きゃすたー(7mg)の雑多なネタ倉庫   作:きゃすたー(7mg)

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ドルフロのとりあえず二話目

 監視塔から見る空は青い。そして遠目に、夜更けが近づいた盆地の中央に街が見える。既に太陽は天頂を過ぎて傾きかけているが、敵にとって……私たち人形にとってそれらは何ら意味を成さない。

 私たちの骨格は高分子ナノカーボンで形成され、筋繊維は作業用の二足歩行機械に使用されるものを人間大に縮小させたものを繋ぎ合わせ、神経系は光ファイバーさえ足元に及ばない超反射を可能とし、エネルギーの消費が大きい点を除けば……私たちは疲れ知らずで戦える。理論上は。

 そして、それは彼ら……鉄血も同じということだ。

 

「こちらSV-98。リーダー、応答願います」

『こちらエコーリーダー、進展があったかな?』

「敵、接近しています。正面に装甲二脚と犬鳥豹の混成が3分隊、基地の後背からスナイパーとマシンガンの2分隊、両側面にノーマルの人形型(ドールタイプ)混成がそれぞれ4分隊です」

『あちらさん、ウォーミングアップは終了ってとこかな。全隊へ告ぐ、キックオフだ!

 修復完了までのあと40分、なんとしても持ちこたえる。場合によっては基地内に篭城してゲリラ戦に持ち込んで時間を稼ぐ。正念場だ、いくよ!』

 

 始めよう。私の銃に添えた指先がみんなの命を守るのだと信じて。

 

『SV-98ちゃん、私はG36と一緒に遊撃に回るね。……みんなをお願い』

了解(ダー)、EBRちゃん。任されました。――狙い撃ちます」

 

 ダミーリンク最大稼動。自律射撃モードへ移行。射撃開始。

 

 

 第二標的 タイムリミット

 

 

『こちら正面ゲート! リーダー! 狙撃支援を要請します! 敵装甲兵を排除できま……っ! 9Aちゃん、退避して! 退避!』

『ご主人様! これ以上は持ちこたえられません! 西ゲートのエリアを隔壁で閉鎖して後退致します!』

『こちら監視塔のSV-98! 敵のスナイパーに狙われてます! ダミー部隊あと三体です! このままじゃ支援が継続できません!』

『Mk23よりダーリンへ! 側面の部隊が正面に向かってるわ!』

 

 ああ、くそっ! わかっちゃいたけど盤面が悪すぎる! 自動砲台(ターレット)は既に残り1基、狙撃支援は難しい上に敵の波状攻撃で戦力を分散させられてる!

 通信機の先からは絶え間ない銃声と爆発音、そして銃弾の掠める音が聞こえてくる。こちらの発砲音は時々聞こえてくるものの、既に銃弾が尽きかけているのは確かな事実だ。

 

 選択しなければ。このまま基地を壁代わりに守り続けるか、退いてでも守りを固めるか。……やるしかない!

 

「エコー各員へ、現在の防衛線を放棄して宿舎まで後退開始! セントリーガンとトラップの起動まで三分取る! 

 退避に主だった通路は使用しないように! 周囲の建物を爆破して敵の進路を塞ぎ、時間を稼ぐ! あと……ゲリラ戦も視野に入れておいて。以上だ」

「ボス、G17……帰還しました」

「首尾は?」

「問題ありませんよ。既に各所への爆薬の設置は完了してます。装甲車のほうは問題なく使えます。ストライカーICVが二両確保できました。指示通りにダミーリンクシステムを即席で繋げてあります。運が良かったみたいです」

「そいつは上々だね。壁は多いに越したことが無い」

「では、私は皆の支援に回ります」

 

 二丁の拳銃をホルスターに収めた少女、G17は銃を抜き放ち安全装置(セイフティ)を解除して戦場へと駆け出した。

 仮設司令室に残されたのはただ一人と一体のみ。修復中のG41と私だけだ。

 

「あと、20分……どう持たせるか」

 

 敵の攻撃は苛烈だ。正面は頑丈な装甲型砲兵を軸に、射撃の合間を縫って犬鳥豹がスピードを駆使して正面ゲートへ散発的に攻撃を仕掛けてすぐに後退している。おそらくだがこちらはオトリだ。正面から圧力をかけ、注意を引くための部隊だ。装甲兵は壊れにくく、犬鳥豹は壊れても安上がりだろう。

 側面は柔軟性に富む人形を主軸に据えて、木陰や地形を利用してこちらに攻め入ろうとしている。本命はこちらだろう。G36とEBRのコンビが後退せざるを得ないということはそれだけ巧妙に、確実ににじり寄っているということだ。

