きゃすたー(7mg)の雑多なネタ倉庫 作:きゃすたー(7mg)
でもなんでコイツにしたんだろう?
死を撒く剣団、と言えばそこそこ名の通った傭兵集団だった。その始まりはリ・エスティーゼ王国とバハルス帝国の戦争でカッツェ平野に取り残された両国の敗残兵や負傷兵が手を取り合って生き延びたことにある。
撤退する味方に置いていかれたり、負傷して動けないまま放置されていたり、味方が全滅してどこに行けばいいのかさえわからないような奴らが寄り集まった集団だった。
俺たちを助けてくれるはずの母国や味方が俺たちを戦場に残したまま去っていく。
仲間の骸が引き上げられるわけでもなく、弔いが行われるでもなく、介錯してくれるわけでもなく、ただ野晒しの雨ざらしでアンデッドが出るカッツェ平野に取り残されたのだ。
俺たちに残されたのは粗末な支給品の武具一式と、同じように見捨てられた両国の兵士だけだった。国のために、仲間のためにと戦った俺たちは傷ついて、割れた陶器を捨てるような気軽さで見捨てられた! 助けてくれると信じた味方に裏切られたのだ!
アンデッドに殺されて死ぬことを覚悟していた俺を助けてくれたのは他でもない、同じように傷ついたバハルス帝国の兵士だった。お互いが生き延びるために彼らと協力して霧が立ち込めるカッツェ平野を走り抜けた。戦場で遺留品を漁る盗賊を殺し、殺され、必死で走っていた。
生き延びたうちの数人は故郷へ帰ると言った。……自分たちを見捨てた国に帰るなんてよくもまあ甘いことを考えられるものだと思った。少なくとも、俺は国に帰ろうなどとは思えない。
村に帰ったところで重い税を課されて食料も金も持っていかれ、厳しい冬の寒さに凍えながら一年を乗り越えるだけでも必死なのに、乗り越えたその先にあるのはまたしても収穫と徴税だ。
俺たちは支払うものを支払っている。だが村への街道が整備されることもなく、国の兵士が巡回して治安維持に務めているわけでもなく、飢饉や大水のときに助けが来るわけでもない。挙句は徴兵されて村にもろくに戻れず、その果てに使い捨てられてみじめに泥をすする有様だ。
当たり前のように俺たちは搾取され、当たり前のように使い捨てられ、その果てに死んでいく。今のこの国の……他の国がどうかは知らないが、少なくともリ・エスティーゼはそれが当たり前に行われている。一部の人間が弱者を支配し搾取を続けている。計量の際の分銅の重さを偽る、巻き尺の長さを短くするなどのコソコソしたものから、なんだかんだとそれっぽい言い訳をつけて税を重くする方法までいろんなものを兵士時代に見てきた。
どうせあの肥え太ったブタどもが人々から“奪っていく”ものだ。奴らの腹に入る前に、奪い去ってやるとしよう。最初から無いものは奪えないし、出るものも出ない。奴らが奪ったあとのもの、これから奪う分を奪ったところで心が痛むわけもない。
「リーダー、代官の徴収が終わりました。荷馬車が8台、ほろ付きの馬車が2台です」
「よし、1台は代官のものだ。捕えて惨たらしく殺せ。顔や身元が割れるものを見せないように姿を隠せ。抵抗するやつは殺せ。女は捕えるなり好きにしろ。食料はすぐに奪って移送しろ」
「へへっ、久々の大きな獲物だ。これでメシが食える」
「ああ、だが気を抜くな。護衛もそこそこの数が居る。逃げるやつは棄ておいておけ」
確か別働隊がアベリオン丘陵近くの村を狙っていたはずだ。あそこの実りが豊かであるからといって間をあまりおかずに何度も襲うようでは警戒されてしまうだろうに。
「ま、ヤツが居るなら問題なかろう」
余計なことは考えずにやろう。今は目の前の得物を仕留めるのだ。我々が獲物を仕留めて帰れば拠点で待つ仲間が飢えずにすむ。
村の入り口まで来たが随分警戒が甘い。月の位置はまだ高い。日の出までどれくらいあるかはわからないが、迅速に村の中へ侵入して村人を解放しなければ。多くの村人は中央から少し離れた倉庫などに放り込まれているが、それでも収まりきらない分は中央の広場に集められているらしい。
