きゃすたー(7mg)の雑多なネタ倉庫   作:きゃすたー(7mg)

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BGMに勇者の挑戦を垂れ流しつつ書いたらこうなった


オバロ試作品13

 湖を回り込んで歩いていくこと数時間、最初に湖を眺めた場所のちょうど反対側にようやくついたらしい。しかし湖から伸びる街道はさらに丘の向こうへ伸びていて、また上り坂を登る羽目になるのだろうと考えると気が滅入ってきそうだ。この世界の文明レベルから見ても交通の便が悪いのは確かだが、何故あんな辺鄙な山奥に村人たちが住むことになったのだろうか。

 

「ビョルン翁……一つ、尋ねたいのだが」

「なんですかな?」

「……グリプスホルム村だが、なんであんな僻地に村を興したので?」

「ううむ……そうじゃろうなぁ、そう思うのも仕方がないじゃろう」

「交通の便は悪い。これといった名産品で潤っているわけでもない。麦は良質だそうだが、農地がそこまで広くないから量はあまり多く獲れるわけでもない。湖は村よりも低い場所にあるし、豊かな水源が近いわけでもないし、はっきり言ってどうして村なんてものが形成されたのかが不思議で仕方がない」

 

 ううむ、とビョルン翁は悩まし気に真っ白になった顎髭を撫でる。村が起きたからには何かしらの理由があってのことなのだろうが、何故悩む必要があるのだろうか。

 

「ビョルンのじい様、ルイス様になら問題ないかと」

「メルケル、しかし、これはどう説明したものか……」

「わかってることを伝えてみりゃいいじゃないか、じい様よぉ。どうせ俺たちが考えたってわかんねーことなんだし」

「……かもしれんなぁ。少しばかり昔ばなしですが、構いませんかな?」

「頼む」

「儂も伝え聞いた話、村の起こりは400年よりも以前……八欲王が現れ、世界を混沌に陥れたころであったと言われておる。それ以前のヒトはビーストマン以外にも異形の者たちなどに追い立てられて世界の片隅へと押し込められ、緩やかに滅びの道を歩んでおったらしい。ヒトの近縁の種の中には苛烈なまでに迫害され、遂には滅亡した種すらあったそうじゃ。

 だがそこに六大神が降臨しビーストマンや異形の者たちを打ち払い、今の人々が暮らす領域が形作られたという。その際に六大神に付き従う従属神たちが戦の折に主より命を受け、陣を敷いたのが今のグリプスホルム村だったそうじゃ。我々の祖はその戦いに於いて六大神に助力した勇士たちから始まったと伝わっておる。

 しかし世界を手中に収めんとする八欲王との戦いに於いて六大神の最後の一柱スルシャーナとその他の六大神の従属神、それに加勢した勇士たちは悉くが滅ぼされたとのこと。唯一生き残った若者とある従属神が子を成したそうですが、その従属神も色欲を司る八欲王によって連れ去られ、若者がどうにか子を連れて命からがら逃げ延びた地がグリプスホルムの陣の跡だったとか。

 彼らの子を逃がすために戦った六大神の最後の一柱と八欲王との戦いは天地が裂け、時も凍てつく激戦を繰り広げ、放たれた六大神の、或いは八欲王の剣や魔法によって元は平野でしかなかったこの場所にグリプスホルム湖や丘陵地が作られたと言われておる」

 

 また知らない単語が山のように出てきたぞ。六大神に八欲王、従属神なんて聞いたことが無い。聞いた感じではこの世界の創世神話ってわけでもないだろうし、これが創世神話であるのなら500年程度でこれだけの文明レベルを形作ったということになる。

 ホモサピエンス……リアルでの人類は今のこの世界の水準の文明レベルに至るまでに何千年とかけているのだ。人類種が他の長命な種族たちと比較して世代交代や変化の速度が速いと言ってもたった500年でここまでくることはできないだろう。

 

「なるほど。大体わかった」

 