 後方の狙撃部隊は監視塔で陣取るSV-98の妨害と接近する側面の部隊への支援。そしてこの基地の後方から来る援軍を一本道で釘付けにするための部隊だ。マシンガンを軸にした部隊で封鎖して、増援の進軍を遅らせるために配置してあるのだろう。万一我々がそこを突破しようとしても蜂の巣にしてやるという意味での脅しも兼ねているのかもしれない。鉄血のAIにそんな感情があるのかは不明だが。

 

 それにしても何故奴等はこうも手際よく基地を包囲できた? ここの指揮官は新人だったとはいえグリフィンでもそれなりに頭角を現しつつあった、それなり有能な指揮官だったはずだ。

 レーダーによる空の警戒はもちろんとして地上部隊も頻繁に哨戒任務に回っていると聞いていた地区だったけど、それをすり抜けてここまでの大部隊をどのように配置したのだろう?

 私たちが彼らの攻勢の支援に回るため、後方の基地を発った直後にこの基地が襲撃を受けたのは確かだ。お陰で到着したときには基地はかなりの被害を被り、指揮官も死亡していた有様なのだから、タイミングが良すぎるのではないか。

 

「……この基地の情報が筒抜けだった?」

 

 敵に情報戦を得意とした存在が居るのだろうか。その割りに監視に当たっていたSV-98やEBRから、それらしい鉄血のハイエンドモデルが敵部隊の中に確認できたという報告は上がっていない。

 ……一先ずどのように布陣したのかは後だ。問題はこの基地が何の理由もなく容易く陥落するはずの場所ではないということ。自動砲台(ターレット)などによる防衛設備はもちろん、監視塔の配置や哨戒警備の人形も歩き回っている地区(エリア)を抜けて、基地だけがこうもズタボロになっているのは何か引っかかる。

 

「こうも手際よく基地が制圧されたのはおかしい」

 

 基地内の惨状はひどいもので、電力供給施設は7割が使用不能に陥り、司令部施設は半壊状態。防衛設備も大きなダメージを受けていた。激しい戦闘だったことは確かだろうが内部に居た敵部隊のダメージに対して、外の部隊はほとんど被害が無い。

 

「……いや、もしかして外の部隊はほとんど()()()()()()、のか?」

 

 そう考えると辻褄が合う。外に居た敵部隊にほぼ被害が無く、基地内に居た敵部隊だけが損耗していた。そんなことが可能な方法は、つまり一つしかない!

 

「襲撃以前から既に基地内に潜入していた? 鉄血の人形が、目の前に居る人間や人形を殺すことなく……ひたすらに時を待ち続けて、基地の主要施設を爆破し、指揮官を暗殺してみせたっていうのか?」

 

 そう考えると私たちが突入した際、敵がデータセンターに真っ先に向かっていって破壊した理由に納得が行く! 敵にとって有益な情報が詰まっているはずのデータベースが完膚なきまでに破壊されていたのは、そこにある情報が既に不要だったからだ。しかしデータをいくら削除したところで、物理的に残っているハードディスクや機材からデータを復元して解析された場合、潜入した方法が我々に露見する恐れがある! だから物理的に復元不能な状態にしたんだ!

 襲撃前に既にこの基地は“丸裸にされていた”んだ! 資材の一つまで情報を握られ、主要な施設はいつでも破壊できる状態で、警備の穴や人員の出入りに指揮官の性癖まで! 全てが、鉄血の奴等には丸見えの状態だったんだ!

 

「くそったれめ! 鉄血のAIがこんな詰め将棋みたいな手を打てるなんて!」

 

 そりゃあそうだ! ハイエンドモデルが出張る必要なんて何一つなかったんだ! 全ての布石は打たれた後でしかなく、駒を指示通りに動かすだけで全てが片付いたんだから!

 唯一の想定外は私たちの存在だろう。後方基地で直接指揮官と打ち合わせをし、グリフィン部隊の攻勢に際してアフターグロウの支援部隊を送る決定をしたことだけが鉄血の奴等にとっての誤算だったんだ。

 鉄血側には援軍が来ても返り討ちにして基地を確保できる戦力もあったが、まさか戦場になっているハズの“基地内部に直接降下して強襲する”部隊が来るなんて思わなかったのだろう。

 不意をついて基地の再占領に成功したとはいえ……それでもこの劣勢は覆せない。確かに最初は良かったが、後続のグリフィンの支援部隊と分断されてしまったのはまずかった。

 うちの面子は修羅場を潜ってきた人形ばかりだが、拠点は完全包囲されている上にロクな防備も無く、味方の援軍や支援も受けられないのだ。その上あちらの数はゆうに100体は居ることを確認している。

