きゃすたー(7mg)の雑多なネタ倉庫 作:きゃすたー(7mg)
胡蝶カナエさんが不憫なので少し救済してみた(死なないとは言ってない)
柱が銃を使ったっていいじゃない(大正時代なんだしSAAもナガンもM1918もあるよ!)
一言で言えば“大正ロマン系書いたことないから練習しよう”でこうなった。
ついでにリハビリも兼ねてる。
戦闘シーンは無い(力尽きた)
本作の含有物
・オリ主
・捏造設定
・少量の糖分(微糖くらい)
時代は二十世紀の初頭。極東の地、大正時代を迎えた日本帝国の、世界にその名を知られる神戸港に一隻の客船が入港する。
接舷した貨客船の周りには多くの人夫が集まり、貨物の荷下ろしで大賑わいの様相を見せている。その隣では旧友や愛しい人、親類との再会を祝う人々の笑顔があちらこちらで生まれはじめる。
その様子を眺めるように一瞥し、一人の男がタラップを降りて空を見上げる。
「ええなあ。ほんまに」
男は船着き場に降り立つなりマッチを擦ってタバコの先に火を灯す。潮騒に乗って溶けていく紫煙を見上げ、眼前に広がる蒼海と雲一つない秋晴れの空に向かってつぶやく。
「ええなあ……ほんまに、ええお天気や。お
前を開いた黒色のトレンチコートが六甲おろしに揺られ、革製のシンプルなホルスターに収められた二挺の拳銃が露になる。そして左腰にはサーベル――ではなく、反りを持った漆塗りの鞘。即ち日本刀を帯びている。
背丈は
髪型はピッタリ整えているわけではないが短く揃えられ、恵まれた体躯で洋装――しかも略式とはいえ普段目にすることのない海軍の軍装――を着こなす年若い男ともなれば人目に留まるのが道理だ。
「あ、
「ぬ?」
ふと、青年が自身を呼ぶ声のしたほうへ顔を向けると、そこには懐かしい顔があった。蝶を象った髪留め。艶やかな濡れ羽色の髪に黒い瞳。髪は耳を隠すように流し、毛先を後ろで固めたモダンの最先端。藤色の着物に茜色の袴。大正モダンまっしぐら、流行の
天江と呼ばれた男は彼女を見るなり駆け寄り、再開の言葉と共に小柄な彼女を抱き寄せる。
「お? お、おぉー!? カナエか! 三年も
「そ、そうよね……久しぶりだも……ひゃっ!?」
「うーん……懐かしいなぁ、この藤の花の匂いも。
「ちょ、ちょっと天江くん! こ、こんな往来で! こんな……!」
「ええやん。ちょっと、もうちょっとだけ、な」
「……も、もうっ……」
小春日和の埠頭で抱き合う男女を見た周囲の人々の反応は様々だ。年老いた、或いは中年を迎える夫婦などは「今日は暑ぅてかなわんなぁ!」「ええ、ほんまに」と微笑ましそうに。妙齢の男女は「畜生!」「ぐぎぎぎ」などと羨ましそうに。色恋を知らぬ童たちは興味津々で眺めたり指差したりして母親や姉に引っ張られて先を急ぐように離れていく。
略式とはいえ軍装の青年が女を抱きしめる。再び生きて会えるかわからないのが軍人なのだから、こうして想い人を思わず抱きしめたとしても不思議ではない。日清、日露と相次いだ戦争を知る彼らは“往来で抱き着くなど何事か!”などという前時代的な言葉を投げかけたりなどしなかった。
欧米文化の根付いたこの地、神戸が関西の海外文化の最先端と言える場所であることもその一因だ。
「さ、ほな帰ろか」
「――はい」
胡蝶カナエは船旅の疲れをものともしない
彼、天江謙壱が軍務で日本を離れて早三年。たった三年、しかし三年の月日は二人に大きな変化をもたらしていた。
彼女の目から見る彼はすごく大きく頼もしくなっていた。それこそ顔を見上げるくらいに。
彼の目から見る彼女はとても
神戸駅へ着いて国鉄の特別急行列車に乗り、胡蝶の本拠地である蝶屋敷へ向かう。客車はそこそこに混雑しているものの、満席というには足りない。“欧米での”いつも通りに向かい合って座るつもりで対面席に陣取ったのだが、天江謙壱の思惑は大きく外れることになった。
(
流れゆく雲を窓から見ている天江謙壱の左隣には同僚で同門で幼馴染の胡蝶カナエが彼の肩に寄りかかっていた。さりとて眠りに落ちたわけではない。
ガタゴトと揺れるレールの衝撃は安眠を許さないし、座席も固く質が良くない。三年間手放さなかった愛用の座布団を敷いているとはいえ、うとうとすることができる安定感があるわけでもなし。
偏にカナエが三年間溜め込んだものを抑えきれなくなったのだ。
「な、なあカナエ、おなか
「お弁当なら作ってきましたよ」
無残。彼の必死の打開策は先手を打たれて意味をなさなかった。