 とりあえず今はおおよそ理解しました程度の返しでいいだろう。深い考察や推測はするべきじゃない。

 

「要するに神様の子なわけだ。しかし八欲王の目に留まるのを避けるために、敢えてこんな山奥の深い場所に住んでいたと」

「そうなりますな。まあ、その八欲王も既に滅んで久しいものですが」

 

 どうやら八欲王とかいうのはクソッタレだったらしい。まあ事実がどうなのかは実際に目にしたわけでもなく、詳細なかつ信ぴょう性のある記録を読んだわけでもないのでわからないが、こういう話が伝わっているということは少なからず事実が含まれている可能性がある。

 そのまま素直に読み解けば、八欲王は六大神という人類種の味方──というか最後の一体であるスルシャーナ──を葬り去り、生き残った数少ない従属神とやらに恥辱の限りを尽くしただろうことは想像するに難くない。

 あの隆起した岩や巨大な湖が六大神や八欲王の戦いの痕跡だと言うのなら、とんでもない戦いを繰り広げたのだろう。おそらくこの世界の住人では到底及びもつかないような……いや、まさか──

 

「プレイヤー?」

「ぷれい、やー?」

「ああ、いや、少し深読みしすぎただけだ。おそらく俺の考えすぎだな」

 

 危ない。思わず声に出しているとか何をやっているんだ俺は。

 とはいえ考えてみればこの可能性があり得ないというのは“あり得ない”のだ。なんせ俺やヒビキ、果てはレーナやキリまでもがこの世界にやってきているのだ。レベル100のプレイヤーやNPCなら天地がぶっ壊れるような超位魔法やワールドアイテムを行使していたって不思議ではない。

 実際、俺もアイテムボックス内に入れてあるとはいえワールドアイテムをこの世界に持ち込んでしまっているのだ。効果は相手の状態異常耐性を無視して石化を付与し続けるのが第一にあり、第二に自身のスキル・魔法の持続時間や範囲や効力が上昇するっていう程度の地味なもので、直接的な被害を及ぼすようなものではない。だが使い方次第では都市丸ごと灼熱地獄に変えるとかポンペイのように住人全てを石像に変えてしまうようなこともできるだろう。あとはオマケ程度に効果範囲が目に見えるようになっているくらいだ。

 もしも俺たち以外にもプレイヤーがこの世界に来ているのだと仮定すると、六大神や八欲王はプレイヤーに相当し、従属神はNPCに相当するだろう。そしておそらくだが、NPCも居るということは“ギルド拠点がそのまま飛んでくる”可能性があるということでもある。

 

 つまり、俺のホームである白の館がこの世界のどこかにあるかもしれないわけだ。しかし同時に他のギルド──アインズ・ウール・ゴウンのナザリックやネコさま大王国、2ch連合など大手ギルドの拠点が丸ごとポンとこの世界のどこかに存在しているかもしれないのだ。

 もし拠点すらない俺が高ランクギルド所属で拠点を持つヤツにかち合いでもすれば、不利どころか反撃すらできないままタコ殴りにされるかもしれない。引いてはその牙がヒビキやレーナたちにまで向くかもしれないのだ。せめてかつての所属ギルドである“夜の帝国”のホームである“紅き館”があれば、再加入申請をすることもワンチャンありえるのかもしれないが……望みは薄いかもしれない。

 

「しかしよく生き延びられたものだな。六大神の末裔ともなれば八欲王は血眼で探し出して“根切り”を行うはずだろう?」

「然りに。お考えの通り幾度も命を狙われたそうですが八欲王と竜たちの戦いが始まったことで難を逃れたそうな。そして竜たちをも退けて世界を支配したと言われる八欲王も、最後には己たちの欲望によってお互いに殺し合うようになり、最後には滅び去ったと伝え聞いておるよ」

「……因果応報だな。やったのが善行であったなら、今頃にまで悪し様を語られることもなかったろうに」

 

