きゃすたー(7mg)の雑多なネタ倉庫 作:きゃすたー(7mg)
「んんー……」
すぅ、と静かに眠る彼の姿にどこか懐かしさを感じる。まだ小さかったボクのところにやってきた彼に遊んでもらっていたとき、遊び疲れて一緒にベッドでお昼寝していたときを思い出すからなのかもしれない。
ボクにはお父さんが居ない。事故で死んだとママは言っていた。だから昔のボクはユウくんにお父さんのようなものを求めたのかもしれない。その次は兄弟みたいな関係を。自分が女の子だと認識してからは男女の関係になりたいと思っていた。
結果はまあ、ボクが本当に女の子のカラダになったことで少し進展したかもしれない。ボクはユウくんを以前に増して気に掛けるようになったし、ユウくんもボクを女の子として扱ってくれている感じがする。
「んむぅ……パパ……」
ユウくんの隣で寝息を立てるNPC……リアルでのユウくんの子どもにそっくりなこの子はボクにとってどういう存在なのだろう。ただのNPCでしかないのか。それとも妹みたいな子なのか。
ボクはリアルでの玲奈ちゃんは知っているけれど、このNPCのレーナのことは何も知らない。この子にとってボクはどんな存在なのか、ボクにとってこの子はどういう意味を持つ存在なのか。
「──やめよう。まだ、よくわかんないや」
ひとまずは意識を別のものに向けよう。今のボクたちが置かれた状況を整理しなくちゃ。今すぐ女の子になった自分の身体を“確かめる”のもやぶさかじゃないけど、ユウくんはユウくんで突っ走っちゃっていろんなものを後回しにしてしまっている。
ボクがユウくんをしっかりサポートして支えないと────ちょっとは夫婦っぽいかな。うん、今のボクなら実質的にお嫁さんポジションは十分狙える立場だ。
「まず、どうしてこうなってるんだっけ」
ボクたちは普通にオンラインゲームの終了日にログインしていた。ところがゲームは終わらず、まるで現実世界になったみたいに五感が働くしお腹も減る。目に見える景色もどこかヴァーチャル感があったものから本物の景色になっている。体はゲームのアバターと同じままだけど、生理現象もあるしなんなら性欲だってある。
戸惑っていたところにヘレンが突然現れて、野盗に襲われている村を助けてほしいって頼まれた。まるで猪のように村に走っていったユウくんが村を解放して、ブレインとかいう剣士を二日間も見張り続けていた。信用はすぐには手に入らないっていう言葉は理解できるけど、二日間も家族に心配かけさせたユウくんを叱りつけるのがお嫁さんの務めだ。
「……あったかかったなー」
ユウくんに抱きしめられたときの感触が忘れられない。思わず息を呑んだし、顔が熱くなって胸のあたりがきゅっと締め付けられるような感じがして、ゲームかリアルかを確かめるのに初めて下腹部に手を伸ばした瞬間のような切なさに頭の中が真っ白になりそうだった。
男の肉体だったときとは違う。昂ぶるような能動的な感じのものではなくて、切なさと嬉しさを混ぜこぜにしたような受動的な興奮が脳みそを揺さぶってくる。
これがリアルでの身体だったなら“いいから一発しようよ”くらいの言葉とお尻が出たはずなのに、そんなものは欠片も浮かばなくてただひたすらに“嬉しい”という感情が沸き上がってきた。
「でも、野盗がまだ来るかもしれないし……」
ユウくんがブレインとかいう剣士から聞いた話では野盗は“死を撒く剣団”とかいう野盗と傭兵がごっちゃになったような組織らしい。で、今回この村を襲っていたのは盗賊や荒くれが寄り集まったチームだとか。つまりもう片方……傭兵のメンバーたちが彼らを探していてもおかしくないということ。
「……殺す、のかな。殺せるのかな……ボク」
ボクの大切なヒト、大好きな彼はボクたちの目の前で人殺しをした。相手は確かに悪い人で、殺されても仕方がないと言われる側なのはわかる。でも、ボクはユウくんみたいに誰かの命を奪うことができるとは思えない。
