きゃすたー(7mg)の雑多なネタ倉庫   作:きゃすたー(7mg)

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勢いのままに二話目。相変わらずガバいっぱいだけど許して

何も細かいこと考えず読むことを推奨。


オバロ試作品2

 なんやかんやと慌ただしいナザリック訪問を終え、ユグドラシルワールドめぐりが幕を開けた。最初に初心者向けのフィールドを選び、その中でもあまり人が寄り付かないマップ……所謂過疎マップをピックアップした。

 過疎というのは珍しいものではなく、経験値効率やマップ上に出現するエネミーの強さやドロップアイテムなど原因は多岐にわたるが、それ故にあまりマップの探索がされていなかったりする。ワールドサーチャーズというギルドがユグドラシルの探索を進めてきているため多くの情報が網羅されているものの、知識で知っているのと実際にマップを歩いたのとではまったく印象が違うのだ。

 そう、ユグドラシルはVRを用いた体感型ゲームなのだ。なればこそ本来の在り方に立ち戻る意味も兼ねて、俺たちが“冒険”を選択するのは必然のことでもあったのだ。

 

「いやあ、解説ページを見る限りではほんとなんにも見どころが無いと思ってましたけど、意外と発見が多いですよね。フィールドごとに鳥の種類が違ったり、花が咲いてたり、湧き水なんかもありましたし。

 ワールドサーチャーズが最初期に調べたきりのマップとはいえそこそこ解説に乗ってないものもありましたね。更新のときにしれっといろいろ追加されてるんでしょうか?」

「初心者向けのフィールドとはいえいろいろ凝ってましたね。それにこうやって狩りや稼ぎ関係なしでフィールドを歩くのは久々ですよねぇ……ああ……VRとはいえ青空はいいものです……」

「俺なんて三年ぶりですよ。しかもこんな初心者フィールドを歩くのなんてそれこそ十年ぶりくらいじゃないですか?」

 

 VRとはいえ天気は快晴。雲一つない空を背にした丘陵地に馬車が通れる程度には踏み鳴らされた街道が一本、延々と丘の上まで続いている。

 このマップのエネミーの平均レベルはたったの15でしかないが、念のためにレーナには状態異常完全耐性装備セットにHPマシマシ装備を与えておいた。装備レベル制限にかからないように一般装備にエンチャントを施したりレベル制限無しの装備をかき集めて二日で作ってしまった。パーティーで狩るのは久々だったが、付け焼刃の連携とはいえ上級ダンジョンを踏破できたのはうれしいことだ。

 うちの可愛い娘、レーナは後ろをとてとてとついてくる。手にはモモンガさんが持たせてくれた余り物の身代わり人形(テディベアバージョン)がおさまっていて、背中には小物が収められるインベントリ系の拡張アイテムを装備することで収納量が低いNPCにありがちな“持ち物がいっぱいです”という状況が頻発するのを回避している。もちろん拠点に戻れば整理するが、何時間かフィールドを探索するだけなのでそこまで荷物が増えることもないだろう。

 

「そういえばゲーム内の時間帯は昼間ですけど、ルイさんやレーナちゃんの種族ペナルティは大丈夫なんですか?」

「ええ。ただの吸血鬼ならヘロヘロさんの懸念通りに能力が低下するんですけど、俺は種族こそ異形種扱いですが吸血種のクラスを取ってるので亜人種に近い性能なんですよ。

 人間用装備や職業が使える代わりに異形種の耐性とか本来の形態なんかが犠牲になってますけど、異形種ならではのデメリットも打ち消されてるんですよ。なので日光に当たろうがどうってことないんですよね」

「……もしかして、流れ星の指輪使ったんですか? 吸血種って亜人種用の種族でしたよね?」

「使っちゃいました。……なのでシステム上は異形種扱いだけど内部的には亜人種っていう不可解なことになってます。人間種に異形要素をくっつけたみたいなポジションになってるみたいで、回復は人間種同様、一部の耐性は異形種、装備は一部亜人種と異形種っていうカオスぶりですよ」

「うっわー、プログラマーとしては考えたくもない! バグの温床になっててもおかしくないじゃないですかそれ。運営――っていうか開発側に同情しますよ……」

 

 くわばらくわばら、と真っ黒なスライム――ヘロヘロさんはぶるりと体を波打たせて縮こまる。恐ろしい見かけの骨といい不定形の粘液といい、種族が種族だというのにそのモーションはいちいち愛嬌がある。