 八欲王はお互いに殺し合った? どういうことだ? 同じギルドに所属していたわけではなかったのか? それとも同じギルドのメンバーでありながら最終的に対立したということか? ギルドごとやってきたのなら滅び去ったのだとしても世界のどこかにその痕跡があるかもしれない。時間が出来たら探し出して現実世界への帰還方法も見つけたいところだが──

 

「ねえおじいちゃん、その“六大神”っていうのは倒されたんでしょ? 従属神ってどんなかんじだったの?」

「文字通り、六大神に仕える従者だったそうじゃ。しかし中には特定の分野に於いては六大神以上とさえ言われた従属神もおったという。

 我々の祖はその従属神の中でも、あらゆる病や怪我を癒したとされる女神だったと伝え聞いておる」

「へぇー、神様と結婚するなんて結構すごい人だったんだ」

「まあ伝え聞いた話じゃから、そう真に受けるものでもないのう。あくまで言い伝えじゃからな」

「でもさ、やっぱり親近感湧いちゃうよねぇ。二人きりで愛の逃避行なんてさぁ。ボクもユウくんも故郷には帰れなさそうだし……あ、でもボクはユウくんさえいればオールハッピーだから大丈夫だよ! 

 いつかは眺めのいい場所に家を建てて~、毎朝行ってきますのチューをして~! 子どもも6人……いや9人くらい頑張ったりたりして……! うへへへ~!」

 

 まーた始めやがったぞおい。保護者どこだよ保護者は。…………ミサトさんに全ての責任を押し付けたいけど、今は俺しか保護者が居ないんだよなぁ。ちくしょうめ、あの青空の向こうの星空のどこかで満面の笑みでサムズアップ決めてやがるに違いない。

 

「はいはい。もうちょっとおしとやかになろうなー」

「いっっだだだだ! やめっ、アイアンクローはやめてよぉ~! うぅっ……い、痛いよ、ユウくん……

「お前の保護者はミサトさんじゃなくて、今は俺しかいないんだぞ? もうちょっと節度を持つんだ」

 

 ……ちょっと涙目で恨めし気に俺を見たって態度は変わらんぞ。もうちょっと女の子だという自覚を持たないと、お前に淡い恋心を抱いているイェリク君がドン引きし──

 

「…………ちょっと泣いてるのも、かわいい……」

 

 ──てなかった。イェリクおめーさては上級者の素質あるな? だが女の子の涙は嬉し涙であるべきなのだ。女の子を悲しませたり痛みで泣かせたりするのはするべきではないのだ。かのエロ伝道師、脳内ピンクのエロゲマニアバードマン、ペロロンチーノもこう言っていたのだ。

 

『凌辱も鬼畜もやってきたし涙目の女の子って好きだけどさ、やっぱ純愛モノの心と涙腺にくる展開は王道だわ。その上でヤる甘々なイチャラブックスはビンッとくるね。────姉貴の声でなければな!

『聞こえてんぞ愚弟』

『しゅ、しゅびばしぇんでしひゃ……』

 

 ……いや、エロゲだから最後にはあれやこれやになるのは目に見えてるんだけどな。俺も女の子を悲しませる真似はしたくはないし、しないように心がけている。まあ実際は何度か病院に担ぎ込まれて妻に心配されまくったのだが。

 

「むぅーっ、それでも女の子の顔にアイアンクローなんてひどいよ!」

「じゃあ突然妄想を口から垂れ流さないように仮面でもつけてみるか? もちろん例の嫉妬マスクをな!」

「げぇっ、あれはヤダ! 独り者にだけ贈られたあのクリスマスボッチ限定装備なんてヤダ~! ボクにはユウくんっていうステキなヒトが居るんだからそんなの絶対着けないもんね! ……ボクもいつかユウくんとクリスマスックスしたいなぁ……うひひ、うひぇひぇ……」

