〜莉緒side〜
学校が終わり一人道を歩いて帰る。一人、というのは九郎は用事があるとかで別行動をする事になったからだ。あいつの面倒を見なくていいのは気が楽だから嬉しいが、それはいつも騒がしいやつがいなくなるのと同じでいつもの道も微妙に寂しく感じた。
オンラインゲームをよくやるあいつが家の外に出て用事だなんて、昔なら考えも出来なかったなと思い出す。何だかんだ言いながらもバンドの練習は来てたけどさ。
……こう考えると案外あいつの存在って大きいなと感じてしまう。
「くそ、らしくねぇ」
髪をくしゃくしゃと掻きながらあと少しの家までの道を歩く。
別の事を考えて気を紛らわす事にする。まず家に帰ったら鞄を置いて親父の手伝いをして……っていつもと変わんねぇな。
何かないかな……。
「(あ、そういえば)」
イヴが組んでるバンドのパスパレだったか? 他はどんなメンバーがいるんだろう。写真では見せてもらったけど一人としか話した事はないし……。
そのうちの一人は白鷺千聖という人物。“子役の白鷺千聖”と言えばある程度の人には通じるくらい有名だ。俺らエタハピメンバーはかの繋がりで全員面識がある。因みにかのというのは松原花音の事だ。
家が見えてきたところで旅館を覗く女子高生が居るのが見えた。あの制服は……羽丘女子?
「どうかしたか?」
「うえっ!?」
後ろから声を掛けたからか驚かれる。その少女は慌ててこちらを向いて謝ってくる。
「ごっ、ごごごごめんなさい! 別に怪しいものではないですから!」
「落ち着け落ち着け。それで用事はなんだ? 俺そこの子だからある程度は分かるぞ」
そう言うと「あなたが……?」と何やら意味を含んだ言い方をされる。
「話すのならお茶は出すぞ。こっち来いよ」
そう言って旅館の後ろにある家へ案内する。俺は家まで歩く中この少女について考えていた。どこかで見た事ある、それも結構最近だ。
結局思い出せずに俺はお茶を出した。
「ほら」
「ど、どうも」
一口飲んだのを見て俺は再び話し掛ける。どうしてあの場に居たのかを。
「で、お前は何で旅館を覗いてたんだ?」
「いえ、そのー……なんと言いますかー」
目を泳がせながら歯切れを悪くする。
「イヴさんがよく話をするので、どんな人なのかな~……と思いまして。はい」
どうしてイヴの名前が出てくるのだろうか。あいつは花女のはず……。
とそこまで思い少女の顔をのぞき込む。
「んん? ちょっと待てよ」
「なっ、何ですか……急にジロジロ見て……」
眼鏡をかけてるから分からなかったけどよく見るとイヴに見せてもらった写真の一人に似ている。イヴとよく話していている事から親しいのだろう、そしてあの写真の一人に似ている……これはもしかして。
あの少女の名前を思い出す。パスパレのドラムをしている少女――確か名前は……。
「大和麻弥、か」
少女は驚いてこちらを見る。
「じ、自分を知ってるんですか!? 光栄ですぅ!!」
手を握られてぶんぶんと振られる。
光栄って……何が光栄なんだ。別に俺は有名人ではないぞ。……日高内ではある意味有名だけど。
テンション高めの大和はそのまま語り続ける。
「いやぁ、あの沙霧莉緒さんに名前を知られているとは……嬉しい限りですよ! 実は私エタハピのファンなもんで」
へぇ、辞めた後でもファンと言われるのは嬉しいもんだな。総士なら飛んで喜びそうだ。
「最後のライブ感動しましたよ! 今でも覚えています!」
「そりゃ嬉しいな。あれは人生で最大の思い出でもあるからな……やった甲斐があったってもんだ」
盛り上がる大和は急にあっ、と口元を抑える。そして恥ずかしそうにこちらを見てくる。
「え、えっと……すいません盛り上がっちゃって……。初対面なのに」
「別に俺は気にしてないけどな。それより自己紹介してくれよ、やっぱり本人から聞きたいしな」
「そういえばまだでしたね」
こほんと咳をして自己紹介を始める。
「知ってのとおり大和麻弥と申します! 因みに前から読んでも後ろから読んでも同じですよ! パスパレではドラムをさせてもらってて、趣味は機械を弄る事と見る事です!」
「大和麻弥……やまとまや……。おお、本当だ」
謎の感動を覚える。トマトとかそういうのしか知らなかったからだろうけど。
「まさかイヴさんの言うリオさんが本当に沙霧莉緒さんだったなんて、今でも信じられないですよ」
「莉緒でいいぞ。フルなんて大和も疲れるだろ」
というかフルネームで呼ばれるのは俺としてもちょっと、いや結構こそばゆい。
「それなら自分の事も名前で呼んでもらってもいいですよ? えっと……莉緒、さん」
「そっか。それならよろしくな麻弥」
俺が名前で呼ぶと少し顔が赤くなる麻弥。
「あわ、わわわっ……感激です、名前呼びだなんて……ふへへっ……」
独特的な笑い方だな、文字通り顔をニヤつかせてる。
「ま、まぁ呼び方はどうでもいいとして麻弥ってイヴと仲が良いのか?」
「自分としては仲が良い方だと思いますよ? よく話もしますしね。それよりも自分は莉緒さんとイヴさんの関係が気になりますよ」
話の話題を返される。
俺とイヴの関係って言っても、ただの知り合いだろ。いや友達か?