かといってこのままだと野盗のもう片方の奴らがこの村に来てしまうかもしれない。その時ユウくんだけじゃ村人全員なんて守り切れない。……どうすればいいんだろう。どう立ち回れば、村人もユウくんも守れるんだろう。
「……怖い、なぁ」
仕方がない、やるしかなかった、相手は悪人だ、言い訳なんていくらでもあるのかもしれない。だけどボクはまだ……人を殺す決心がつかない。相手が悪人だとはいえ、人の未来を奪うことになる行為に対して恐怖してる。これが知性や理性のない魔物の仕業だったりすれば、まだもう少し気が楽なんだろうけど──
「──それだ! 別に殺す必要なんて無いじゃん! 少しの間だけでも追い返せれば──!」
そうだ、“忍者”なんて
「そうだよ、アバターの能力が使えるんなら……忍術が使える!」
すぐにでも考えないと! 野盗がこの村に来たって無傷で追い返す方法を考えよう! ユウくんにばかり頼ってちゃダメなんだ! ボクができることはボクがやらなきゃ! 人殺しなんてできないだろうけど、できないならできないなりに追い払えればいいんだから。
善は急げと見張り櫓の最上段に駆け上って村の周囲を見渡す。後背にあたる南側はなだらかな丘陵地で、村を一望できるだけの高低差がある。翻って、それは村からも見えやすいというわけであるから壁は分厚く頑丈だ。逆に北に面する入り口側は曲がりくねった坂道になっていてまっすぐには村に入ってはこれない。牧草地や農園が広がる村の東西は道も無い傾斜続きだけど、あるのは馬がジャンプしても乗り越えられない程度には高い柵があるだけ。一部が破られていて、そこから野盗が侵入したのかもしれない。一番楽かもしれないと思ってたけど、野盗も同じ考えだったわけか。
「となるとー……東西はトラップを仕掛けて足を遅らせて……南北は警戒網を張るのが得策かな? そこに幻影スキルや幻術スキルを使えば……うん、いけそう」
案は固まった。まずはユウくんに聞いてみないと。ボク一人、しかも戦争なんてド素人のボクじゃ見落としに気づかないかもしれない。それに大事なことは二人で話して決めるって約束したし……えへへ、夫婦の共同作業っていうほどじゃないけどこういうのって夫婦っぽい感じがする!
ああ! いつかはユウくんと湖の見える別荘で誰にも邪魔されずにイチャイチャしてキスしちゃったりされちゃったりからの第一ラウンドが始まって……!
「うぇひひひ……ふひひぃ……ボ、ボクのハジメテを捧げる時がついに……!」
「おいヘレンちゃん、あの子ルイス様の従妹なんだろ。顔見知りなんだからどうにかしてくれよ……櫓に矢避けの板すら張れないぞ」
「そ、そんな……無理ですよぉ……! 私だって今は関わりたくないんですよ……!」
「なんであんな櫓の上でくねくねしてんだ……あれが王都で流行りとか聞いた酒場踊りってやつか?」
「ちげーよ。きっと何かもっと……深いわけがあるんだよ! 多分……!」
「あのくねくねした動きは……スライムか? スライムは水気を好む……つまり、雨ごいか何かか?」
「何言ってんのさアンタ、雨なら四日前に降ったろう。きっとありゃあスライムじゃなくて噂に聞くドライアードってやつさね。ドライアードってのが生まれる場所は豊かな土地だって話もあるんだ。おそらく豊作祈願で間違いないだろうね」
「……ハァ、ハァッ…………ヒビキちゃん……! ヒビキちゃ……ふぅ……」
「おい誰か、ブルーノ縛って吊り上げるの手伝え」
「「「合点承知!」」」
「ちょ、まっ、俺はヒビキちゃんの黒い紐パンを見てただけで……!」
「ギルティ」
「ヘレンちゃんまで!?」
こうしちゃいられない。すぐにユウくんに相談しないと! 道を歩くのもめんどくさいし……屋根伝いに走っていけばいいや!
レベル100の身体能力にものを言わせて屋根に飛び乗り、次々に家から家へと飛び移って走り抜ける。フフン、こんなパルクールも目じゃない動きは忍者だからこそってやつだよね。最後は空中で前転決めつつ華麗な着地! 何十年か前に行われてたオリンピックなら満点間違いないしさ!