 そんな他愛のないおしゃべりと共に歩き続け、だだっ広い草原が眼下に広がる丘陵地の頂上へとたどり着いた。敵がいるわけでもなく、ただ平穏が広がる山頂ににぽつんと佇む三つの石碑が目に留まる。

 

「ん?」

「お?」

「むむ?」

 

 三者三様のクエスチョンマーク。赤いハテナと緑のハテナに黒いハテナのエモーションのアイコンが同時に並んだ様子はきっと見る人が見ればツッコミをすることだろう。

 

「なんですかねこれ?」

「さあ? モモンガさん、解説ページに載ってます?」

「んー……それっぽいのは見当たりませんね。更新日が5年前なので……何かのパッチで新しく追加されたんですかね?」 

「ふーん。とりあえず調べますか。どうせ初心者用フィールドだからダンジョンってことはないでしょ」

 

 特に警戒もなく近づいて石碑の字面を眺めてみると“考古学者(アーキオロジスト)”のパッシブスキルである“言語解読”が発動して象形文字の字面が漢字かな交じり文に形を変える。

 

「えー、“狩人のオリオン、この地より魔犬の親子を走らせる。魔犬の親子は二手に分かれ野ウサギを追い立て、オリオンが弓矢を射るも一角獣に此れを阻まれた。野ウサギはアルデバランの導きによってエリダヌスへ無事に逃げ込んだ”」

「つまり……! どういうことなんですかヘロヘロさん?」

「いや、わかんないです。ルイさんはどうです?」

「推測でいいのであれば一応あります。まず最初の文は簡単だと思います。ここにオリオン座の三連星になぞらえた石碑があるのですから、スタート地点であることです」

「どう考えてもその通りですよね。というか石碑がある時点でそう思います」

「ここから先がいくつか解釈によって違う可能性があります。言葉通りに解釈して天体になぞらえて考えると、ここから空を見上げてオリオン座、こいぬ座、おおいぬ座、うさぎ座、エリダヌス座と星を追って進むことでゴールにたどり着くんだと考えられます。もしくはエリダヌス座のほうを目指して進むだけでいいかもしれません。

 二つ目にこれがクエストである場合。このフィールドを前もって調べたところ、フィールドのボスにオオカミ系のボスがいるエリアがあるのはわかってます。その地点と今いるこの場所を星図に当てはめて、エリダヌス座が位置するだろう方角、あるいはうさぎ座がある場所へ進む場合です。

 三つ目ですが、この付近にある川をエリダヌス座として当ててうさぎ座との位置関係をはじき出してアルデバランが位置するだろう方向へ進むパターンです。まあ、魔犬に追い立てられたという一文とエリダヌスへ無事に逃げ込んだという一文があるあたり二番目が一番可能性としては高いんじゃないでしょうか。

 真ん中の一角獣のくだりはフレーバー的なものでしょう。一角獣座はあまり目立たない星座ですから、そこまで重要視しなくても大丈夫です」

 

 ポカーンという様子でこちらを見る(?)異形が二つ。顎を半開きにして中空に目線を飛ばす骸骨と、もぞもぞと波打つだけのスライムがクエスチョンマークを浮かべているだけだ。まあスモッグと分厚い放射能雲のせいで綺麗に晴れ渡った空を見上げるなぞできやしないし、興味を持たなければ知ることもないのだから仕方がない。

 

「あー、つまり空に浮かぶ星々に従って進む方法と、天体図とフィールドの地形やエネミーの配置を当てはめて割り出す方法と二種類あります」

「……なるほど、テンタイズっていうのと照らし合わせるんですね」

「セイズ、って何かよくわからないですけどとりあえずやり方はわかりました」

 

 ……まあ興味がない人は知らない単語であるのは違いないだろう。特に情報というものが統制されている今の社会では知る人は少ないだろうし、この反応はある意味では普通のことだ。

 とそんなことを考えているとピンク色のフレームに草花をあしらったポップでかわいらしいメッセージボックスが表示された。見たところクエストの通知らしく、tipsまで表示されているあたりかなり親切だ。

 

<探索クエスト “ちいさきもの” 参加メンバー 4/8人 制限時間:なし

 ミッション進行度 1/5 探索目標:ウサギとオオカミを探しだせ! tips:丘のふもとから西側はオオカミの狩り場だ!>

 

「おお、すっごい親切。上級のフィールドじゃまず見ないですよねこれ」

「ヘロヘロさん、あくまで初心者用のクエストですからクエスト関連のシステムについてのチュートリアルみたいな感じなんですよきっと」

「なるほど、このヒントのお陰で絞り込めた。おそらく順を追わないとたどり着けないタイプです」

「それじゃ早速行きましょう! 簡単とはいえ未知のクエストですよ! おそらく発見者名が残るはずです!」

 

