きゃすたー(7mg)の雑多なネタ倉庫 作:きゃすたー(7mg)
あとオバロのほうちょっと悩んでるので
Mk14EBRは自らの出自を語った。
未完成の不良品。次々に破棄されていく自分自身たち。その中から見出され生き残ったことを。
彼女は幾たびもの改修と装備の更新によって最早原型たるM14とはかけ離れた存在になっている。
似ているのは人形の外見だけだ。けれどその意志はM14の頃と何も変わらない。
変化を受け入れ、その上で彼女は変わらない確かなモノを手に入れた。
第四標的 デルタチーム
数分ほど歩いたところで辿り着いたトレーニング施設の一角、私たちが数日前に射撃テストを行った射撃場の扉を開くと、ザルツブルグ基地でも見たことのある戦術人形たちが射撃訓練を行っていた。
思い思いに射撃訓練プログラムをこなす人形たちの背中を眺める、白いウシャンカを被り、その帽子と同じ白いケープ、スカート、ジャケットで統一した人形が一体。ブロンドの髪をかきあげてチェックシートに記入していく彼女の下に歩み寄ったグローザさんに気付いたらしく、彼女の青い瞳が私たち三人に向けられる。
「あら、グローザ。おかえりなさい」
「ただいま戻った。二人とも、紹介しよう。彼女はデルタチームリーダーのモシン・ナガンだ」
「
パチン、とウインクを決める彼女──モシン・ナガンさんは真っ白なケープを揺らして握手を交わす。
にこやかな笑顔のままグローザさんに抱きついたモシン・ナガンさんはわしゃわしゃとグローザさんの頭を撫でながら言う。
「ちょ、ちょっと! モシン・ナガンさん!」
「メンバーを紹介するわ。まずこの子はグローザ。私の率いるデルタチームのメンバーの一人よ。
「紹介するのはいいけど、頭は撫でないでください」
「んふふ、クールなんだけどこうやって照れたりするところがまた可愛いのよ」
グローザさんをひとしきり抱き締めて頬ずりしたモシン・ナガンさんは射撃レーンに立つ人形──小柄で私と同じくらいの背丈の少女に声をかける。
「ナガン! ちょっとこっち来てちょうだい!」
「む──姉上よ、ちょっと待ってくれんか? ──っと、姉上よ一体何がわふっ!?」
「ほら、この子! 私の妹のナガンM1895よ! 可愛いでしょう?」
射撃用のゴーグルを外して駆け寄ってきたブロンドの少女は突然モシン・ナガンさんに抱き締められる。しばらくじたばたともがくものの逃れられないことに諦めたらしく大人しく彼女の腕の中に収まったまま自己紹介を始める。
「わしはナガンM1895じゃ。さっきから妹離れのできておらんM1891モシン・ナガンの妹にあたるかの」
「もー、そんな風に言ってさ。素直に嬉しいって言ってくれればいいのに」
「わしだって姉上のことは好きじゃぞ。とはいえ挨拶のときまで抱きつかんでもよいじゃろうに」
二人して戯れる様子はまさに家族だ。抱き締めてくる姉をやれやれといった様子で受け入れるナガンさんと、屈託のない笑みで抱き締めながら頭を撫でているモシン・ナガンさんはお互いのすることを受け入れているようだ。
同じ銃から生まれた派生系の銃を持つ人形や、設計者が同じ銃はお互いに親近感などを覚えやすいという話を聞いたことがある。
この二人も“ナガン”とあるからにはそうなのだろう。私がG36姉妹を見るとどうも落ち着くのも、きっとそうなのだろう。
「ばあ様方、その子たちが新顔かな?」
「まだ決まってないわ。入ってくれると嬉しいのは確かだけど」
「だがあの人が目に付けた新戦力だろう? ……期待させてもらうよ。私は
白雪のように真っ白な髪の少女が不敵に笑って手を差し出してくる。モシン・ナガンさんよりも幾分か小柄だけど、こちらを見る眼はどこか見定めるように鋭い目線を投げかけている。
「ちょっとばあ様、抱きつかないで」
「んふふ……可愛いわねぇ」
「相変わらずだな、年寄り」
「あらPKP、貴女も私に抱き締められたいクチ?」
