2話
私の提督は執務が出来ない。
それは作戦立案と戦闘指揮は異常なほどに上手い我らが提督の唯一の欠点である。
なぜその2つができて執務が出来ないのか、誰もが不思議がっているが出来ないものは出来ないのだからしょうがない。
提督はその作戦立案と戦闘指揮という、卓越した2つの能力を買われて今に至っている。
しかもそういった人間に良くある、艦娘を兵器としてしか見ず無下に扱うという事もない。彼は艦娘をちゃんとした1人の人間として扱ってくれている。
私は提督を尊敬に値する人物だと思っているし、それはこの鎮守府に所属している皆も同じだろう。
そんな提督がまだまだ駆け出しで艦娘も少なかった頃、鎮守府で建造されたのが私『加賀』だ。
当時既に空母の鳳翔と翔鶴が着任していたので、彼は運も良いらしい。
しかし、建造した提督に似てしまったのだろうか、私には1つの欠陥があった。
それは執務が出来ないのが唯一の欠点である提督と同じ様に、私にとって唯一の欠陥だった。
正規空母『加賀』と言えば空母の中ではかなり優秀な性能を誇り、敵を発見すれば鎧袖一触、どんな提督でも一度は欲しがる艦娘だ。
そんな中、なぜか私は、
ーーー艦載機が1機しか載せられない。
どんなに矢を射ようがそれは1機にしかならないし、2本以上の矢を装備しようとしても艤装から吐き出されてしまう。
索敵機を飛ばしても大した範囲は確認出来ず、爆撃機を飛ばしても大きなダメージは与えられない。航空戦なんて一瞬で負けるし、鎧袖一触なんて夢のまた夢だ。
誰に調べてもらっても前例無しの原因不明であり、妖精さん達も匙を投げた為、実質改善の見込みはない。
唯一の救いと言えば、なぜか弾薬や魚雷を撃てずとも積む事だけは出来るので、補給艦の真似事が出来る事だろうか。
その為、私は戦闘で役に立たない。
もし出撃した時は、索敵か爆撃に僅か1機の艦載機を発艦させ、皆の後ろで守ってもらいながら補給を行うのが私の役目だ。
だが、普段の作戦ではそんな特殊な事をせずとも他の艦娘を艦隊に入れた方がはるかに効率が良い。
かつては一航戦などと呼ばれていた私がなんと情けない事だろうか。その内「一航戦の青い奴なんかと一緒にしないで」とか言われるのではないか。
建造された当時は、それでも何とかして皆の役に立とうと必死だったのを覚えている。
私は戦闘では役に立てない。ならばそれ以外の事で役に立とうとするしかなかった。
1機の艦載機を扱う事が出来る様になってから、私は出撃をせずに秘書艦の業務を覚え、艤装の修理と整備に手を出し、鎮守府の補修やその他些末な事もやる様になった。
ーーー私はこの鎮守府でそれくらいの事しか出来ない。普通の正規空母加賀という艦娘からしたら考えられない話だろうと思う。
ーーーーーー私は、泣きたくなるくらい、
他の加賀とは『違う』のだ。
短くてすみません。
次話から長くなります。