きゃすたー(7mg)の雑多なネタ倉庫   作:きゃすたー(7mg)

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道中はサクッと飛ばしてさっさと冒険者させたい。
次から戦闘も増えそうな予感


オバロ試作品14

「わからない……! 一体何がどうなってるんだ!? システムUIは何も表示されず、五感が再現されていて、オマケにNPCが喋って動いてる! …………ハァ……焦ったかと思えば急に冷静になるし、わけがわからない」

「奇遇ですねモモンガさん。私もなんか変です。こう、二本足で立ってるっていう感触じゃないんですよ。這うような、でも歩いてる感じはしているんですけど違う感じなんです。

 それにしても、あの状況でよくロールプレイなんてできましたね? 私なんて完全に素でしたよ」

「ああ、アレですか……」

 

 突然の出来事に何をどうしていいかわからなかったのでNPCを遠ざけただけなんだよなぁアレ。

 跪いてこちらに鋭い眼光を向ける竜人の異形種である老執事のセバス、そしてその部下である6体のメイドたち……プレアデス。そして誰よりも俺を真っすぐに見てくるサキュバスの異形種であるNPC……アルベドという面々がじっと俺たちを見てくるプレッシャーに耐えられなくなっただけだ。

 

『んんっ、アインズ・ウール・ゴウンの盟主モモンガが命ずる。現在のナザリック地下大墳墓は未知の現象に巻き込まれている状態だ。そこで各階層ごとにナザリック内部のギミックなどの設備が正常に稼働しているかを調査せよ。同時にナザリック外の周囲2キロ圏内を偵察し、敵対的存在又は友好的存在の有無を確認するのだ。

 ナザリック内部の調査の関しての陣頭指揮はアルベド、お前に任せよう。地上の偵察はセバス、お前に任せる。6時間後に円形闘技場(アンフィテアトルム)にて第四・第八を除く階層守護者を集結させ、そこで報告を聞くこととする』

『承知致しました。我らナザリックのシモベ一同、至高の御方のご期待に必ずや応えてみせましょう』

『うむ。では後を頼む。それではヘロヘロさん、円卓に向かいましょう。いろいろと話しておかなければいけませんので』

『……あ、はーい』

 

 とりあえず適当に時間稼ぎのために6時間もとっておいたけど、その間に俺たちに何ができる? 

 

「ヘロヘロさん、とにかく今はわかっていることをまとめましょう。俺たちが動くにしても情報が少なすぎます。ナザリックのNPCは味方なのか敵なのかもわからず、その上俺たちが現実に帰還できるかもわからない。

 もしかするとGMや運営の救助があるかもしれません。あまりうろうろと歩き回るよりも、できることやれること、やらなければいけないことと為すべきことをリストアップしましょう」

「…………そうですね。まずは落ち着いて盤面を見直さないと。我々にとって信頼のできる手札が何なのかをまず見極めないと」

 

 ヘロヘロさんが居てくれてよかった。これでもしもこの場に俺だけだったら心細いなんてものじゃない。どうするかを話し合える相手が居るというのは大事なことだ。俺が気づいていない側面に気付ければより安全に動くことができる。多角的な視点で盤面を見るのが重要だってなんかのアニメでも言ってたし。

 そんなこんなで三時間が話し合いに費やされたが、やはり一人ではないというのは心強いことなのだと改めて感じることになった。

 

「……ひとまずこれくらいでしょうか」

「リストアップしましたが、いくつかはすぐにでもクリアできそうですね。ナザリックの制御・管理権限の確認はモモンガさんが持つギルド武器がなければ基本的にできないですし、信用の置ける味方は少なくともNPCが二体確保できる可能性があります。

 後は装備を整えてスキルや魔法の検証をし、不測の事態に備えた状態を維持しなければいけませんね。あとは他のNPCがどれくらい信用できるか……それによってはナザリック外へ脱出することも視野に入れておかないと。最悪の場合は管理者権限でナザリックの全機能を凍結し、宝物殿に立てこもることになりますが」

「状況は厳しいですね。ですがまぁ……やれないことはない」

「フフッ、モモンガさん……まるで悪の大魔王みたいですよ?」

「普段のロールプレイの賜物っていうやつですよ。それじゃ……宝物殿に行きましょう」

「……いいんですか? 黒歴史っていうのは触れるだけで自爆ダメージが来ますよ? 精神的に」

「ぐっ……わかってはいますけど、背に腹は代えられませんし」

「“背も腹も皮も無いだろアンタ”ってルイスさんなら言いそう」

「うっせーヘドロスライム! …………あっ!」

「忘れてた! ルイスさんだ!」

 

 そうだった! ついさっきまでメッセージでやりとりしてたんだから同じようなことになっている可能性だってあるじゃないか! ワールドこそ違えどルイスさんはナザリック外に居たんだから、中からナザリックの全機能を停止させた後で指輪を使って第一階層に転移さえすれば即座に、かつ安全に合流できるはずだ! 