「よーし、ヒビキは村に戻るらしいからさっさとエ・ペスペルに行こうか」

待ってゴメン! 反省したから置いていくのだけはやめてよぉ~!」

 

 コイツ、日に日に性欲の(たが)が外れてきてるんじゃないか? 夜中に時々音消しの忍術使ってるのは完璧にバレてんだぞ。所持しているワールドアイテムのせいか、魔法やスキルの効果範囲がある程度だがぼんやりと見えているせいで、ブレインを見張っている間にも何度か一人でヤッてることくらい丸わかりなのだ。

 

「大変じゃなあ、ルイス殿」

「大変なんだな、大将」

「心中お察しする」

「……妬ましい。これが、嫉妬……?」

「俺を憐れむのはやめてくれ。というかやめろ。あとイェリク、勝手にひがむな」

 

 

 

 

 丘を越え、小川が傍に流れる街道を歩き続ける。線路は続くよ……という出だしではないが、道はどこまでも真っすぐ続いていて村や畑が見えてくるわけでもない。周囲一帯は低木の生い茂る高原地帯の原っぱのようで、まばらに木々が点在しているばかりの平野が続いている。

 時々視線や気配を感じるのはモンスターか野生動物の類だろう。俺が顔を向けるだけですぐに離れていく。

 

「イェリク、このあたりって動物はなにが居るの?」

「野生のウマとかヒツジとかヤギとか……あとはオオカミとかヤマネコだよ。もっと小さいのならいっぱい居るかもしれないけど」

「猫かぁ……ボクも猫欲しいなぁ。レーナにはキリが居るし、ボクにも、こう、相棒的なのが欲しい!」

「じ、じゃあ……お……お、俺と…………としては! お、オオカミよりも犬のほうがいいかもな! 従順だし、毛並みもいいし、頭もいい!」

「そう? うーん……<口寄せ>で呼べる子が居るし、それもアリかなぁ」

「あとは森の深い場所はゴブリンやオーガなんかも居るし、中にはオオカミを飼いならすヤツも居るって聞いたことがあるぜ。森に近づいた人を攫って食ったりするらしいし……」

 

 なるほど。つまり村長の言っていた冒険者ってやつはイェリクが言うように人喰いなどで人間に危害を加えるモンスターを退治するわけだ。この様子ならアンデッド系のモンスターなども存在するかもしれない。

 ヒビキには主にアンデッド系のモンスター狩りを行ってもらい、俺が生物系のモンスターを相手取ると棲み分けるのが一番いいだろう。特にヒビキの精神──善性は他者の命を奪う行為を嫌っているのだから、そもそもそういう事態にならない狩り場であれば何も問題は無いはずだ。

 

「さて、太陽もてっぺんまで来たし昼飯にするか。じい様も疲れてるころだろうし」

「抜かせ(わっぱ)が。アラン、魚を食いたいだけじゃろ」

「そりゃー俺だって魚なんて初めて食うんだ。どんな味か気になるだろ? メルケルだって食ったことないだろ?」

「一度だけある。昔エ・ペスペルからの帰り道で食料が尽きかけたとき、通りがかった冒険者が魚を獲って焼いてくれた」

「ほう、どうじゃった?」

「美味だ。小骨が少々あるが、それに気を付ければどうということはない」

「……そりゃ楽しみだ。あーあ、酒がありゃあなぁ」

「まったくもって同感だ。焼き魚があれば酒が数段ウマイんだ」

 

 ああ、考えただけでも腹が減ってきた。これはもう飲んで食ってとやるしかないレベルの空きっ腹だ。

 

「おっ、あの大きい木の下でメシにしよう。他の場所より小高くて他の木が無いから見通しやすくていい」

 

 そんなアランの先導の下、大きく育った広葉樹の木陰に腰を下ろす。近くから集めてきた枝木を組んで周りを石を積んで囲った風よけをつくり、火を着けようとするものの──

 