「せ、せやけどお茶くらいは――」
「水出しを持ってきましたから大丈夫ですよ」
「ワシ、
「神戸駅で行ってきたばかりでしょ? お腹が痛いならお薬があります」
哀れ。無駄なあがきと知ってあがいたところで逃げられはしないのだ。
「今は、こうしていたいの」
「――好きにしい……」
春先の暖かな日差しが車窓を通して差し込む中、天江は特に何かを言うこともなくただカナエのささやかなわがままを受け入れた。――内心、見目麗しい妙齢の女に育ったカナエの姿にどぎまぎしながら。
その後は三年間で生まれてしまった距離感を埋めるように行為はエスカレートしていく。座席に座る彼女の手をさりげなく握ったり握り返したり。開いた弁当箱の中身が天江の大好物ばかりだったり。イギリス土産に買ってきたテディベアを抱きしめて顔を赤らめたカナエを見た天江が悶死しかけたり。世界の広さを目を輝かせて語る天江にカナエが大声を出さないよう注意したり。その最中、天江の一言でカナエは凍り付いた。
「しんどいことも多々あったけど、大事な人に会いとうても会われへんのが、
座席のひじ掛けに頬杖をついてカナエを見つめて呟かれた言葉。快活さを湛えた笑みとはまた違う、安堵感や安らぎに満ちた天江の表情。その目線の先に居るのが自分なものだから、カナエはその言葉に僅かながら思考停止した後に再び動き出した。
(だっ、だだ……大事な人!? 今大事な人って! 私きっと今日死ぬんだわ。嬉しさで頭が溶けあがって倒れてしまうのよきっと! ハッ……で、でも天江くんはしのぶとも一緒に稽古したりしてたから…………ま、まさか……っ! いっ、いえ! しのぶが
弱気になってはいけないわカナエ! 例え血を分けた妹が相手でもこの想いを譲るわけにはいかないのよ! そう! そうっ! 今日私が天江くんの迎えに出ることになったのも、天江くんが帰ってくる日と私の休暇が重なったのも! 腕によりをかけてお弁当の準備をしていて鬼の討伐を言い渡されたけど15分で全て片づけられたことも! すべては宿命! そう、運命は私を後押ししてくれているのよ!)
ちなみに15分で片づけられた鬼は「あァぁんまりだぁぁぁァァッ!」と断末魔をあげた。
「……な、なんか、あったんか?」
「いっ!? いえ! いえ! 何もないわよ!」
天江はドン引きしていた。カナエが硬直したかと思ったら顔を赤らめ、次は死人になったかのように青ざめ、燃え上がるような意気で復活したかと思えばガッツポーズし始めたのだ。
己が好いている女であるとはいえ、この奇行を目の当たりにして“どこかで頭打ったんか?”と言い出さなかっただけマシな対応だ。
鉄道から馬車へ。馬車から徒歩へ。山奥へと向かって二人の旅路が続く。ゆったり歩いているとはいえ二人の息が上がる様子はない。天江は軍人として鍛えられているだけあって理解できる範疇にあるが、連れだって歩く胡蝶カナエのほうはどう見ても町娘の一人にしか見えないというのに疲れの一つも見せない。
二人にとってこの程度は当たり前だ。ある特殊な呼吸法から生み出される強靭な体力と、訓練で培ってきた体幹があれば、二人が属する鬼殺隊の隊士であればできて当然のことなのだから。
鬼殺隊。名の通り人喰いの悪鬼を斬って殺して回る者たちだ。その中でも天江謙壱と胡蝶カナエは“柱”と呼ばれる、所謂実働部隊のリーダー格と言える人物だ。
肉体強化のための呼吸法を習得又は自らの呼吸法を独自に生み出し、隊士として階級を上げ、格の高い鬼を殺すか50体を斬った者に与えられる称号というのが、彼ら鬼殺隊における一般的な認識だ。
胡蝶カナエはその呼吸法と剣技から“花柱”と呼ばれ、天江謙壱は“
「カァ」
「あら」
「む? 誰の
一羽の烏が二人の行く手に見えるケヤキの木の枝に降り立った。じろ、と二人を見るように一瞥した後、子気味よい羽ばたきと共に二人の前に降り立つと自ら首をたれ始めた。
「フム、あの艶といい鋭い目つきといい……なんちゅうか、
「カァ、親父殿ヲ覚エテイテクダサッタコト感謝致シマス。小生、名ヲ
「おお! 渡丸の倅か! あいつ、ワシが三年おらん
「ハ、親父殿ハ小生ノ誇ルベキ……強キ烏ニ御座イマシタ。ツキマシテハ、親父殿ヨリ
「聞こか。ほれ、こっち
天江が差し出した右腕に飛び移った鎹烏の登丸は言う。
「ソノ……伝エ聞イタソノママヲオ伝エシマス」
「おう」
「……“早クオ前モ子ヲ作レ。子供ハ良イゾ。毎日楽シイ。嫁ニ愛想尽カサレルナヨ。オ達者デ”」
