〜麻弥side〜
「彩さん! 彩さん!」
パスパレでのレッスンが終わり更衣室で着替えてる最中に私は彩さんに駆け寄る。
「ん? どうしたの麻弥ちゃん?」
私は先程バックから取り出した紙を彩さんへ手渡す。他のメンバーはそれを何かと不思議に眺めているのが視線で分かった。
「これを読んでみてください!」
「? 何これ、ファンレターか何か?」
ニヤニヤとしながら彩さんに説明をする。驚くだろうなぁ彩さん。
「ふへへ、それはですね。前に彩さんがイヴさんに頼んだ莉緒さんのサインですよ!」
前会ったので貰えました、と付け加える。彩さんは紙を広げて文字に目を通してる。その横でイヴさん、日菜さん、千聖さんが話をし始めた。
「ねーねー麻弥ちゃん、莉緒ってイヴちゃんが気になってる人ー?」
「ひ、ヒナさん!? そんなんじゃないですよ!」
「あら、あんな男が好みなのイヴちゃんは」
「あんなって……チサトさん! リオさんは面白くて、カッコよくて、優しくて――とてもいい人なんですよ!!」
「ふふっ、莉緒の事そんなふうに思ってるのね」
「あ、いや――い、今のはその……えっと……り、リオさんはとてもいい人と伝えたくて……」
「いやーイヴちゃんはその莉緒くんがす――」
「わぁぁぁああっ!! ヒナさん! だからそんなんじゃないですってば!!!!」
イヴさんが顔を真っ赤にして日菜さんの口を両手で塞いでいる。それを千聖さんは離れて微笑みながら楽しそうに眺めている。
「(盛り上がってるなぁ皆さん……)」
そろそろ読み終わったと思い彩さんを見る。すると何故か彩さんが泣いていて……。
「ど、どうしたんですか彩さん!?」
慌てて声を掛ける。嫌な事でも書いてあったのだろうか? でも莉緒さんがそんな事を書くはずは……。
涙を拭いながら彩さんは返事をする。それで私の考えは不要と知った。
「うぅ……ぐすっ。あのね……『パスパレ頑張れよ。応援してるぜ』って……書いてあって、嬉しくって……ぐす……」
つまり、嬉し泣きという事でしょうか。確かに彩さんは感動に弱いとは知ってますがここでも発動するとは。
ついでに彩さんに莉緒さんと会いますか? という話を持ちかけようとしていたのを躊躇ってしまう。
「マヤさぁぁぁん!!」
「わわっ、イヴさん!? どうしたんですか!?」
と、考えていたらイヴさんが私の後ろに隠れるようにやって来た。何事かと思い前を見ると日菜さんがイヴさんを追いかけて私の目の前に立った。
「ヒナさんがいじめてきます! 助けてください!」
「いじめだなんて心外だなぁ。あたしは莉緒くんと会いたいだけなのに」
むー、と言いながら後ろのイヴさんに近づく。そこに助け舟を出すかのように千聖さんが声を掛けた。
「莉緒に会いたいだけなら明日にでも会いに行きましょうか」
「え!? 千聖ちゃんいいの!?」
くるっ、と方向転換をして千聖さんを見る。
「ええ。今からでも電話してみるわ」
携帯を取り出してどこか――きっと莉緒さんに通話をかける。
「うう……これでリオさんが了承したら私はヒナさんに明日は弄ばれてしまいます……。まるで敵に捕まったブシのように」
それを見たイヴさんは肩を落として諦めた声色で呟いた。
~千聖side〜
普段はこういう事には乗らない私だけど今回は違った。運が良ければ莉緒とよく一緒にいる“ある人”とも会えるかもしれないから。
携帯を操作して莉緒に電話をかける。普段電話なんてしないから驚く顔が目に見えてしまい思わず小さく笑ってしまう。
何回目かのコールで向こうが出てくれた。
「もしもし莉緒? いきなりで悪いわね。明日用事とかあるかしら?」
『……千聖? 久しぶりだね』
「え!?」
画面の向こうから聞こえた声は莉緒のものじゃなかった。それに声を上げてしまう。
「どうしたの千聖ちゃん~?」
「い、いえ何でもないわ……」
日菜ちゃんに声を掛けられ我に返る。動揺を隠すためにみんなからは距離を取ることにした。
