「シュナさん、気にしてないかなぁ・・・?」
「何!? いきなり?」
私の唐突な質問口調のつぶやきに、呆気にとられ気味のスズナが驚いたような声を上げた。
「というか、何の話?」
「だいぶ前だけど、シュナさんに提案してもらった装備を強く拒否した事があって・・・」
「あー。いつもの青系装備かぁ。・・・何だっけ?」
「ラギア・・・」
「青じゃない」
「うん」
今度は本当に呆れた様にスズナは言った。
「っていうか、それ。相当前じゃない!?」
「うん・・・。そうなんだけど・・・」
「シュナ、もう忘れてるよ、多分」
益々呆れた様にスズナが、笑う。
「うん。そうだよね・・・。そうなんだけど・・・」
「スキル構成が悪かったんだっけ?」
「まぁ、要らないスキルは付いてはいたけど、そんなでもないよ・・・」
躊躇いがちに、私は言った。
「何よ~! 歯切れ悪いわねぇー。ハッキリ言ってごらん!」
年下とは思えない包容力を感じさせる、この感じがスズナらしい。
「……見た目というか、色が嫌だったの! しかも凄く」
「えぇ!?何で?青じゃない!?」
・・・スズナ?青なら何でもいいと思っているの?
私は、若干困惑しつつも続けた。
「青にオレンジが入っているのが、嫌だったのよぅ・・・」
「えぇ!? オレンジ!?」
「そう」
「入ってたっけ?」
「ラギアクルスの外見からは想像しない位には、かなり・・・」
「そうだっけ・・・?」
「うん・・・」
「・・・」
「・・・・・・」
何が言いたいのか、シュナさんの事はさして重要じゃないことに気付いていて。
でも、本題がイマイチわからないので、さすがのスズナも少しじれったそうにしている・・・。
「もう!言ってごらんよ!!」
そう言われても尚、まだちょっと及び腰に前置きしてしまう。
「ごめん。どうでもいいような、くだらないことかもしれないんだけど・・・」
「うん!いいから!!」
一呼吸してから、一気に言葉にする。
「その!青とオレンジの組み合わせが!異様に不快なの・・・!」
「???」
キョトンとするスズナ。
「青とオレンジの組み合わせが、尋常じゃなく気持ち悪いの」
「・・・?そう?」
不思議そうに困惑している。
「多分、ここまで過剰反応?するのは、私くらいだとは思うけど・・・」
ちょっと困って、苦笑する。
「う~~~ん」
不思議ではあるものの、同時に興味深いどころか好奇心を刺激したのか、面白そうに、スズナが首をひねりながら、悩まし気に考え始めてるくれる。
ああ!なんて素敵なんだろう!
あの子なら「ふーん。なんでだろうね~」とかで終らせてしまうかもしれないというのに―――!
スズナを無性にハグしたい衝動にかられるのを抑えながら、つぶやいた。
「何か、妙に、急に、心に引っ掛かり始めたんだよね・・・」
「急に!?」
益々、興味深そうにスズナが聞き返す。
「この前、友達とドンドルマで会った時に、服が青い・装備も青いって話をして、気付いちゃったの。青とオレンジの組み合わせがヘンに嫌なことに」
「それまでは気にならなかったの?」
「そんなに嫌だと思っている自分に気付いていなかった・・・」
そう言ってちょっと笑う。
あ・・・。
「何かありそうだねぇ~」
妙に嬉しそうに言い出したスズナは、完全に好奇心に火がついている。
「ちょっと探ってみようよ!」
勿論、ただの好奇心などではなく、本心は心配してくれているのは言うまでもない。
スズナはそういうコなのだ。
自分のことだけではなく、人の為だとしても、気になることは追求せずにはいられないのである。
人の為にも一生懸命になれるスズナが可愛くて仕方なく、あまりの嬉しさに今度は抱き着かずにはいられなかった。
「ありがと――――――!スズナぁ―――――――――!!!」
「わっ!」
「ねぇさん、嬉しいわぁ~~~!!」
呆れているのか、ただ喜んでくれているのか判らなかったけれど、嬉しそうに応えてくれる。
「あはは!はいはい!どういたしまして! このスズナめにお任せくださいませ!」
「頼りにしてるよ~~~!」
思わず、ぎゅっと抱きしめてしまっていた。
「おいおい!キミらは、昼間っから人前で何やってるの!?」
「え?」
「あら」
「キミら、いつからそういう関係だったの?おじさん、嫉妬しちゃうなぁ~」
背後から、おどけた男性の声がした。