 何故かは知らないがあちらがまだ積極的な攻撃に出ていないことと、こちらが守勢であることからどうにか凌げているが……こちらのダミー込みでも相手との戦力比は1:4……よくここまで粘ったほうだと考えるとしよう。

 

 僅かでも生存者が居ることを願っていたが、結局一人として生きた人間は見つからなかった。基地司令官は射殺された後だし、前線指揮を担う指揮官も銃撃戦で死亡していたのをG36が確認している。

 今日はきっと厄日に違いない。鉄血の拠点を攻略する部隊の後方支援任務のつもりでやってきたら、G&Kの拠点が大火事で最前線に成り果てているなんて誰が想像できるだろうか。

 そんな状況下で私たちに基地の確保を指示したヘリアンには後でキッチリと()()()をしてもらわないと。でなければこの危険の対価には釣り合わない。

 

「とにかく生き延びて情報を持ち帰らな――」

『――告ぐ』

 

 手元の3Dモニターに一人の人間――いや、人形の姿が映る。

 燃え尽きた灰のような白い髪。黒を基調とした軍服に身を包んだ彼女は釣りあがった鋭い目つきでこちらを見て続ける。

 

『我々は、鉄血工造である。……生憎と上からはナンバリングだけしか与えられていないのでね。便箋上として、“独立第4大隊”と名乗っておこう。

 ……現在の指揮官殿が健在であるのならば応答を願う』

 

 チッ、やはり指揮官が死んでいたのは奇襲攻撃と暗殺によるものだったのか。おそらくだが、向こうは指揮官を排除したはずなのにこれだけの抵抗を受けているという事実に困惑していたのだろう。

 コイツはあの部隊には見られなかったハイエンドモデルだ。おそらく攻撃部隊から我々の報告を受けて重い腰を上げたのだ。どうする……出てもいいが、出たところで何かが変わるとも思えない。

 だが少しでも情報を……成果を得て帰らなければヘリアンを()()……もといヘリアンに要求を飲ませるのが難しくなるかもしれない。

 

「こちらはグリフィン&クルーガー社傘下のPMC“アフターグロウ”所属のエコー21だ」

残響(エコー)……ふむ……覚えたぞ。初見となる。私はこの大隊の指揮官を務めている鉄血の人形。名を“指揮者(コンダクター)”という。

 まずは素直に賞賛を。貴官らは我々の攻撃部隊を電撃的な強襲によって基地内から排除し、あまつさえ包囲下のこの状況でこれまで持ちこたえてきた。その戦闘能力と粘り強さに思わず自身のセンサーを以って確かめたいと思うほどだった』

「そりゃどうも」

『そして、その反抗もここまでだ。戦闘行為を即時中止して武装解除し、降伏することを推奨する。貴官が優秀な士官であることは報告からでもわかることだ』

「今までの鉄血のお人形さんと毛色が随分違うね。私が会ったことのある人形はどいつもこいつも“殺し、殺し、もっと殺す”がスタンダードだったけど」

『うむ。私は他の面子とは少しばかり、人類という存在に対する認識がズレているようでね。

 それでも基本は変わらないさ。我々は人類を駆逐し勝利する』

 

 降伏勧告をしながら、人類を殺害すると言う。どういう意図なんだ?

 

「……それで、降伏した場合は?」

『何も。貴殿らには無事生きて帰還してもらい、そしてまた戦場で(まみ)えたい。そう、こんな盤外で行われた局所的な戦闘などではなく、盤面に向き合って再戦をしたいのだよ』

「――私とチェスでもしようっての?」

『成程、そう言われてみると確かに近いものがある。私は、貴官と万全の状態で再戦したいと思っている』

「なんでまたそんな酔狂なことを? 捕まえたらさっさと殺せば、後顧の憂いを絶てるんじゃ? ……過信は己を滅ぼす毒になるよ?」

『道理。しかし我々は鉄血の人形だ。人類を駆逐し、その上に立つからには“人類より優れている”と証明する必要がある。

 優秀な指揮官が現れたと聞いてこの地区に乗り出したものの、搦め手に対する警戒心が薄すぎる。鉄血の人形が……ただ突っ込んでくるだけの能無しだと思われるのは不快極まりない』

 

 今まで能面のように無表情を貫いていた彼女は不意に口元を歪ませ、鋭い目つきを更に鋭くさせる。演技染みているとも思えるが、どこか本心なのではないかとも思える。

 

「で、暗殺したと」

『然り。そしてそこに貴官が現れたと聞いたのだ。貴官はそこに居た男とは何かが違うというのがわかる。こうして会話をしただけでもわかるぞ。

 さて、そちらが質問ばかりというのは少々不平等だ。私からもいくつか質問がある』

「手短にどうぞ」

 

『我々……いや弊社に、“鉄血工造”に来る気はあるだろうか?』

 

 ――は?

