青と藍と蒼と碧   作:藍澤 碧

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11 いつまでも

どれくらいそうしていただろうか。

藍瑪蔬(あいめそ)は息を引き取ったあおの重たい頭を、動かぬ腕で抱え泣いていた。

黒鷹(からす)は黙ってその体を支えていてくれた。

その供の雷狼竜は、静かに休んでいる。

 

 

 

藍瑪蔬(あいめそ)さま!!」

 

突然、雪崩(なだれ)の声がした。

驚いて顔を上げると、控え気味に忍の雪崩があおの翼の向こう側に片膝をついていた。

 

「なっ雪崩殿・・・!どうされた!?」

血まみれの藍瑪蔬(あいめそ)の左肩に驚いた雪崩は、細い瞳の目を目一杯見開いて言った。

「どうしたも、にゃにも!藍瑪蔬(あいめそ)さまのお戻りがあまりに遅いので、私がお迎えに上がった次第にごにゃります!!」

「そうか・・・。見ての通りの有様故、戻るどころではないのだ・・・」

力なく答える藍瑪蔬(あいめそ)に、困惑しながらも雪崩は言った。

朱納(しゅな)姫さまや誠之輔(まこのふ)さま・・・、方々、御身を案じておられます。すぐに迎えを・・・!」

「すまぬ。今はまだ帰れない。ましてや、あおを置いては行けぬ!!」

悲痛な叫びにも似た声音に、雪崩も言葉を失う。

 

そこで、黒鷹(からす)が口を開いた。

「雪崩・・・殿と申されたかな?」

はっとして、雪崩は身構えた。

藍瑪蔬(あいめそ)さま!?何者です!?」

力のない声で藍瑪蔬(あいめそ)は答えた。

「あ・・・あぁ。えぇと、からす殿とおっしゃられたかな?」

「左様」

応じる黒鷹(からす)に対して警戒感を失っているかのような、力のない声で続ける。

「先刻、私とあお・・・を・・・、助けて下さった御仁だ。どちらの方かは存じ上げぬが・・・」

「ははは・・・。どこの者とは申し上げにくいが、藍瑪蔬(あいめそ)殿は勿論、蒼火竜の方々を傷つけるような気は全くござらぬ故、安心召されよ。雪崩殿」

「・・・・・・」

構えは解いたが、警戒感は解けない雪崩は険しい顔のままだ。

「ところで雪崩殿。矢文でも何でも使って、一刻も早くあお殿の迎えを!」

「!? ・・・黒鷹(からす)殿!?」

「翼蛇竜(よくだりゅう)の集団が頭上高くを飛び回っている」

頭上を見上げる力も残っていない藍瑪蔬(あいめそ)は、気付かなかったようだ。

「あの死肉を喰らうという?」

「そう。今は伽羅(から)や我を警戒して降りて来ないが、我々が居なくなればすぐにでも喰らいに来るであろう・・・」

慌てて藍瑪蔬(あいめそ)は叫ぶように言った。

「雪崩殿!至急、祭殿か?摘入(つみれ)殿か?に矢文を!!お頼み申す!」

「はっ!すぐに手配を!」

 

雪崩が文を書き矢を射っている間に、まんじりともしなくなっていた藍瑪蔬(あいめそ)の様子に黒鷹(からす)は声を上げた。

藍瑪蔬(あいめそ)殿!!しっかりされよ! あお殿に守られし、その命!大事にされよ!!」

はっとしたように、目だけはしっかり開いた藍瑪蔬(あいめそ)は言った。

「そうであった!・・・しかし、体が動かぬのだ・・・」

「いかん!早くそなたも戻ってきちんと手当てをせねば・・・!!」

そう言って黒鷹(からす)

伽羅(から)!」

と、雷狼竜を呼んだ。

藍瑪蔬をそっと抱き上げ、伏せた雷狼竜・伽羅(から)の首元に優しく乗せ、その後ろに自分も乗った。

 

雷狼竜の背に乗せられた後も、ずっとあおを見つめている藍瑪蔬(あいめそ)に気づいた黒鷹(からす)は、すぐにでも送り届けなければならない藍瑪蔬(あいめそ)の体を心配して唇を噛んだ。

 

 

雪崩が迎えに来てから半刻が過ぎようかという頃、数十人程の人の声と急かす筆頭オトモの御餅(おもち)摘入(つみれ)の声が聞こえてきた。

負傷者を運んだりするのに使う荷車を、何台も走らせる音も聞こえる。

 

雷狼竜に気づいたようで、一行はどよめいたが雪崩の聞いたこともないような

「急がれよ!!」

という大声に慌てて駆てきた。

 

あおの傍まで来ると口々に嘆き悲しんでいる。

 

「あお殿!? 藍瑪蔬(あいめそ)殿!??」

驚き叫ぶ鈴菜(すずな)黒鷹(からす)

「こちらにおられる」

と、声をかけた。

 

息をのんでいた御餅たちに、忍の雪崩が叫ぶ。

「御餅殿!!」

はっとする御餅、雪崩の声の大きさに驚く摘入(つみれ)、慌てる祭。

「急ぎ取りかかられよ!!日が落ちる前に戻らねばにゃらぬ!!」

 

御餅たちの的確な指示で、次々と荷車同士が縄で繋がれていく。

ひと通り指示が終った御餅たちが、藍瑪蔬(あいめそ)のところに来てまた息をのんだ。

血まみれの肩に気づいたようで口々に大きな声を出した。

「御餅の声が聞こえまするにゃ!?」

「すぐにお戻りくにゃさりませ!!」

「後は我々が・・・」

 

「落ち着かんか!!」

鈴菜にぴしゃりと言われて、三匹は黙った。

藍瑪蔬(あいめそ)殿。鈴菜が必ず無事にあお殿をお連れする故、先に戻られよ」

あおから目を離そうとしない藍瑪蔬(あいめそ)に優しく声をかける鈴菜。

藍瑪蔬(あいめそ)殿。お気持ちお察しするが、その御身大切にせねば・・・」

黒鷹(からす)にも促され、観念したように呟いた。

「それがあおに報いることになるのやもしれぬな・・・」

「我もそう思う故、すぐにそなたをお連れしましょうぞ」

黒鷹(からす)の言葉に背中を押されたのか、僅かに力の戻った声で鈴菜に言った。

「すまぬが一刻も早く連れて来て下され。・・・あおの事よろしくお頼み申す」

「必ずや、無事にお連れする故、御身を大事になされよ」

鈴菜はしっかりと頷いて力強く応えると、雷狼竜から離れた。

 

「参りますぞ」

そう言って黒鷹(からす)藍瑪蔬(あいめそ)の体を抱えるようにして、雷狼竜を促した。

雷狼竜は力強く跳び上がって、林を跳び越える。

 

「あおは、蒼火竜を“あお”い“火”の“竜”と書くことを習った後、あおと呼んでみたら随分と嬉しそうに返事をしたので、そう名付けたのだ・・・」

そう呟く藍瑪蔬(あいめそ)に、黒鷹(からす)は微笑んで優しく応えた。

「・・・成程、そうであったか・・・」

 

その直後に雷狼竜は、朱納と誠之輔(まこのふ)の待つ城の前に降り立った。

 

 

 

 

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