶴には言わない事になってたのよ」
「それも聞いた。でも私は加賀さんに遠慮しないでって言ったのに、まだ遠慮されてるのかと思った」
「………」
「加賀さんに近づけたと思ってたのは私だけだったと思うと、我慢できなくて……」
「……そう」
「……私、加賀さんの事情も知らずに勝手に勘違いしてわがまま言ってた。ごめんなさい」
「…………私も、ごめんなさい。本当はあなたを最後まで指導してあげたいけど、欠陥がある私にはそれが出来ない」
「………うん」
「私が寝ている間に終わったかもしれないけど、右腕のせいで基礎指導も最後まで出来ない。それは申し訳なく思っているわ」
「…………うん」
「これからは赤城さん達の元で指導を受けなさい。そうすれば瑞鶴ならすぐ一人前になれるから。分かったわね?」
「……………うん」
「本当に分かってる?」
「……分かった。私、頑張るから」
「いい子ね。期待しているわ」
2人きりの医務室で、いつの間にか泣き止んで顔をあげた瑞鶴と見つめ合う。私が彼女の頭を撫でて、彼女は私に抱きついたままだ。近くにある涙に濡れた瞳がとても綺麗に見える。
彼女はいまさら泣いていた事が恥ずかしくなって来たのか、顔を真っ赤にして下を向いてしまった。しかし私から離れる気はないらしい。
私はそんな瑞鶴を見て、彼女には先に伝えておこうと思った。ここで言わないと、また後で泣かれるかもしれない。
「……ねぇ、瑞鶴。大事な話があるんだけど」
「……えっ!? だ、大事な話!?」
なぜか急に慌て出す瑞鶴。先程までのしんみりとした感じはどうしたんだ。抱きついている腕が締まってくるのを感じる。
これ以上締められると腹部の傷跡に響きそうな気がして、私は彼女に声を掛ける。
「そのまま聞いてもらって良いかしら?」
「ま、まま待って! 心の準備をさせて!」
「準備ってなによ?」
「すぅ、はぁ、………………よし。……い、良いわよ、何!?」
「瑞鶴、私ね…………解体してもらう事にしたわ」
「……………………解体?」
「そう、解体」
「……解体ってあの解体?」
「どの解体か分からないけれど、艦娘ではなくなる解体よ」
「……………………………」
瑞鶴は呆然とこちらを見つめていた。心なしか顔色も悪い気がする。
「別に死ぬ訳じゃなくて、一般人になるだけよ?」
「……………それって、加賀さんと会えなくなるんじゃ……」
「そんな事ないわ。街とかで会えるかもしれないじゃない」
もっとも、私が会いに行くかどうかは分からないが。
解体してもらった後はひっそりと1人で暮らして行くのだ。街なんかには行かないだろう。
「……ヤだ」
瑞鶴は一言だけそう言うと、まだ抱きついたままの手に力を入れてくる。
「……ちょっと、なんでまたさっきみたいに子供っぽくなるのよ」
「加賀さんと会えなくなるのはヤだ」
「また会えます」
「加賀さんはもう会いに来ない気がする」
「…………」
「そもそも加賀さんと離れるのがヤだ」
「あなたねぇ……」
「……なんでそんなこと言うの?」
「え?」
「なんで解体してもらうなんて言うの?」
「…………」
「加賀さんはここに居るのが嫌なの?」
「……そんな事ないわ。私だってこの場所は好きよ」
「ならなんでそんな事言うの?」
「……私はもう何も出来ないの」
「……どういう事?」
「昨日、無期限で訓練や仕事を禁止されたのよ。それにもし禁止が解除されても、この体じゃ何も満足に出来ない」
「なんでそれが解体になるのよ」
「私が解体されれば、他の加賀が着任出来る。欠陥なんて無い、ちゃんとした加賀が」
「それって……」
「……私はね、今まで役に立とうと頑張ってきた。この場所では役に立たないものは必要とされない。だからこの場所に居る為に私は自分が出来る事を色々やってきたの。でもそれはもう出来ないのよ。私はこの場所に居て良い存在ではない」
「……そんなの加賀さんが勝手に言ってるだけじゃん!? それとも誰かにそんな風に言われたの!?」
「誰かに言われた訳ではないわ。私が自分でそう思っているのよ。そして他の加賀を着任出来るようにする事が、私に出来る最後の仕事」
「なんで加賀さんはそんなに…………。私はそんなのヤだ。解体なんてさせない」
「……瑞鶴、これは私に出来る唯一の事なの。お願いだから分かって」
「絶対に分かってあげない。………そもそも私は、加賀さんと、離れる、のが、いや、なの゛ぉ! う゛ぁぁぁ」