コウモリたちの索敵のお陰で敵の位置はおよそ見当がついた。やはり上空から確認できるというのは便利だ。ドローンの映像や衛星写真などには作戦時にはかなりお世話になったのを思い出す。
「中央に集まっているのが厄介だが、どうやって引きずり出すか……」
『ごしゅじん、“いけんぐしん”いたしたいのです』
「聞こう」
『てきは“にんげんしゅ”でレベルもひくいのです。つまり“じょうたいいじょう”への“たいせい”がないとおもうのです。チャームなどでいちじてきに“しはいか”にすることで“てかず”をおぎなえるかとおもうのです!』
「なるほど。しかし同士討ちの発生や攻撃行動を一定確率で阻害する効果の“
いや、考えようによっては可能なのかもしれない。ここはゲーム内ではないのだ。となれば単純に“魅了”と言っても効果が変化しているか、あるいは現実に即した効果に書き換わってる可能性もある。
「……ものは試し、か。よし、数体であの野盗の気を引け。建物にもたれかかってるアイツだ」
『らじゃー! にひき、ついてこい!』
パタパタとコウモリたちが飛び去っていくと、しばらくして積みあがっていた木箱の上に置かれた編みカゴがカタンという軽い音を立てて転がり落ちた。
「ん? カゴが落ちただけか──っ!?」
「俺を、見ろ。発動<魅了の魔眼>」
「う、あぁ……! お、まえ、は」
乱雑に切りそろえられた髪の野盗の首をつかんで目を見てスキルを発動する。一瞬だけ苦しむように表情をこわばらせたあと、野盗の表情からは力が抜けて寝ぼけたようなとろんとした目で虚空を見るような間抜け面になった。
手を放すと野盗はその場にへたりこんだものの、すぐに立ち上がって俺に向き直る。
「俺が、わかるか?」
「……ああ、親友……わかるよォ。いきなり首をつかむなんてヒデェじゃねぇか……それで、何をすればいい?」
「すまんな。頼みがある。近くにいるお前の仲間を何人か呼んできてくれ。さっき女を追いかけて行ったラルフとかいうやつ、あいつを探していた三人がいいものを持って帰ってきたらしい。
そうだな……十分後にあそこの民家の中に集めてくれればいい」
「わかったぜぇ……親友ゥ……何人か、連れてぇ、クルぜ……」
足元が少しおぼつかないが、魅了は確実に効いたらしい。下した命令を遂行するために村の中へ入っていったのを確認し、支持した家屋にランタンをいくつか置いて、金になりそうなものをまとめてアイテムボックスから取り出して置いておく。
俺好みではなかったそこそこレアな剣や盾、ついでに武器製作に必要なインゴット系素材をいくつか。金と銀のインゴットが数本に、レーナにあげるために買ってきたオパールやスピネル、ペリドットなどの安めの宝石系もいくつか麻袋に突っ込んでこれ見よがしにテーブルにセットする。
「本当なのかよ、あいつら外で何を見つけたんだ?」
「……来たか、少し早いな。まあとりあえず一旦隠れるか」
外から聞こえてきた声と足音からして4人から5人というところだろう。天井裏に続く梯子を上がった屋根裏からのぞき込むと、反転した視界の中で6人の野盗がテーブルに並べられた金銀財宝を囲んでいた。
「こりゃスゲエェ! 宝石に金銀に、見たことのない剣まである!」
「ハハッ! これだけありゃあ村や代官どもをいちいち襲わなくても数年分のカネになるぞ!」
「でかしたじゃねぇか! そういやあいつらはどこいったんだ?」
「さァな……呼んできてくれって言われただけだしよォ、俺ぁ」
集まった数はそこそこだ。この調子なら分散させて捕獲させてもいいかもしれない。ただダメージを受けると正気に戻る可能性があるから注意が必要だ。こいつらは全員縛り上げておいて他のエリアへ移動し、そこで同じ手口でまた眠らせ……というのが一番安全だろう。