「すまないがお断りだ。そういうのはPKにやってくれ」
「PKは股座に手を突っ込むくらいしないと反応してくれないのよ。その代わり貴女ならほんの少しでいい反応してくれる」
「──っ、そういうことを言う必要はない! そういう破廉恥なものは全部PKにやれ!」
「我が妹ながらひどいものね。まあ、どうでもいいのだけど」
「紹介するわ。左のちっさくて目つきの悪いちっさくて照れ屋な子がPKPよ。右のデカい無表情無反応女がPK。所謂姉妹ね」
「……誰が、小さいって?」
「酷い言われようね。まあ、どうでもいいのだけど」
「あら? じゃあツンツンぺったんマシンガンがPKPで、無駄にでかい胸のマシンガンがPKよ。これでいいわよね? あとはSV-98が居るけど、今日は精密検査で朝からラボのほうに缶詰なのよ。まあ二人とも顔見知りでしょうから特に紹介は必要ないでしょ。
総勢8名、これが私たちデルタチームのメンバーよ」
どっちにしてもひどいと思います。PKPさんもイラッときたみたいだし、PKさんも……こっちは無表情なままだ。
「よろしく、PKよ」
「……PKPだ。モシン・ナガンは後で覚えていろよ」
二人とも銀髪という共通点はあるものの、シルエットは対照的なものだ。片やPKさんは成人の女性らしい豊満な胸とお尻で、それを引き立たせるようにピッタリとしたタイトな制服姿。……クマさんのヘアピンいいなぁ。私も欲しい。
PKPさんは私とそう変わらない背丈で体つきも子どものように小柄だ。
「それでグローザ、FALからは二人が見学に来るって聞いてたけど何しようか? 模擬戦闘でもいいし、普段のトレーニングでもいいけど」
「それなのだけど、この二人は私たちがアフターグロウに参加した動機が知りたいらしい」
「ふうん、珍しいわね。もしかして民生人形の転用じゃなくて、イチから戦闘型で作られた純生産モデル?」
へぇ、と呟いて興味深げにモシン・ナガンさんが私たちを交互に見る。
「やー、私は民生品の流用だよ? 純正モデルはこっちのG41だよ」
「なるほど。グルフィン以外の社会の中で生きたことがないのね。スコーピオンもどことなく新品みたいだし」
「新品って言ってもほんの1年だけどね」
「一年じゃあまだまだ経験不足ね。でもこうやって実際に働く現場に居る他の人形の意見を聞くのはいい判断よ。様々な考え方や理論、意見に触れるからこそ思考の多様性が身につくわけだもの。
じゃ、一人ずつ答えていきましょうか。海でも眺めながら、ね」
基地の上階にある屋上から見えるアドリア海。その中にぽつんと浮かぶヴェネツィアの街。唯一の繋がりになっている橋が海の上を貫いて伸びる光景はまだ見慣れない。
屋上に設けられたベンチに腰を下ろすと、モシン・ナガンさんが切り出した。
「さあ、それじゃまずは我が妹からいってみよーか」
「む、わしか? そうじゃな……わしら姉妹は5年前、同時期に生産された民間向けの自律人形じゃった。ロットナンバーも一つ違いで、二人とも空港での荷物検査が仕事だったんじゃが、そこで発生したテロで空港が閉鎖されてしまってな。
行く宛てもない我々はIOP社に返還されて次の配属先へ、という矢先に戦術人形としての適正検査に合格してここを紹介されたわけじゃ。無論わしは行くと決めて戦術人形になったぞ」
「ま、本当のところは私だけ戦術人形になるって決まったのに、そこを自分も戦術人形になって無理矢理ついてきたんだけどね」
「あ、姉上だけでは心配じゃからな! わしは普段から働きすぎな姉上のことを思って……!」
「はいはい。私と一緒じゃないと寂しいもんね」
ひょいと抱えられたナガンさんはぐぬぬと悔しそうな顔をして、だけど抵抗する素振りもなくモシン・ナガンさんの膝の上に乗せられる。
「じゃ、次はSVDかな」
「私はそう難しいものではない。銃器店で働いていて、たまたま腕が良かったから戦術人形になっただけだ。自律人形だったころから銃は好きだったし、機会があればとも思っていた。ここの募集に応募し、ライフル系の適正が高かったことで今の私になったというわけさ」