 

『履歴書を用意して“ダイナ”にでも預けてくれれば私が受け取って上層部に推薦しよう。なに、心配する必要など無い。貴官の戦闘能力の高さは証明済みであるのだし、部隊運用能力でも彼女達では及びもつかない。つまり準幹部待遇は確定と言ってもいい。

 一年間に120日の休暇と有給休暇が15日だ。戦場を渡り歩く性質上、決まった曜日に休みを取るということはできないかもしれないが、リラクゼーションルームや幹部用のスパリゾートへの入場権限もつけられるだろう。

 っと、給与……貨幣(マネー)に関しては電子マネーが一般的だが、それでもそちらの平均的な人形たちの給与に比べればかなりのものになるだろう』

「あのね、私は人間でそちらは人形だ。わかって――」

『無論。貴官が普通の人間でないことくらいは承知している。むしろ人形のほうが近いくらいではないか?』

「……っ!」

 

 みしり、と手にしていた通信機が軋みを上げる。いけない、いけないぞエリカ=ニコラエヴナ=セミョノヴァ。奴等が私のことを知っているのは交戦した人形の得た情報が伝わっているからなのだ。戦闘能力以外に奴等は私のことを何も知らないのだ。

 この心まで――私のヒトの心までもが見透かされたりなどありえないのだ。

 

『ただの人間が建物の壁を蹴って4メートル上空へ飛ぶことができるだろうか?

 普通の人間が100メートルをオリンピック選手並の速度で走れるだろうか?

 一般の人間が戦闘用人形相手に対多数の銃撃戦で生存していられるだろうか?

 

 ――答えは否だ。貴殿は、どれくらいの()()でご同類なんだい?』

 

 私は――どこまでいっても(エリカ)だ。例え骨格を人工素材のものに置換されようと、例え筋繊維を戦術人形同様のものに改造されようと、例え脳にマイクロチップと人形用の演算コアを組み込まれようと、私は――人間(エリカ)だ。

 

「割合は、問題じゃない。私の意志(こころ)は何も変わらないし、代えられない」

 

 そう、例え私の全てが戦術人形に置き換えられたとしても、この心の在り様だけは変わらない!

 

「というわけで、返答は“お断りだこのクソッタレ”ってことさ。

 まだ続けるようなら、お前のコアが理解不能のバグとエラーで埋め尽くされるくらい、何度でも“NO(ノー)”という言葉を音響センサーにブチ込んでやるけど?」

『……なるほど、貴官は私の想定以上に“人間染みた”存在なのだな』

 

 ふっ、と3Dの彼女は静かに笑う。ナイフのような鋭い眼差しが和らぎ、どこか遠く、私ではない何かに思いを馳せるように――バカバカしい、相手は鉄血の人形だぞ。何を考えているんだか。

 

『了解した。もし生き延びて、気が変わったのなら履歴書を送ってくれ』

「お断りだクソッタレ」

『ふふっ、期待して待っているよ』

 

 ――どうやらこれはまた、面倒な輩に目を付けられたらしい。

 

 

 

 3Dモニターの向こうに居た彼女はきっと今頃イライラしていることだろう。例え邪険にされたところで、私の意志は変わらない。

 彼女が敵として立ちはだかるならそれを正面から乗り越え、彼女が味方となるのならば共に肩を並べて戦ってくれる良き隣人となる。私はそう確信しているのだ。

 占領した市街地の住居の窓からはいつもと変わらない青空が広がっている。今頃彼女たちもこの空の下で銃を手に駆けているのだろう。

 

「よう、“指揮者(コンダクター)”」

「む? “処刑人(エクスキューショナー)”か? このような僻地へお出でとは、如何なさったのだ?」

「ああ、堅っ苦しいな……オレとお前は同じハイエンドモデルだろう」

「とはいえ、貴殿は侵攻部隊でも人形狩りを行う花形部隊の指揮官。小官は主要戦域以外の方面を受け持つ小規模な侵攻部隊の指揮官。必然として肩書きは同じでもそこには少々ながら“差”というものがある。謂わば“格”というものだな」

