私は加賀   作:Higashi-text

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04話

4話

 

 

「翔鶴型航空母艦2番艦、妹の瑞鶴です。艦載機がある限り、負けないわ!」

 

数日後、私は執務室で今朝建造された正規空母の瑞鶴から着任の挨拶をされていた。

他の鎮守府だと加賀と仲が悪い事で有名であり、加賀が厳しい事を言うとそれに対して突っかかって来るらしい。

別にその加賀も意地悪している訳ではなく、成長を願って厳しくしているだけだと思うのだが。

 

「秘書艦の加賀です。あなたが瑞鶴ね。それなりに期待はしているわ」

 

私がそう返すと、瑞鶴はあっけにとられた様な顔で見返してきた。

 

「? どうしたの? 私の顔に何かついていて?」

 

「い、いえ、そう言う訳じゃ無いんですけど、聞いてた感じと違うなぁと思いまして」

 

「既に何か説明をされているの?」

 

「説明と言うか、なんと言うか……ここに来るまでに卯月に会ったんですけど、加賀さんは五航戦が嫌いで見下しているから気をつけた方が良いとか、『五航戦の子なんかと一緒にしないで』が口癖とか……」

 

「もう、あの子はまた……瑞鶴、それは他の鎮守府での話よ。卯月に騙されているわ。私は五航戦が嫌いではないし見下してもいない」

 

「そ、そうなんですか。変な事言ってすみません」

 

「あの子は後でお仕置きです。ちなみに言っておくと、他の鎮守府の加賀も瑞鶴の成長を願ってそういう態度をとっているだけです」

 

「それはまた大変ね、ですね……」

 

「無理に敬語を使わなくていいわ」

 

「は、はい」

 

「固いわね。そういえば体に異常はない? ここでは何かあればすぐに明石に見て貰えるから」

 

「大丈夫です」

 

「艦船だった頃の記憶はあるわね?」

 

「はい」

 

「そういえばあなた、幸運の空母なんですって? 素敵じゃない」

 

「別にそう言う訳じゃないです、一生懸命やってるだけ…よ」

 

「そうそう。それと一生懸命な子は好きよ」

 

私は笑いながら言うと、彼女に鎮守府の案内をしようとドアへ向かう。

なぜか固まっていた瑞鶴だが、急かすとすぐについて来た。

 

鎮守府内を案内しつつ歩きながら考える。

瑞鶴の指導役は赤城さんか翔鶴が適任だろう。まずは座学と体力作りからはじまるはずだ。それがある程度まで終わると海上での移動訓練、地上での発着艦訓練が始まる。その後、やっと海上での発着艦訓練だ。私の時も鳳翔さんに指導を受けた。

 

大体の主要施設の案内が終わった後、彼女は生活用品を買うために、待っていた姉の翔鶴と街へ出掛けて行った。翔鶴はやっと着任した妹と過ごせる事が何よりも楽しいらしく、私が見ている間はずっとキラキラしていた。それを見送り、私は作戦司令室に引きこもっている提督の元へ指導役の件で相談に行く。明日までに指導役が決まれば良いのだが。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

今、私は先ほどまでの自分を殴りたい。なぜあんなフラグを立ててしまったのか。

 

 

 

瑞鶴の指導役は私になった。

 

 

 

最初は辞退しようとした。別にあの子が嫌いとかではない。一生懸命な子は好きだ。欠陥がある私では最後まで指導出来ないし、正規空母として活躍している艦娘は他にもいるという理由だ。これでは瑞鶴がかわいそうだと思わないのか。

しかしそれは認められなかった。私が出来る基礎指導までは私が行い、あとの応用は赤城さんが行うらしい。これは瑞鶴を除く他の正規空母達と全員で話し合い、そう決めたとの事だ。ちょっと、それ私は呼ばれて無い。仲間外れか。泣くぞ。

普段の業務が忙しいからという理由は、他の子が手伝うから大丈夫と封殺された。それはダメだ。絶対ダメだ。この仕事を譲るつもりは無いし、誰かに頼るつもりもない。他に断る理由が思いつかなかった私は、結局瑞鶴の指導役を引き受ける事になった。

 

 

 

 

 

翌日、私は執務室で瑞鶴と向かい合っている。

 

「改めて、秘書艦の加賀です。本日よりあなたの指導役に任命されました。よろしくお願いするわ」

 

「はい! よろしくお願いします!」

 

「まだ固いわね。分からない事があったらなんでも聞いてくれて構わないから」

 

「わかりました」

 

