青と藍と蒼と碧   作:藍澤 碧

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12 藍と蒼

あおを荼毘に付して、ひと月が経とうとしていた。

傷口が塞がりつつあった藍瑪蔬(あいめそ)は、い草の香りのする部屋の布団の上で城下にある温泉の湯で、傷口を拭っていた。

蒼火竜の里は、この島国の中でも有数の温泉地であり、傷ついた体にもよく効くとされていた。

 

未だに左腕は思うようにはほとんど動かず、右手も小太刀を自由に振るえるとは思えない状態であった。

 

竜人族の娘に手伝われながら身支度を整えたころ、すっと襖と呼ばれる間仕切りも兼ねた引き戸が開いた。

 

黒鷹(からす)であった。

心配してくれているのか、蒼火竜に留まってくれていた。

 

「話・・・。良いか?」

藍瑪蔬(あいめそ)は、竜人族の娘に礼を言うと下がらせた。

 

 

「どうされた?」

笑顔を見せて、藍瑪蔬(あいめそ)は促した。

「・・・うむ・・・。朱納(しゅな)姫殿をはじめ、皆にこのまま残ってはどうかと・・・」

困ったようにも遠慮しているようにも見える表情で、黒鷹(からす)は続ける。

「その・・・。蒼火竜の国を轟竜から守った藍瑪蔬(あいめそ)殿を、救った故とのことではあるのだが・・・」

思案しながら、藍瑪蔬(あいめそ)は応じた。

「ふむ・・・。何か往かねばならぬ事情がないのであれば良いのではないか?」

「それは!藍瑪蔬(あいめそ)殿ご自身が、我が残ることを良いとお考えという事か?」

勢い込む黒鷹(からす)を不思議そうに見つめながら、藍瑪蔬(あいめそ)は応える。

「? ・・・私は、命を救いあおとの・・・別れの時間を与えてくれたことに誠に感謝しておるし、恩を感じてもおる。そんな貴殿には、心ゆくまでゆっくりしてもらい、一生かけてでも恩を返したいと存ずるのだが?」

黒鷹(からす)は、藍瑪蔬(あいめそ)から目をそらして呟いた。

「そうか・・・」

 

そんな黒鷹(からす)をよそに、藍瑪蔬(あいめそ)は思い出したように言い出した。

「そう言えば、あの時何度か噂と言っておられたな?」

「あ・・・。ああ」

わずかに困ったように答える黒鷹(からす)

「噂とは何ぞ?」

若干焦っているような黒鷹(からす)だったが、応じた。

「あ・・・、ああ。あれは・・・」

「?」

「あ、いや。その何だ。我はここより西の方から参ったのだが、『藍瑪蔬(あいめそ)と蒼火竜』の噂は広く知れ渡っていての・・・」

「何故(なにゆえ)!?」

驚く藍瑪蔬(あいめそ)に目線を戻し、微笑んで黒鷹(からす)が答える。

「人の子でありながら、生まれた時から竜である蒼火竜に愛されし女子(おなご)が、幼い頃に蒼火竜よりその子を与えられ、深く深く絆を結んでいると。その女子が藍瑪蔬(あいめそ)という武将として知れ渡っているのだ」

「!!!」

途端に胸が苦しくなって、涙ぐむ藍瑪蔬(あいめそ)

と、同時にほんの一瞬だったが、濃い橙色に走る青い縞模様が頭をよぎって消えた。

「ご存じなかったか?」

黒鷹(からす)は優しく言った。

藍瑪蔬(あいめそ)(かぶり)を振ると、同時に涙が頬を伝った。

「いや、全く・・・」

「そうか・・・。 そのような者は他に聞いたことがない。広く知れ渡るほどに、稀有な存在でござる」

藍瑪蔬(あいめそ)は一気に真っ赤になって下を向き、右手を左右に激しく振った。

涙が落ちる。

「そ、そんな!とんでもない! ただの藍染屋の小娘ぞ・・・!」

黒鷹(からす)はそっと近づくと、優しく藍瑪蔬(あいめそ)の右肩に手を置いて涙を拭いてやる。

「そう謙遜召されるな。皆言って居ったぞ、一度会うてみたいものだ、と。我もその一人であった」

言ってから、黒鷹(からす)は慌てて藍瑪蔬(あいめそ)から目をそらして、手を引っ込めた。

「?」

袖で涙を拭って、しばらく考えていた藍瑪蔬(あいめそ)は大きく頷いた。

「それ故あんなところにおられたのか」

藍瑪蔬(あいめそ)は続ける。

「そう多くの武将を存じてはおらぬが、黒鷹(からす)という御仁を存じ上げなかったのも合点がいく」

一人納得しながら更に続けた。

「ただ会うてみたいと思うてくだされただけ故、危害を加える気もなく、むしろ助けて下されたのじゃな?」

「・・・ま、まあそうだ・・・」

更に困ったように黒鷹(からす)は、横を向いたまま答えた。

「? ・・・気分を害されたか? ・・・!どこか具合の悪いところがあるのではあるまいな!?」

「ない!」

「顔が赤うござる。熱でもある・・・」

「ない!!」

叫ぶように

「ご免!!」

と言うなり、黒鷹(からす)は立ち上がって背を向けた。

 

黒鷹(からす)殿!?」

 

すぱん・・・。ぱしん。

 

「・・・?」

 

一人残された藍瑪蔬(あいめそ)は、首をかしげながら仕方なく床に就いた。

涙は止まっていた。

 

 

 

 

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