「<
移動用の魔法を習得するために最低限度で取った中級魔法職の広域化を行使し、装備の効果で使用可能になる魔法を発動する。魔法戦士系のビルドによくある、“自身は取得していないが装備の効果で一時的に行使可能にする”という戦法だ。
回復が使用可能な装備をセットしてヒールを使うとか、攻撃力の計算に筋力ではなく魔力を参照する武器などを用いるなど、魔法職と前衛職のハイブリッド……というのは聞こえがいいが実際は行使可能な魔法が装備に依存してしまうため荷物が嵩張ったり、装備を変更しなければ使えないという制約から突発的な事態や想定外の事態への対処能力が劣るため十全の力を発揮するには多量のカネとプレイヤースキルが求められるビルドでもある。
「これで、よし」
魅了をかけた野盗も含めて全てをロープで縛り上げて転がしておく。念のため刃物などがないか確認しておいたが、動き出したりしないかコウモリに監視させておくとしよう。
「ギエッ」
「おやすみ」
木箱に座りながらうとうとしていた野盗の首にナイフを突き立てる。三度ほど先ほどの手口で野盗を無力化し、村人を押し込めている倉庫の周囲を警戒していた野盗を殺害していく。油や松明の準備がしてあることから見て、命令さえあればそのまま火を放つ腹積もりだったのだろう。
ゴトン、と扉を塞ぐ大きな木箱を引っ張ってどかして木製の扉をあけ放つ。入り口で光を放つ小さなランプの明かりに浮かぶ数人の村人と、その奥で暗闇と野盗の恐怖に震える村人たちがひしめきあっていた。見たところ子供や老人、四十代を超えた女性などがほとんどだ。
「待て、静かに。助けにきたんだ」
「っ!?」
「あまり騒ぐと気取られる。静かに、な」
四十代と思しき隻眼の男が振り下ろした角材を片手で受け止め、指先を口にあてて“シーッ”とジェスチャーで伝える。ざわめきがすっと引いていくのを見計らって声をかける。
「しばらく前にこの村から逃げてきたという、栗毛で青色の瞳の二十代手前の女に丘の上の森の中で会った。村が野盗に襲われていて、助けを必要としていると聞いてきた」
「も、もしかして……その子はヘレンという名では!?」
「……そういえば名を聞いていなかったな。怪我をしていたので治療してそのまま待っているように言ってここに来た」
「そうでしたか……あの子は無事ですか。申し遅れました、私はバーバラと申します。あの、剣士さまは冒険者であらせられますか?」
ボウケンシャー? ボウケンジャー? 某賢者? いや、どれでもないことは確かだ。冒険者と言えば冒険者みたいなことはユグドラシルでしていたが、今の俺は果たしてどうなのだろう。
とはいえ、真っ先に冒険者なのかと確認するということはだ、冒険者というのは彼らにとって一種の希望といえるものなのかもしれない。……国軍や領主の軍が出てこないあたり悲しいところではあるが。
とりあえずは村人を安心させ、冷静にするのが大事だ。興奮と喜びで変な行動を起こされてはかなわない。まずは何事も挨拶からだ。
「俺の名は……ルイス、ルイス・ローデンバッハだ」
「き、貴族さま……!?」
「すまないが俺は家名こそあるが貴族位も無い一介の旅人だ。そして冒険者でもない。だが、かつてある軍に属して一隊を率いて野盗や反動勢力と戦っていたこともある」
「お、おお……!」
「野盗の多くは無力化してある。だがすべてが終わったわけじゃない。今は静かにしているんだ」
「ああ神様……! ありがとうございます!」
「礼はいい。命がけで俺に助けを求めてきたヘレンに言ってくれ。っとそうだ、皆はモンスターを使役できる人物に心当たりはあるか?」
「そ、そういうことができる人がいるというのは聞いたことがありますが……」
「だったら話が早い。俺の従えているコウモリたちを見張りにつかせる。……俺に何かがあればコイツが知らせてくれるから、その時は逃げ出せるようにしておいてくれ」