「ぷぷ~っ!」
「あはは!やぁーだぁーーー!何言い出すのよ~。マコノフさん!」
・・・かわいいスズナの反応に対して、おばさん臭い反応をしてしまう自分に内心笑う。
「何だ、違うのか。つまらない」
冗談を言っているだけなのだが、本当につまらないようで、マコノフさんが残念そうに言った。
「違うんなら、何をそんなに盛り上がっていたんだい?」
私は、ワザと意味ありげに、
「女同士の秘密の話~!」
と、舌を出した。
「えー!何だよ?俺だけ仲間外れか?」
本当につまらなそうに言うマコノフさんに、私は言った。
「うそうそ!冗談!!」
不意に腕を掴まれる。
振り向くと、私より背の高いスズナが少し縮こまって、私の陰に隠れるようにして、『いいの?』と言わんばかりに心配そうな顔をしていた。
私はにこりと笑って、
「マコノフさんは、信用のおける紳士だもんね?」
と、念を押すように、マコノフさんを振り返った。
「え? あ?ん?うん。何でも相談に乗るよ?」
驚いて困惑しながらも、ちゃんと真剣に、マコノフさんが応える。
ようやく安心したらしいスズナが、事の次第を分かり易く簡潔に説明してくれた。
「あー!シュナは忘れてるよ」
事もなげに、マコノフさんは言ってのけた。
「うん・・・」
「そうでしょう?!」
マコノフさんの回答に少し満足げなスズナ。
「うむ。その組み合わせ、俺も別にそんな風には気にならないなぁ・・・」
「だよねー」
そりゃそうだと思う私も、軽い調子で同意する。
「だから!むしろ、メソさんの嫌悪感が興味深いのよ!!」
とうとう、興奮気味になってきたスズナが言った。
「確かになぁ・・・。 でもそれって、メソさんの内面に関する話じゃないのか?」
「あ・・・・・・」
慌てて口をつぐむスズナ。
申し訳なさそうにも見える表情で私を見ている。
「あはは!さすが、年の功?慎重ね」
笑って言う私に、少し怒ったようにマコノフさんが言った。
「そりゃ、当然だろう!」
「素敵殿方らしい発言だわ!」
まだ茶化すように言う私に、マコノフさんは更に怒ったような眼差しを向ける。
「ふふふ。そんな顔しないでよ」
スズナは心配そうに黙っている。
「いいの!!私が気になって仕方ないのに、自分じゃ解決できそうにないんだから!」
「うむ・・・」
マコノフさんが唸る。
「マコノフさんがいつも自分で言ってくれてるんじゃない。一人で解決できないことは、みんなで協力すればいい!って」
「それは確かにそう言っているけれども・・・」
困ったように言葉尻を濁すマコノフさん。
「私が“それ”を承知の上で、“相談”しているのだからいいの!!」
「ううむ」
まだ唸るマコノフさんに、畳みかける。
「このまま、ぐるぐると気になったままの方がヤダ!!だから、協力してくださいませ!!」
最後は軽くウインクするように、にっこり笑って二人にお願いした。
「ふう」
なぜか、観念したようにマコノフさんはため息をついた。
「で、何にどこからアプローチしようか?」
スズナと反対側の隣に、改めて座り直すようにしながら、マコノフさんが口にする。
私の左側で小さくなっていたスズナが、安心したようにこちらに乗り出しながら言った。
「そうなのよねー。メソさん自身が解らないから、そこが問題なのよ~」
マコノフさんが私に向き直って聞く。
「小さい頃のトラウマとか、心当たりはないの?」
「うーん。ここしばらく考えてみたのだけれど、思い当たるようなことはなくて・・・」
「うむ」
「一応ダメもとで、母にも聞いてはみたけれど『そんなの覚えてないわよ。知らない』って・・・」
母の言い様に呆れていた私は、思わず苦笑した。
すると、名案を思いついたのか、スズナが立ち上がりそうな勢いで更に体を寄せるように、乗り出してきた。
「じゃ!いっそ、その前―――のご先祖様の因縁とか!?」
マコノフさんも、気が付いたようにこちらに乗り出してきた。
「そういえば、あの桐花装備はユクモのご先祖様の遺産だったよな!」
ちょっと、驚きながらも私は答えた。
「うん、そう。ユクモ温泉の番台さんが掘らせた源泉近くに埋まっていたのを発掘して、その時の依頼のお礼に頂いたよ」
「このタイミングって・・・!」
「おお!?」
「もしかして!もしかするんじゃない!?」
三人は、キラキラした目で顔を見合わせた。