 意気揚々と駆け出すオーバーロードを追いかけて丘を下ると少し開けた雑木林が待っていた。針葉樹の木々が立ち並び、苔むした岩や倒木が時たま目につく様子は林というよりも原野と呼ぶべきだろう。

 ちょうど中央付近まで来たところで、前を進んでいた骸骨がピタリと足を止めたのを見て剣を抜く。

 

「いた! 6匹ほどのうさぎの群れですけど……なんですかねアレ?」

「何かのモンスターみたいだ……一角獣……ユニコーンっぽい見た目ですね」

「とりあえず行きましょう。ユニコーンなら問題ないですし」

 

 少し開けた木々がまばらな場所で横たわるユニコーンらしい真っ白な獣。その近くに行こうとして不意にアバターの動きがとまり視界が暗転する。

 苔むした岩場を乗り越えて真っ白な獣へ飛び掛かる大小二つの灰色の影。一目散に逃げ出したうさぎたち。気づいたユニコーンが立ち上がり角を向けた――その直後に喉元へ大きなオオカミが食らいつき、小さなオオカミがユニコーンの足をかみ砕いた。

 息絶えたユニコーンからこちらへと向き直る二体のオオカミ。その姿がパンアウトして、元のアバターからの視点に戻ったところでモモンガさんが声を発した。

 

「ムービー付きですか。ということは――」

「ええ。クエストが進行しました。内容が二体のボスの撃破になってます」

「二人とも来ますよ!」

 

<スキル “解析(アナライズ)” 発動>

 

 “調教師(テイマー)”のスキルでエネミーの情報を取得。職業レベルが低いせいで大した情報はないが、基本的な部分なら丸見えだ。それぞれ独立しているらしく、HPは大きいほうが高く小さいほうが低い。攻撃力や防御力も同じ感じだ。しかし小さいほうは回避力バフと毒・疫病デバフを付与する通常攻撃を持つらしい。

 

「大きいほうがタフですがこれといって難しいことはありません。レベルも30なのである程度の初心者のパーティーなら倒せます。小さいほうは柔らかいですが毒や疫病のデバフ持ちです。しかも回避バフでなかなかの回避率になりますよ」

「了解です。じゃあいっちょ行きますか! 魔法<集団標的(マス・ターゲティング)>かーらーのー……魔法<火球(ファイヤーボール)>!」

 

 モモンガさんが鼻息荒げに無慈悲にも“集団標的(マス・ターゲティング)”まで使って低位階の魔法をぶっぱする。そこそこの速度で飛んで行った火炎の玉が、前に出てきた大きいオオカミに直撃し敵を消滅させる。同じように小さいほうへ同じ火球が飛んでいくが――あっさりと岩を足場に飛び越えられて火球は苔むした岩を消滅させるに終わった。

 

「ファッ!?」

「よっ、避けられてやんのー! レベル30にマルチロック使ってんのに魔法を避けられるオーバーロードとか草ァ! ヒヒッ、お、お腹がよじれるぅ!」

「ひっ、必中効果なしとはいえ……ぷぷっ、これはひどっ、ククッ!」

「だまらっしゃい吸血鬼モドキとオイリースライム! たまたまです! こんなのたまたまだから!」

 

 大爆笑する漆黒の粘液とあたふたしながら<魔法の矢(マジックアロー)>で小さいほうを仕留めるオーバーロード。かくいう俺自身笑いをこらえるのに必死で腹が痛い。

 片手間で消えていった二体のボスモンスターのドロップアイテムを笑いをこらえながら回収し、次のクエストを確認する。

 

「えーと、次はうさぎを追いかけるみたいですね。モモさん、魔法の矢(マジックアロー)は撃たないでくださいね。うさぎが死んだら失敗扱いされるかもしれないんで……ぷぷっ」

「おっし、ルイさん失墜(フォールン)食らわせるからちょっと動かないで。動くなァ!」

「まあまあモモンガさん。渾身のドヤ顔ファイヤーボールはかっこよかったですよ。ファイヤーボールは……ぶふっ!」

 

 チクチクとモモンガさんをイジりつつ追跡対象となったうさぎを探し出すと、ぴょんぴょんと走って逃げていくうさぎを追いかけて、青空の広がる野原をピクニック気分で歩きながら川べりにまでたどり着いた。

 