 

『聞こえますか! ルイさん、聞こえてますか!? モモンガです! 今大変な──』

『うるっせーんだよ骨ェッ! 四年ぶりかと思えばこんな夜遅くにメッセージなんぞで大声出してんじゃねーよ! 明日は小麦の収穫で朝から晩まで働き詰めなんだよ! とにかく眠いから明日の晩にメッセージしてこい!』

『アッ、ハイ』

 

 ────小麦? 収穫? コイツ何言ってんだろ。

 

「……どうでした?」

「あ、ヘロヘロさん……それが、その、小麦の収穫があるから明日の晩にメッセージしろって……怒られました」

「…………ちょっと意味わかんないですね。ヒビキちゃんになら繋がるかもしれませんし、試してみましょう」

「そうですね……」

 

 チクショウ、あのポンコツ刀剣マニア吸血鬼め。肝心な時に頼りになるのはやっぱりヒビキちゃんしかいないのか。

 

『ヒビキさん、聞こえますか? モモンガです。そちらは何か変なことになってませんか?』

『んー……モモンガさん……やらぁ……いまぁ、ユウくんとぉ……きもち、よく…………ぐぅ……』

『あー、ヒビキ、さん?』

『らめらってぇ……うへへぇ…………三人目はぁ、むにゃ…………まだぁ、はやいよぅ……』

 

 ────あの子、どんな夢見てんだろう。思わず脳裏を過る不埒な妄想。だけど、なんか、絵になる二人だからちょっと妬ましい。あの子がルイさんに抱きしめられているのか、ルイさんがあの子に抱きしめられているのか。

 

「モモンガさん? なんで絶望のオーラ撒いてるんです?」

「えっ? 出てました?」

「はい。割と高レベルなのが」

「…………感情でスキルが勝手に出るんですかね」

「モモンガさん、現状確認するだけなのにどんな感情覚えたの……」

 

 とりあえず結論。────この二人つっかえねー! 

 

 

 三日間歩き続けてようやくたどり着いた城塞都市エ・ペスペル。その門には長蛇の……というほどではないが列ができていて、先頭には数台の荷馬車が止まったままだ。おそらく検問で差し止められているのだろう。

 

「ねー、ユウくんまだかな?」

 

 待ち続けて早1時間。ヒビキは見た目通りの子どもっぽさ──しかし中身は18歳である──故かしびれを切らし、城壁に背を預けて足を投げ出して退屈そうに座り込んでいる。

 この世界にはごく一般的な村娘の恰好をした、可愛らしさを魅せる黒髪のボブカットの少女。傍目から見ればその通りなのだが実際はレベル100の忍者プラス森祭司(ドルイド)の吸血鬼だ。吸血種という種族のお陰でおおよそ人間化しているためか、自分自身が吸血鬼なのだということなんてすっかり忘れ去っていた。そりゃ太陽を浴びても平気だし、鏡にも映るしニンニクも問題ないし流水だって渡れるのだから仕方がないのかもしれないが。

 ヒビキも俺も鏡で自分の顔を見て鋭い八重歯があるのを確認してようやく“そういえば吸血鬼だった”とようやく自覚した程度には吸血鬼要素が薄い。

 

「諦めろ。ただ単純に税の取り立てってだけじゃなくて、街の中に運ばれてくる荷の出どころや出入りする人物を記録しておくことで、犯罪組織或いは他国の息のかかった間諜が潜んでいないか調べられるようにしてるんだよ。

 加えて商人ってのは国を跨いで活動するから必然的に移動が多くなるし、それと同時に物資も移動する。自国の大事なもの……特に技術や軍事に関する情報を持ち出したりしていないか、また他所から危険な代物を持ち込んでいないか、犯罪組織のフロント企業だったりしないか、そもそも商人ではなく間諜だったりしないか、そんな風にいろんなことで疑われるものなんだよ。だからよりチェックが厳しくなるんだ」