もぞ、とローブの下から一匹のコウモリが姿を現す。チチ、と軽く鳴いてから木箱の上に座り込む。小さいとはいえレベルにして40はあるコウモリたちだ。この見た目で麒麟の子どもであるキリよりレベルが上なのだからあの野盗どもに対して過剰戦力もいいところだ。
『にんむふくしょうなのです! むらびとのごえいにつき、てきせいせいりょくからまもるのです!』
「いい子だ。頼むぞ」
『いいなー』
『うらやま、うらやまー』
『ボクたちは? ボクたちにもナデナデしてー』
「全部終わってから撫でてやるから待ってなさい」
一匹撫でてやると他の子まで騒ぎ始める。頼むからローブの中でもぞもぞ動き回るのはやめてくれないか。割とくすぐったいのだ。
「し、シャアァァベッt……」
「アードルフ、静かに!」
「……コウモリって喋るんだな」
「でも、キモいと思ってたけど、こうしてみると意外とかわいい……?」
「いやでもさ、コウモリだぜ?」
怖がられるものかと思ったが存外そうでもないらしく一安心だ。不思議なものを見た感じはぬぐえないが、恐怖心で逃げ出したりしなかったのだからまあいいか。
「俺はこの後他の倉庫と中央の広場の野盗を処理する。他の野盗は捕えてあるが、念のためにあまり動かないようにしていてくれ」
「ルイスさんだったか、聞いてくれ。俺の娘が二つ先の倉庫に連れていかれちまったんだ……まだ結婚したばかりだったのに……!」
「俺のとこの子もだ……! あいつら、若い娘を犯して楽しんでやがるんだ……!」
「僕の娘なんてまだ10歳になったばかりだった! なのにあいつら、我先にアリのように寄ってたかって襲いやがった……!」
「わかった。俺も娘を持っている身だからその気持ちはわかる。……俺が相応の報いを与えてやるさ」
「もし俺たちにできることがあったら言ってくれ。あんたの助けになるんなら喜んでやってみせる」
「……ありがたい。普通は巻き込まないためにも“気持ちだけでも嬉しい”と言うべきなんだろうが、正直俺一人じゃ捕えた野盗全員の面倒を見切れない。手を借りるときはコウモリを経由して伝えよう」
俺の娘、レーナがもしもそういうものに巻き込まれたなら……俺は決して許しはしないだろう。捕えた後、死を懇願するほどの拷問にかけて生かしながら、じわりじわりと骨の髄に沁み込むまで悔恨を味わわせてやる。
コウモリを出して再び偵察。倉庫の中に居る6人と、周囲を見張る野盗が3人。気だるそうに見張りを続ける三人を音もなくダガーで始末し、<飛行>を使って屋根の上へ。換気のためらしい木枠の窓を開けて内部に侵入し、足音に注意しつつ下の階への梯子のところから下を覗く。
「あっ──」
不意に、仰向けで寝転がる裸の少女と目が合う。咄嗟にジェスチャーで“静かに”と伝える。
「おい、何してやがる」
「──ひっ、あ、やめて、来ないで!」
マズイ、野盗が彼女に感づいた。警戒されるよりも前に仕留めたかったがやむを得ない!
「ぶべらっ!」
梯子がかかる枠を掴んで支点にし、飛び降りる勢いのままに野盗の頭を蹴り飛ばす。ぐりん、と首が一回転した野盗はしめやかに倉庫の片隅にご退場。まずは一人だ!
「クソッ! 侵入者だ! 敵襲! 敵襲!」
勢いのまま吹き飛んだ野盗。入れ替わるように着地し、左手の指先に挟んだ投げナイフを勢いよく投げつける。投擲速度のせいか、弾丸の如く飛んで行ったナイフが野盗の眉間と心臓を貫いて二人を壁に打ち付ける。これで三人!
「ぐはっ!」
「あぐっ、ち、くしょ……」
「ドン! エドガー! クソッタレめ!」
下半身丸出しのまま剣を抜き放って切りかかってくる男。ぶらぶらと揺れるナニと正反対に真っすぐに剣が振り下ろされる。右手のショートソードを振り上げて受け止め、左手のダガーを野盗の下半身に突き刺し、柄を蹴り込んで押しのける。これで四人!