「んん? 姿が消えましたよモモンガさん。魔法の矢(マジックアロー)使いました?」

「ヘロヘロさん、<魔法最強化(マキシマイズマジック)>からの<内部爆発(インプロージョン)>か<現断(リアリティ・スラッシュ)>あたりがお望みですか?」

「冗談ですよ冗談! というかマジで見失ったみたいなんですよ。ちょっと上流のほう見てきます」

「そういうわけなんでそのへん探してみてくださいよモモさん。俺は下流のほうを探してみます」

「……わかりました」

 

 ちょっといじけつつも探し物をし始めたオーバーロードの背中はどこか哀愁を帯びたような寂しさを感じさせるが、“回避率バフがある”と言ったのに必中ではない<火球(ファイアボール)>を撃ったのだから仕方がない。

 

「あ……ヘロヘロさん! ルイさん! 見つけましたよ! ここに穴があります!」

 

 そうこうしているうちに何やら見つけたらしい。モモンガさんの喜ぶ声が聞こえたほうへ向かっていくと、モモンガさんが興奮した様子で手招きしていた。傍目から見れば死地へ呼び込む亡霊の王という具合だが、エモーションはガッツポーズなものだから喜び舞い踊る骸骨が居るという不思議な光景だ。

 モモンガさんが見つけたのは小さめの、子どもが一人入れるかどうかという小さな木の洞だった。もしかしてホビットやドワーフ系が居ないと入れないとか……だったりするのか?

 

「どうします? 入れそうにないですよねこれ。ヘロヘロさんは不定形だから入れそうですけど」

「ですね。以前不定形種族なのを生かして狭い通路を潜り抜けてトラップを解除するギミックがありましたからそういう感じのチュートリアルなんでしょう」

「ダウン・ザ・ラビットホールならぬスライム・イン・ザ・ツリーケイヴか」

「……なんですかそれ」

「ヘロヘロさん、不思議の国アリスって童話ですよ。元気いっぱいの女の子のアリスちゃんは服を着た白うさぎを追いかけて穴の中へ落っこちたってくだりのアレです。ちなみに我が社の文学作品データバンク内で無料で読めるので暇つぶしにどうぞ」

「ちゃっかり実家の宣伝してやんの」

「うっさいぞ骨。19世紀の挿絵付きをスキャンしたレアものなんだから宣伝して当然だろ。我が社の収集能力なめんなよ」

「こんな狭い穴に入れるってことは……つまりアリスちゃんはスライム種だった……むむむ?」

「いいから入った入った。どうせエンカウントしても低レベルなんだから、レベル100なら余裕でしょ」

「なんか納得いかない」

 

 ぶつぶつと呟きながら、じゅるじゅるというなまめかしい効果音と共にヘロヘロさんが木の洞へ入り込んでいく。ヘロヘロさんがが無色透明じゃなくて黒色でよかった。ペロロンチーノあたりなら“まるで―――に入っていくロ――――みたい”とか言いそうだ。

 

「んー、結構奥行きが……いやスイッチがありますね。起動しますよー」

 

 ヘロヘロさんの言葉が聞こえた数秒後、青白い光を放つ幾何学模様の円陣が浮かび上がる。直径にして5メートル近くはあろう六芒星(ヘキサグラム)がゆっくりと回転しながら佇む光景を目にしたモモンガさんが呟く。

 

「フム、別の場所への転送装置(ポータル)でしょうか」

「かもしれませんね。ヘロヘロさーん、戻ってきてくださーい!」

「りょーかーい!」

「今のうちに装備チェックしちゃいましょう。いきなりボス戦ってこともありえますし」

「おっし。それじゃコレでいくか」

 

 普段使いの装備品から汎用の対ボス用装備へ切り替える。見た目にはボロい軽装の鎧一式に見えるものの、隠密性を高めるために金属同士が干渉して音を鳴らさないように間隔をとり、つや消しや隙間に革鎧と布を巻き付けるなどして光を反射しないように視認性も下げられている。そこに属性耐性を向上させるフード付きのローブを纏えば気分はVRダークソ〇ルだ。

 武器は刀身にフラーが入った大振りのツーハンドソード。刀身だけでも自らの背丈ほどもあり、柄や鍔も実用一辺倒の無骨な一品だが、破壊不可のエンチャントと炎属性の補助魔法が付与された際に攻撃力と防御力にボーナスが発生するエンチャントを備えた逸品だ。普段使いの神器級(ゴッズ)武器であるロングソードに比べれば格落ちする伝説級(レジェンド)だが、高い基礎攻撃力と防御スキルを突破する性質のある大剣として重宝している。

 