せっかく泣き止んだ彼女は、先程の繰り返しのように泣き出した。
私に抱きついてくる腕がきつい。なんでそんなに泣くんだ。そんなに私と離れるのは嫌なのか。それを嬉しく思ってしまう自分もいるが、ここで折れるわけにもいかない。
でも結局、瑞鶴を泣かせてしまったな。瑞鶴は意外と泣き虫だったらしい。この短い間で2回も泣いてしまうとは。
どうにかして瑞鶴を泣き止ませようとした時だった。
医務室のドアが開いて誰かが入ってくる。2人いると思われる人物は、こちらに来るといきなりカーテンをめくって中に入ってきた。
「赤城さん、翔鶴も……」
「加賀さん、少しお話があります」
「赤城さん、加賀さんはまだ本調子ではないので、あまり熱くならないで下さいね」
「分かっています。加賀さん、先程のお話ですが、少々聞かせて頂きました」
「聞かせて頂きましたって、あなた達、今入って来たわよね? 盗み聞きしてたの?」
「そんな事はいいんです。加賀さん、あなたはもっと周りが見えていると思っていました」
「周りって……なんの事?」
「よく聞いてください。第1に、瑞鶴も言っていましたが、役に立たないものは必要とされないなんて言うのは、あなただけが勝手に思っている事です」
「それはどう思おうと私の勝手でしょう」
「そして、加賀さんがここに居て良い存在ではないというのも、同じくあなただけが勝手に思っている事です」
「それも私の勝手です」
「そうですね。どう思おうと加賀さんの勝手です。しかし、あなた以外はそう思っていません。そしてあなた以外がそう思っていない以上、許可が降りないのであなたが解体される事はありません」
「……他の言い訳を考えます」
「先程の事は提督に報告します。提督も一度こんな理由で解体されようとしていたと分かれば、次からはちゃんと理由を聞いてきますよ。余程の理由がない限り解体の許可は降りないと思います。」
「…………」
「第2に、あなたに出来る事は、他の加賀さんがここへ着任できる状態にする事ではありません。そもそも瑞鶴の基礎指導がまだ終わっていないでしょう。言っておきますけど、私達はあれから瑞鶴に基礎指導をしていませんし、今後するつもりもありません」
「……弓が引けない私にどうやって指導をしろと言うの……」
「基礎指導くらい口で説明して下さい。海には行けるんですから。どうしてもと言うなら手伝ってあげても良いですが、あくまで手伝うだけです」
「……それはまた随分と難しい事を言うわね」
「応用は私が指導しますが、基礎指導は最後まで加賀さんが行なって下さい」
「…………」
「第3に、……今の流れはないでしょう!! あれだけ良い雰囲気で! 瑞鶴は心の準備までしていたんですよ!? 私達のドキドキを返して下さい!」
「……待って、どういう事?」
「赤城さん、その辺にしときましょう。提督に瑞鶴を連れて来るように言われてから、だいぶ時間が経っています」
「……そうね。瑞鶴、提督が呼んでいるわ。明日から大本営への出張に付いて来て欲しいそうよ」
「うぅ、わがっ、だぁぁ」
「もう、瑞鶴ったらお二人の前でみっともないわよ? 後で加賀さんの昔話してあげるから泣き止みなさい」
「加賀さん、私達は提督に呼ばれているのでもう行きます。恐らく、あなた以外の正規空母や第1艦隊、他の主要メンバーも明日から提督の出張に同行する事になると思うので」
「は、はぁ。分かったわ。でもなんで私に言うのよ。……その前にいつから盗み聞きしてたの?」
「……加賀さん、これから忙しくなります。それと、無事に目が覚めたようで安心しました。では」
言うだけ言うと、赤城さんと翔鶴は瑞鶴を連れて医務室を出て行ってしまった。
なんだったんだ今のは。しかも赤城さんにお説教されてしまった。もしかしたら翔鶴も怒ってたのかもしれない。
というか何で廊下で盗み聞きしてたんだ。大の大人が2人で盗み聞きって、ただの不審者だぞ。
私は1人になった医務室でため息を吐いた。時刻はもうすぐ1200になる。そろそろお昼の時間だ。
季節はもう夏に入ろうとしている。
窓の外に目を向けると、空に入道雲があった。先程は見つけられなかったが、いつの間に出来たのだろうか。
明石が帰って来るまでまだ少し時間がある。それまでどうしようかと思っていたら、彼女はタイミング良く医務室に帰ってきた。
「あら、工廠での用事はもう終わったの?」
「ええ、大丈夫です。赤城さんと翔鶴さんに瑞鶴さんが連れていかれるのを見て、もう戻っても大丈夫だと思いました」