少し間の抜けた感じの声、久しぶりにその声を聞いてどこか心が落ち着いたように思える。
「久しぶりね九郎くん」
『うん。久しぶりだね、今日はどうしたの』
「あぁいえ、その前にどうして莉緒の携帯にかけたはずなのに九郎くんが出たのかしら?」
一度携帯から耳を離して画面を見ると、やはり莉緒と表示されていた。その疑問に答えてくれる。
『莉緒は旅館の手伝いをしてる、それで僕は莉緒の部屋で寝ている。……えっとつまり、留守番みたいな事をしてて……』
遊びに来たけど家の手伝いで莉緒と遊べずに終わるのを待ってる状況かしら? 話から察するにそんな感じだと思うけど。
「大体は分かったわ。それなら莉緒に明日時間あるか聞いててくれるかしら」
「ん……。明日なら大丈夫」
莉緒への質問に何故か九郎くんが答える。
「い、いえ私は莉緒に……」
『莉緒なら明日は休み。だから大丈夫って意味だったんだけと……』
「そ、そうなの……ごめんなさい」
昔から九郎くんの言葉は短縮してるように思えて話すのに誤解がでる。これに莉緒は何事も無く話すから凄いと思う、やっぱり幼馴染みだからだろうか?
『それで、そっちの用事って……? 僕から莉緒に伝えておくよ』
ふぁ~、と欠伸をしながら言ってくる。相変わらずのマイペースのようだ。
「そうだったわ。パスパレのメンバーが莉緒に会いたいって言ってるの、だから明日家に行ってもいいかしら。という事なんだけど」
『ん、大丈夫。明日は莉緒、家に居るから』
それじゃ。と言う事は言ったという感じで通話を切られそうになる。ここで切られたら最後の質問ができない、私は慌てて九郎くんにあと一つ質問をした。
「ま、待って! その……九郎くんは明日は――」
『僕も居るよ。……千聖も来るの?」
「え、ええ」
質問を読まれ答える九郎くんに歯切れ悪く頷く。
『それなら、待ってるよ。久しぶりに話もしてみたいしね……』
その言葉に胸の鼓動が早くなるのが分かる。それを悟られないように私は電話を切る事にした。
「それじゃあ明日、こっちのみんなには私が伝えておくから莉緒には九郎くん、よろしくね」
『うん、任された。また……明日だね、千聖」
その言葉とともに通話は終了した。私はロッカーに背中を預けて地面に座り込む。
「(明日、九郎くんに会える……。まさかこんなに都合のいい事があるなんて)」
エタハピのメンバーは“私”をちゃんと知ってくれている、それは薫と同じように“私”に接する事が出来る数少ない人達。
その中でも花音と同じように本当の“白鷺千聖”を出せる相手が九郎くん……。昔言ってくれた言葉は今でも心の中にある。
『千聖は千聖なのにどうして誰もそっちを見てくれないんだろうね。……悲しいよ』
『僕は“白鷺千聖”をちゃんと見てるよ……子役の、だなんてゲームの称号じゃないんだからさ』
誰も見てくれなくても、九郎くんが見てくれてればそれだけでいい。いつからだろう、そう思い始めたのは。
ポーカーフェイスはそこそこ得意だから周りには気付かれてはいないだろう。でも未だに信じられない、他人は他人。そう思っていたのにこんな気持ちを抱くなんて……。
「(これじゃ花音みたいね……、恋心なんて)」
電話が終わったのにいつまでも来ないと怪しまれるわね。
私はみんなの元へと戻る。日菜ちゃんへ了承が出たと言うと飛んで喜んでいた、イヴちゃんは麻弥ちゃんに抱きついていて、彩ちゃんは私に詳しい話を聞くために駆け寄ってきた。
「ね、ね! 莉緒くんに会えるって本当なの!?」
「きゃっ! あ、彩ちゃん落ち着いて……」
「うぅ~、るんっ! って感じだね〜!」
「マヤさん……明日は守ってくださいね……」
「まっ、任せてください! イヴさんは自分が守りますから!」
その日は昼からまたみんなで集まって明日について話をしたのだった。
そのうち九郎と千聖については話を出すと思います。
それでは読んでもらいありがとです!