「……それ、本気装備ですか?」

「そうだけど?」

「なんていうか、地味ですよね」

「わかんないかなぁ、この実用一辺倒で無骨なすばらしさ。使い込まれ補修され、歴戦を経てなお健在という傷だらけのカッコよさ!」

「んしょっと……おお、なんかカッコイイ剣士がいる!」

「ほら! ヘロヘロさんも理解してくれてる!」

「流石はフ〇ム監修の装備品ってところです。消えかかって最早見るのも難しい彫金の細工なんかまで再現されてるんですから、これほど作りこまれた装備品というのは頭が下がる思いですよ」

「そんなもんですかねぇ……伝説や神器ならもうちょっと派手でもいいと思うんですけど」

「いやいやモモンガさん、パッと見た感じの印象と性能のギャップがいいんですよ! どこにでもありそうないかにも古臭い使い込まれたボロ剣が実はエクスカリバー級のトンデモ武器っていうこの落差がいいんです!」

「見た目がアレっていうなら外装がラ〇トセー〇ー風のなんかもありますよ。中身は木刀ですけど」

「それは別の意味でギャップありすぎィ!」

 

 しばらく装備品についてのアツい語りが入ったものの、装備を整えると三人でポータルに向き直る。先ほどまでのコミカルさは鳴りを潜め、モモンガさんもヘロヘロさんも初心者用のクエストとはいえボスに臨む際の姿は歴戦のそれだ。

 

「では戦闘の指示は僭越ながら私モモンガが務めます。まずルイさんが突入し、転移先の安全を確認をしてください。低レベル帯ですから出現地点付近に少数の敵がいる場合は敵を殲滅してください。数が多い場合は私が入って安全地帯を作ります。確保したら連絡しますので、ヘロヘロさんはレーナちゃんを連れて入ってください」

「モモさん、万一ヤバいのが居たら?」

「その時は敵を誘引して出現地点から引きはがしてください。三人同時に突入しますので、ヘロヘロさんはまずルイさんのサポートに回ってください。しばらく耐えてもらうことになりますけど、即座に広域化と最強化させた<現断(リアリティ・スラッシュ)>を叩きこみます」

「了解した」

「了解ですよー」

 

 意を決してポータルに向かって飛び込む。視界が真っ白に染まり、それが収まったころには草原などどこにもなく、ただ暗雲が立ち込め落雷が降り注ぐ荒野が目に飛び込んできた。左右を見渡してみても地平の果てまで続く荒野と雷雲があるばかりで他には何も――!?

 

『二人とも』

『はいはーい』

『どうしましたルイさん?』

『今いる場所は安全だ。でもいいか、何も言わず聞いてくれ。……特大級のやべーのがいる』

 

 遠目に見えるのは馬のようなモンスター。青白い体色に一本角の個体。そして遠く離れた位置からでも目に見える電光との煌めきが畏怖(トラウマ)を想起させる。

 

『とりあえず入ってみてくれ。……そうすりゃわかる』

『……了解。いきましょうヘロヘロさん』

 

 光の粒子が集まるようなエフェクトを伴って三人が姿を現す。キョロキョロと見渡したかと思えば俺が言っていたものが目に留まったのか二人の動きが固まった。

 

「ふっ、ふざけんな……! よ、よりにもよって“麒麟(きりん)”相手なんて初心者クエストどころか最上級クエストじゃないですか! 誰だよ一角獣の影が薄いって言ったの!」

「アア、オワッタ……!」

 

 麒麟、といえば何が思い浮かぶか。伝説上の存在で、所謂“龍”に属する存在だ。ユグドラシルでは“麒麟降誕”というイベントで出てきたエネミーボスで後に常設化されたが、当時はソロプレイヤーの壁となったヤベーやつというのが我々の認識だ。

 超広域に麻痺の状態異常をばら撒き、圧倒的な速度でフィールドを駆け巡りつつ高火力かつ耐性貫通の雷系スキルと魔法で攻撃を行ってくる相手だ。龍に属するせいで状態異常への耐性がべらぼうに高く、こちらの雷耐性と状態異常耐性を万全にして速度低下デバフを累積させないと当てることさえ難しい。物理防御力こそ並みのものしかないが、火力と速度に振り切ったステータスは麻痺で動けなくなった相手に無慈悲の雷撃を叩きこみ、耐えられても雷属性の持つ多人数へのチェイン属性とヒットストップの重さで足を止められて間合いを取ってくるなど戦い方が非常にいやらしいのも多人数PT討伐が推奨された理由でもある。

 