「ユウくんっ! 起きてる!?」
ガタンッと勢いよくドアを開いて呼んでみたものの反応が無い。そっと静かに奥の部屋をのぞき込んでみると、ユウくんもレーナもまだぐっすりと眠っていた。……ただしユウくんのお腹の上には浜に打ち上げられたオットセイのようにレーナが伸し掛かっていて、口元から垂れたよだれでユウくんのお腹が濡れている。
対照的にユウくんはうんうんと唸るように寝苦しそうにしていはいるものの起きる気配もない。
「まーだ寝てる……もうっ…………起きないんなら、キ……キスしちゃう、よ?」
顔を近づけても寝息が聞こえるだけだ。……これはもしかしたら、イケるかもしれない。ユウくんは完全に寝てて起きないし、レーナちゃんも眠ったままで邪魔はされない。
「お、起きない、よね? じゃ、じゃあ…………ん」
目を閉じて、息を整えて、少し顔を近づける。唇に触れた感触。数秒間が一時間にも思える時間の間、ドクドクと自分の心臓の音が聞こえてくる。
「…………ふ、ふへへ……やっ、やれば、できるじゃん、ボク……」
今までの自分のチキンぶりを思い出して少し情けなくなるけど、あんなに憶病だったはずなのに誰も見ていないとわかればこれだけできるたのだという実感が湧いてくる。
まだ恥ずかしさで顔が熱いけれど、今度はこれを人目をはばからずにやれるだけの度胸がつけば……!
「んぅ……? なんだ……サヤカ……ああ、ヒビキか……ふぁぁ……もう少し、寝させてくれ……」
……手ごわい、けどボクは負ける気なんかさらさら無いんだからっ!
ヒビキのやつ、変なところで積極的なとこは相変わらずなようだ。リアルでも際どいメイド服やらスリングショットやら着て──ただしリアルでは男の娘ボディだ──迫ってきたのは覚えているが、女になってこれをやるようなら本格的に淑女としての教育が必要になるかもしれない。
押せ押せなときはとことんまで踏み込んでくるのに、押されると逆に引っ込んで恥ずかしがってあわわはわわ状態なのだから、変なところでヘタレるヤツだ。
「よっ、と」
「たかーい! あ、パパ! あっちに山がある!」
「お、ほんとだ。山登りなんかもやってみたいもんだな」
「ねえユウくん、温泉あるかな?」
「どうかな。でもまあ、温泉探しで昇るのもありっちゃありだな」
櫓の上に着くなりレーナが遠くを指差してはしゃぎはじめる。小高い丘が折り重なるように連なる先に平原が続き、その奥に雄大な山脈がそびえたっているのが目に飛び込んでくる。
「それで、トラップを設置するんだったか?」
「うん。南北は見通しがいいし、見張り櫓からでもよく見えるからまず攻めるには不向きでしょ? 逆に東西は森が広がっているし、下りになってる割にそこそこ平坦だから見えづらい。だからこっちにトラップや召喚したモンスターを巡回させて警戒させておこうと思うんだ。
幻術系の設置型トラップで森の中を迷わせて村にたどり着けなくしたり、視界を阻害する効果を持つトラップで村を見えなくするとか……ユウくんはどう思う?」
「いい案だが無効化される可能性は? それに数は?」
「設置型トラップはそこそこ数があるから用意できるよ。無効化するのなら最低でもレンジャーの高レベルスキルが必要かな」
「……使い果たしたら終わりか。なら、アイテムを使わない罠も絡めないとな」
「アイテム無しで罠って作れるの?」
「忘れたのか? ゲーム内じゃ無く限りなく現実に近しいってんならできるんだ。例えば……西側のあの草が多い場所なんかは草を低い場所で結び付けておくだけで即席の転倒トラップにできる。草に紛れて細い糸かロープを張っておいて、鳴子をつけて早期警戒網の代わりにすることもできるし、こちら側への被害を考えない場合は火を放って炎の壁にすることもできる。
東側は斜面は西側に比べて幾らか傾斜があるから、上がり切ったところに土塁を積んで、その手前の斜面を切り崩して平坦にすることで昇れなくするとかもありだ。大きめの石や岩を転がして落石トラップにするとかも安上りな罠になるな」
ほへー、とヒビキは呆けた顔で聞いているが理解できたのだろうか。パリッとした
「な、なるほど!」
「理解できてんのかお前」
「ハハッ、で、できてるに決まってるじゃんかユウくん!」
「ヒビキおねーちゃん、絶対わかってないよね」
「わっ、わかってるし! レーナはわかったの!?」
「んー……よくわかんないけど、アイテムがいらなくて簡単に作れるトラップなんでしょ?」