「動くな!」
声のほうへ顔を向けるとランタンの明かりで照らされた鈍色の輝きの短剣が少女の首元に突き付けられていた。汚物と白濁と自らの血にまみれた少女は髪を引っ張られたまま力なく野盗のなすがままになっていた。
「剣を捨てろ……でなきゃわかるよなぁ?」
「ヘヘッ、こっちは二人だ。お前が何かしようとしても殺すほうが早いぜ?」
「け、剣士さん……私は、いいから……!」
「黙ってろ!」
「ぐっ、うう……殺して……お願い、お願いします……!」
身動きする体力も気力も失われているのに、彼女は抵抗をあきらめていない。自身はどうなってもいい、だからこの二人を殺してくれという懇願が聞こえる。
「なら……スキル発動<
「は?」
「ふぁっ!?」
「「これでこっちも二人だ」」
白い光が人の形をとって現れる。その光景に目を奪われた瞬間、同時に駆け出して一瞬で野盗が手にしていた剣を払って一本背負いで投げ捨てる。すかさずショートソードを心臓に突き立てて息の根をとめて、先ほど蹴り飛ばした虫の息の野盗にも平等の死を与えてまわる。
「……すまない、危ない目に合わせたな」
「いえ……ご無事でしたら、何より、です……」
捕えられていた彼女たちの様子を見てわかったが随分衰弱している。以前にも野盗に襲われたというヘレンの言葉から察するに、おそらくここしばらくはかなり生活が厳しかったのだろう。
「みんな、これを飲むといい。ポーションだ」
「あ、赤い……ポーション? 血じゃないですよね……?」
「青いのが普通のポーションだと思ってた……」
これはガバったかな……? どうやら一般的なポーションは青色なようだ。とはいえ出してしまった以上は言い訳できない。何かいい方便はないか? もっともそれっぽく、しかし違和感のない理由、言い訳を考えないと。
「あー、それは、な、実は以前潜った洞窟で見つけたポーションなんだ!
ただし他人にだけどな! 実際はヒビキが作ったポーションで、高難度ダンジョン攻略時の余り物だ。
「……じゃ、じゃあ……ええいっ!」
赤毛の少女が観念したのか一気にポーションを飲み干した。
「……お、おお……? す、すごい……! 体が軽くなったみたい……! 今すぐ麦の収穫に出られそうなくらいです!」
「ほ、ほんとう……?」
「本当だって! アイナも飲んで!」
「じゃ、じゃあ……んぐっ! …………ふ、ふわぁぁ……し、しゅごい……体があったかくなる」
──なぜか恍惚とした表情になった。媚薬の類ではないはずなのだが。とにかく他の子もリアクションは様々だが強張った表情が緩んでとろんとした表情になった。
ヒビキがゴーレム作成に関連するものとして錬金術師を取っていたのもあって、とりあえず予備でもらったポーションだったが他の効果があったか確かめるためにアイテムボックス内に手を突っ込んでみる。
<名称:ハイブリッドポーション
効果:HP30%、MP15%回復
製作者:ヒビキ
フリーテキスト:愛しのユウくんもコレ一本あれば元気ビンビン! 朝でも夜でもバッチリプレイ可能に!>
ヒビキィィィィッ! お前ェェェッ! オォォォマァェェェッ!
製作者のコメント欄に何書いてくれちゃってんのオォォォッ!? いやこんな事態想定外もいいとこだから仕方ないけどさぁ! それでももっと他のことあるだろォォッ!?