 そんなヤツ相手に一人で挑めばどうなるか。属性耐性と麻痺対策は必須な上に相手が速すぎて攻撃は当てられず、近寄りたくても遠距離の魔法やスキルで動きを止められた間に高速で退避されて距離は開く一方。しかもその距離から運よく近寄れたとしてもフィールドに効果を及ぼすスキルで時間経過のダメージと防御デバフをもらい続け、ヒットストップをもらおうものなら一瞬で懐に飛び込んできて放たれるボス用スキル“聖龍剣”で一刀両断される恐怖が常に付き纏う。

 

 これが複数人による討伐なら遠距離物理火力――主に弓手(アーチャー)系の火力で押し込み、前衛は盾として必死に耐え続け、後衛が回復とバフを撒き続けるだけでそこそこいい線までいけるのだが、ソロプレイヤーにとっては地獄絵図だろう。やはり数は力だ。囲んで棒で叩くのは最強の戦術なのだ。実際腕利きぞろいのアインズ・ウール・ゴウンでさえ1500人を前に壊滅寸前にまで陥ったのだ。これが3000人となれば陥落は間違いないだろう。

 

「……どうします。野良で援軍募りますか? 正直私やルイスさんみたいな中近距離職じゃ踏み込むのはマジの危険域ですよ」

「それですよね。耐性装備とヘロヘロさんのデバフで速度を落とすことはできますけど、如何せん火力が足りません。前に出るにしても、ルイさんのビルドじゃ長時間は耐えきれませんし」

「だよな……募集するのが一番早いか」

 

 見た目には先ほどのユニコーンのように見えるが体表には龍らしく青白いウロコが見え、特徴的な一本角には迸るように電光が煌めいている。輝きを放つ(たてがみ)は真っ白で嵐の中でも輝いていて幻想的ではあるが、それを持つのは圧倒的な暴力の権化と言える存在だ。

 

「……ん?」

 

 何かおかしい。距離があるはずなのにどうしてこうまでハッキリと麒麟だとわかったんだ? 電撃を纏うモンスターなんて他にも居るし、なんならユニコーンだって電撃系の魔法を使える。落雷が発生するフィールドで視界が少しばかり悪いものの、ここまで正確に視認できるということはそんなに距離は開いていないはずではないか。

 

「……モモさん、ヘロヘロさん、俺が少し前に出ます」

「何言ってんだこいつ」

「ルイスさん、それは流石に無謀すぎますよ」

「何か変だと思いませんか? 麒麟との距離はそこそこあるはずなのに、俺たちはハッキリと目の前のヤツを“麒麟だ”と断定できた。細かなディティールさえ見れるほどにくっきりと見えてるんです」

「……そう言われると確かに何か変ですね。普通なら遠距離のエネミーやオブジェクトはボヤけが入るものですし、何かしらのギミックが働いてるんでしょうか?」

「モモンガさん、一度探知系スキルや魔法で探ってみましょう。何かしらのギミックが働いているのなら原因が特定できるかもしれません。転移して目の前に最上級クラスのエネミーとなると焦るのは当然です。もしかしたらこの麒麟そのものがブラフである可能性もあります」

「ヘロヘロさん……そうですね。そういう可能性もあり得ますね。<感知増幅(センサーブースト)><超常直観(パラノーマルイントゥイション)><敵感知(センスエネミー)><看破(シースルー)><魔法探知(ディテクトマジック)>……やっぱりおかしいですねこれ」

「どうでした?」

「ヘロヘロさんの懸念通りです。目の前の麒麟(アレ)は実体がありません。おそらくただの幻影です」

「ってことは他にこの状況を作り出してるヤツが居るわけだ」

「ええ。あちらの方角です」

 

 モモンガさんが指差した先にはひときわ大きな岩塊が佇んでいた。十階建てのビルはありそうな岩塊の頂上には雷雲が蠢いて時々落雷を発生させているのが見えた。

 

「あの頂上付近で反応がありました」

「なるほど。んじゃま偵察に行ってみるか……<飛行(フライ)>」

 

 真っ黒な雷雲に飛び込むとチクチクと刺すようにHPが削れる。吸血鬼の回復能力ですぐに満タンに回復するものの、雷属性への耐性を高めていてなお貫通してくるのだからフィールド魔法はいやらしいものだ。

 

「よっと……さて、敵は……っ!?」

 

 着地、と同時に眼前に迫る蒼白の閃光。光を放つ一本角を振りかぶった麒麟がその一撃を振り下ろし――パリン、という軽い音と共に弾かれた。

 

「えぇ……」

 