「その通り。レーナは賢いなぁ」
「ふふーん! ヒビキおねーちゃんには負けないもん!」
「むぐぐ……」
レーナの頭を撫でてやるとヒビキが恨めしそうにこちらを見る。レーナはぺったんこな胸を張ってヒビキに自慢するように勝ち誇った顔をしている。負けず嫌いなところは妻によく似ている。
「あっ! あそこ! パパ! あそこにおっきい街があるよ!」
「どれ……へぇ……城砦になってる」
「あっ、ホントだ! 中世のヨーロッパって感じだね! 余裕ができたら行ってみようよ!」
「そうだな。どの道行くことになるんだろうけど……」
地平線のギリギリのところに見える灰色の城砦都市。このハイスペック吸血鬼ボディでなきゃ見逃してしまうところだった。この距離でそこそこの大きさがあるのだから、実際はかなり大きな都市なのだろう。
「ヒビキ、意見が聞きたい」
「……なぁに?」
「俺はこの村を救いたい。俺にできることをやりたい」
「理由は、聞いてもいいの?」
ヒビキの赤い瞳が俺を見据える。不安なのか表情は浮かないが、それは俺がプレッシャーに押しつぶされたり思いつめたりしていないか心配になっているせいだ。この子はいつも、他の人の心配をするときはこうするのだ。自分のときはなんでもないように振舞っているのに。
「……俺は昔は軍人だった。テロリストや他国の軍と戦って、守れた人も居れば守れなかった人も居た。住む場所を奪われた人や、家族を奪われた人をこの目で見てきた。俺自身も、大切なものを守り切れなかった。
一度は戦うこともやめた……だけど今、目の前で力ない人々が助けを必要としてる。だから俺は彼らにとって当たり前にある大切なものが奪われないように、戦っていくつもりだ」
「……わかった。ユウくんが決めたんだから、きっと大丈夫。それに何かあってもボクだって居るんだし!」
ヒビキの言葉がすり抜けていく。耳から入って頭の中を駆け巡り、それはまるで疾風のように俺の心に灯った火を大きくうねらせて過ぎ去っていく。
……まだまだ子どもだと思っていたけど、もうヒビキを子どもと言うのはダメだなこれは。
「ルイスさまー! 村長が呼んでますよー!」
「わかった! すぐに行く! 二人は家に戻るか?」
「ボクも行く。……正直、ユウくんだけじゃまたいろんなことに首突っ込みそうだし」
「レーナもいく!」
「……わかった。二人とも、くれぐれも、静かにな」
正直言ってヒビキの言葉が無ければまた首を突っ込んでいたかもしれない。目の前で虐げられる人々が居るのもあるが、踏み入ってしまった以上知らぬふりができないのも確かだ。ヒビキが居るお陰でレーナやキリの面倒を任せられる……そんな考えが自分の中で、それも自分で気づかない奥底で存在しているせいでもあるのだろう。
「ようこそ、おいでくださいました。ヘレン、ありがとう」
「ああ、待たせてすまない」
「お邪魔します」
「お邪魔しまーす!」
木造の簡素な家の扉を開けるとサムエル村長が出迎えてくれた。隣には彼の妻のバーバラが控えていて、すぐに応接室へと通されたが、その応接室はお世辞にも綺麗だとは言えない。
刃物が突き立てられたらしい傷跡が生々しく残る柱。椅子もテーブルも古い木製のもので、足元がぐらついたりして頑丈そうには思えない。装飾品や調度品なんかもあったのだろうが、そんなものは一切無くただ無機質な白いカーテンがある小窓が三つ並んでいるだけだ。
「殺風景で申し訳ありませんな」
「お気遣いなく。本日はどのような用件で?」
「実は村を救って頂いた件について、少ないものですがお礼の品をと思いまして……あまり大したものはご用意できなかったのですが……」
「ああ……村長殿、実は報酬の件については話がついている」
「……と申されますと?」
どの道野盗が奪い去った後のこの村に金目のものなどほとんど残っていないのだ。なけなしの報酬などを俺に支払うよりも、もっと後々のためになるものを得なければ意味が無い。この世界で生きていかざるを得ない場合にまず必要になるものがあるのだ。
「ヘレン、彼女に助けを求められたときに俺は彼女にこう言った。“報酬よりもヒビキとレーナを頼む”と。ヘレン、間違いないな?」
「……あ、はい。特に何かできたわけでもないですけど……」
「まあそういうわけだ。俺もヒビキもレーナも、ヘレンの世話になっている。でもまあそれで納得するとも思えないんで、こういうのはどうかな?