「出てこおおぉい! 居るのはわかってんだぞ! 出てこなければ人質を一人ずつ殺していくぞ!」
「チッ、バレたな……行くしかなさそうだ」
盛大に頭を抱えていたところに怒号が聞こえる。コウモリ経由で広場のほうで動きがあったことが伝わってきて、一人の男の首が撥ねられたらしい。
……どうやら本気なようだ。これ以上被害を増やすわけにはいかない。相手の思惑に乗ってやるしかないだろう。念のために<
「第四分隊、第一分隊と合流し全員散らばって敵の近くで待機しろ。……仕掛ける際には合図を出す。合言葉は“死を届けにきた”だ」
『らじゃー! だいよんぶんたい、にんむふくしょう!』
『ちらばっててきのちかくでたいき! あいことばでこうげきかいし! ちかづけないならそのままたいき!』
「行け。気取られないように、奇襲可能な距離へつけ。気取られる可能性があるなら近づかずに待機し、攻撃指示を待て。それと彼らに連絡を頼む」
さて、勝負どころだ。どの道残っているのは中央の野盗どもだけだ。……村人に恐怖を与えるかもしれないが、これ以上犠牲者を出さないためには手段を選べない。コウモリたちを動員すれば問題なく始末できるだろう。あとはタイミングを逃さず、一息で全滅させるだけだ。
野盗の剣が一閃、その軌跡が一つの命を奪い去った。
「ぎゃああっっ!」
「イェルド! くそおおぉぉっ!」
「サムエル村長……! もう俺たちは……」
イェルド、先日風車小屋のヘレンと婚約したばかりの農夫の青年が冷たい骸へと変わった。襲撃の折にはノーラの夫であるシモンも殺された。年若い夫婦が、明るい未来を築いてほしいと願っていた者たちが死んでいく。
「そこまでにしてもらおうか」
低く、威厳と覇気に満ちた声が広場に響いた。まるで声そのものが圧力を持つかのように、広場のあちこちに焚かれた篝火や松明が風に揺れる。その薄明りが照らす広場に歩いてくる一人の男の姿が目に留まる。
厚手のローブを身にまとい、見える部分は多くが革製で部分的に鋼鉄で覆う軽装の戦士。薄い鉄板を加工したらしい小型のガントレット。ローブから覗く一振りの剣を携えた彼の視線が私たちを貫く。
黄金の髪と赤い瞳。精悍な顔つきの凛々しい青年と言っていい男が私を見て言う。
「御老人、ご心配召されるな。問題ない」
不思議と恐怖感はない。ああ、大丈夫だ。むしろ安堵感を感じるほどに彼の言葉はすっと心の中に響いてきた。
「この野盗の首魁はお前でいいのか?」
「ああそうとも。わかったら剣を捨てろよお坊ちゃん。俺はそこらへんの甘ちゃんとは違うんだ」
「フム。まあいいだろう。ほら、これでいいか?」
何のためらいもなく剣を捨てるなんて! これでは彼が殺されてしまうだけだ!
「へへ、言い残すことはあるか……?」
野盗の首魁が彼に剣を突きつける。ニヤニヤと下種な笑みを浮かべているが、剣を向けられている彼は余裕綽々と言わんばかりに笑みを浮かべるだけだ。
「特にないな。ちょうど引き取り手も来たようだし、言っておこう。……“死を届けにきた”」
パンッ、という乾いた音と共に、撥ね退けられた剣が私の目の前に転がる。見れば野盗の手にはすでに剣は無く、青年は目で追うことさえできない早業で野盗をぐるんと投げ飛ばして後ろ手に腕を捻って抑え込んでいた。
「いっ、ぎ、ふぅ、ぬうんっ!」
「諦めろ。お仲間も見ての通りだ」
いつのまにか周囲に陣取っていた野盗たちが取り押さえられていた。しかも取り押さえたのは村の女衆や成人前の少年たちだ。いかなる方法を使ったかはわからないが、戦う力を持つ野盗がいともたやすく非力な者たちに取り押さえられていることに愕然とする。
「よっ、と……これでいいか」
おそらくこの状況を作り出しただろう青年は何事もないかのように野盗の首魁を縛り上げ、乱雑に放り投げて寝転がすとこちらに近づいてナイフを取り出した。
「ほら、縄を斬るぞ。さっさとこいつらをどこかに閉じ込めて領主の軍なり憲兵なりに引き渡さないといけないんだ。すまないがみなの手を貸してくれ」
「あ、あの野盗たちは、どうして」