 とりあえずコレをどう説明しようか。そう考えているうちにもパリン、パリン、と攻撃が行われる。しかしその度に麒麟は弾かれて吹き飛ばされ、なおも立ち上がって攻撃を加えてくるのをしり目にメッセージを送る。

 

『あー、モモさん、ヘロヘロさん……上にあがってください』

『大丈夫なんですか?』

『ハイ、もう、危険ではありませんでした』

『……そうですか?』

 

 しばらくして雷雲を突き抜けてやってきた二人は目の前の麒麟を見て呟いた。

 

「……ちっさ!」

「……かわいい」

「ですよねー」

 

 今俺に向かって角を振りかぶって叩きつけているのは麒麟だ。ぺちぺちと叩きつける度に俺の<上位物理無効化Ⅲ>で弾かれてはいるが、こいつは麒麟だ。――ただし小さめのポニーサイズである。

 数が増えたことでスキルを発動したのか、咆哮(ただし“ぎゃうー!”という可愛らしささえ感じるヤツ)をあげて挑んでくるがそれでも突破できずにいる。なんだこの癒し。

 

「まあ、本来の麒麟がレベル100の複数人PT推奨なのを考えてレベル帯に当てはめればこうもなる……なるのか?」

「モモンガさん、この子すっごいじゃれついてきますよ!」

「いやそれ攻撃ですからねヘロヘロさん」

 

 ヘロヘロさんへ標的を変えたのか、麒麟はその牙の生えそろった(あぎと)で以って噛み砕かんとしているが、ヘロヘロさんのプニプニスライムボディの前に噛む砕けずにいる。噛むたびにうにょうにょと形が変わるヘロヘロさんはなんでもないようにウキウキとしているが、麒麟のほうは必死だ。

 

「……とりあえず情報は要るな。<解析(アナライズ)>っと」

 

 見たところ体力も攻撃力も速度もレベル30相応というところだろう。スキルがどうなのかはわからないがフィールドやクエストに見合う弱体化はなされているらしい。

 

「……捕獲可能、だと……?」

「――マジ?」

 

 表示されたステータス画面に映し出された驚愕の文字。イベントで出てきたモンスター(ただし大幅に弱体化済み)をテイムできるというのは非常に珍しい。クエスト欄を見ると情報がいくつか更新されていて、tipsには“体力を一定以下にする”というヒントが出ていた。どうやらマジでテイムできてしまうらしい。モモさんまで素のトーンで問い返すほどだ。

 

「となると逆に困る。オーバーキルもいいとこだぞ俺たち」

「そうですよねぇ」

魔法詠唱者(マジックキャスター)の私でもワンパンできるレベル帯ですもんね。今時こんな低レベル帯のPC(プレイヤー)なんて居ないでしょうし……あっ」

「……モモンガさん、まさか」

「レーナちゃんに装備を持たせてしばらく殴ってもらうという方法が」

「オイィモモンガァ!? 娘を危険なヤツに当てられるワケねーだろォ!?」

「で、できないワケではないですよ! 幸いにも耐性バッチリだしHPも十分ありますし! 武器さえあればあとは私たち三人のバフをフルに使えば!」

「だ、大丈夫ですよ! ルイスさんが挑発スキルで常にタゲ取りしてれば流れ弾はいきませんから! それに身代わり人形だって装備してますから!」

「……や、やるしかないのか……」

 

 愛しい娘レーナとミニマムサイズの麒麟との不毛な戦いが始まった。相手はレベル30という、レベル5のレーナにとっては空の上の存在だ。ただしその差を埋めるべくモモさんからはありったけのバフと装備レベル制限や職業制限のない杖でそこそこの攻撃力があるものを拝借し、ヘロヘロさんの全力のデバフ(ダメージを与えないものに限る)を麒麟に付与し、俺がタゲを常に取りつつ眷属のコウモリでレーナを護衛し、それらの(バフ)を一身に受けたレーナがひたすらぺちぺちと殴るというとんでもない接待塩試合になった。

 

「……減ってる……減ってる……」

「あ、バフ撒きますね」

「カワイイ……レーナ、カワイイ……」

「モモンガさん、ルイスさんのSAN値って回復できます?」

「無理です」

「アハハ……カワイイナァ……ナデナデシタイナァ……」

 

 精神をすり減らしながら耐えること十数分。どうにかしてHPがボーダーラインにまで減ってきたのを見て即座にスキルを発動する。

 

「<調教(テイミング)>」

 

 今まで必死に俺を殴り続けていた麒麟の動きがピタリと止まる。それと同時にテイム成功のメッセージボックスが表示され、麒麟のステータスの全容が表示された。

 

「お、おわった……」

「お疲れ様でした」

「おつおつですー」

「お疲れ様です。レーナも本当によく頑張ったなぁ……ご褒美のプリンを用意しなくちゃ」

 

<クエストクリア! おめでとうございます。

 あなたたちはクエストの第一発見者としてクリア条件を達成しました!>

 

 さらにメッセージボックスが表示され、初回クリアが達成された通知が送られてきた。どうやら本当にモモさんが言った通り、俺たちがクエスト発見者で初のクリアだったらしい。

 

<クエスト発見者にあなたたちのパーティが記録されます!