「スキャンシステムでパパッとできちゃえばいいのにね」

「それができる技術力があればとっくに俺たちは壁の中だ。というかわざわざ出向いたりせずに、メールや電話ですぐにでもアーコロジー管理機構に連絡してるぞ」

「そう考えるとリアルって結構便利だったんだね。ボクたちのご飯も手抜きするならお湯をいれたりすればできちゃうし、なんならそのままかじりつけばいいだけだし。

 あとテレビがあるしゲームもあるし、魔法なんて使わなくても自宅ならプライバシーもそこそこ守られてるし」

 

 いや、最後のは無い。完全監視社会を舐めるでない。どこの誰がラブホでヤッたとか程度は企業の上層部には筒抜けなのだ。インターネットの閲覧ページからお風呂のタイミングまで、AIに何もかもを監視されているのは一部の人間や反動勢力の人間くらいしか知らないことだろう。カメラで撮影されているわけではないが、電気消費量などのデータを読み取られ、どのような行動をとっているか程度はAIに常に監視されているのだ。

 

「おーい大将!」

「っと、ようやく出番か?」

「遅くなりました。今さっき荷馬車が通ったんでもうすぐ動きますぜ」

「やっと? もう待ちくたびれたよ~……ねえユウくん──」

「おんぶはナシだ」

「えーっ!? まだ何も言ってないよ!」

「どうせ歩きたくないとかいうんだろ?」

「違うよ。ユウくんに抱っこしてもらいたいだけだよ」

「キリキリ歩け。まだ余裕だろ」

「ちぇっ」

 

 不貞腐れたヒビキを連れてビョルン翁とメルケル、イェリクが並んでいる列に戻り順番を待っていると数十分ほどしてようやく城砦の門の真下までたどり着いた。

 鎧を着こみ、ハルバードを持った衛兵が脇を固める中で一人のスキンヘッドの官吏がビョルン翁に声をかける。

 

「手形は持っているか?」

「ここに」

「ふむ…………確かに。今日はどのような用件だ? 連れの人数、滞在日数はどれほどだ?」

「本日は領主殿への書簡を届けに参った。連れは世話役が三名、護衛が二名じゃ。およそ3日から5日ほどを予定しておるよ」

「……おい、そこの後ろの剣を背負った男」

「俺か?」

 

 やばい、なんで俺が呼び止められるんだ? 別段目立つようなものを持ってなどいないはずなのだが。

 

「貴様、冒険者か?」

「正確に言えば冒険者志望だ。これから登録に行く」

「なら街中では長物は気をつけろ。抜き身の武具を晒して街中を歩くようなことは禁止されている。鞘があるなら鞘に入れてベルトをかけておけ。無ければ槍やハルバード同様に布を頑丈に巻き付けておくか、そもそも護身以上の武器を持ち歩かないかだ。街中で市民に怪我をさせかねないような真似はするな。いいな?」

「承知した。後ほど宿を確保したら布を巻くようにしよう」

 

 ふむ、エ・ペスペルの市政に少しプラスというところか。モンスター退治を生業とする冒険者であっても、抜き身の武具を持って歩いたのでは市民に対する威圧や恫喝に繋がるという判断だろう。

 武具を鞘に収めたり布で覆うなどせずに歩いている屈強な冒険者たちというのは、市民からすればいつ斬られるかわからない恐怖を伴う存在ということだろう。おまけに闘争に身を置くだけあって血の気も相応に持ち合わせているはず。

 そこで武具そのものの所持に制限をかけておくことで、市民に対して非暴力の姿勢を見せて安心させると同時に、街中で不慮の事故が起きることを防止しているわけだ。

 

「さて、それじゃ俺たちは冒険者組合で登録してくる。商会で買い取り依頼するのはそのあとだな」

「ではイェリク、メルケルは儂と代官の屋敷に向かうとしよう。アラン、宿は任せるぞ」

「あいよ。じい様は腰を痛めないようにな」

「舐めるでないわ阿呆めが。ああ、ルイス様……推薦状をちっとばかし張り切って書いてみたんじゃ。これを組合で提示するとよかろう。引退した元白金(プラチナ)級とはいえ何かしらの伝手があると示しておくほうが有利であろうよ」

「お気遣い痛み入る。では後ほど」

 

 なんとも強かだ。だが彼の言う通り伝手があるというのは大きなアドバンテージになる。特にランクの高かった元冒険者の推薦となれば、ランクアップ自体には影響せずとも加入時の手続きや信用度が段違いになるだろう。実力も伴うとわかれば優先的に仕事を回してもらえる可能性もある。