「……自分で戦術人形になろうって思ったの?」
「そういうことだ。銃を撃つのが好きで、銃を扱う仕事も好きだった。それがかみ合った結果でしかない」
現実はかなり違ったが、とだけ付け加えてSVDさんは隣で座っていたPKPさんに次はお前だと言うように向き直る。
「……私は最初から戦術人形だ。別に語る必要はない」
「PKP、グローザが言っていただろう? 二人が知りたいのは私たちがここに居る理由だ。今は経緯を語るんじゃない。動機を語るんだ」
「うるさいぞエセ狙撃銃。チッ……仕方がない」
「フフッ、もう少し素直になることだ」
ニヤニヤとイジワルそうな顔でSVDさんが言うと、PKPさんは諦めたような素振りで居住まいを正した。
「……テロリストを許せない。ただそれだけだ」
意見は許さない。何も聞くな。小さく、簡潔に、低い声で呟かれた言葉に続くものはない。
「──うん、じゃあ次はPK」
「私もそう難しいことじゃないわ。戦うことが私の生き甲斐だった。ここではそれが手に入る。それだけのことよ」
さっくりとさっぱりと、PKさんとPKPさんは言い切った。もっと何かしらの言葉があるのだろうと考えていたのか、モシン・ナガンさんも言葉に困りながら言う。
「あー、グ、グローザは?」
「私はヴェネツィアが好きだからだ。この街の一員として何かできることをと考えて、ここに入った。それに一度管制機能やコアを解体したとはいえ、私は元々戦術人形だった。それまでに積んできた経験も役立てられる」
うんうん、と頷いてモシン・ナガンさんは嬉しそうにグローザさんの頭をなで始めた。……自分の望んだ回答が出たことがそこまで嬉しいのか、若干二名が参考にもなりそうにないことを言ったからなのかはわからないが。
「どうかしら? 参考になりそう?」
「やっぱりみんな何かしらここでやりたいことがあるんだね」
「そうよスコーピオン。大好きなお姉ちゃんと一緒に居たいからとか、銃が好きだとか、理由は大したものじゃないもの。G36は一番の古株だけど、あの子だって単純にメイドとしての仕事の延長上って考えでやってるようなものなんだから」
メイドの延長上が戦場で戦う兵士って……どうなんだろう。そういえば昔ジャパニメーションとかクールジャパンとか──どういうものかはよくわからないけど──が流行ったときに集められたというマンガにも、メイドさんが剣を振り回したりナイフを投げたり銃を乱射したりしていた描写があったような。
「さて、それじゃ次はアフターグロウ本部に行くとしよう。そこを見て解散になるだろうから、忘れ物の無いようにね」
私たちとティスさんは合流してそのまま4人でヴェネツィア行きの電車に乗り込んだ。既に電車はヴェネツィアと本土を繋ぐリベルタ橋を半ばまで通り抜けている。
「そういえば姉さん。
「ん、ちゃんとしておいたよー。秘密兵器には細かいところも手を抜かない几帳面さも無いとねー。そっちはどうだった?」
「相変わらず根回しが早い。私たちのほうはまあ無事に終わったよ」
「まあそれならいいんだけどさ。G41はどうだった?」
「え、えっと……意外と簡単なことだったんだな、って」
「案外世の中そんなものだよ。難しく考えたってできることは限られるんだからさ。思い立ったが吉日って言うでしょ。できることから始めていけばいいと思うよ」
ティスさんは窓の外に広がるアドリア海を眺め始めたが、すぐに電車は橋を通り抜けて地上駅のサンタ・ルチア駅に停車する。
「ここからは歩きだね~。二人は本部を見たことある?」
「あたしは無いかな」
「私も行ったことないです」
「ん、じゃあきっとビックリするかもね」
ビックリ、というのはどういうことなんだろう。もしかして写真で見たようなグリフィンの本部ビルみたいなものがあるのかな?