「これから私とあなたは1週間毎に提督へ報告書を出す事になります。目的は指導がどの段階まで進んだか、ちゃんと指導役が指導をしているのか、お互い認識の違いはないか、あなたの理解度はどの程度なのかをフィードバックする事です。訓練の感想や私に対して思った事、例えば不平不満や悪口を書いて貰っても構わないわ。私があなたの報告書を直接閲覧することはありませんから、遠慮なく正直に書くこと」

 

「わ、わかりました」

 

「それではこの後1000に第2会議室に集合。今後の大まかな予定を説明するわ」

 

瑞鶴が退出してドアが閉まると、私は終わっていない執務を片付け始める。ただでさえ忙しいのに瑞鶴の指導をするとなると、時間の使い方を考え直す必要がある。

それにしてもなぜ指導役が私なのか。赤城さんや翔鶴もいると言うのに。何なら飛龍と蒼龍だって出来るはずだ。

 

また、私の欠陥である艦載機を1機しか載せられないという事実は、私の指導が終わるまで関係者の間では伏せられる事になった。新人を不安にさせない為と聞いたが、この鎮守府の艦娘はみんな知っているのだから絶対誰かからバレると思う。

……なんだか今すぐにでも自分からバラしたくなって来た。でもバラして指導役交代させられたら嫌だし。ああもう、なら言えないじゃないか。

 

必死に執務を終わらせながら、私は謎の葛藤をしていた。

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

 

あれから1ヶ月。

瑞鶴への基礎指導は順調に進んだ。

私はなんとか時間を作り瑞鶴の指導を行なっている。睡眠時間は減ったが意外となんとかなるものだ。夕張の栄養ドリンクがなければ危なかったかもしれないけれど。

 

まだ座学は続いているが、彼女は物覚えが良い。体力もある程度は付いてきたし、そろそろ海上移動か地上での発着艦訓練をさせてみるのも良いかもしれない。

私が走る後ろで、苦しそうにしながらも、なんとかついて来ている瑞鶴を横目で見ながらそう考える。

 

季節はもう冬だ。海からの風は氷の様に冷たく、頬を撫でて何処かへと流れていく。

寮の各部屋にはコタツが出され皆の時間を奪っているだろう。

 

スタート兼ゴール地点が見えてきたのでスピードを落とし歩く速さを維持する。私は到着する頃には呼吸が落ちついてきていたが、瑞鶴はまだまだ辛そうだ。膝に手を付いている。

 

「だいぶ体力が付いてきたわね」

 

「はぁ、はぁ、はぁ、なん、はぁ、で、はぁ、かが、はぁ、さん、はぁ、は、はぁ、そんなに、はぁ、余裕、はぁ、そう、はぁ、なのよ、はぁ、はぁ、はぁ」

 

「だ、大丈夫? ……ちょっと速すぎたかしら」

 

少し無理をさせすぎたかもしれない。

私との距離が離れないからまだ余裕があると思ったのだが。

 

「呼吸が落ち着いたらこれを飲んで座ってなさい」

 

彼女にスポーツドリンクを渡すと私はタイムの記録を付けて片付けを始める。それが終わると座った瑞鶴が話し掛けてきた。

 

「ねぇ、加賀さん」

 

「なに?」

 

「どうして加賀さんは私に優しいの?」

 

「いきなりどうしたのよ? 優しくない方がいいの?」

 

「私、他の鎮守府の加賀さんと瑞鶴の事、時々聞くんだ。よくうちの艦隊が演習しに行くでしょ? その時に2人の事見るみたいで。同じ様に仲が悪くなってないか聞かれるんだよね」

 

「そう」

 

「もしかして私に遠慮してる?」

 

「別にそんな事ないわ。私はあなたなら厳しくしなくても大丈夫だと思ってるから」

 

「そ、そうなんだ。でも一応言っておくけど、私に対して変な遠慮とかはしないでよね」

 

「そんな事しないわ。あなたも私に遠慮しなくていいのよ?」

 

「……うん、分かった」

 

「そろそろ歩ける?」

 

「まだ無理………じゃ、じゃあさ、手、握っても良い?」

 

「え? 手? 別に良いけど」

 

「やった! 外で寒いしさ、加賀さんの手って暖かそうだから触ってみたかったんだよね」

 

「なによそれ……」

 

私は呆れながら右手を差し出す。

えへへ、やっぱり暖かーいと笑いながら手をにぎにぎしてくる瑞鶴をしばらく見ていたが、なんだか急に恥ずかしくなってきて私は目を逸らした。

 

 

 


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