俺とヒビキ、レーナ、それにキリを加えた四名。しばらくこの村に置いてはくれないか? 家は今あるのをそのまま使わせてくれればいいし、有事の際は俺も剣を振るう。まあブレインを雇うついでに俺たちを村に置いてほしいんだ。俺としてもそのほうが活動しやすい」
「村に滞在するということですか。それでしたら我々としては構いませんが……しかし、この村はもう……長くは無いでしょう」
「……ねぇユウくん、何かあったの?」
「まあ、な」
そういえば二人に詳しい事情を説明していなかったな。俺がわざわざこんな方便を使ってまで村に残ろうとしているのは偏にこの問題が村の存亡に関わる一大事だというのも理由の一つだ。
「野盗がすでに村の食料を運び出してしまったらしい」
「……ごはん、無いの?」
「レーナの言う通りだ。この村はご飯が無いんだ」
「でも盗っていった人たちを見つけたら、パパが取り返せるんでしょ?」
「レーナ、見つけられればだよ。もう野盗たちの一部は逃げた後なんだ。追いかけても見つけられないんだ」
既に日中には運び出されていたらしいから俺が到着したときにはすでにかなりの距離を移動していることだろう。この広大なアベリオン丘陵の裾野をくまなく探して痕跡を当たれば見つかる可能性が無いわけではないが、その間にも村人たちは飢えに苦しんでいくことになる。
「……で、ユウくんは村の人たちが食べるご飯が無いからどうにかしようって思ってるんでしょ?」
「────そう、なるな」
「わかった、ボクも手伝うよ。…………で、具体的には?」
胸を張ってヒビキが言うものの、いい案があるわけではないらしい。ひと先ず今の俺たちで何ができるのか、どれだけの猶予があるのか、どのような伝手があるのかを確認しなければ。
「村長、村の食料はどれだけ持ちそうだろう?」
「……切り詰めても二週間でしょう。ですが収穫が遅れている場所があるので、そこを刈り取ればもう少し……一か月少々は持つはずです。ですが冬を乗り切るには心もとないどころか全く足りておりません。しかも捕えた野盗どもを領主の軍に引き渡すとなると、それまで彼らにも食事を与えなければなりません」
「なら、この付近に狩り場はあるか?」
「二か所ほどなら。しかし収穫に当たるとなると人手が足りないのが現実です。男手は兵役で減り、そこに野盗の襲撃で殺され、もはやこの村は女子供と老人が多くを占めている状態です」
「……厳しいな。ここからすぐ近くにある大都市や農作地は? それと村を訪れる商人や役人などは?」
「近い都市ですと私たちの属する領土の都市エ・ペスペルでしょう。東に行けばエ・ランテルという都市があり、バハルス帝国、スレイン法国と領土を接していますので交易商人も多く立ち寄る街です。
残念ながらこの村に商人が訪れるというのは滅多にございません。役人も徴税や検地を行う場合に来る程度で、それ以外は兵士が二か月に一度ほど巡回する程度でございます」
こ、これはなんとも……戦国系の
となると、やれるのは一つしかない。
「……即座に外貨を稼いで食料を買い付けるしかないか」
「はい。しかし外貨を稼ぎたくともその人手が……」
「ままならんなこりゃ。だがどこかで腹を決めてやるしかないぞ。放っておいたらここの村人までもが野盗化しかねない」
「……わ、私たち、が……?」
おそらくヘレンには想像もできなかったのだろう。自分たちがあのおぞましい存在になり果てるなど、まだ年若い彼女には考えが及ばない範囲であるのは確かだ。
「……辛いようだが言っておくぞヘレン。人間っていうのはな、追い込まれればなんだってやるんだ。死を覚悟した存在ほど恐ろしいものはない……兵士も平民も、動物やモンスターもだ。
やらなければ死ぬという覚悟がキマッたヤツらはまさに死を恐れない。当然だ。すでに死を受け入れて前に進んでくるんだから。……例え剣で斬られ矢で射られようと、そいつらは決して止まらない。どこまでも突き進んで獲物を狩ることしか頭にないんだ」
「ルイス様の言う通りだ。私もかつて冒険者であったころ、そういう奴らを目にしたことがある……」
……冒険者? それはアレか、ヘレンが言っていたあの冒険者なのか?