「――そか。そない、言い残したか……」
「ハ。上弦ノ陸ヲ迎撃スル際ニ、身ヲ呈シテ隊士ヲ救ッタト……」
天江はふと空を見上げた。宵の空。薄雲のかかる月夜が少しずつ迫っていた。
天江が鬼殺の道へと踏み入った時から傍にあった戦友は、天江の知らぬところで息を引き取っていた。しかしその彼の意志は絶えていない。天江に向けて伝えられた言葉は、自らの子への言葉でもあるのだから。
人も烏も、その命を次世代に長きにわたって繋いでくることで今世まで生きている。天江の戦友、渡丸は自らの父母から意志を引き継ぎ、守り通し、それを己の子に伝えることができたのだ。
「のう、登丸。渡丸の墓はあるか?」
「イエ。我ラ“丸”ノ一門、“死スレバ野晒ラシトナリテ還ルモノ”ト親父殿ヨリ聞キ及ンデオリマスレバ」
「なんや。寂しいもんやな。最後に……一杯付き
天江の表情から笑顔が消える。天から落ちた一滴の雨が地を濡らし、土に溶けて消えていく。
「……天柱様ノオ言葉デアレバ親父殿モ喜ブデショウ。“気遣イ無用。汝悪鬼討ツベシ”ト仰ルヤモシレマセヌガ」
「ハンッ、そないに長々と言わんわ。“斬れ”で十分や。ワシらには、それで十分」
天江の瞳に覇気が蘇る。朗らかな笑みの上に目に見えてわかるむき出しの闘争心。不敵な笑みを以って戦友への手向けとした天江は言う。
「カナエ」
「はい」
「ワシと祝言を上げてくれへんか」
「はい。その鬼を必ず私たちの手で――――――――――えっ? え!? あ、あぁ、あの…………そのっ……! なん、なんっ、で、わた、わたたたっ、わた」
いきなりの
「ワシは、カナエがええ。カナエが好きや。三年間ずっと会いとうて、寂してかなわんかった。
お互いに柱やっとるし、いつ死ぬんやわからへん日常やったし……今までせんど知らんぷりしとった。せやけど船に乗って離れていくたんびに、カナエにもっと応えとったら、カナエに好きやて伝えとったら……ずっとそない思うてた」
「天江、くん」
「すまん。ワシは、柱やなんやて理由つけてカナエの想いに応えようともせんかった……どうしようもないヘタレやった」
気づいていないわけではない。気づかないわけがない。ただ三年前の天江謙壱は“そうするべきではない”として自らの想いを心の奥底にしまい込み続けていた。そしてそれがやり場のない後悔に繋がってしまって、その果てに彼は一大決心をしたのだ。
日本に帰ったらカナエに必ずこの想いを伝える。
そう決めてからの彼の日常だったが、相変わらず不安に苛まれていた。帰ってきてカナエが結婚していたらどうしようとか、カナエに恋人が出来ていたらどうしようとか、カナエがそもそも死んでしまっていたらどうしようとか。
とはいえそれらは杞憂だった。天江謙壱の想い人である胡蝶カナエは
「長いこと待たせてしもうて、ごめんな。こないに情けない俺やけど……俺は、カナエのことが
普段、天江は自らを“ワシ”という。どこか年寄り臭い、達観したかのように自らを見ているのは柱としての責務と人の生き死にを鬼殺隊で見続けていたせいだ。
常に自信満々で、明るく、誰かを励ますように笑っていた天江が初めて弱みを見せる。想い人が自分の前でその内心を打ち明け、どこか救いを求めるような、許しを請うような、鬼殺の柱ではなくただの人としての姿を見せてくれた。
彼は己の全てを賭けて自分に想いを伝えてくれた。それに対して何も言わないなど、彼の誠実さに対する裏切りに等しい。
「私は……!」
答えを! 答えよ! 応えよ! 自らの胸の内にある想いを伝えるのは今しかない!
「私も、天江くんのことが! 好きです! ずっと……! ずっと、好きです! ふ、不束者ですが……よろしくお願いいたします!」
「……カナエ!」
「天江くんっ……!」
もはや二人の間に
春先、少し肌寒い日のこと。山際から夕日の射す人気のない街道にて抱き合う男女が一組。日の沈むその瞬間まで、言葉もなくただお互いの温もりを確かめ合うように身を寄せ合い続けていた。
「うむ……遂に
「聞こえる……聞こえるぜェ……派手に響くその心音が!」
覗き見ている同僚がいることにさえ気づかないまま。
関西弁で表記すると、標準語を使っておられる方々にはわかりにくい部分があるかと思ったのでルビ振ってます。
まあルビあろうがイントネーションが違うので結局わかりにくいんですけどね!
読んでみて文章の(というか言葉の)意味が読み取れたなら幸いです。
まあ関西弁バリバリ混ぜてるわけではないのでまだ読める範疇かと…