 これは気合を入れておかなければ。彼の推薦があるということは、彼の名を貶める真似は絶対にできないぞ。俺を村の利益のために縛り付ける方法としては最上級だろう。人を縛り付ける最高の方法は“恩”だと言ったがまさしくというやつだ。本当に強かだ。

 

「さて、それじゃ早速──」

「あ、ちょっと待ってユウくん。ボクそろそろ着替えたいんだけど」

「別にいいだろう。メイド服とその平民の服じゃ大して違わないだろうし」

「あのメイド服、実は状態異常完全耐性に破壊属性完全耐性があるって言ったら?」

「よし、着替えろ」

「は~い!」

 

 なんつー高性能なオシャレ装備だよ。エンチャントするだけでも一苦労するだろうに、よくあんなものを手に入れられたものだ。

 ヒビキが街中に入ってすぐの路地に入ったかと思えば一瞬で着替えて姿を現す。いつものちょっとえっちぃ感じのミニスカートなメイドだがへそ出しはやめたらしく、少しフォーマルさが増している。それでもミニスカートな時点で割と目の毒だが。

 

「しかし、頑張ったなお前……ただのメイド服にこんなに……」

「んふふ~そうでしょ? でも実は中身はただの聖遺物級なんだよね……本当は神器級にする予定だったんだけどお金が……」

「世知辛い事情だな」

 

 とはいえ見た目はそこそこに重要だ。ゲーム内でなら釘バットだのふんどしだのとネタ装備を作ることもできたが、ここでそれを使うのはアウトだ。基本的に西洋文化が中心になっているらしいことから見た目にも気を遣う必要があるとみるべきだ。

 現状の装備は普通のシャツとズボンの上に革鎧を着込み、その上に胸や腹、関節部など部分的にフリューテッドアーマーの部品を組み込んだ装備だ。ローブを上から纏ったその見た目はさながら遍歴騎士と言うべき様相で、これなら違和感はないだろう。

 ただ後ろに控えているのがメイドというのが目を引くだろうことは間違いない。だがヒビキの安全に寄与する装備なのだから、外せとも言い出しにくいあたり悩ましいものだ。

 

「ええと……ここだな?」

「……ユウくん、読めるの?」

「<言語解読>のスキルでどうにかな」

 

 ツヴァイヘンダーをアイテムボックスに放り込んでから中世の街並みが続くエ・ペスペルを散策していくと、見たことも無い文字の羅列が並ぶ看板の上にルビが振られるように“エ・ペスペル冒険者組合”と書かれているのが目に留まった。便利なのは便利だが、言語が違うのに会話は通じているのはどういう仕組みだ? 

 兎にも角にも入らないことには始まらない。稼ぎを得るためには働かなければいけないのと同じだ。

 

 そこそこ立派な三階建ての建物、その両開きの扉は開かれたままになっていて受付らしいカウンターと待ち構える受付嬢が目に留まる。

 

「失礼、ここがエ・ペスペル冒険者組合で相違無いだろうか?」

「……は、はいっ! 当施設はエ・ペスペル冒険者組合でしゅ!」

 

 受付で作業していた受付嬢に声をかけたところ、急に椅子から立ち上がって緊張した様子で答えが返ってきた。というか噛んでたし。

 

「あ、あのっ、ほ、本日はどのようなご用件でしゅか!?」

 

 ほんとよく噛むなこの子。長い赤毛の髪まで揺れるほど緊張しているようだが、これで受付が務まるのだろうか。

 よく見てみるとそう背丈があるわけではないらしい。踏み台をカウンターに置いてあるらしく、おそらくその段差を降りればヒビキと同年代くらいの背丈だろうか。年若い少女の持つ初々しさ、気恥ずかしさが出ているのが丸わかりだ。

 

「実は──」

「私たち冒険者登録に来たんですけど、手続きは可能でしょうか? ……なんでボクのユウくんに色目使ってるのかな? 死にたいの? 