「ねえ村長さん、冒険者ってなに?」
「んむ、レーナちゃんも冒険者に興味があるのかい?」
「うん! 冒険者ってモモおじさんやヘロおじさんみたいな人でしょ? ダンジョンに潜ったり冒険したりするんでしょ? バーッとモンスターに走って行ってドーンッて倒しちゃうんでしょ?」
「んん? 冒険者っていうのはモンスターを退治してくれる人のことだよ。でもきっとそのおじさんたちも強かったんだろうね。ルイス様のご友人なのであれば、きっとオリハルコン級も目じゃないお方々だろう」
どうやら冒険者というものについて認識に齟齬があるようだ。俺たちは冒険者と言えば未開のフィールドを探索したり調査をするのが冒険者という認識だが、村長たちからするとモンスター退治を請け負う者たちを指しているようだ。敢えて振り分けるとすればだが、俺たちの側なら“探索者”とか“探検隊”が最適かもしれない。逆に後者はモンスター退治を主とした“傭兵”や“PMC”のようなものだ。
だったらちょうどいい。元PMC所属の非正規戦部隊で腕を鳴らした男がここに居る。
「村長、こっちの冒険者は端的に言って……儲かるのか?」
「ああ、ルイス様たちはアベリオン丘陵の遥か向こうから来られたのでしたな。まあ、依頼に因るかと。難度の高い依頼であれば儲けがあるでしょうが、登録したての“
「なら、ランクが上がれば問題ないわけだな?」
「はい。ですが昇級試験などもありますので、易々とは。ああ、そういえば帝国では冒険者組合もありますが、ワーカーも多いと聞きます」
「……ワーカー?」
「はい。組合を通さずに各々で依頼を受け、報酬を得ている者たちですな」
「……まさしく傭兵の亜種なわけだ。ものによっては
「そ、そんな……ボ、ボクたちの、ぬ、濡れ場なんて他の人に見せるわけないじゃんかぁ……もうっ」
「ちげーからそのピンク色の脳みそを一回洗浄してこい。村長もバーバラさんも引いてるぞ」
頬を桜色に染め、にへら、と笑ったヒビキの言葉に村長も奥さんも絶句している。そしてレーナの耳を塞いでいるヘレン、ファインプレーだ。MVP間違いなしだ。後でご褒美にユグドラシル産の高級生ハムを食べさせてあげよう。元はデータとはいえ、実体化しているのなら食べられるはずだし。
「とにかく外貨稼ぎをしつつ食料を買うしかないか。他にも食料が手に入る伝手があればなおいいんだが……」
「パパ、お魚さんは? キリがずっと食べたがってたよ?」
「……お手柄だレーナ! そういやそうだ、南側の丘の上の池に魚が居るんだから食えばいいんだ」
「ははは、ルイス様、あそこは森しかありませんよ」
「あの、叔父様……ルイス様の仰る通り、池ができてました。……私にも何がなんだかわからないんですけど」
「……ヘレンちゃん、流石に冗談だろう? 何もない森の中に池が突然できるわけがないんだから」
「叔父様、認めたくないのはわかりますが……本当です。私も最初は目を疑いましたが、確かに池が出来ています」
村長は顔を覆うように手を当てて空を仰ぎ始めた。どうやら自分の頭の中を整理しているのだろう。もしくは現実を受け止めようと必死になっているかだ。
「うむ、であれば今しばらくは持つことでしょう。魚の調理法はあまり詳しくはありませんが、なに、焼けば大概のものは食えるものです」
あ、コレ諦めて開き直ったパターンじゃん。村長にとって理外の出来事らしく処理しきれなかったのだろう。まあ普通なら森の中に池ごと異世界にやってくるヤツなんぞ、誰も予想できないだろうが。でもその加熱すりゃオッケー的な思考はやめたげて。主に村人の胃のために。