「普通の友達だが、どうかしたのか?」
「うーん、友達ですか……」
腑に落ちないという感じで言われる。
だが事実そうだろう、よく会う友達。俺と九郎、奏と花音、総士とつぐの様な関係が近いんじゃないか。イヴとは幼馴染みでも何でもないが早い段階で仲良くなったし、そう考えるとあいつらと近い関係じゃないんだろうか。
「いえパスパレ内で割と話題なんですよ。莉緒さんの話が」
何だよそれ、話題になるような事はないぞ。ああ、でも事務所とかで話題になって旅館の事が広まれば親父とか喜びそうだなぁ。
「何でだよイヴが適当な事を言ったのか?」
「適当って言いますか……。イヴさんの言うリオさんがエタハピの沙霧莉緒さんって千聖さんが当てまして、それに彩さんが反応してしまってですね……」
補足で説明してくれたが彩というのは写真のピンク髪の女の子で麻弥と同じエタハピのファンらしい。
「今度イヴさんからサインを頼まれるかも知れませんがそれは彩さんのお願いなので、一応報告しときますね」
サインって、もうバンドやってないんだけど……。
そう思いながら適当に部屋の中を漁るとノートがあったので一ページ引きちぎってボールペンでサインを書く。それに付け加えるようにメッセージも書いた。最後に『彩へ』と書いて完成だ。
「じゃあこれを丸山へ渡しててくれ」
小さく折りたたんで麻弥に渡す。了解しました、といって鞄に入れる。そーいや、確かこいつもファンなんだよな。
「どうする、お前もいるかサイン的なやつ」
ペンをカチカチとしながら麻弥へ言う。
「ほ、本当ですか!? 是非とも!!」
「オッケー」
さっきので感覚を少し取り戻してスラスラと書くことが出来た。
「悪いなノートの紙で。色紙とかあれば良かったんだけど」
「いえ! これでも十分すぎるくらいですよ!」
一段落して時計を見ると家に入った時間から三十分は経過していた。こいつは学校帰りだから早めに帰らせた方がいいよな、と思い帰りの指示をする。
「っと、そろそろ帰るか? 俺は家の手伝いがあるし」
「すっ、すすすいません! つい長居しちゃって!」
勢いよく頭を下げる。それがおかしくてクスッと笑ってしまう。
「面白いな麻弥は。時間があるなら気楽に来てもいいぞ? 何なら連絡先交換するか?」
「ええっ!? いいんですか!?」
「おう。別にお前が困らないならな」
「困るなんてそんな! それではおお、お願いします!」
お互いにLINEの交換をして追加をする。
少しスクロールして画面を見るとクラスの友達、エタハピのメンバーと花音、千聖。そこに最近追加されたイヴに今の麻弥。まさか芸能人が三人いるとは……これはちょっとした自慢になるな。まぁ、そんな事はしないけどさ。
交換をした俺らは家の外へ出た。
「今日はありがとうございました、お話出来てとても楽しかったです!」
「おう、こっちも楽しかったよ。それじゃ仕事頑張れよ」
「はい! それでは失礼します!」
麻弥を見送った後に旅館の方に入ると親父に声を掛けられる。それはとてもしょーもない話で俺は呆れてしまった。
「お、さっきの子なかなか可愛いじゃねぇか。イヴちゃんが揺らぐんじゃねぇか?」
「うるせぇよ親父。揺らがねぇ、そもそも揺らぐ様な関係でもねぇ」
手伝いをしてる最中はその話をされ続けた。
「(これは夜もからかわれるな)」
パスパレイベですね〜、僕は次がハロハピだと信じて待ちますよ。皆さんイベント頑張ってくださいね!
それでは読んでもらいありがとです!(感想は気軽にどうぞ!)