「<ファイアーボール>で…………いや……ダメだな、消し炭になるだけか」

「世の中にはモンスターに向けて撃つだけじゃなくて、小さな火を起こすだけの魔法もあるらしいですがねぇ。まあ魔法の使えない俺たちにゃ縁のないものですよ」

「火は俺が起こそう。じい様は休んでいてくれ。アランとイェリクはもう少し薪を集めてくれ」

「あいよーメルケル。イェリク、いくぞ~」

 

 やることが無いから仕方がない、俺たちは魚の下処理でもするか。料理道具の一つとして持っている“無限の水差し”を取り出し、適当な平たい岩をまな板がわりにして魚のウロコを片刃のサバイバルナイフの背を使ってはがしていく。サイズがそこそこあるだけにウロコも相応に大きく、焼けば食べ応えがあるだろう。

 

「よし……ヒビキ、水をかけて流してくれ」

「はーい」

 

 水差しから出る水の流量は少ないものの洗い流すには十分だ。……思えばどういう原理でこの水差しは機能しているんだろうか? 

 

「これくらいでいいの?」

「ああ。後は内臓を取って……串を刺す。が、その前に消毒だな」

 

 洗ったナイフの刃を焚火の中に突っ込んで直接炙ることで殺菌し、一度ナイフを自然に冷ましたら魚の腹を裂いて内臓を取り出し、若干離れた場所にそこそこ深く掘った穴に投げ込んでいく。野生動物が嗅ぎつけて俺たちに近寄ってくるのは避けたいし、食べ終えた骨なども処理したい。

 適当に真っすぐな枝を切って葉を落とし、先端をナイフで削って尖らせて魚を刺せば準備は万端だ。あとは少し塩を振りかけて焼くだけで焼き魚のできあがりだ。

 ……教官に見せられたサバイバルの手引きとかいう映像教本では倒木の幹に就寝中のイモムシが昼食になっていたが、俺たちは魚を獲って昼飯にすることができた。貴重なタンパク源だとか言われてもイモムシを生で口にするのは、本当に命の危険があるほどの飢餓状態でなければ無理だろう。

 

「ほら、お待ちかねだ。ちょっとかかるが、後は焼けるのを待つだけだぞ」

「おお~……こいつぁ……美味そうだ」

 

 煌々と燃える焚火の傍に串を突き刺し、火でじっくりと焼き上げていく。皮が炎の熱で膨張し、その下にある身から湧き出る脂が焼けて芳しい香りを放ち始める。

 

「……むぅ、これはまた……腹が減る光景じゃなぁ」

「ああ、でも待つこともまた料理ってもの……故にガマンだ。それにまだ今の状態じゃ生焼けだ。もっとしっかり火を通さないとな。俺は腹を下したくない」

「くぅーっ……生焼けどころか俺たちが生殺しだぜこりゃ……」

 

 皮に黄金色の焦げ目が付き、脂がさらに滴るようになったところで魚を回転させて満遍なく火を通していく。途中で少し塩を追加しておいたが、塩気が効いてさらにウマイことだろう。そういえばサバイバルではバナナの葉で包んで蒸し焼きにするなんてのもあったな。昔の料理であれば塩釜焼きというのもあるらしいが、この文明レベルでは塩は貴重品だろうから、オーソドックスな焼き方が一番だ。

 

「……いい頃合いだ」

「じゃ、じゃあ……!」

「イェリク、ガマンした甲斐があるぞ。ようし、食べるとするか!」

「待ってました大将ォ!」

「ウム、この歳でこうも心躍る出来事に(まみ)えようとは……!」

「ちょっとだけ待ってくれよ…………<生命探知(ディテクト・ライフ)>…………よし、いけるぞ」

 

 魚の身を丁寧にほぐしてとりわけつつ、寄生虫の痕跡が無いかを確認する。一応魔法で確認はしたものの、実際に目で見て確かめるのも大事なことなのだ。しっかりと火を通しているから寄生虫が居ても死滅している。とはいえそれはリアルでのお話でしかなく、ここでは火に耐える寄生虫なんてものが居ないとも限らないのだ。目で見て確認して、居たら排除する。そして再度魔法で生体反応が無いか調べる。