 それと、こちらを渡すようにと預かっています」

「ひっ、しっ、失礼しました! 冒険者登録ですね! 登録は随時受け付けております! まずは書簡の方から拝見させていただきます!」

 

 ヒビキの笑顔がやけに怖い。言葉遣いまで変わってやがる。笑顔なのに俺の背筋に氷が突っ込まれたような嫌な感じがしているのだが、気のせいだろうか。

 

「これは……少々お待ちください」

 

 しかし手紙を受け取って中身を検めるや否や、彼女はすぐに受付を離れて背後の廊下へと入っていき、最奥にある扉を叩いて入室した。

 

「……なんなんだろうな」

「ふんっ、ユウくんを見てデレデレしちゃってさ……」

「そうか? そこそこいい歳してるんだけどな俺も」

「……ユウくん、カッコイイんだよ? 10人中5人から7人はそう思うよきっと」

「なんとも微妙なラインだな……それ」

「でもボクは最初っからユウくん一筋だよ? 子どものときも今もずっとボクのヒーローだもん!」

「……恥ずかしいからやめなさい」

 

 八重歯をちょっとだけ覗かせるようにヒビキが屈託のない笑みを浮かべる。まずい、こんなに真正面からそういうことを言われるのは慣れないんだ。俺なんて軍人として戦い、時に命を奪ってきたし奪われるのを見てきた人間だ。人知れず戦うばかりで誰かから賞賛を受けたことなんて数えるくらいしかない。

 

「お待たせしました。奥の部屋へどうぞ。組合長からお話があるそうです」

「ヒビキ、変な妄想を垂れ流すんじゃないぞ」

「…………じゃあ静かにしとく」

 

 先ほどの受付嬢が戻ってきて俺たちに言った言葉は先ほどの動揺ぶりがウソのように真剣なものだ。

 言われるがままに奥の部屋へ案内されるとそこには来賓者を迎えるテーブルと椅子が中央にあり、少し窓側には立派なゴシック様式の執務机があり、そこには白髪の混じった髭を蓄え、頭を短髪で揃えた筋骨隆々の男が椅子に座って羊皮紙にペンを走らせていた。

 

「ようこそ、エ・ペスペル冒険者組合へ。私が当組合の長を務めております、エルランド・ルーベンソンです」

「ルイス・ローデンバッハだ。グリプスホルム村にて世話になっている」

「ヒビキです。初めまして」

「お二方ともどうぞ掛けてください。アリシア君、お茶を頼めるかね」

「承知致しました。ルイス様、ローブをお預かり致します」

「ありがとう」

 

 身に着けていたローブを外して来賓者用の椅子に腰を下ろすと、エルランド氏も執務机を立って俺に対面する席へつく。じろ、と彼の視線が俺の全身を見るように走ったもののすぐに俺のほうに向きなおった。

 

「ふむ……致命になりうる部分と関節部だけを覆う軽鎧、ベルトは飛び道具に手投げナイフを収め、武器はショートソードとやや大振りのダガー。身軽さ……機動性を重視した装備のようですな。細かい所作にも隙が無い。なるほど、先輩の言う通り手練れのようで」

「そちらこそだ。未だ現役なのではと思うような鋭い気配が感じられる」

「ふふ、これほどの実力者が来ることは稀でして。少し昂ぶってしまいましたな。そちらのお嬢さんは従者ですかな?」

「いや、従妹だ。メイドのような恰好はしているが、このメイド服自体がマジックアイテムになっていてな。そのお陰で毒や呪いといった人に害となるものに滅法強いらしい」

「ほう、そのようなものが。未知のダンジョンや遺跡では時折そのようなアイテムが見つかるという話は聞きますが、そのような類の出自なのでしょうか?」

「いや、何らかの魔法の研究中に偶然生み出された産物らしい。……故国が滅びたせいで最早再現は無理だろうがね」

「これは……失礼いたしました。お辛い記憶を呼び起こしてしまいましたな」

 

 まあ出まかせと言えば出まかせではあるのだが、ユグドラシルが無い以上同じものを作ることができないのは間違いない。ウソと真実の割合を見極めればそれっぽい話も通用するわけだ。

 

「お茶をどうぞ」

「ありがとう。ええと──」

「これは申し遅れました。私は受付を担当しております、アリシアと申します」

「ありがとう、アリシアさん」

「ふふ、アリシアと呼んでいただいて結構ですよ。お菓子もどうぞ」

「おおー! 見たことないお菓子だよユウくん!」

「ハロングロットルというものです。ラズベリーのジャムを使ったクッキーみたいなお菓子です」

「んん~! おいしいっ!」

 

 女の子が甘いものに目が無いのはどこの国でも変わらないらしい。一つ手に取って口に入れてみると、ラズベリーの甘酸っぱさと柔らかなクッキー生地の組み合わせが素晴らしい。これはお茶菓子に最適だろう。

 

「さて、本題と参りましょう。私の先輩、ビョルン・ベントソンからの書簡のほう拝見致しました。彼には私が駆け出しであったころに世話になりました。今回は村が危機にあるということで、食料の移送や融通の依頼書のほうは確かに受領したとお伝えください。