「なに。ちょっとした毒を与える低位階の魔法だよ。痺れて動きが鈍る程度のな」
驚いた。武器を持った野盗を素手で組み伏せる実力を持ちながら、魔法の才まで持っていようとは。後ろ手に縛られていた縄が切られ、圧迫感が消える。目の前に翳した手は手首のあたりが縄で擦れたりして傷だらけだが動かせないわけではない。
倉庫に囚われていた隻眼の男──私の親友のアーロンが他の男たちを解放していくのを見ていたところに声がかかる。
「あんた! 無事だったかい!? ああ! もうこの村も終わりかと……!」
「すまんなバーバラ……心配をかけた」
夫婦となって二十年。共に村の発展と平和のために二人三脚で歩んできた愛しい妻を再び抱きしめることができるなんて! 以前はいつものように抱きしめていた彼女の温もりが、今日は何故か一段といとおしく感じる。
「すまない、村長殿。喜ぶのは少々後にしてくれ」
「む! こ、これは失礼いたしました! まさか助かるとは思ってもみなかったもので……!」
「違う、そうじゃない」
剣士の青年が投げ捨ててあったショートソードを手に取り、村の入り口のほうへと視線を向ける。険しい表情と威厳のある低い声で否定され、何事なのかと彼と同じく入り口に目を向け────その姿をはっきりととらえてしまった。
「よう、お前さんがコイツら全員やっちまったのか?」
「まさか。村人たちの協力あってこその成果だとも」
「ほう。この俺に気付かせることもなくか? だとしたらその言葉は随分と謙遜が過ぎるんじゃないか?」
「フム、気付かないほど遠くに居たからじゃないのか? 村のはずれに一人で居たんじゃ気づかないのも当然だろう?」
「いやいや俺はこう見えて割と勘がいいほうでな。この村の中で何かあれば一発でわかるさ。なのにその俺に何一つ気取らせないでこうも手際よくコイツらを制圧してみせたんだ。お前さん、只者じゃないだろう?」
「そういう貴殿こそ只者ではないようだが?」
軽快に対話しているように見えるが二人の距離は一定を保ったままで、体を動かす素振りすらない。相手をただじっと観察するように見ながら言葉を交わす様子はただひたすらに警戒心で埋め尽くされている。
その様子に気付いたらしい他の村人たちは恐怖に慄いて距離をとり、気づけば自然と広場に円陣ができあがっていた。
「名乗っておこう。俺は、ブレイン・アングラウス。一応、こいつらに雇われて用心棒をしている」
ブレイン・アングラウス! まさか御前試合でかの王国戦士長ガゼフ・ストロノーフと互角に戦ったと言われる男がこんなところに居るだなんて! ハッタリではなく本物なのだとしたらいくらなんでも危険すぎる!
「名乗られたならば名乗り返すしかあるまい。ルイス・ローデンバッハだ。……なるほど……刀使い……しかもなかなかにやれるようだ」
「ご名答。随分目がいいな」
「目利きはそこそこできるクチでね。それで用心棒のブレインさんが何の用だ?」
「一つ、ヤろうじゃないか。俺が勝てばこいつらを解放してもらう。お前さんが勝てば俺たちはお縄につく。わかりやすいだろう?」
「──乗った」
「なっ!? 正気ですか剣士さま!? 相手はあの──!」
「正気も正気だ。……それに、見様見真似の刀使いに負ける気は毛頭無い」
大胆不敵にもほどがある! 王国最強と言われる男に匹敵する剣士に見様見真似などと! 挑発以外の何物でもない!
手にしていたショートソードが不意に消えた。目の前で確かに握っていたはずであるというのに、そこにあるのは鞘に収まった、反りをもった一振りの剣に代わっていた。
「……刀使いか?」
「刀使い? 阿呆め。高村派一刀流極伝、朝……ルイス・ローデンバッハがお相手仕る!」
「まさか……本物の剣士か!」
「然り! ブレイン・アングラウスとやら、その力の底を見せてみよ!」
「っ……上等ォォッ!」
二人の剣士が己の剣を抜き放つ。ブレイン・アングラウスの剣は月明りを帯びて鈍く輝き、ルイス殿の剣は炎を映して赤くゆらめく。
これは、大変なことになる。ともするとこの瞬間こそ、新たな英雄の出現であるかもしれぬ。そんな予感がする。