 養殖でならそもそも寄生虫の対策を行うのが当たり前だろうが、俺たちが獲ったのは野生の魚なのだ。リアルでなら病院に行けば済む話ではあるが、ここにそんなものは存在しておらず、医者すらいるか怪しい。居たとしても対症療法くらいのものだろうし、細菌や寄生虫という概念すら存在していないだろう。

 

「では、僭越ながら儂がやろう。“主よ、我らが祖たる六大神よ、哀れな羊たちに一日の糧をお恵みくださったことを伏して感謝致します。我らの寄る辺、守りたる砦、我らを救い給うた御方よ。願わくば子らに遍く救済の道が開かれんことを祈って……”」

「「「“主に、祈りを”」」」

 

 うーん……六大神は最早信仰の領域だったか。これほどまでに敬虔な信徒が居るということは、実在はともかくとして六大神という存在が生活の基盤になっている可能性もありうるか。

 ──ま、今はそれよりもメシだよメシ! よく洗った大きな木の葉を敷いた岩の上に、焼きあがった魚を置いて身をほぐしていく。焼き上がりのニオイが鼻をくすぐり、きゅう、とヒビキの腹が可愛らしい音を鳴らす。

 

「よしっ、じゃあ……“いただきます”」

「いただきまーすっ!」

「──おや、ルイス殿は六大神の信仰はなさっておられないのですか?」

「ああ。不敬かと思うかもしれんが、我々のところでは六大神信仰はしていなかったよ」

「やはり六大神信仰は珍しいじゃろう。基本的に四大神……生の神と死の神は数えられぬからのう。このあたりでも六大神信仰といえばスレイン法国くらいなものじゃよ」

「あのスレイン法国、か」

「流石にこれはルイス殿もご存じじゃろうな。人類の守り手を標榜する国としてかの竜王国と共にビーストマンの軍勢に立ち向かう勇士たちじゃ……あっふ! 熱い! じゃが! うむ……ウマイのう!」

 

 いやまあ初耳なんですけどね。とりあえず“それ知ってる! ”感を出して言ってみたが納得はしていただけたようだ。というよりも魚の美味さに気を取られただけのような気がしないでもないが。

 というか手づかみでよくいけるなこの人たち。まあ食器なんて無いから俺たちも手づかみでやるしかないんだが。

 

「あっちち! ほっほー、中までアツアツだが……脂が乗って美味いぞこりゃ!」

「ああ、塩加減が脂の旨味を引き立ててくれる。そして何よりこの身の柔らかさとほのかな甘み……焼き上がりのこの香りとも相まって素晴らしいものだ……」

「……くっ、お、俺だっていつかは魚くらい……! チクショウ……うまい……!」

「ふっ、ご好評のようで何よりだ」

「ねぇねぇ、ユウくん……あーんってしよ? ほら、こう……指ごとぺろって舐めとって……ほしいなぁ?」

 

 ……ヒビキが自分の指先に乗った身を口に運び、舌を煽情的に動かして指をぺろりと舐めとってみせる。しなやかな指の付け根から先へ向けて、舌先を動かしつつねっとりと舐めあげる様子にイェリクが顔を赤くしてガン見してるが、こいつ変な性癖に目覚めたりしないだろうな? 

 まあ、そんな色気づいた男女二人の熱を冷ましてやるのも俺たち大人の務めだ。

 

「ようし、俺からしてやろう。ほら、あーんだ」

「ちょ、それ目玉で……」

「DHA豊富なんだぞ。健康にいいんだぞ。もちろん美容にも!

「……そ、それは、そうなのかもしれないけど……」

「ほら指ごと、あーんってするんだろ? 舐めたいんだろう?