駅を出て歩くこと十分、右に曲がって橋をひとつ渡った先でティスさんが立ち止まる。
「はい、着いたよー」
「ねえティス、……どこにもビルなんて無いよ?」
……スコーピオンちゃんが周囲を見渡しているものの、ビルらしい建物はどこにも無い。私たちが最近よく目にしている赤レンガの屋根と白い壁の建物が運河や通りに続くばかりだ。
巡回兵は街中で見たときよりも多いけど、どこに本部があるのかさっぱりわからない。
「んふ、本部だからってビルである必要性は無いよね? つまりそういうこと」
「……もしかしてこの目の前のずっと続く壁って」
「その通りだスコーピオン。この壁から向こうがアフターグロウ本部だ。建物は三階建てで、伝統的なヴェネツィアの建築物に似せて作っている。
似せているだけで中身はちゃんと耐久性や耐震性、そして塩害などにも対応した、れっきとした最新の建築物だ」
見た目は他の民家の壁とそう変わらない。けどよく見るとそこかしこに監視カメラが隠されているし、見回りの重装備の軍人の姿もちらほらと見かける。
「ティス、グローザ。おまたせしました!」
「や、元気だった?」
「時間通りだ。随分出迎えが早いな」
「いえ、指定の時間よりも早くなる可能性があったので30分前から正門で待機していましたから」
「……そこまでする必要があるのか?」
「当然ですよ。お客さんが来るのですから滞りなく歓待しなきゃいけません。
ヴェネツィアは警備部隊以外に銃の携帯許可が下りませんから、戦術人形であるとしても非武装では突発的な事態には対処できません。なのでテロや暴動など万一の可能性を踏まえて周囲の警備は倍にして、即時対応可能な状況を維持しています。また他企業の諜報員や反乱分子のスパイがドローンを利用してこちらを偵察していないとも限らないので、本部周辺は現在ジャミングによる情報封鎖も行っています。
あ、スパイで思い出したんですけど、一応身元確認と銃や武器弾薬、火気類の持込みが無いか身体検査を徹底させていますので、何卒ご協力お願いします」
「……相変わらずだね、
溌剌とした声でグローザさんの疑問に答えていく女性兵士。
左右合わせて10枚にもなる装甲板。腰に巻いたショットシェルベルトに、右腰のサイドアーム。そして左肩にイタリアの国旗とアフターグロウの紋章が刻まれたジャケット。背丈はグローザさんと同じくらいで、うらやましいほどに丸く大きな胸部が印象的だ。
「初めまして。本部警備部隊第二分隊を率いています、M1014です。ベネリと呼んでください」
「G41です、初めまして」
「あたしはスコーピオン、よろしくね」
「よろしくお願いします。それでは本部にご案内いたしますね!」
ベネリさんに連れられて歩くこと5分ほどで守衛の立つ金属製の門の前に辿り着いた。儀礼的な軍服に身を包んだライフル兵は微動だにせずに、私たちが通り過ぎる間も直立不動のままだ。
じーっと見つめてみても反応がない。近くに寄って見回してみても動かない。
「ほらほら、気になるのはわかるけどこっちが先だよ」
「むーっ」
スコーピオンちゃんが手を引くものの、もう少し観察してみたい。もしかすると動き出すかもしれないし、その瞬間が見られるかもしれない。
「やっぱりG41ちゃんも気になりますよね?」
「うん」
「ですよね? 私も何度か武器と装備の更新を上申してみたんですけど、ずっとアレなんですよ。門衛は侵入者を防ぐための重要な任務なのですから、速射性や装弾数で明らかに不利なボルトアクションのライフルよりもサブマシンガンやカービンタイプのアサルトライフルなどの携行性と制圧能力に優れた銃火器を使用するべきだと思うんです。リフレックスサイトやホログラフィックサイト、暴徒鎮圧用に催涙弾などを発射可能なグレネードランチャー、それに咄嗟に腰溜めでも射撃可能なようにレーザーサイトなどの装備も検討すべきです。
それにあの制服だって防弾ではありませんから、万一敵の攻撃を受けた場合には致命傷を負いかねません。最低でも.44マグナム、できれば7.62ミリにも対応できるようにクラスⅡからⅢのボディアーマーを推奨するべきだと思います」
……ベネリさんとは興味を持った点が違うということはわかった。
「……まあ、こういう子だから」
ハァ、と小さくため息をついてティスさんがうなだれる。きっとお姉さんとしていろいろな苦労があるのだろうと思うと声をかけづらい。
「ベネリは簡単なモノを難しく考えすぎだ。儀礼的なものに実用を求めるべきではない」
「グローザ、それはそうですけど……いざというときは必要になるんですから、普段からもっと充実した装備を充てるべきだと思います」
「いざというときこそ我々や軍の出番だ。彼らには退避してもらえばいい。そうだろう?」
「む、むぐぐ……でも相手が突然車やバイクで強行突破してくる可能性もありますし、海上からヘリで奇襲してくる可能性だって……!」
「ほう? この洋上の都市にどうやって車やバイクを持ち込むんだ? リベルタ橋を渡ってすぐに駐車場だ。バイクなら入り込めるかもしれんが狭い路地に運河がそこらじゅうにある。路地一つ間違えればそのまま海の中だぞ?