「……演習で仮想敵を何度も務めてくれるアグレッサー部隊の指揮官なら同格のようなものと思うんだがな。

 正直、やりづらいし調子狂うからやめてくれ。いつもどおりで頼むぜ」

「わかった、いつもどおりにしよう。それで、どうした?」

 

 処刑人、エクスキューショナーは長い黒髪を掻き揚げて目を泳がせて言う。

 

「あー、実は侵攻部隊が人類側の軍を蹴散らして新たなエリアを占拠したんだが」

「それは喜ばしいことだな」

「その、な……残敵の掃討に乗り出していたんだが、三日ほどで粗方片付いてしまって、な」

「……ヒマになったし物足りないし、教官が新しい戦術を試してるらしいから見に行こう。そんなところか?」

「よくわかってるじゃないか! 流石は“指揮者(コンダクター)”だな。で、オレにもやらせてくれないか?」

 

 どうやらこの脳筋(バカ)は私がどのような作戦に従事しているかも聞かないでさっさとこちらに移って来たらしい。

 ……彼女は普段は高性能なハズなのに、どうしてこうも突っ走るタイプなのだろうか。

 

「阿呆か貴様。私がやっているのは正面切っての撃ち合い斬り合いではないのだぞ。情報戦技術の向上と隠密潜入や破壊工作や索敵など、人類で言うところの“ブラックオペレーション”だ。

 人間やIOP社の人形に成りすまし、敵地内で破壊工作や暴動の扇動などを行うだけだ。連隊規模の部隊は持っていてもそれはあくまで瓦解した敵の基地の制圧とエリアの維持に振り分けているかデータ収集のためだけでしかない。

 お前の望むような大規模な“狩り”や“戦争”は今回のデータ収集ではあまり行われないぞ」

「でも、何回かはあるんだよな?」

 

 相変わらずのバトルジャンキーだ。“狩人(ハンター)”もコイツも、そろいも揃って三度の補給よりも“闘争”を求めてくる。

 

「それにさっきの通信相手、アンタが気に入った相手なのか?」

「それがどうした?」

「強そうだ。しかもアンタがこちらに引き入れようとするほどとなれば、相当――」

「おい、エクスキューショナー。――――アレはな、私のだ」

 

 絶対に渡しはしない。彼女は私が見定めたのだ。思いもかけない出会いであるし、ヒトが言うところの“一目惚れ”のようなものかもしれないが、それでもアレは私のものだ。

 敵になっても、味方になったとしても、彼女は……“残響(エコー)”を名乗った彼女を誰にも渡さないし奪わせない。

 

「わ、わかったよ。そんなに睨まないでくれ。彼女はアンタに任せる。――でも、人形のほうなら構わないよな?」

「無論だ。僅かな交戦データで確認しただけだが、あちらの人形は数こそ少なかったがどの人形も精鋭と言っていい。特に抜きん出ているのはメイド服の人形と見慣れない装備の人形。G36と、おそらくだがM14のカスタムタイプだ」

 

 室内に設置した架設のコントロールパネル。そのモニターに我々が乗っ取った(ハックした)カメラが捉えた戦闘の様子が映し出される。

 機銃を掃射して降下地点を確保したヘリが映ると、ラペリングで降下した部隊が次々に展開していくその様子は慣れた手つきでよどみなく、立ち止まる瞬間が一歩たりとも存在していない。

 最初にG36C、続いてG36とMk23、そこに続いてASValと9A-91が降り立ち、最後にM14らしいカスタムタイプとSV-98、そしてG17が降り立つ。

 それがヘリ三機分だ。総勢24体の部隊が展開し、ヘリの一機から最後に降り立ったのはグレーの戦闘服(ACU)に顔を覆い隠すガスマスク姿の何者か。手にはやや旧式のものとはいえ……確か“MASADA”だったか、アサルトライフルを手に他の人形たちと遜色無く鉄血の人形たちを撃ち抜いていく。

 市街地でのCQB。建造物内部での近接格闘。次々と制圧されていく鉄血の人形たち。恐ろしいほどの手際良さで中枢部を制圧していく姿に“なるほど”と納得してしまう。

 

 確かにこれは、現地の人形だけでは対応ができないだろう。たった24体の人形と1人の人間が、基地内で破壊工作を実施していた精鋭の人形30体をを20分とかからず全滅させてしまったのだ。

 

「いいねぇ……愉しめそうだ」

「随分楽しそうだな」

「アンタも、ね」

 

 ああ、愉しいとも。強大な敵を打ち倒す――――これほど心躍るものは他に無い!

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