 それともう一つ書簡が同封されていたのですが、ルイス殿とヒビキさんは冒険者志望ということで相違ないですかな」

「無論だ。俺もヒビキもそこそこには腕が立つ。村には世話になっているので、このまま見過ごすというのも後味が悪い。なれば少しでも稼ぎ手が必要であろうと思い、ここで冒険者として稼ぎ、村へ送る食料などを買い付けようと思っている」

「フム……規定がありますので銅級(カッパー)からとなるのは避けられませんが、先輩の言葉通り野盗を無傷で捕えるなど実力があることは確かだとわかります。少々難度の高い依頼(クエスト)でも受けられるように昇格は早めに行えるように融通致します。昇格試験の内容は手抜きどころか割り増しですが」

「まあ、そうでしょう。手抜きのせいで人死にが出たのでは本末転倒だ」

「その通りで。書簡にありました通り元軍人というのもあって荒事には慣れておられる様子。モンスター相手の討伐や護衛任務などであれば前職の経験も生かせるでしょう」

「元よりそのつもりだ。自身の経験が多くの人々にとって役立つのなら、使わない道理はない」

「承知致しました。それではアリシアくん」

「はい」

「君が担当だ。誠心誠意、彼らのサポートをするように」

「──えぇっ!? 組合長! わっ、私まだ担当の経験なんて無いですよ!? 大事な案件なんですから他のベテランの方のほうがずっと……」

「だからこそだ。現在の担当たちは他の冒険者を複数受け持っているため、ルイス殿たちにつきっきりでサポートすることができない。キミが彼らの専任としてサポートについて経験を積むんだ。それにキミだっていつまでも新人のままでは居られないぞ。そろそろ担当する冒険者チームの一つくらいは持つべきだし、それができるだけのものも持っていると思っているよ」

「……わかりました」

 

 なるほど、まだ仕事を始めたばかりの新人だったのか。道理で緊張していたわけだ。銅級(カッパー)という最低ランクというのもあって仕事の内容は高位の冒険者より危険度が低いだろうし、前職が軍人というある程度実力が既に備わっている人物だから少々の荒事は問題なくこなせる……組合長は俺たちをそう見ているわけだ。

 彼女が初めて担当を受け持つ等級として最低ランクである銅級は最適であるだろうし、組合長としては俺たちで経験を積ませていこうという腹積もりなのだろう。しかも元とはいえ白金(プラチナ)級の冒険者から推薦を受けている俺たちがそこそこの冒険者に匹敵する実力があると見抜いた上で彼女を割り当てたのだから、彼女の実務能力も買っていると見ていい。

 

「さて、これからよろしく頼む。アリシア」

「よろしくね、アリシアちゃん。仲良くやっていこうね(色目使ったらコロス)!」

「ひぃっ!? よ、よろしくお願いしますぅ……」

 

 ようやく冒険者家業がスタートできそうだ。しかし一か月のうちにどれだけ稼げるか……正直言ってかなり厳しいと言わざるを得ない。依頼が無ければ意味が無いし、元手になる資金も確保しなければいけない。後で不用品を買い取ってもらうつもりだが、果たしてどれだけの金額になるか。

 俺たちが不用品を売って金に換えて食料の買い付けを行ってもいいが、俺たちが村を出た後に稼ぎ手が居ないという状況になるのは避けておくべきだ。彼らにも自力で稼ぐ手段を模索してもらわなければ。俺たちの手を借りることなく自立できてようやく村が立ち直れたと言えるものなのだ。

 

「じゃ、すぐに登録といこう」

「はい! すぐに書類を用意致しますね!」

 

 何はともあれやってみせよう。基本はPMCと何ら変わりないのだからいくらか気楽だ。依頼を受けて遂行し、成功すれば報酬がもらえる。であれば、いつも通りに仕事をするだけだ。

 

 

 

 

「ハッ! 今何か嫌な予感が……!」

「ここ最近多いな……どうかしたのか?」

「ブレインさん……いえ、その、どうにも最近背筋が冷えることが多くって……風邪でしょうか……?」

「気のせいじゃないのか? それよりお嬢ちゃんはどうした?」

「えっ……? あぁっ!? またキリに乗って出歩いてぇっ! こらーっ! キリに乗るのは村の中だけって言ったでしょー!

「我々は誉れ高いりゅーきへーだー!」

『竜騎兵だー!』

「あぁーっ! 棒を振り回さないの! ギャーッ! 柵が焦げてる!? って屋根の上はダメーッ!」

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