「なんでそれが医務室に戻る判断になるのよ」
「いろいろあるんですよ。それより、お昼は食べられますか?」
「いろいろって何よ。……今はお腹が空いてないからいらないわ。夕食は食べられると思うけど」
「分かりました。私はお昼を食べてからまた工廠に向かいますが、加賀さんは寝ていて下さいね。くれぐれも外には出ないようにお願いしますよ。時々様子を見に来ますから」
「別に来なくて良いわよ。自分の仕事に集中しなさい」
「加賀さんの様子を見るのも私の大切な仕事です。それに点滴の交換もしなくてはいけませんし」
「面倒をかけるわね」
「いえいえ、仕事ですから。……それにしても寝れない間、ずっとここで何もしないのは退屈ですよね。眠くなる様な本でも用意しますよ」
「それは助かるわ。正直すぐには寝られないと思うから」
「意外と横になったらすぐに寝てしまうかもしれませんけどね」
「そんな事したら夜に寝られなくなりそうね」
「大丈夫です。その時は飲んで5秒で寝られる薬を処方してあげます」
「それは安全なんでしょうね?」
「ちゃんと私と夕張さんが飲んで実験してますから」
「そう言って、前に駆逐艦を戦艦みたく大きくした事は忘れてないわよ。全員なかなか解毒剤を飲んでくれないし、特に清霜や暁とかの何人かは最後まで抵抗して大変だったんだから………」
「そんな事もありましたねぇ。あれは戦艦と重巡を小さくした後でしたっけ。あの薬は戦力強化案として、大本営で研究が続けられているらしいじゃないですか」
「少なくともここで薬の効果が出た時は、外見以外は何の性能も上がらずに被弾する面積が広くなるだけだったけどね」
「懐かしいですねぇ。夕張さんが面白がって大量に配るから被害が広がったんでしたっけ」
「そういえば夕張は今工廠に張り付いているんだったかしら。彼女にも後でお礼を言わないと」
「そうですね。忙しくてなかなかこちらに来られないので、せっかく加賀さんの目が覚めたのに話せないと嘆いていました」
「私が寝ている時に来て起こせば良いのに」
「さすがに起こしてまで話すのは遠慮しますって。実は加賀さんが寝ている時に何度か来てるんですよ」
「……彼女って運が低い子だったかしら」
「軽巡の中ではどちらかと言うと高い方なんですけどね」
「少し前は明石と夕張の2人で私の経過を見ててくれたんでしょう?」
「ええ。最近は私が加賀さん優先で仕事してますけど、最初は私と交代でした」
「何で交代制ではなくなったの?」
「私の方が医者の真似事に詳しいっていうのもありますけど、ずっと工廠にいると艤装を整備や修理する機会が自然と多くなりますからね。夕張さんは加賀さんより早く出来る様にするんだって言ってました」
「そう。何にしても早く出来るに越したことはないわね」
「はい。私も負けていられません。あ、これさっき言ってた眠くなりそうな本です」
「ありがとう。そういえば昼食に行くんだったわね。引き止めちゃってごめんなさい」
「良いんですよ。私は加賀さんと話せて嬉しいですから」
そう言って明石は医務室を出て行った。
私は今渡された本を見てみる。どうやら哲学書のようだ。軽くページをめくってみても文字しかない。
だが、甘いな。私はこういう本は結構好きで、建造されたばかりの頃に時間があった時はたまに読んでいた。この程度、今日中に読破してやる。
そういえば明石に解体の件を言うのを忘れていた。
赤城さん達や瑞鶴には悪いが、私は解体してもらう事を諦めていない。
私は自分の考え方を改めてはいないし、出来る事をしたいと思っている事も変わらないからだ。
だからまずは提督に解体の許可を貰わないといけない。
そう考えると明石に解体の件を言うのは、提督に許可を貰った後の方が良いかもしれない。大まかな日程が分からないと明石も準備が出来ないだろう。
赤城さんたちのおかげで簡単には許可が降りなくなっているだろうし、いつ解体してもらえるか分からないからだ。
この本を読み終わったら提督を納得させられる理由を考えなくては。提督が出張から帰って来たらすぐに許可を貰いに行こう。
空いた時間は解体後にどうやって生活するかを考えるのだ。この場所から遠い所が良いな。
そう思いながら私は本の表紙を開いた。
その後、私は夕食の時間になって戻って来た明石にまたも起こされる事になった。途中で点滴の交換に来た時はもう寝ていたらしい。
甘くみていたのは私だったようだ。