「と、とにかく……外貨稼ぎは必須だな。防衛はブレインに任せて、キリとレーナにはしばらくは村に住んでもらおう。冒険者になって外貨を稼ぐのは俺とヒビキでやろう。あとは領主の軍に野盗どもの身柄を引き取りにこさせて、ついでに望みは薄いが来年度の税の免除を請う書状なども必要だろう。
……ヒビキ、急で悪いが、手伝ってくれるか?」
「もっちろん! 未来の旦那様を支えるのも妻の役目だもんね!」
「勝手に関係を捏造するんじゃないの」
「もうっ、ちょっとしたジョークだよぉ?」
お前が言うとジョークに聞こえないんだ。俺に鼻息荒げに迫ってくるし押し倒そうとするしエロい衣装で誘ってくるしで、まったくもって信用できない。実際押し倒されたしあの衣装で跨られたりした。リアルでだが。
「もうおしごとなの?」
「お仕事。でも帰ってきたらお腹いっぱいになるくらいご飯食べれるぞー」
「パパ、ケーキ食べたい! ケーキがいい!」
「ケ、ケーキは難しいかもな……ハハ……クッキーくらいならどうにかできるか……?」
「じゃあクッキー! お留守番してるからいっぱい買ってきて!」
……甘いものに目が無いというフレーバーテキストまで忠実に再現されてるのかぁ。この先お菓子を買うか作るかするためにどれだけお金がかかるやら……お財布引き締めよう。
「そうですな。望みは薄くとも、やれるだけのことはやりませんと。野盗を捕えた褒賞でも出ればいいのですが……」
「そこは交渉次第だろうな。行きの道中は俺が護衛しよう。帰り道は運が良ければ領主の軍に同行して帰るのがベストだろう。無ければ護衛にコウモリをいくらかつけておくさ。
俺たちもしばらく住まわせてもらうんだ。できるだけの手伝いをするとも」
「……まことにありがとうございます。村を代表してお礼を申し上げます。エ・ペスペルへ向かう者はこちらで選んでおきますので、明日の朝までゆっくり休んで英気を養ってください」
明日からは忙しそうだ。冒険者になって外貨を稼ぎ、食料を買い付けて村に送るという生活をすることになるだろう。レーナにもしばらくは会えないだろうが、キリやコウモリ軍団を護衛につけておけばいいし、最悪の場合<
ま、ブレインの強さがこの世界の上位クラスなのだと考えれば、ブレイン一人いれば十分な時間稼ぎになる。キリが護衛につくのならさらに安泰だろう。キリはさすがにレイドボスクラスだけあって、幼いとはいえ速度はレベル50のプレイヤーにも匹敵するステータスだ。オマケにコウモリ軍団が周辺警戒に当たるのだから盤石だ。……そう思いたいのに不安が尽きないのは親心のせいなのだろうか。
ふぅ、と思わずため息が漏れる。面と向かって相対した彼、ルイス・ローデンバッハ氏は間違いなく貴族かそれに連なる出自なのだとはっきり身をもって感じられた。しかし宮廷貴族のような迂遠な言い回しや曖昧な問いは無く、常に率直で踏み込んでくるような問いかけだ。
貴族の中でも武闘派……だが戦場での槍働きや戦功が第一という人間ではなく、軍政に長けた人物なのだと質疑の中で次第に理解することができた。
食料の備蓄、継続的に確保可能な食料の有無、更には周囲から手に入れる方法があるかなど、彼の頭の中では様々な可能性が考えられているのだ。そしてそこからどうすれば効率的に、迅速に村の食糧難を解決できるかを模索してくれていたのだ。
そして食料が無い場合のこの村の未来さえも、彼はすでに予期しているのだろう。食い詰め、野盗になるか共食いになるか……あるいはすべてを捨てて移住するかだ。それを防ぐために彼は全力を尽くしてくれている。