 発見者パーティ名 “骸骨の粘液煮込み吸血鬼添え”>

 

「ひっでえパーティ名」

「もうちょっとマシなのにすればよかったかな……」

「考えたのお前だろ! ここで後悔すんなよ!」

「まあまあ、ルイスさんもモモンガさんもスクショ取りましょうよスクショ! せっかくの初クリアなんですから!」

 

 いそいそと麒麟の背にまたがった(?)ヘロヘロさんに促されて、麒麟を囲むようにして集合する。真ん中には今回のMVPであるレーナを立たせ、分厚い雷雲が薄れて陽射しが差し込む荒野を背景にスクリーンショットを撮る。

 

「んじゃヘロヘロさんもモモさんも、準備はいい?」

「いつでも!」

「オッケーイ!」

「んじゃ……さん、にー、いち……ピース!」

「スキル<絶望のオーラⅤ>!」

「スキル<闘気解放>!」

 

 パシャリ、と切り取られたスクリーンショット。晴れ間の射す荒野をバックにちっこい麒麟の上に乗ったスライムがとぐろを巻いて明鏡止水の如く黄金の輝きを放ち、その傍らでは豪奢なローブ姿の骸骨がムンクの叫びのように顎を目いっぱい開いて真っ黒なオーラをまき散らしながら両頬骨に骨の手を添えてのけぞっている。そんな違和感丸出しの中に俺とレーナが普通に中央で映っている様子はさながら出来の悪い心霊写真かB級映画のワンシーンのようですらある。

 

「っぷぷ、くっそ! これは卑怯だろモモさん!」

「ヘロヘロさんのほうがアウトでしょ! これはどう考えてもアレじゃないですか!」

「いやあ、一度やってみたら面白そうだと思ってたんですよコレ」

「後光を受けて光り輝くアレとかもうわけわかんないんですけど」

「神々しいはずなのに……どう見ても感動できない!」

 

 新しい思い出がまた一つ。例え泡沫と消えるのだとしても、これは俺たちが作り上げた思い出だ。ゲームの中で生まれたものだけれど、これは確かに俺の、レーナの、モモさんの、ヘロヘロさんの、大切な思い出なのだ。




対人関係

ペロロンチーノ(ギルド“アインズ・ウール・ゴウン”所属)

ルイスが嫁と新居探しにフィールドをブラついていたときに遭遇。ルイスの嫁をソロで出歩くプレイヤーキラーだと勘違いしたペロロンチーノが鼻息荒げに熱烈なラブコール(ただし爆撃級の火力)を彼女に送っていたところに、ルイスに不意打ち右ストレートコジマグーパンを叩きこまれた関係。
和解して萌えトークを始めた五分後にケモミミ派閥抗争に発展した。

ヘロヘロ(ギルド“アインズ・ウール・ゴウン”所属)

ユグドラシルサービス終了半年前にモモンガと一緒にノリノリでロールプレイしてたら巻き込んでしまったヒト。ルイスの娘(として作られたNPC)であるレーナのデザインを気に入って、独自にモーションやAIプログラムを構築して与えた。ただしデスマーチを行き着いてゲートオブヘルに至った模様。
それ以外ではモモンガとルイスの旅行パーティに加わって、レーナの周りで護衛や支援を担うポジションに入る。


モモンガ(ギルド“アインズ・ウール・ゴウン”ギルドマスター)

言わずと知れた我らが骨様。ペロロンチーノによる横恋慕を阻止した陰の立役者(本人は気づいてない)。
家族を失って意気消沈したルイスの最後の姿を見たことで少し成長している。
取引先のお得意様でリアルでも顔見知り。ルイスが職を変えたことでしばらく会っていない。
旅先では後衛に就いて中衛に位置するヘロヘロ&レーナに危険が及ばないように周囲を確認すると同時に娘の前でいいカッコしようとするルイスを支援するなどマルチに動く。
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