ヘリで奇襲するにしてもそんなものが洋上を飛んでいれば真っ先にSAMで撃墜されるのがオチだと思うが?」
「グローザ、丁寧に抉りこむような反論はそこまでにしといてあげとこうよ」
「姉さんもこう言ってることだ。ベネリ、さっさと案内してくれ」
「むーっ! こうも言われっぱなしなのは釈然としないですけど……今は任務に集中しないと……」
正門を抜けるとサッカー場の半面ほどの広さの芝生の庭園が広がり、その先に三階建てのいかにもヴェネツィアらしい建物が佇んでいる。白い壁、赤い屋根。テラスやバルコニーもあるちょっとした避暑地の別荘のような趣の邸宅だ。
M1014は邸宅の中へ私たちを招きいれると三階へと上がり、そのうちの一つの部屋のドアをノックする。
「社長、M1014です。見学希望者の方をお連れ致しました」
「どうぞ」
なんの変哲も無い普通のドアをノックした先がまさか社長室だなんて。
「さ、入って入って」
「し、失礼します!」
「失礼しまーす!」
部屋の中は広々として毛織物の絨毯と来客者用の上品な彫刻を施した長いテーブルがあり、更に奥には執務机があって左右には国旗とアフターグロウの旗が飾られている。
部屋の片隅には天井に届くほどの本棚と壁掛けのモニター。それと観葉植物の鉢植えが一つ。執務机にはノートPCと、さりげなく目を引く立派な羽ペンが備えられていて簡素ながら高貴さも感じさせる。
「ようこそ、アフターグロウ本部へ。私が社長のイゴール=ウラジーミロヴィチ=セミョノフだ。どうぞ掛けてくれたまえ」
その執務机に向き合う一人の男性。70代ほどの容姿の、白髪の交じった黒髪の男性。細身で長身ながら、立ち上がって歩く姿はよどみなくスムーズで、左手は身体の前で保たれて背中側へは振られず、右手の振りは小さくてブレの一つも無い独特な歩き方でソファに歩いていく。
「……キミ……そう、G41さん。よく見ているね」
「……ふえっ?」
腰を下ろした彼は私たちにも“座れ”と鋭い目つきで訴えかけてくる。その威圧感に押されて、質問しようとしたことさえ忘れてソファに座って対面する。
「目が良いのはよいことだ。さて、まずはお礼を申し上げよう。我が孫の窮地に助力をいただけたことに心よりの感謝を。お陰で大切な孫娘が五体満足で生きて帰ってくることができた」
「あー、っていうか私たちがむしろ先に助けられた側ですんで。助けてもらったから協力したっていう程度でしか……」
「だからこそだよ。世の中、命を救った相手から何の協力も得られないことなどよくあることだ。ひどいときには私たちを恐れて逃げ出したり、助けた相手に背中から撃たれるなんて場合さえある。
こんな世の中ではあるが、キミ達二人は恩には恩で返してくれたわけだ。それは今のこの排他的で暴力的な世界では珍しいものなのだよ。
さて、孫からも案内があったとは思うが改めて私からも伝えておこう。
我々アフターグロウはキミ達二人を歓迎する。……もちろん入社するかどうかはキミ達二人次第ではあるがね」
社長自らの勧誘が来るなんて思いもしなかった。……孫娘?
「も、もしかして、隊長サンの……?」
「祖父だ。さて、まもなく本部警備隊の人形が引き継ぎに来るはずだが……」
「社長、失礼致します! カルカノM1891が参りました!」
「入りたまえ」
「失礼致します! ……こちらの二人が見学希望の方でしょうか!」
社長室に入ってきたのは一体の戦術人形。綺麗な赤毛のツインテールと空のように青い瞳。華麗な装飾のカラビニエリに似た形状の、ピンクの制服と白いスカートが細身の体のラインを際立たせる。膝上まであるブーツにも繊細な意匠の装飾が施されていて、目にしたその印象は儀仗兵そのものだ。
そして声が大きい。ハキハキとして溌溂として、元気いっぱいという感じは年ごろの子どものよう。
「初めまして、私はアフターグロウ戦術人形部隊の本部警備部隊を率いています、戦術人形カルカノM1891です! 今回お二人をご案内するようにと仰せつかっています!」
軽く自己紹介をすると、彼女──カルカノM1891は凛々しい敬礼をしてみせると、にこやかな笑顔で右手を差し出した。