「……しかし、何故、ルイス様はこうまでして……」
わからない。そこだけが未だ持って不明のままだ。私には理解できない何かがあるのかもしれない。
「叔父様、ルイス様が故郷をビーストマンの手によって失ったことは聞いてますよね?」
「ああ、聞いているよ」
「……盗み聞きするつもりはなかったのですが、“目の前で力ない人々が助けを必要としてる。だから俺は彼らにとって当たり前にある大切なものが奪われないように、戦っていくつもりだ”と仰っていました。
あのお方自身大切なものを失って辛いはずなのに、何の関係もない私たちが彼と同じように奪われるのを忌避しているんです。自分が傷ついているのに、それでも私たちを助けるために剣を振るってくれたんです。私たちが、あの人と同じ悲しみを負わないように、繰り返さないようにと願って。
叔父様、私は……ルイス様を信じます。自分自身を賭けてまで私たちを救ってくれた、あの方を信じています」
「ヘレン……」
当たり前にある大切なもの。私にとってそれは妻であり、弟夫婦とその娘であるヘレンだった。兄弟揃って畑仕事に精を出し、家族総出で収穫を行って、村の皆と豊作を祝って飲み食いする。一日が始まって友人たちと畑に出て、各々の家内に関する愚痴を聞いたり言ったりしながら一日が過ぎていく。
そんな平凡な一日。起きて友人たちと共に仕事をし、家に帰って家族と共に過ごし、そして眠る。ごく普通の、ありきたりな……いや……当たり前、だからこそ大切なものなのだ。それを守るために、ルイス様は剣を振るってくれたのか。
「やってみせねばな」
この村は救われた。だがまだ先は見えず、暗雲が立ち込めるばかりだ。だけどきっとこの嵐を乗り切ることができたならば────その先に、新しい“当たり前の”平和な日常があるのかもしれない。
いきなりキャラクター解説
主人公
ルイス・ローデンバッハ(リアル名・朝倉悠里)
最初は普通にAOGの一人として設定して作っていたが何故かソロプレイヤーになってた。ちなみに嫁役はヒビキ。
えっちぃメイドコスのヒビキと娘という設定のNPCレーナとの三人で繰り広げるドタバタコメディ風オーバーロードになる予定だった。
モモおじとヘロおじが加わってフル〇ウスみたいになってたかもしれない。あるいはアダ〇スファ〇リー。
初期設定では普通に吸血鬼。捻ったものもなく、普通の吸血鬼。エインヘリヤルを使うとザ・〇ールド的なスタンドもどきが出たりする予定だった。
アバターは金髪赤目の軽鎧の戦士。ローブ装備。使用武器は身の丈はあるツヴァイヘンダーかクレイモアを片手で軽くブンブンする予定だった。
ヒロイン枠
ヒビキ(リアル名・高村ヒビキ リアルでは♂→転移して♀)
初期設定から何一つ変わってないヤツ。最初から男の娘だったし、異世界に飛んでTSしちゃうし、割とドスケベだし、ユウくんに一途な子。
黒髪のボブカットで貧乳ロリ系のえっちぃメイドさん。アバターでも、リアルでも。
イメージ的には某お空のファンタジーに出る干支のネズミ。ただし積極的だしドスケベ。
原作キャラ
モモンガ
我らが骨様。初期設定ではツッコミもボケもやらせる気だった。ただしボケは須らくボケ殺しに遭う模様。主人公とヘロヘロをあわせて三バカみたいな関係が長いため、原作よりも割とアクティブで能天気でノリがよい。
ヘロヘロ
ウ〇コの真似ができるスライム。初期案では主人公がボケてヘロヘロが煽りモモンガがツッコミを入れるパターンが多かった。
AI設定したという関係性から、レーナが両親(主人公&ヒビキ)の次に懐いている存在。ジェシーおいたん枠。