「ぅ……あ、あの……その…………ゴメンナサイ……

 

 どうやら4人とも魚の美味さに魅了されたらしいな。あっと言う間に二匹あった焼き魚は骨と頭だけになってしまった。ヒビキは鼻息を荒げてここぞとばかりにイチャつこうとしたらしいが、俺の指先に乗った、抉りだされた魚の目玉を突き出されてしおらしく引き下がった。

 

 一通りの食事を終えて軽く昼寝をしたあとは高原地帯を下る街道を再び歩き続けるだけだった。ヒビキは旅をしているというよりも物見遊山(ものみゆさん)という気分らしく、街道の傍らに咲く花や見慣れない木々、時折見かける小動物などに興味津々のようだった。

 見つけるたびにイェリクが教えようと頑張ってはいるものの、ビョルン翁の知識の前になすすべなく、ヒビキの印象は今のところ“おじいちゃんって物知り! ”という具合でイェリクの見せ場らしい見せ場は無かった。そりゃまあ人生15年そこらの少年と人生60年近い元冒険者じゃ知識量が違いすぎるだろうよ。

 

「おお、見えるじゃろう? あれがマリエフレード村じゃ。あの大きな風車が目印なんじゃ」

「へぇ……立派なもんだ」

「うわぁ……! 風車が三つもあるよ!」

「ここはあの湖から流れてきた川から水をくみ上げて下流の村に流してる場所だからな! ここだけで三つの村に水を送ってるから、すごく大事な場所なんだ! ……ってオヤジが言ってた」

 

 へえ、と少し感心したが最後の最後で台無しだぞ。それを言わなけりゃ完璧だったろうに。

 

「大将、とりあえず今日はここで泊めてもらうことになります。明日は平地に出てナイアード・ハガル村、その次でエ・ペスペルに着く予定ですぜ」

「あと二日か……レーナがぐずってなければいいんだが」

「心配性じゃな。なあに、女は強いもんじゃ。いざというときはそこらへんの冒険者よりも肝が据わっておる。それにヘレンのお嬢ちゃんが見ておるのなら大丈夫じゃよ」

 

 ……ああ、でもやっぱり心配になる。さっさと<転移門(ゲート)>の記録(マーク)だけして村に戻ってレーナをすぐにでも抱きしめてあげたい。

 一人で寂しくしてないだろうか。キリが居るとはいえ村に脅威が差し迫ったりしていないだろうか。ご飯はちゃんと食べれているだろうか。ヘレンに迷惑をかけたりしていないだろうか。ママのことを思い出して涙を流したりしているんじゃないだろうか。おトイレはちゃんとできているのだろうか。転んでけがをしたりしていないだろうか。ヘレンに文字の書き方を教わっているはずだがちゃんとやれているだろうか。近所のクソガキどもがレーナにすり寄ったりしていないだろうか。仲良くなった男の子が将来俺の前に現れて娘さんをくださいなんて言い出したりしないだろうか。

 

「とにかくさっさと終わらせて村に帰らないとな」

 

 金を稼いで食料を買い付けて村に送り届ける。たったそれだけだというのに何日もかけてなどいられない。とっとと終わらせてレーナを抱きしめてあげないと。きっと寂しがっているころだろう。パパに会えなくてぐずっていることだろう。

 だけどそれもすぐに終わらせる。必ずパパがご飯を持って帰るからな……! 

 

 

 

 

「キリ、はやーい!」

『しっかり掴まってろよレーナ。もう一つ上げてくぞー!』

「はやーい! すごーい! あっははははは!」

「ヘレン、あの子たちは何を……」

「乗馬の練習だそうですよ、ブレインさん」

「…………残像しか見えないんだが、これが乗馬と言えるのか……?」

乗馬です。馬なんて比べ物にならないくらい早いですけど、乗馬です。竜だけど、乗馬です。私はそう思います。思いたい。そう思うことにしました。……わかりますよね?

「アッハイ」

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